殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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奇跡の剣士

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「嘘だ・・・。どういうことだ?」

 シルビィは次々に生き返る獣人に驚き、震える。

「これは・・・。これは神の・・・神の御業だぞ! なぜ剣士のキリマルが・・・」

「だからこそ! シュラス王は俺をここに送った。それだけ今回のミッションが困難だという事だ」

 俺の言葉を聞いて、シルビィの目から徐々に疑念が消えていくのがわかる。

「お前も能力者という事か?」

「まぁそう言う事だ。(本当はアマリの力だけどな)」

「死者を蘇らせる剣士・・・。なんだか矛盾しているな」

「俺を知る者は大概そう言う。これでお前の疑いは・・・」

「兄さん!」

 俺の会話を遮るほどの大声を出してステコは立ち上がると、急いで首と胴体の離れた兄のもとへ行く。

「おい! キリマル! 兄さんがまだ生き返らないぞ!」

「蘇る時間には個人差がある。それからさっきも言ったが、ここで死ぬべき運命だった者は蘇らねぇ」

 腑抜けたように俺を見つめた後、我に返ったステコは近くに転がる獣人の死体を見た。

 ああ、そいつは恐らく死ぬ運命にあった獣人だ。他にも4人ほど倒れたままの獣人がいるな。

 ステコは兄の胴体を抱き起して、頭部を強引に首の上に乗せようとした。勿論くっつくわけもなく、樹族の緑色の血で手が滑り、何度かトメオの頭を落としそうになった。

「兄さん、兄さん、兄さん・・・」

 ステコが兄の復活を祈る中、レバシュが何事もなかったように目を覚ます。

「急に視界が揺れて・・・。何が起きたのかしら・・・」

「悪いが殺させてもらった」

「?」

 まぁそういう反応をするわな。

「獣人たちがミイラになっていない・・・」

「獣人も俺が殺した(本当は、ここにいる奴ら全員爆発の手で完全に殺したい)」

「?」

 おふっおふっ、と後ろでマサヨシが笑っているのが聞こえる。

「流石は悪・・・」

 俺は直ぐにマサヨシの腹を鞘の先で突く。今日は鞘が大活躍だな。

「おふっ!」

 腹を押さえてくの字になるマサヨシの――――、脂ぎって一塊となった髪を持ち上げて、俺は嫌々ながら臭い耳にヒソヒソと喋る。

「お前は魔法のまやかしが効かないから、俺が樹族に変身している事に気が付いていねぇんだろうけどよ。俺が悪魔だって事は口にするな」

「え? そうだったんでつか? こりゃ失禁失禁」

「それを言うなら失敬だろ」

 失禁と聞いてモモを思い出したが、すぐに脳内から消える。

「そういえばそちらの豚人は何者だ? 知り合いかね? キリマル」

 ガノダが胡散臭そうにマサヨシを見ている。

「拙者は以前、キリマル氏と一緒に戦った仲でね。その時に魔法傀儡を操る暗殺者の攻撃を受けて、戦闘不能となり、キリマルとは別れる事になったんでつ・・・って! 誰が豚人でつか!」

「もう豚人って事にしとけや、マサヨシ。人間なんて言っても通じねぇしよ」

「おふっおふっ! 拙者にもプライドがありますから」

「蘇った!! 首が綺麗に繋がっている!」

 ステコが大きな声でマサヨシの言葉を遮り、トメオの半身を起こして喜んでいる。

「それに奴隷との戦いで付いた傷も消えている! 奇跡だ! ああ!キリマル! これは紛う事なき奇跡! ははは! わかったぞ! 君はサブが僧侶なのだろう? だからこんな奇跡が起こせるのだ!」

 ステコは兄の復活が嬉しくて、ペラペラと喋っている。イラっとするなぁ。首を刎ねてぇ。

「サブを僧侶にして尚且つ範囲蘇生の祈りを使えるようになるまで、一体何十年修練をつまないといけないと思っているのかね、全く」

 ガノダはそう言いつつも、兄の復活に喜ぶステコを見て嬉しそうだ。結局こいつらは口では憎まれ口や皮肉を言ってても善人なんだな。

「レバシュ」

 シルビィが奴隷たちをぐるりと見てから、レバシュに話しかけた。

「君はこの奴隷を必要ないと言ったな?」

「ええ」

「では私が貰い受けるが良いか?」

「そういう事であれば話は別です」

 レバシュの顔に欲の色が浮かぶ。

「誰かが価値を認め、欲した時点で、私の所有する石ころは商品となります。私が要らないと言ったものをシルビィ様が欲しがるのであればそれは価値あるものなのです。一人につき、一律金貨十枚。これは破格の値段ですよ」

 ってことは45人いる奴隷の価格は金貨450枚か。地球の価格で言うと4500万円。

「くっ! 価値がないと言った割に高いな・・・」

「調べましたところ、奴隷の中に解放同盟のリーダーであるトウバ・イブン・フンバがいましたからね」

「知っていたのか・・・」

「勿論」

 レバシュの提示した金額を値切るという発想がないところが貴族様だな、シルビィは。

「なんだ? お前の父ちゃんは国軍の大元帥で王の盾だろ。それぐらい払えるんじゃねぇのか?」

 シルビィの父親は樹族国一の大貴族、王の盾リューロック・ウォールだ。渡された資料読んだ限りでは、王都の一等地を拝領されている。勿論、国の北側にも自分の領地がある。代々ウォール家の性質は誠実で無骨。

 王に信頼をされている貴族の娘に、金がねぇって事はないだろう。

「私は騎士となってからまだ日が浅い。給金も大した事はない。名家へ嫁ぐことを拒み、騎士になると決めてからは父の支援も一切ない」

 騎士になって日が浅いのに、既に実力値が15もあるってこたぁ、放浪している間に相当戦闘を繰り返したのだろうな。

 確か樹族の成人は40歳だったよな。体の出来上がる20歳から戦っていたとしても、20年間修練していたって事になるな。

「かぁ~! この役立たずが。お前はてっきりこのパーティのATMかと思ってたのによ」

 はぁとため息をついて、俺は腰のポーチからダイヤモンドゴーレムの欠片を取り出す。何カラットあるのかは知らんが、とにかく大きい。なぜかは知らんが、ダイヤモンドゴーレムが崩れ落ちた時には、既に綺麗にカットされている状態だった。

「これで足りるか?」

「!!」

 放り投げたダイヤモンドをキャッチして、レバシュの目が丸くなる。

「こ、これをどこで? こんな大きなダイアモンドは見た事がありませんわ!」

「東の大陸のコモランドの、コズミックノートがある洞窟で得た、ダイアモンドゴーレムの欠片だ」

「!!!」

 レバシュだけでなく、近くにいたシルビィや、奴隷の獣人まで驚いて俺を見ている。

「では君はなのかね?」

 ガノダはフラフラと歩いて椅子に座ってから、ワインをゴブレットに注ぐ。

「ん。ダイヤモンドゴーレムを倒したんだから、当然そういう事になるな」

「何を質問した?」

「そんな事、お前に言う義理はねぇが・・・。まぁいいだろう。世界の仕組みを教えてもらった」

「はぁ? 君は探究者か何かか? ウィザードには見えないな。普通、剣士ならば英雄になる道筋を教えてもらうだろう。平民なのだから財宝の在処を教えてもらうとか・・・。いや、それはないか。ダイヤモンドがあるのだしね・・・」

「何に価値を見出すかは人それぞれだろうが。で、それで足りるよな? レバシュ」

「足りるどころか、お釣りを返せませんわ」

 ダイヤを持つレバシュの手が光っている。鑑定魔法を使って本物かどうか確かめたようだ。

「価値があり過ぎる物は、時として価値が無くなるのです。なぜなら! これはダイヤモンドゴーレムのコアですもの! 競売に出せば青天井の値段が付きますから、私にはお釣りを返すことができません」

「なんだと・・・。参ったな」

 俺はポーチにまだ何か入ってないか確認した。宝石と東の大陸で流通している貨幣があるが、未来の貨幣なので価値はないだろう。

 となると宝石だが・・・。宝石は迷宮で拾った物で、パーティの会計係であるアオに渡すのを、すっかり忘れていたクズ宝石ばかりだ。

「あとはゴミみたいな宝石ぐらいしかねぇな」

 俺は長テーブルの上に無造作に掴んだ小さな宝石を置く。

「確かにあまり価値のある宝石ばかりではありませんね・・・。ですが一つだけ魔法を帯びている宝石がありますわ」

 レバシュは真剣な目で、魔力を帯びた赤く光る琥珀を見ている。

「ああ、これなら丁度いいかも! 魔力が二つも加算される、能力値アップ系の宝石ですから! 能力値が上がる装備は高値で売れるのです」

 そうだろうな。この世界では、いくら実力値が上がっても、能力ってのは中々上がらないからな。馬鹿が一朝一夕で賢くなんてならねぇし。それは地球でも同じか。

「じゃあ商談成立だな。残りの宝石で奴隷印を奴隷たちに頼むわ。45人も自分でやるのはめんどくせぇしよ。あと奴隷印を付けた者から、飯を食わせてやってくれ。明日の道中でへばられても困るからよ」

「では奴隷印用に血を頂きますので、準備ができましたらお呼びします。部屋でお待ちください」

 そう言ってレバシュは壁の隠し扉から出てきた部下たちを引き連れて、広間から出て行った。

「すまない、キリマル。私は君の事を誤解していたようだ」

 シルビィがもじもじしながら頭を深く下げた。貴族なのに平民に頭を下げてもいいのか?

「それは構わねぇんだが、奴隷をどうすんだ?」

「獣人国に戻すのだ。王子が獣人国にいる以上、奴隷解放同盟とも関わりがあるだろうしな。印象を良くしておかないと」

「本当は交渉の材料にするんでそ」

 マサヨシはたまに芯を食う発言をするので厄介だ。誰にだって建前ってもんがあるのだが、こいつはそれを無視する。

「私にも面子はある。顔を立ててくれてもいいだろう、豚人よ」

 シルビィが拗ねてそっぽを向いた。可愛いな・・・。くそ。

「誰が豚人でつか! 拙者は・・・オフッ!」

 俺は鞘でマサヨシの大きな腹を突っつく。

「もう豚人でいいだろうがよ。さぁ。部屋で休むぞ。せっかく風呂に入ったんだ、もうこれ以上は汗をかきたくねぇ」

 広間の二階をぐるりと囲む客室に入ろうと階段に向かうと、途中にいたステコが俺に軽く頭を下げていた。トメオはまだ意識を回復していない。

 貴族が平民に対してできる謝意はこれが精いっぱいなんだろうな。シルビィはその辺を気にしないようだが。

 俺はステコの肩をポンと叩いて「良かったな」と言って階段を上った。
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