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ヒジリ様の為に
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「悪魔ってのは・・・」
余裕があるのか、勇者はロングソードを撃ち込みながら話しかけてくる。
「強い奴はとてつもなく強い。その半面、雑魚はゴブリン並みだ」
俺はその一撃を魔刀アマリの腹に滑らせるようにして往なす。まともに受ければ普通の刀なら、折れるか曲がるかするからだ。アマリの強度がどれくらいなのかを、俺は知らないので正面から受ける事を避けた。
「俺がその雑魚だって言いてえのか?」
途端に強者であるヤイバやヒジリの見下す顔が頭に浮かぶ。
いや、別に奴らが俺を見下した事はねぇ。上には上がいるとは教えてくれたがな。だが絶対強者然とした奴らの余裕ある顔が、俺の妄想の中で憎悪を煽るんだわ。
「お前もあいつらみたいな顔をすんのかよ。ムカツクじゃねぇか。よし、決めた。おめぇは達磨だ。達磨の刑な?」
「あいつら? 達磨?」
誰の事を言っているのだ、と眉をひそめる勇者の首を狙って刀を突き出す。
悪魔の驚異的な身体能力で俺の攻撃は相手に絶対当たるようになっている。が、貫通してダメージを与えるかどうかはまた別の話だ。ダメージが通れば一撃必殺なのだが・・・。
勇者は中央が盛り上がったバックラーで俺の刀の軌道を変えた。そしてカウンターのように魔剣で攻撃をしてくる。
「的確な回避と攻撃を実現する体の作りと、素晴らしい動体視力、流石は悪魔だな! だが、お前はまだまだ経験が浅い。能力のごり押しだけではどうにもならない事があると知れ!」
俺は奴の単純な上段からの一撃をアマリでまた往なした。
いや、往なしたつもりでいた。
「あまいな!」
フェイントか! 糞が!
剣は刀に触れてから、直ぐに上段斬りから軌道を変えて、蛇のようにくねったかと思うと、横から俺の首を狙ってくる。
「隠遁スキル!」
咄嗟に俺は奴の目前から消えつつも、後方に下がる。
しかし、回避は微妙に間に合わなかった。
「チィ! 斬られた!」
喉仏の薄皮を一枚を斬られたのだ。焦燥で額に汗が滲む。
俺はどうなる? あの剣に食われてしまうのか?
・・・が、何も起こらない。
(どういう事だ?)
勇者は急に消えた俺を探して、滅多矢鱈と周囲を薙ぎ払っている。
「どこに消えた!」
体力の無駄だと思ったのか、勇者は剣を振るのを止めた。だが隠れる俺に我慢ならなくなって、オーガの少女に剣を向ける。
「早く出てこないと、この女が死ぬことになるぞ!」
ハ! 勝手に殺せ! 俺は正義のヒーローじゃねぇんだわ!
(さて、どう攻撃したものか・・・)
勇者なだけあって、経験も技量も俺より上だ。
姿を隠して飛び退いた場所から俺は一歩も動いてはいないが、幸い見つかってはいない。考える時間はありそうだ。
(接近戦は悪手だな。ヤイバといいこいつといいカウンターの名人だからよ。となると俺の百発百中の攻撃が裏目に出る)
凄まじい命中率と攻撃力。それからチートのような即死クリティカルヒットを引き換えに俺は脆い。ヤイバの大盾の一撃で沈むくらいだからな。まぁ手練れのあいつの攻撃は、盾だろうが武器だろうが大ダメージに繋がりそうだけどよ。
(俺は一秒間に五回の攻撃が出来るが、奴はその全てを弾いた後に、カウンター攻撃をしてくるだろうな)
悪魔の能力なのかは知らねぇが、数回やり取りしただけで相手の力量が、ある程度解ってしまうのは良くも悪くもある。思い切りを失くさせ、無鉄砲に攻撃する事を躊躇わせるんだわ。時には無鉄砲な行動が良い結果をもたらす事もあるのに。
(だったらよ・・・。キヒヒ!)
魔法のロープでいやらしいポーズを取らされている――――、オーガのメスが縛り付けられている木の裏側に静かに回りこんだ。木とオーガを挟んだ向こうには勇者がいる。
「ヒハハ! お前が殺そうとしているオーガ共々死ね! 必殺!」
「穿孔(せんこう)一突き!」
前に伸ばした左手を照準にして、俺は突きを木に放った。
だがよ、必殺技を完全に放つ前に声を出すもんじゃねぇな。
勇者がいつの間にか俺の目の前に現れていて、刀の突きの軌道をまたバックラーで変えてきやがった。腕を斬り飛ばす事もできたのによ。こいつも俺との技量差が解っているんだ。舐めた事しやがって。
なので俺の突きとレーザービームのような穿孔の光は、頭上の木の枝と葉に穴を開けただけだった。
「馬鹿なのか、お前は。声を出して自分の居場所を知らせてどうする?」
勇者がそう罵倒して剣を振るよりも早く、俺は体勢を整えて袈裟斬りを決めるも、バックラーでまたもや逸らされてしまった。
が、それはフェイントなんだわ。フェイントする事を教えてくれてありがとうな、勇者。
俺はすぐに逆袈裟斬りを決める。この一連の流れは、俗にいう燕返しだ。
奴も回避が間に合わない自覚があったのか、「チッ」と舌打ちをした。
「逆袈裟斬りの手応えあり!」
刀には間違いなく肉と骨を斬る手応えがあったが、奇妙な違和感に俺は顔をしかめる。
(これは蘇生する時に感じる、生きていない人間を斬った時の感覚だな・・・)
「あぁ?」
俺が斬ったのはさっき奴の剣に吸い込まれた、ゴブリンメイジだった。
「どこから死体が現れた? おっと!」
空中に浮くゴブリンメイジの死体の向こう側で、剣の切っ先が光った。俺は驚異の動体視力で、死体ごと貫いてくる勇者の突きを躱して距離をとる。
「もしかしてよ・・・。その魔剣は相手を喰らうのではなく、ただ死体を吸い込んでいるだけか?」
「何の話だ? 剣が死体を食ったり、吸い込んだりする? 面白い発想だな」
(違うのか。じゃあなんだ? 奴自身の能力か? 死体を剣にで吸い込んで、いつでも身代わりみたいに出せる能力か? 結構面倒くさい能力だな・・・。能力者が必ずしもチート級の能力を得ているとは限らんのだな。ん? ・・・そういや俺も能力者だったわ。能力を使うか)
いつも忘れるこの爆発の手―――、から進化した爆発付与。
突進してくる勇者を前に、俺はしゃがんで枯葉を咄嗟に掴むと、前方にばら撒いて下がる。
「何のつもりだ?」
勇者が枯葉を剣で切り払った瞬間!
―――ボボボボン!
枯葉が爆発して、陰キャハンサム系の顔を焼く。
「ぐわああああ!!」
爆発に驚き、視力も奪われた勇者は、後方へステップして逃げていく。
勿論、俺はこのチャンスを逃がすつもりはねぇ。
オーガの少女が恥ずかしい姿で縛られる木をの横を走り抜け、勇者に追いつくと奴の四肢をスパッと切断した。
手足が斬り飛ばされて茂みに消え、ほんの僅かな時間を滞空した達磨勇者が、泡を吹いて地面に落ちる。悲鳴を上げずにショック死したのは減点ポイントだな。
俺はアマリを鞘にしまって、落としていた腰を上げると静かにふざけた。
「必殺、達磨斬り」
「そんな必殺技はない」
アマリが突っ込む。
うるせぇと言って、魔法のロープから解放されたオーガの少女を見ると、少女は小剣を拾って俺に向けてきた。
「お前もおでを、慰み者にするつもりか!」
「残念だが、俺はショートヘアーの女が好きなんだわ。三つ編みは好みじゃねぇ」
「そうなの? だったら私は髪を短くする」
アマリのイメチェン宣言に俺は頷いた。単純に好みの見た目の女を侍らすのも、悪くないと思ったからだ。
「そうだな。長髪キャラが二人でいるのはむさくるしくていけねぇ。帰ったら髪を切ってやるよ」
「嬉しい」
刀と会話する俺をオーガの少女は、キョトンとした目で見つめてから「ガハハ」と笑った。
「お前とその刀、面白い会話をする」
「夫婦漫才みたい?」
アマリが嬉しそうにそう言った。
「ネタでも何でもない普通の会話しかしてねぇんだ。漫才師に怒られるぞ。ところでお嬢ちゃんは、両親が死んだのに悲しくねぇのか?」
「勿論悲しい。でもおっとうもおっかあも弱いから死んだ。オーガの世界では弱者は恥」
「オーガってのはなんとも薄情な世界に生きてんだな。・・・・そういやヒジリは無駄に人を生き返らせるのを嫌がっていたな。だったら逆の事をしてやろうか。お嬢ちゃん、お前の父ちゃんと母ちゃんを生き返らせてやるよ」
少女は俺に疑いの眼差しを向けてきた。
「お前は剣士であって、僧侶ではないど」
「まぁ見てろって。五分待て」
俺はそう言って少女の両親の背中にアマリを突き刺した。目の前で親の死体が冒涜されているのに少女は気にした様子もない。
「気にならねぇのか? お前の父ちゃんと母ちゃんを刀で刺しているんだぞ?」
「気にならねぇ。死んだら、ただの肉の塊だ」
「さよか」
なんともドライだねぇ、オーガってのは。
「まだか?」
「今、仕込みをしたところだろうが」
一分毎に「まだか」と聞いてくるオーガの少女をうざく思いながらも、俺は腕時計を見て時間を待つ。
「よし、生き返るぞ」
「グォォォ! 背中が熱い!」
親父は盗賊ゴブリンに背中を刺されて殺された感覚がまだ残っているのか、痛いではなく熱いと言って立ち上がった。
両親が何事もなかったように生き返ったのを見て、オーガの娘は喜んで飛び跳ねた。
「おっとう! おっかあ!」
下半身丸出しのままで少女は父親に抱き着き、今までの事を拙い言葉で説明した。どうもオーガってのはたどたどしい喋り方をするらしい。父親もそうだ。
「おでたちを殺したのが、ちっこいゴブリンたちで・・・。ええと。そのちっこいゴブリンを倒したのが、ちっこいオーガで。そのちっこいオーガが、おでの娘にいやらしい事をしようとしたので、別のちっこいオーガの悪魔が助けにきた。ややこしい。つまりおでたちは、ちっこいオーガの悪魔に助けられたのか」
オーガから見ても人間は、オーガの仲間扱いなんだな・・・。
「ありがとな、ちっこいオーガの悪魔。死んでたおでたちを生き返らせてくれて」
「いいって事ヨ。感謝するならヒジリ様にしてくれ」
あの現人神に迷惑をかけてやろうと思い、俺は皮肉でそう言ったつもりだったが、彼らはヒジリを知らなかった。
「ヒジリ?」
まだ名前が知れ渡ってないのかよ。奴の神様伝説はこれからだったんだな。
「ゴデに行けば現人神のヒジリってのがいる。ゾンビを全部消したのも彼のお陰だ。俺の主様の信仰する神がそのヒジリ様なんだわ。だから俺の手柄は主様の、ひいてはヒジリ様のものだって事だ。お前たちも街に着いたらヒジリ様を崇めるんだな。それがお前らに出来る俺へのお礼だ」
「わがった! お前への感謝はヒジリ様にする。ほんどにありがとな。名前はなんという?」
「キリマルだ」
「ありがとう、キでぃマル!」
俺はでかいオーガに抱きしめられつつも、ニヤニヤしていた。
フヒヒ、ヒジリめ! 無駄に神格化されろ。あいつは自分の事を科学者だと言っていたし、非科学的な神などと呼ばれるのは迷惑だろうからよ。
「それから、お前らを襲った奴は、あそこで伸びてるからよ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
俺はオーガのハグから解放されると、五体満足で復活して気絶したままの勇者を指さした。
「よくも娘にいやらしい事をしたな! おで許せねぇ!」
オーガの父ちゃんは馬車から持ってきたロープで、勇者を頭からグルグル巻きにしてしまった。
あれなら詠唱もできないな。この後ボコボコにされるのか番所に突き出されるのかは知らねぇが、あばよ! 自称勇者。中々強かったぜ。ヒヒヒ。
オーガは怪力で馬車を街道に戻し、身動きできない勇者を荷台に投げ込んで口笛を吹くと、森の中へ逃げた大きな農耕馬を呼び寄せた。
この家族はゴデの街の親戚を心配してやって来たらしい。俺に手を振ると馬に馬車を引かせて街へと去って行った。
「さて、俺は何をしに、この森に来たんだったかねぇ・・・」
野宿の準備を忘れて戦いに夢中になっていた俺は、面倒くさがりながらも暗い森の中でライターを使って、焚火を起こす。ゴブリンどもの作った焚き火は、土がかかって消えていた。
焚火がつくといつの間にか向かいにビャクヤが体操座りで座っており、炎の光に仮面が赤く照らされていたので、俺は少し驚いてビクッと体を震わせた。
余裕があるのか、勇者はロングソードを撃ち込みながら話しかけてくる。
「強い奴はとてつもなく強い。その半面、雑魚はゴブリン並みだ」
俺はその一撃を魔刀アマリの腹に滑らせるようにして往なす。まともに受ければ普通の刀なら、折れるか曲がるかするからだ。アマリの強度がどれくらいなのかを、俺は知らないので正面から受ける事を避けた。
「俺がその雑魚だって言いてえのか?」
途端に強者であるヤイバやヒジリの見下す顔が頭に浮かぶ。
いや、別に奴らが俺を見下した事はねぇ。上には上がいるとは教えてくれたがな。だが絶対強者然とした奴らの余裕ある顔が、俺の妄想の中で憎悪を煽るんだわ。
「お前もあいつらみたいな顔をすんのかよ。ムカツクじゃねぇか。よし、決めた。おめぇは達磨だ。達磨の刑な?」
「あいつら? 達磨?」
誰の事を言っているのだ、と眉をひそめる勇者の首を狙って刀を突き出す。
悪魔の驚異的な身体能力で俺の攻撃は相手に絶対当たるようになっている。が、貫通してダメージを与えるかどうかはまた別の話だ。ダメージが通れば一撃必殺なのだが・・・。
勇者は中央が盛り上がったバックラーで俺の刀の軌道を変えた。そしてカウンターのように魔剣で攻撃をしてくる。
「的確な回避と攻撃を実現する体の作りと、素晴らしい動体視力、流石は悪魔だな! だが、お前はまだまだ経験が浅い。能力のごり押しだけではどうにもならない事があると知れ!」
俺は奴の単純な上段からの一撃をアマリでまた往なした。
いや、往なしたつもりでいた。
「あまいな!」
フェイントか! 糞が!
剣は刀に触れてから、直ぐに上段斬りから軌道を変えて、蛇のようにくねったかと思うと、横から俺の首を狙ってくる。
「隠遁スキル!」
咄嗟に俺は奴の目前から消えつつも、後方に下がる。
しかし、回避は微妙に間に合わなかった。
「チィ! 斬られた!」
喉仏の薄皮を一枚を斬られたのだ。焦燥で額に汗が滲む。
俺はどうなる? あの剣に食われてしまうのか?
・・・が、何も起こらない。
(どういう事だ?)
勇者は急に消えた俺を探して、滅多矢鱈と周囲を薙ぎ払っている。
「どこに消えた!」
体力の無駄だと思ったのか、勇者は剣を振るのを止めた。だが隠れる俺に我慢ならなくなって、オーガの少女に剣を向ける。
「早く出てこないと、この女が死ぬことになるぞ!」
ハ! 勝手に殺せ! 俺は正義のヒーローじゃねぇんだわ!
(さて、どう攻撃したものか・・・)
勇者なだけあって、経験も技量も俺より上だ。
姿を隠して飛び退いた場所から俺は一歩も動いてはいないが、幸い見つかってはいない。考える時間はありそうだ。
(接近戦は悪手だな。ヤイバといいこいつといいカウンターの名人だからよ。となると俺の百発百中の攻撃が裏目に出る)
凄まじい命中率と攻撃力。それからチートのような即死クリティカルヒットを引き換えに俺は脆い。ヤイバの大盾の一撃で沈むくらいだからな。まぁ手練れのあいつの攻撃は、盾だろうが武器だろうが大ダメージに繋がりそうだけどよ。
(俺は一秒間に五回の攻撃が出来るが、奴はその全てを弾いた後に、カウンター攻撃をしてくるだろうな)
悪魔の能力なのかは知らねぇが、数回やり取りしただけで相手の力量が、ある程度解ってしまうのは良くも悪くもある。思い切りを失くさせ、無鉄砲に攻撃する事を躊躇わせるんだわ。時には無鉄砲な行動が良い結果をもたらす事もあるのに。
(だったらよ・・・。キヒヒ!)
魔法のロープでいやらしいポーズを取らされている――――、オーガのメスが縛り付けられている木の裏側に静かに回りこんだ。木とオーガを挟んだ向こうには勇者がいる。
「ヒハハ! お前が殺そうとしているオーガ共々死ね! 必殺!」
「穿孔(せんこう)一突き!」
前に伸ばした左手を照準にして、俺は突きを木に放った。
だがよ、必殺技を完全に放つ前に声を出すもんじゃねぇな。
勇者がいつの間にか俺の目の前に現れていて、刀の突きの軌道をまたバックラーで変えてきやがった。腕を斬り飛ばす事もできたのによ。こいつも俺との技量差が解っているんだ。舐めた事しやがって。
なので俺の突きとレーザービームのような穿孔の光は、頭上の木の枝と葉に穴を開けただけだった。
「馬鹿なのか、お前は。声を出して自分の居場所を知らせてどうする?」
勇者がそう罵倒して剣を振るよりも早く、俺は体勢を整えて袈裟斬りを決めるも、バックラーでまたもや逸らされてしまった。
が、それはフェイントなんだわ。フェイントする事を教えてくれてありがとうな、勇者。
俺はすぐに逆袈裟斬りを決める。この一連の流れは、俗にいう燕返しだ。
奴も回避が間に合わない自覚があったのか、「チッ」と舌打ちをした。
「逆袈裟斬りの手応えあり!」
刀には間違いなく肉と骨を斬る手応えがあったが、奇妙な違和感に俺は顔をしかめる。
(これは蘇生する時に感じる、生きていない人間を斬った時の感覚だな・・・)
「あぁ?」
俺が斬ったのはさっき奴の剣に吸い込まれた、ゴブリンメイジだった。
「どこから死体が現れた? おっと!」
空中に浮くゴブリンメイジの死体の向こう側で、剣の切っ先が光った。俺は驚異の動体視力で、死体ごと貫いてくる勇者の突きを躱して距離をとる。
「もしかしてよ・・・。その魔剣は相手を喰らうのではなく、ただ死体を吸い込んでいるだけか?」
「何の話だ? 剣が死体を食ったり、吸い込んだりする? 面白い発想だな」
(違うのか。じゃあなんだ? 奴自身の能力か? 死体を剣にで吸い込んで、いつでも身代わりみたいに出せる能力か? 結構面倒くさい能力だな・・・。能力者が必ずしもチート級の能力を得ているとは限らんのだな。ん? ・・・そういや俺も能力者だったわ。能力を使うか)
いつも忘れるこの爆発の手―――、から進化した爆発付与。
突進してくる勇者を前に、俺はしゃがんで枯葉を咄嗟に掴むと、前方にばら撒いて下がる。
「何のつもりだ?」
勇者が枯葉を剣で切り払った瞬間!
―――ボボボボン!
枯葉が爆発して、陰キャハンサム系の顔を焼く。
「ぐわああああ!!」
爆発に驚き、視力も奪われた勇者は、後方へステップして逃げていく。
勿論、俺はこのチャンスを逃がすつもりはねぇ。
オーガの少女が恥ずかしい姿で縛られる木をの横を走り抜け、勇者に追いつくと奴の四肢をスパッと切断した。
手足が斬り飛ばされて茂みに消え、ほんの僅かな時間を滞空した達磨勇者が、泡を吹いて地面に落ちる。悲鳴を上げずにショック死したのは減点ポイントだな。
俺はアマリを鞘にしまって、落としていた腰を上げると静かにふざけた。
「必殺、達磨斬り」
「そんな必殺技はない」
アマリが突っ込む。
うるせぇと言って、魔法のロープから解放されたオーガの少女を見ると、少女は小剣を拾って俺に向けてきた。
「お前もおでを、慰み者にするつもりか!」
「残念だが、俺はショートヘアーの女が好きなんだわ。三つ編みは好みじゃねぇ」
「そうなの? だったら私は髪を短くする」
アマリのイメチェン宣言に俺は頷いた。単純に好みの見た目の女を侍らすのも、悪くないと思ったからだ。
「そうだな。長髪キャラが二人でいるのはむさくるしくていけねぇ。帰ったら髪を切ってやるよ」
「嬉しい」
刀と会話する俺をオーガの少女は、キョトンとした目で見つめてから「ガハハ」と笑った。
「お前とその刀、面白い会話をする」
「夫婦漫才みたい?」
アマリが嬉しそうにそう言った。
「ネタでも何でもない普通の会話しかしてねぇんだ。漫才師に怒られるぞ。ところでお嬢ちゃんは、両親が死んだのに悲しくねぇのか?」
「勿論悲しい。でもおっとうもおっかあも弱いから死んだ。オーガの世界では弱者は恥」
「オーガってのはなんとも薄情な世界に生きてんだな。・・・・そういやヒジリは無駄に人を生き返らせるのを嫌がっていたな。だったら逆の事をしてやろうか。お嬢ちゃん、お前の父ちゃんと母ちゃんを生き返らせてやるよ」
少女は俺に疑いの眼差しを向けてきた。
「お前は剣士であって、僧侶ではないど」
「まぁ見てろって。五分待て」
俺はそう言って少女の両親の背中にアマリを突き刺した。目の前で親の死体が冒涜されているのに少女は気にした様子もない。
「気にならねぇのか? お前の父ちゃんと母ちゃんを刀で刺しているんだぞ?」
「気にならねぇ。死んだら、ただの肉の塊だ」
「さよか」
なんともドライだねぇ、オーガってのは。
「まだか?」
「今、仕込みをしたところだろうが」
一分毎に「まだか」と聞いてくるオーガの少女をうざく思いながらも、俺は腕時計を見て時間を待つ。
「よし、生き返るぞ」
「グォォォ! 背中が熱い!」
親父は盗賊ゴブリンに背中を刺されて殺された感覚がまだ残っているのか、痛いではなく熱いと言って立ち上がった。
両親が何事もなかったように生き返ったのを見て、オーガの娘は喜んで飛び跳ねた。
「おっとう! おっかあ!」
下半身丸出しのままで少女は父親に抱き着き、今までの事を拙い言葉で説明した。どうもオーガってのはたどたどしい喋り方をするらしい。父親もそうだ。
「おでたちを殺したのが、ちっこいゴブリンたちで・・・。ええと。そのちっこいゴブリンを倒したのが、ちっこいオーガで。そのちっこいオーガが、おでの娘にいやらしい事をしようとしたので、別のちっこいオーガの悪魔が助けにきた。ややこしい。つまりおでたちは、ちっこいオーガの悪魔に助けられたのか」
オーガから見ても人間は、オーガの仲間扱いなんだな・・・。
「ありがとな、ちっこいオーガの悪魔。死んでたおでたちを生き返らせてくれて」
「いいって事ヨ。感謝するならヒジリ様にしてくれ」
あの現人神に迷惑をかけてやろうと思い、俺は皮肉でそう言ったつもりだったが、彼らはヒジリを知らなかった。
「ヒジリ?」
まだ名前が知れ渡ってないのかよ。奴の神様伝説はこれからだったんだな。
「ゴデに行けば現人神のヒジリってのがいる。ゾンビを全部消したのも彼のお陰だ。俺の主様の信仰する神がそのヒジリ様なんだわ。だから俺の手柄は主様の、ひいてはヒジリ様のものだって事だ。お前たちも街に着いたらヒジリ様を崇めるんだな。それがお前らに出来る俺へのお礼だ」
「わがった! お前への感謝はヒジリ様にする。ほんどにありがとな。名前はなんという?」
「キリマルだ」
「ありがとう、キでぃマル!」
俺はでかいオーガに抱きしめられつつも、ニヤニヤしていた。
フヒヒ、ヒジリめ! 無駄に神格化されろ。あいつは自分の事を科学者だと言っていたし、非科学的な神などと呼ばれるのは迷惑だろうからよ。
「それから、お前らを襲った奴は、あそこで伸びてるからよ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
俺はオーガのハグから解放されると、五体満足で復活して気絶したままの勇者を指さした。
「よくも娘にいやらしい事をしたな! おで許せねぇ!」
オーガの父ちゃんは馬車から持ってきたロープで、勇者を頭からグルグル巻きにしてしまった。
あれなら詠唱もできないな。この後ボコボコにされるのか番所に突き出されるのかは知らねぇが、あばよ! 自称勇者。中々強かったぜ。ヒヒヒ。
オーガは怪力で馬車を街道に戻し、身動きできない勇者を荷台に投げ込んで口笛を吹くと、森の中へ逃げた大きな農耕馬を呼び寄せた。
この家族はゴデの街の親戚を心配してやって来たらしい。俺に手を振ると馬に馬車を引かせて街へと去って行った。
「さて、俺は何をしに、この森に来たんだったかねぇ・・・」
野宿の準備を忘れて戦いに夢中になっていた俺は、面倒くさがりながらも暗い森の中でライターを使って、焚火を起こす。ゴブリンどもの作った焚き火は、土がかかって消えていた。
焚火がつくといつの間にか向かいにビャクヤが体操座りで座っており、炎の光に仮面が赤く照らされていたので、俺は少し驚いてビクッと体を震わせた。
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