殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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初心者冒険者

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 昨日は転移魔法を頑張り過ぎたので、今日のビャクヤは張り切ってはいない。適度に手を抜いて、旅路の三分の二辺りで転移魔法を止め、次の小島の砂浜に向かってボートを漕いでいる。

「というわけなんです。墓まで持っていくとウンモスさんには約束したのですが、やはり君には話しておきたくてッ!」

「あはは !面白い物語ね。自称神の末裔さんは良い物書きになれるわ」

 リンネは存在Qの事など全く信じていなかった。

「大体、自称神の末裔さんと、自称未来からやってきた皇帝の孫、どっちもどっちよ!」

「吾輩が未来から来たツィガル帝国皇帝の孫というのは本当だけどもッ? リィンネッ!」

「最初はビャクヤの事、大ぼら吹きの悪魔だと思ってたの。でも私が人間として生き返った時に、あのオーガ酒場でツィガル帝国の話をする人がいたから、今は本当に信じているよ」

 リンネが眩しそうにして手を目の上に当てて笑う。

 その眩しそうにするリンネを見て、ビャクヤは船を漕ぐスピードを上げる。これ以上彼女を日焼けさせるわけにはいかない。リンネの肌は赤くなっていた。

 転移した先は小島の小さな入り江だったのですぐに砂浜につく。

「キャンプを張って昼食にしますか。それとも吾輩?」

「ん~じゃあ・・・、ビャクヤ!」

「えっ!」

 あまりにビャクヤが驚くのでリンネは笑いだす。

「ビャクヤって、私に仕掛けてくる割りには予想外の返しに驚くよね。不意打ちに弱すぎ」

「あ! 揶揄ったね! 親にも揶揄われた事がないのにッ!」

 あははと笑ってリンネは砂浜を走って行き、それをビャクヤが追いかけていく。

「こらぁ~! 待て待てッ!」




「ごらぁ! 待て!」

 俺は召喚主であるゴブリンを追いかけている。

 それにしても俺はゴブリンによくよく縁があるな・・・。

 初めて異世界に来た時もゴブリンが召喚主だったし、ここでもそうだ。あと、どっかでゴブリンと関わった気がするが、思い違いかもしれねぇ。

 必死になって逃げるゴブリンサモナーの背中を斬って俺は、ばったりと出くわした冒険者らしき一団と目を合わす。

「ぎゃあ! 悪魔だ!」

 赤い髪をした、如何にも直情型っぽい少年が俺を指さす。

「不味いぞ・・・。しかも人修羅だ。なんでこんな浅い階層に人修羅がいるんだよ! 最下層まで行かないといないだろ、この手の類は!」

 グレートハンマーを持った、黄色い鎧のパワー型戦士が少し後ずさって怯える。

「ふぇぇ! 死にたくないよぉ!」

 ピンク色の髪の女が大泣きして・・・盛大に尿を漏らした。くせぇ。

「な、なんとか逃げる手立てがあるはずです!」

 眼鏡の青髪女が牽制に【火球】の魔法を撃ってくる。俺はそれをアマリで一刀両断した。

「ふえぇぇぇ!」

 更にピンク女はジョボボボ! と洪水が如く漏らす。一体どこにそんなに水分があったんだ? ってかその出方だと下着穿いてねぇだろうが。なのに短いスカート穿きやがって。変態か?

「プフーっ・・・。くせぇな・・・。興ざめするわ」

 俺は象の放尿のような漏らし方をする女を見て、殺す気が完全に失せてしまい、刀を鞘にしまった。

「見逃してくれるのか?」

 黄色い鎧の戦士が驚いてハンマーを落とす。ガシャンと大きな音がしてうるせぇ。魔物が寄って来るだろうが。一々騒がしい奴らだな。

「ああ、その放尿女に感謝するんだな。そいつの滝のようなションベンを見てたら、殺す気が失せたぜ。だがよぉ、ただで逃がすわけにはいかねぇ。この世界の情報を教えろや」

「変態たちの世界では女の尿は黄金水、或いは聖水と呼ばれるらしい。今まさに聖女様の聖水が、悪魔に効いた瞬間ですね。神に感謝」

 さっき【火球】を撃ってきた眼鏡女が真面目にそう言ったので、俺は思わず笑ってしまった。

「クハハ! 面白い事言うじゃねぇか。で、ここはどこだ?」

「ああ、召喚されて間もない悪魔なんだな? ここは東の大陸の獣人と地走り族の国、コモランドだ。この死体は召喚主か? ゴブリンサモナー如きが、なんで上位悪魔なんて召喚できたのだろうか?」

 黄色鎧がそう言ってハンマーを拾い、杖のようにして体を預けた。

 というか、まだ警戒しておいた方が良いんじゃねぇかな? なにせ俺は悪魔だからな? いつ気が変わって襲い掛かるかわからねぇぞ?

「さてな。俺にもこの世のシステムは理解できねぇ。で、ここは獣人と地走り族の国なのか・・・。という事はまたリンネたちのいる世界に戻ってきたわけだ。だが、お前らは獣人族の者にしては人間族に見えるが・・・」

「人間? 聞いた事がない種族だな。俺たちは紛う事なき獣人族だが?」

「獣人ぐらい俺も知っている。でも俺の知る獣人はもっと獣っぽかったぜ?」

 なんつーか、獣が二足歩行してるだけの姿をしてたぞ。ビャクヤが見せてくれた世界の種族って本ではよ。

「ああ、俺らはエリート種だからな。エリート種はオーガっぽい見た目になるんだ。まぁエリート種と言っても、俺らの実力値は2だからあんたには敵わねぇけどな」

 赤い癖毛の小僧が悔しそうにそう言って不貞腐れる。よく見るとこいつら全員ケモ耳が付いてるな。跳ねた癖毛かと思ってたわ。

「まぁ生きてりゃその内強くなるだろうさ。本当なら俺に殺されるはずだったんだ。その命を大事にして強くなりゃあいい。ところでお前らは4人パーティなのか?」

 そう訊くと冒険者たちは暗い顔をする。なるほどな。仲間の何人かを死なせてしまったわけだ。わかり易い奴らだな。

「俺たちはオーソドックスな6人編成だったんだけどよ。無理して地下三階まで行ったら大毒蛙の毒で、戦士とスカウトが死んでしまった」

「遺体はどこだ?」

 暫くこいつらと行動を共にしてもいいな。遺体を生き返らせて恩を売っておくか。情報を集めるのに冒険者ってのは便利だからな。

 おっと、俺も一応ニムゲイン王国だと冒険者だったな。情報収集の仕方を学んでおくのも悪くねぇ。この時代にパソコンがありゃあ楽なんだろうけどよ。

「今頃蛙の腹の中か、ゾンビ化してるかのどちらかだ。俺たちは逃げるのに必死だったからな」

 黄色鎧がハァとため息をついてハンマーの頭の部分をつま先で蹴っている。

「だとしたら、ありゃあ、お前らの仲間じゃねぇのか? 蛙の糞から生まれたなんて、素敵だなぁ?」

 近くの階段からゾンビ二体が、アーアーと呻きながらフラフラと現れた。

「ウッドペックとブラック!」

 赤髪が仲間の名前を呼ぶと、黄色鎧がグレートハンマーを構えた。

 ゾンビになってまで仲間を追いかけてくるなんて、お前ら余程薄情な逃げ方をしたな? クハハ!

「まぁ待てお前ら。俺に任せておけ」

 俺は皆の前に出ると、すぐさま動きの遅いゾンビ二人の首を刎ねた。

「すまねぇ。俺たちがけじめをつけないといけないのに・・・」

 赤髪小僧が一丁前な事を言ったが聞き流して、俺はニヤニヤしながら腕時計を見た。

「五分だ。五分ここで待て。面白いものが見れるぞ?」

 俺の言葉にきょとんとする冒険者たちの顔が滑稽だ。

 待っている間、ピンク女は暗がりで恥ずかしそうに股を布で拭き、こんこんと湧き出る泉でその布を洗っていた。

 おいおい、その泉の水は後々誰かが飲むかもしれねぇだろうが。そんなところで洗うな。

「さてと・・・」

 時間経過で首無しゾンビが、瞬時に生きていた状態へと戻る。

「なに?」

「うそ!」

「まじか?」

「ふえぇ?」

 赤、青、黄色、ピンクの順で驚嘆の声を上げる。

 まず起き上った地走り族が辺りを見渡した後、俺に気付いて隠遁スキルを発動させた。盗賊としては当然の行動か。

「隠れなくても大丈夫だよ、ウッドペック。この悪魔さんが、あなたを蘇らせてくれたんだからぁ」

 ピンク頭が俺の腕に馴れ馴れしく飛びついたので、アマリがカタカタと震えて怒りを表したが、アホ女は気付いていない。ってか、お前の手にしょんべん付いてねぇだろうな?

 茶髪のウッドペックは隠遁スキルを解除すると、警戒しつつも小さな声でありがとうと俺に礼を言った。

「くそがぁ! クソガエルがぁ!」

 蘇るなり腰のサーベルで空を斬る剣士は、見た目だけなら俺に似ている。間違いなく陰キャだろうな、このブラックとかいう黒髪長髪の眼帯男は。しかも眼帯は飾りと見た。今奴が普通に外して捨てたからな。

「んあ? なんで俺は生きている?」

「蘇生したからだよぉ?」

「は? 冗談だろ、モモ。駆け出しの冒険者にそんな金があるはずもねぇ。まさか俺の為に借金したのか? 言っとくが俺は借金を負うつもりはねぇからな?」

 ん~。程よいクズさ加減。

「違うよ。悪魔さんがウッドペックとブラックを生き返らせてくれたんだよ? ただで!」

 ただじゃねぇけどな。

「ま、マジか? 信じられねぇ。悪魔だぞ? 悪魔が蘇生術を使うとか聞いた事ねぇんだが!」

 ブラックの細い目が困惑しながら俺を睨んでいる。目は似てねぇな。俺の目は大きいし垂れ目だ。三白眼なのは同じだけどよ。

「さて、二人は蘇った。お礼に俺を街まで案内してくれ。色々と情報が欲しい。お前らはそれぐらいの恩返しはできるよな?」

 ピンク頭が鈍そうな喋り方で青髪の眼鏡女に訊く。

「悪魔ってぇ、街に入れるのかなぁ?」

「契約印のある悪魔なら入れます」

「契約印ってこれか?」

 俺は胸にあるビャクヤとの契約印を見せた。と言っても丸の中に五芒星が描かれているだけの光る印だ。この印は時々形が変わるが、どうしてかはわからねぇ。多分制約の度合いで変わるんだろうな。

 でも契約印は幻術で簡単に偽装ができそうだから疑われるとは思う。

 案の定、眼鏡女は疑いの目でまじまじと印を見た後に、俺の胸を見ていた事が恥ずかしくなったのか、ズレた眼鏡の位置を直しながらそっぽを向いた。

「ほ、本物ですね。この悪魔には主がいますよ! 主がいるのに他の人に召喚される悪魔がいるって聞いた事がありますが、本当にそういった間違いがあるんですね」

 だとしたら俺はずっと間違いが起きている事になる。今回で何度目の召喚だろうか?

「道理で話が通じると思ったぜ・・・」

 黄色鎧がワハハと笑った。お前らがもう少し敵対的だったら、俺に自己防衛という大義ができて殺す事も出来たんだぜ?

 まぁションベン女のせいでそう仕向ける気も失せたけどよ・・・。

「じゃあ問題ないな? 俺を街へ連れてってくれ」

「はぁ~い!」

 ションベン女がそう返事をして手を挙げてから、小さくスキップをして先を歩く。緊張感のねぇ奴だな・・・。

 お前らレベルだと地下一階でも死にうるんだからよ、もっと周りを警戒しろ。

 しかし、スカウトであるウッドペックの見つけた隠し扉による近道のお陰で、すぐに迷宮の出口まで辿り着いた。
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