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制約
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魔法院の長が催した息子の実力お披露目会が、まさかこんな事になろうとは、弟子たちは微塵にも思ってもいなかった。
急展開な出来事に驚きで固まっていた弟子たちは、今は目に憎悪に宿して師匠の仇討ちだと言わんばかりに一斉に詠唱を開始する。
「許さないぞ! 悪魔め! 先生やサムシンと何を話していたかは知らないが! 無抵抗の者を殺すなんて卑怯だぞ!」
「喰らえ! 【大火球】!」
空から大きな火球がキリマルに落ちてくる。
「【煉獄】!」
ビャクヤが使う【闇の炎】の火属性版のような魔法が、悪魔の身を灰になるまで焼こうとした。
「【太陽光】!」
火と光の複合魔法である上位魔法が強烈な光を放ってキリマルを焦がす。
ウィザード達が同系統の魔法で攻撃しているのは偶然ではない。別系統の魔法を一所に撃つと、連携扱いされなかった魔法は、爆発を起こすからだ。その爆発は、味方にも被害が及ぶ。
キリマルのいた地面が熱や炎で歪み、溶岩でも噴き出たのかと思う程、赤く変色している。
長の仇の生死を確認しようとするウィザード達の頬を、熱風が叩く。
「やったか?」
誰かが渇いた唇を舐めながらそう言った。
しかし次の瞬間、その誰かの首が飛ぶ。
勝手に切れて飛んでいったように見えたので、誰かが間違って風系魔法を仲間に誤射してしまったのかと思ったが、魔法の専門家ばかりが集うこの場所でそれはあり得ない。
黒い影が走ったと思うと、次々にウィザード達の首が飛び始めた。
「くそ! 悪魔は死んでいないぞ! どこだ! 姿が見えない!」
「ヒヒヒ! お前らも戦士、盗賊、魔法使いの三すくみぐらい知っているだろう? 戦士は盗賊に強いがメイジに弱い。盗賊はメイジに強いが戦士に弱い。メイジは戦士に強いが盗賊に弱い。まぁこれは一般論だからよ、当てはまらない奴も多いだろうけど。俺がそれなんだわ。戦士と盗賊の能力を持つ俺に、お前らは勝てねぇよ」
それを聞いたウィザード達も死ぬ覚悟を決めたのか、怯まずに魔法で黒髪の悪魔を見つけ出し、攻撃魔法を浴びせている。
が、それらは尽く刀で斬られていった。
「馬鹿な! 武器で魔法を斬るなんてあり得ないぞ! グぇ!」
そう叫んだウィザードの首が斬られた。
「クハハ! 無駄無駄無駄ぁ!」
魔法の研究者、探究者であるウィザード達は実践に不慣れとはいえ、この場だけでも千人はいる。
取り囲んで魔法を撃てば普通の敵であれば今頃は肉塊となっているはずだが、この悪魔は違った。こちらの攻撃が全く当たらないのだ。魔法では駄目だと思ったのか、ナイフを投げる者もいる。
しかし当てたと思っても、それは悪魔が残した残像なので、ナイフや魔法を無駄に消費しているだけであった。
「こんな時に俺たちと敵対している僧侶どもの顔が浮かぶよ。レイス」
中立を示す赤いローブを着たウィザードは、隣で同じように詠唱に集中する同僚に話しかけた。
「ああ、俺もだ。リント」
白ローブのメイジは自分が光魔法を得意としながらも、僧侶のような奇跡を使えない事を心の中で恥じていた。自分に僧侶の素質があったならば、あの悪魔を奇跡の力で消滅させられただろうと。
「俺は死ぬ覚悟はできているが、この目の前の光景がどういった仕組みでそうなっているのか、解明するまで死にたくはないな」
「確かに。魔法を斬る、なんて馬鹿げた事をする悪魔は初めて見たぞ」
近くで誰かの首が飛ぶ。
「クッ! エース先輩の首が跳ねられた! だが・・・、あの悪魔の力の謎を知りたいという気持ちと、先輩の首が狙ったように真上に飛んでいく様が滑稽なせいか、不思議と怖いという感情が全く湧いてこない」
赤ローブのリントはいつ自分にその番が回ってきてもおかしくはないのに、口角を少し上げて笑っている。
「こんな時に酷い奴だな、お前は(でも、そんなお前が俺は好きだ)」
悪魔が嵐のように暴れる中で頬を染める男色の自分を笑って、レイスは今一度魔法詠唱を開始したその時。
―――ザン!
今しがた隣でドライな笑顔を見せていたリントが縦に割れた。
冗談でもなんでもなく、竹を割ったように綺麗に二つに割れて、内臓をぶちまけているのだ。
「うわぁぁ! リント! リントォ!」
動転したレイスは白いローブを血塗れにして、リントの内臓を拾い集めている。
その四つん這いになったレイスの首を、キリマルは容赦なく刎ねた。
「あぁぁぁ! 気持ちいいなぁ! 人の首を刎ねるのはぁ! なんでこんなに気持ちいいんだろうなぁ? ハーハハハ!」
ビャクヤたちは騎士の詰め所に来て、今回の件を騎士に説明していた。今回のように大物が絡み、自警団で解決できないような事件は騎士に解決を頼むのだが、騎士たちも相手が貴族嫌いの魔法院の長なので少し困惑していた。
「流石に俺らでもこの件を扱うのは無理だな。上の判断を仰ぐので少々時間がかかるがいいか?」
「ええ、お願いします」
リンネがそう答えると騎士たちは書類を持ってきた。暫くは告発の書類に色々と書き込んでいたリンネだったが、被害者女性たちの調書を取る間に時間ができたので、ビャクヤを厳しく問い詰める。
「なんでキリマルだけを置いて行ったのよ!」
「あの場はあれが最善だったからですッ! 主様ッ!」
「どうして? キリマル一人を置き去りにする事のどこか最善なのよ! 可哀想でしょ!」
「吾輩が魔法院の長と交渉をする前に、キリマルが二人を殺してしまったのですからッ! 彼に責任を取らすのが筋でしょうッ! キリマルは殺した相手に凄まじい恐怖を叩きこみ、戦意を失わせるという悪魔の力があります。どのみちキリマルに殺された者は生き返りますし、ウィザードたちは恐怖で無抵抗になるでしょうッ!」
「でもキリマルだって魔法に対して無敵ってわけでもないし、危ない事には変わりないよ!」
「あの雑魚に滅法強いイキリマルがッ! 平のウィザードなどに負けるはずがないでしょうッ!」
「でも!」
更にリンネが文句を言おうとしたその時、机の上の魔法水晶を見ていた騎士が声を上げた。
「おほぉ! この悪魔! 一人でウィザード全員を倒しやがった! 魔法院に喧嘩を売って勝ちやがったぞ!」
それを聞いてビャクヤは冷や汗を流す。
(ああっ! そうか! サムシンのアースゴーレムを倒す様子が、国中の魔法水晶に流されていたのだったッ! 今もそのまま放送されていたのだな! これは不味いんぬッ!)
きっとキリマルは残忍の方法でウィザード達を殺したに違いない。
(罰が即発動しないように制約を緩めたとはいえ、主様がキリマルのやった事を残忍だと感じた途端、彼はこの世界から消える。不味いッ! 何とかして主様の気を引かねばッ!)
「んばっ!」
キリマルは急にマントを開いて、ほぼ裸の体をリンネに見せる。
「主様ッ! 吾輩ッ! 急に欲情してしまいまんしたッ!」
「いつも欲情してるじゃん、バカ」
頬を赤くしてリンネはそっぽを向く。しかしそっぽを向いた先に魔法水晶があったので、ビャクヤは慌ててリンネを抱きしめる。
「体の火照りを静めてくださいッ! 今すぐッ! ここでッ!」
「えっ! ここで? どどど、どうやって?」
「手で・・・お願いします。幸い、吾輩は仮面で顔が隠れていますゆえッ! マントの中のイチモツをシゴかれても表情でバレる事はありませんぬッ!」
「で、でも・・・。動きでバレちゃわないかな?」
「隅っこでやればバレません。さぁ早くマントの中に!」
リンネは躊躇するも、気持ち的には嫌ではなかった。以前ならビャクヤを叩いて終わりにしていたが、今はその頃のように距離があるわけではない。体を交えた恋人同士なのだから。
とはいえ、蘇生したリンネの体はホムンクルスの頃のものではなく、本来の自分をベースにしているので処女なのである。だからビャクヤもそれを気にして自分に手を出さなくなり寂しく思っていた。
こんな時に自分を求めるビャクヤを少し変に思ったが、それでもリンネは嬉しかった。
「欲情しちゃったものは・・・、仕方ないよね・・・。わかった、今日だけだからね? 特別だよ?」
「はいっ! 大好きですッ! 我が主様!」
リンネはビャクヤの薄暗いマントの中に入ると、ドキドキしながら黒いビキニの膨らみをまさぐった。
しかし、ビャクヤのアソコは柔らかくて、まるでマシュマロのようである。
「ふえ? フ、フニャフニャだけど?」
欲情したというから怒張したそれが、そこにあると思ったリンネは拍子抜けする。
その間にビャクヤはキリマルの映像をみる騎士に、早く水晶をしまえと念じた。
(水晶をしまえ、水晶をしまえ、水晶をしまいたまえッ!)
案外、人の念とは通じるものである。
騎士は「大事件だな・・・。続きが気になるが今は仕事をするか」と言って水晶を引き出しにしまった。
「よしッ!」
キリマルがマントを払ってガッツポーズをとると、ビャクヤの股間を弄るリンネが露わになった。
それを見たキャスが、真ん中分けの髪をカーテンのように閉じて目を隠す。
「まさかこんな場所で盛っちゃったわけ? ボーンさん。大胆ね。使い魔とそういう事をする人がいるって聞いた事があるけど、まさかボーンさんがそうだったとは・・・」
「ち、ちがっ! もう! ビャクヤ! からかったわね!」
顔を真っ赤にして自分の胸をポカポカと叩くリンネの頭を撫でながら、ビャクヤは念のために他に魔法水晶がないかを確かめた。
(他に魔法水晶を持つ者はいないようだッ!)
「おい! お前、これ見たか?」
突然、詰め所に入ってきた騎士は、さっきまでキリマルの活躍を見ていた騎士の机に魔法水晶を置いて、ランプで照らして壁に映像を投影した。
「知ってるって。俺もさっき見てたし。わざわざ壁に映すなよ」
「いいから、いいから。ほら、あの鼻もちならねぇウィザードどもが、内臓をぶちまけて死んでやがるぜ!」
(ああああああ!! これは危険! キリマルが消えてしまう!)
遮る物のないカウンターの向こうの壁に、後ろ手を組んで死体の間を満足そうに歩くキリマルが映し出されていた。
「え? キリマルがこれをやったの・・・? 何がどうなっているのかわからない死体もあるじゃない・・。ウッ!」
リンネは口元を押さえて吐き気と戦った。死の身近なこの世界で悲惨な現場はそこそこ見てきたが、ここまでグロテスクな風景は見た事がない。首のない死体のミンチ和えとでも言おうか・・・。形を留めている死体に細切れになった肉片や髪、目玉や内臓などが張り付いている。
「ま、まさかッ! きっとウィザードの魔法が死体に当たって、ああなったのですよッ!」
必死になって誤魔化そうとするビャクヤだったが・・・。
制約を破ったキリマルへの罰は無慈悲に発動した。
映像の中のキリマルの体が、空間ごと捩じれて渦を作る。キリマル本人も何が起きたのかわからないまま渦に吸い込まれていった。
(主様の為と思って作った制約だったが、こんなもの作るのではなかったッ! 制約を消すにはちょっとした儀式が必要なのだが、もう間に合わないッ! あぁ! キリマルッ! 許してくれッ!)
その渦に吸い込まれてキリマルは跡形もなく、この世界から消えてしまった。
急展開な出来事に驚きで固まっていた弟子たちは、今は目に憎悪に宿して師匠の仇討ちだと言わんばかりに一斉に詠唱を開始する。
「許さないぞ! 悪魔め! 先生やサムシンと何を話していたかは知らないが! 無抵抗の者を殺すなんて卑怯だぞ!」
「喰らえ! 【大火球】!」
空から大きな火球がキリマルに落ちてくる。
「【煉獄】!」
ビャクヤが使う【闇の炎】の火属性版のような魔法が、悪魔の身を灰になるまで焼こうとした。
「【太陽光】!」
火と光の複合魔法である上位魔法が強烈な光を放ってキリマルを焦がす。
ウィザード達が同系統の魔法で攻撃しているのは偶然ではない。別系統の魔法を一所に撃つと、連携扱いされなかった魔法は、爆発を起こすからだ。その爆発は、味方にも被害が及ぶ。
キリマルのいた地面が熱や炎で歪み、溶岩でも噴き出たのかと思う程、赤く変色している。
長の仇の生死を確認しようとするウィザード達の頬を、熱風が叩く。
「やったか?」
誰かが渇いた唇を舐めながらそう言った。
しかし次の瞬間、その誰かの首が飛ぶ。
勝手に切れて飛んでいったように見えたので、誰かが間違って風系魔法を仲間に誤射してしまったのかと思ったが、魔法の専門家ばかりが集うこの場所でそれはあり得ない。
黒い影が走ったと思うと、次々にウィザード達の首が飛び始めた。
「くそ! 悪魔は死んでいないぞ! どこだ! 姿が見えない!」
「ヒヒヒ! お前らも戦士、盗賊、魔法使いの三すくみぐらい知っているだろう? 戦士は盗賊に強いがメイジに弱い。盗賊はメイジに強いが戦士に弱い。メイジは戦士に強いが盗賊に弱い。まぁこれは一般論だからよ、当てはまらない奴も多いだろうけど。俺がそれなんだわ。戦士と盗賊の能力を持つ俺に、お前らは勝てねぇよ」
それを聞いたウィザード達も死ぬ覚悟を決めたのか、怯まずに魔法で黒髪の悪魔を見つけ出し、攻撃魔法を浴びせている。
が、それらは尽く刀で斬られていった。
「馬鹿な! 武器で魔法を斬るなんてあり得ないぞ! グぇ!」
そう叫んだウィザードの首が斬られた。
「クハハ! 無駄無駄無駄ぁ!」
魔法の研究者、探究者であるウィザード達は実践に不慣れとはいえ、この場だけでも千人はいる。
取り囲んで魔法を撃てば普通の敵であれば今頃は肉塊となっているはずだが、この悪魔は違った。こちらの攻撃が全く当たらないのだ。魔法では駄目だと思ったのか、ナイフを投げる者もいる。
しかし当てたと思っても、それは悪魔が残した残像なので、ナイフや魔法を無駄に消費しているだけであった。
「こんな時に俺たちと敵対している僧侶どもの顔が浮かぶよ。レイス」
中立を示す赤いローブを着たウィザードは、隣で同じように詠唱に集中する同僚に話しかけた。
「ああ、俺もだ。リント」
白ローブのメイジは自分が光魔法を得意としながらも、僧侶のような奇跡を使えない事を心の中で恥じていた。自分に僧侶の素質があったならば、あの悪魔を奇跡の力で消滅させられただろうと。
「俺は死ぬ覚悟はできているが、この目の前の光景がどういった仕組みでそうなっているのか、解明するまで死にたくはないな」
「確かに。魔法を斬る、なんて馬鹿げた事をする悪魔は初めて見たぞ」
近くで誰かの首が飛ぶ。
「クッ! エース先輩の首が跳ねられた! だが・・・、あの悪魔の力の謎を知りたいという気持ちと、先輩の首が狙ったように真上に飛んでいく様が滑稽なせいか、不思議と怖いという感情が全く湧いてこない」
赤ローブのリントはいつ自分にその番が回ってきてもおかしくはないのに、口角を少し上げて笑っている。
「こんな時に酷い奴だな、お前は(でも、そんなお前が俺は好きだ)」
悪魔が嵐のように暴れる中で頬を染める男色の自分を笑って、レイスは今一度魔法詠唱を開始したその時。
―――ザン!
今しがた隣でドライな笑顔を見せていたリントが縦に割れた。
冗談でもなんでもなく、竹を割ったように綺麗に二つに割れて、内臓をぶちまけているのだ。
「うわぁぁ! リント! リントォ!」
動転したレイスは白いローブを血塗れにして、リントの内臓を拾い集めている。
その四つん這いになったレイスの首を、キリマルは容赦なく刎ねた。
「あぁぁぁ! 気持ちいいなぁ! 人の首を刎ねるのはぁ! なんでこんなに気持ちいいんだろうなぁ? ハーハハハ!」
ビャクヤたちは騎士の詰め所に来て、今回の件を騎士に説明していた。今回のように大物が絡み、自警団で解決できないような事件は騎士に解決を頼むのだが、騎士たちも相手が貴族嫌いの魔法院の長なので少し困惑していた。
「流石に俺らでもこの件を扱うのは無理だな。上の判断を仰ぐので少々時間がかかるがいいか?」
「ええ、お願いします」
リンネがそう答えると騎士たちは書類を持ってきた。暫くは告発の書類に色々と書き込んでいたリンネだったが、被害者女性たちの調書を取る間に時間ができたので、ビャクヤを厳しく問い詰める。
「なんでキリマルだけを置いて行ったのよ!」
「あの場はあれが最善だったからですッ! 主様ッ!」
「どうして? キリマル一人を置き去りにする事のどこか最善なのよ! 可哀想でしょ!」
「吾輩が魔法院の長と交渉をする前に、キリマルが二人を殺してしまったのですからッ! 彼に責任を取らすのが筋でしょうッ! キリマルは殺した相手に凄まじい恐怖を叩きこみ、戦意を失わせるという悪魔の力があります。どのみちキリマルに殺された者は生き返りますし、ウィザードたちは恐怖で無抵抗になるでしょうッ!」
「でもキリマルだって魔法に対して無敵ってわけでもないし、危ない事には変わりないよ!」
「あの雑魚に滅法強いイキリマルがッ! 平のウィザードなどに負けるはずがないでしょうッ!」
「でも!」
更にリンネが文句を言おうとしたその時、机の上の魔法水晶を見ていた騎士が声を上げた。
「おほぉ! この悪魔! 一人でウィザード全員を倒しやがった! 魔法院に喧嘩を売って勝ちやがったぞ!」
それを聞いてビャクヤは冷や汗を流す。
(ああっ! そうか! サムシンのアースゴーレムを倒す様子が、国中の魔法水晶に流されていたのだったッ! 今もそのまま放送されていたのだな! これは不味いんぬッ!)
きっとキリマルは残忍の方法でウィザード達を殺したに違いない。
(罰が即発動しないように制約を緩めたとはいえ、主様がキリマルのやった事を残忍だと感じた途端、彼はこの世界から消える。不味いッ! 何とかして主様の気を引かねばッ!)
「んばっ!」
キリマルは急にマントを開いて、ほぼ裸の体をリンネに見せる。
「主様ッ! 吾輩ッ! 急に欲情してしまいまんしたッ!」
「いつも欲情してるじゃん、バカ」
頬を赤くしてリンネはそっぽを向く。しかしそっぽを向いた先に魔法水晶があったので、ビャクヤは慌ててリンネを抱きしめる。
「体の火照りを静めてくださいッ! 今すぐッ! ここでッ!」
「えっ! ここで? どどど、どうやって?」
「手で・・・お願いします。幸い、吾輩は仮面で顔が隠れていますゆえッ! マントの中のイチモツをシゴかれても表情でバレる事はありませんぬッ!」
「で、でも・・・。動きでバレちゃわないかな?」
「隅っこでやればバレません。さぁ早くマントの中に!」
リンネは躊躇するも、気持ち的には嫌ではなかった。以前ならビャクヤを叩いて終わりにしていたが、今はその頃のように距離があるわけではない。体を交えた恋人同士なのだから。
とはいえ、蘇生したリンネの体はホムンクルスの頃のものではなく、本来の自分をベースにしているので処女なのである。だからビャクヤもそれを気にして自分に手を出さなくなり寂しく思っていた。
こんな時に自分を求めるビャクヤを少し変に思ったが、それでもリンネは嬉しかった。
「欲情しちゃったものは・・・、仕方ないよね・・・。わかった、今日だけだからね? 特別だよ?」
「はいっ! 大好きですッ! 我が主様!」
リンネはビャクヤの薄暗いマントの中に入ると、ドキドキしながら黒いビキニの膨らみをまさぐった。
しかし、ビャクヤのアソコは柔らかくて、まるでマシュマロのようである。
「ふえ? フ、フニャフニャだけど?」
欲情したというから怒張したそれが、そこにあると思ったリンネは拍子抜けする。
その間にビャクヤはキリマルの映像をみる騎士に、早く水晶をしまえと念じた。
(水晶をしまえ、水晶をしまえ、水晶をしまいたまえッ!)
案外、人の念とは通じるものである。
騎士は「大事件だな・・・。続きが気になるが今は仕事をするか」と言って水晶を引き出しにしまった。
「よしッ!」
キリマルがマントを払ってガッツポーズをとると、ビャクヤの股間を弄るリンネが露わになった。
それを見たキャスが、真ん中分けの髪をカーテンのように閉じて目を隠す。
「まさかこんな場所で盛っちゃったわけ? ボーンさん。大胆ね。使い魔とそういう事をする人がいるって聞いた事があるけど、まさかボーンさんがそうだったとは・・・」
「ち、ちがっ! もう! ビャクヤ! からかったわね!」
顔を真っ赤にして自分の胸をポカポカと叩くリンネの頭を撫でながら、ビャクヤは念のために他に魔法水晶がないかを確かめた。
(他に魔法水晶を持つ者はいないようだッ!)
「おい! お前、これ見たか?」
突然、詰め所に入ってきた騎士は、さっきまでキリマルの活躍を見ていた騎士の机に魔法水晶を置いて、ランプで照らして壁に映像を投影した。
「知ってるって。俺もさっき見てたし。わざわざ壁に映すなよ」
「いいから、いいから。ほら、あの鼻もちならねぇウィザードどもが、内臓をぶちまけて死んでやがるぜ!」
(ああああああ!! これは危険! キリマルが消えてしまう!)
遮る物のないカウンターの向こうの壁に、後ろ手を組んで死体の間を満足そうに歩くキリマルが映し出されていた。
「え? キリマルがこれをやったの・・・? 何がどうなっているのかわからない死体もあるじゃない・・。ウッ!」
リンネは口元を押さえて吐き気と戦った。死の身近なこの世界で悲惨な現場はそこそこ見てきたが、ここまでグロテスクな風景は見た事がない。首のない死体のミンチ和えとでも言おうか・・・。形を留めている死体に細切れになった肉片や髪、目玉や内臓などが張り付いている。
「ま、まさかッ! きっとウィザードの魔法が死体に当たって、ああなったのですよッ!」
必死になって誤魔化そうとするビャクヤだったが・・・。
制約を破ったキリマルへの罰は無慈悲に発動した。
映像の中のキリマルの体が、空間ごと捩じれて渦を作る。キリマル本人も何が起きたのかわからないまま渦に吸い込まれていった。
(主様の為と思って作った制約だったが、こんなもの作るのではなかったッ! 制約を消すにはちょっとした儀式が必要なのだが、もう間に合わないッ! あぁ! キリマルッ! 許してくれッ!)
その渦に吸い込まれてキリマルは跡形もなく、この世界から消えてしまった。
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