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蘇生の方法
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未曾有の魔物災害を生き延びた村人や冒険者の宴で、村はお祭りムードだ。
通りからはビャクヤを称える声が聞こえてきたり、あのままだと間違いなく俺たちもゾンビの仲間入りしていた、と笑い合う声が聞こえてくる。
賑やかな外と違って、村を救った英雄たちが集うボーン家は静かだった。
俺やビャクヤから全ての事情を聞かされたアトラスは、涙を零して頭を下げてきた。
泣き顔にもかかわらず、張り付いたような笑顔でやはり不気味だな。
「そうであったか・・・。リンネは私の為に・・・」
自分の死期を知りながらも必死になって父親の名誉の回復と、復活を成そうとしたリンネを思って泣いているのだろうよがよ、お前のせいで俺たちは色々大変だったんだぞ。糞が。
「私は・・・。寂しかったのだ。十数年前に家族を失ってから、孤独に耐えられなくなり狂気に憑りつかれていたのかもしれない。そしてなんとかして大切な家族とその絆を取り戻そうとした結果がこれだ。本当に申し訳なく思っている」
アトラスは大柄な体を窮屈そうにしながらも、背の低いテーブルを囲むソファに座って、深々と頭を下げる。
しかし、それを目の前にしたビャクヤは納得できないという表情を仮面に浮かべていた。
「アトラス様。だったらなぜ、そんなに大切な人たちをッ! こんな中途半端な形で復活させたのですか? こんなものはッ! その場しのぎじゃないですかッ! ・・・軽率だったとか軽はずみとかの次元を超えていますよッ!」
「私に出来うる最大限が、これだったのだ。教会を頼って家族の復活を請うたが無下に断られ、頭を抱えているところを、この村に居ついたネクロマンサーが私に話しかけてきた。そしてまるで私の心の中を見透かしたように、望んでいるものを差し出してきた・・・」
ディンゴは【読心】の魔法でアトラスの心を読んだのだな。罪な魔法だぜ、なぁ? ビャクヤ。
が、今は読心の魔法を常駐させていないのか、ビャクヤは俺の心の声に全く反応しなかった。
「ディンゴがどうやってこの島に来たかは知らないですがッ! この島に流れ着いたばかりの地走り族の彼はッ! 生活資金が欲しかったのでしょう。貴方のような人を見つけてはッ! 【読心】の魔法で心を読みッ! 欲しいものを与えて大金を貰っていたのだと思います。ですがッ! ゾンビの妻にホムンクルスの娘! そんなまやかしの家族などッ・・・!」
ビャクヤは仮初の家族で、心を満たそうとしたアトラスに悔しさを滲ませた。他の手段をなぜ模索しなかったのかという事か?
生死に関しては宗教関係者が利権を握って離さないこの世界で、そうそう上手く他の蘇生手段が見つかるものか。
例え何か簡単に生き返る手段があったとしても、潰されてるだろうよ。
「まぁそう、おっさんを責めるな、ビャクヤ」
俺はこいつが誰かを責めていたら、責められている奴を無性に庇いたくなる。誰かを褒めていたら、褒められた奴を貶したくなる。アマリの性質が移ったか? ヒヒヒ。
「誰だって先が見えていてもよ、それでもどうしようもねぇって事があるんだ。皇帝の孫である、お前のように、偉い奴が先を見越して立てた計画の中で、チヤホヤされながら生きてきた者には理解できないかもしれねぇがな。人ってのはよぉ、本来こんなもんよ。今がなんとかなればそれでいい。その”目先の未来をなんとかする“ってぇのを、一つ一つ積み重ねながら足場を固めて、未来に進んでいくもんだろ」
舌が渇いてきたので、俺は紅茶を飲んで喉を湿らせる。
「その生き方は一見、行き当たりばったりのように思えるかもしれねぇがよ、ずっと先なんか見ながら生きていたら、普通の人間なら不安で気が狂っちまうもんんさ。アトラスのおっさんも、その場しのぎと理解しつつも、なんとか足掻いて、待ち構える未来を変えようとしたんだ。だから焦って戦場で敵に背を向けるという馬鹿な事をした。そうだろう? おっさん」
「うむ。だからと言って自分のやった事を正当化するつもりは毛頭ない。ゾンビにしたアンナも、ホムンクルスのリンネも・・・、現状維持が精いっぱいで、そもそも二人を蘇生できる見込みなどなかった・・・。私のせいで皆に迷惑をかけて本当にすまなかった」
「現状維持? リンネ様はどうするつもりだったのです? 寿命の短い彼女が死んだら、またディンゴに! 新しいホムンクルスをッ! 作ってもらうつもりだったのですか? 彼女は今ッ! 短い人生を終えて自室で冷たくなっていますッ! ここに来るまでッ! 彼女は自分を人間だと信じて疑わなかった! そんな彼女が真実を知っても尚、死の恐怖と戦いながらッ! 貴方を救おうとしていたのに! 貴方は今も彼女の死に顔すら見に行こうともしないッ! もしかしてッ! 使い捨てのホムンクルスをッ! 娘だとは思っていないのですか?」
「・・・」
リンネの事になるとどうしようもなくなるビャクヤは、隣に座るクライネが脚を触れてきた事で、我に返り冷静になった。そして肩を落とすとソファに座る。
しかし、すぐに何かを思い出して背筋を伸した。
「そういえばッ! クライネ様はッ! リンネ様の復活について何か知っているようでしたがッ!」
ビャクヤは自分の横で、慰めるようにしな垂れかかるクライネの肩を掴む。
「しかし・・・、まだ約束の途中だが?」
「約束は必ず守ります! ツィガル帝国の皇帝皇太孫であるッ! ビャクヤ・ウィンの名に懸けて!」
そんな身分、外の世界を知らないこいつらに言っても通じるわけねぇだろ。
「ツィガル帝国云々は知らぬが、君が只者ではない事は解る。だから信頼しようじゃないか。いいだろう、情報を先に渡しておこう。しかしあまり期待はするなよ? 雲を掴むような話だからな。なんならお伽話の類と言ってもいいほどなのだから」
「ええ。覚悟はしておきます」
クライネはビャクヤから体を離すと、紅茶を飲んでから話す体勢に入った。
「最近、飛空艇で来たノームに聞いた話なのだがな。西の大陸で神が降臨したそうなのだ。現人神のなんといったかな・・・。そう! ゴジリ!」
ゴジリ? 現人神はそんな名前だったかな? なんかウィザードリィの何作目かに出てくる偽ゴジラ(見た目はティラノサウルス)みたいな名前だな。
「ヒジリです! ヒ・ジ・リ様! 無礼ですよッ!」
ビャクヤが憤慨しながら頭の上で拳を回して訂正する。思い入れが強すぎだろ。そういや、ヒジリってのは、お前が信仰している神だったか?
「なんだ知っていたのか。そう、そのヒジリが一瞬で人を生き返らせた、という噂を聞いてな。奇跡の祈りであれ、魔法による蘇生であれ、復活の儀式をするには入念な準備が必要なのだが、その現人神は言葉だけで、瞬時に死者を蘇らせたという」
「そりゃそうでしょうッ! 神様なのですからッ! 吾輩はッ! 子供の頃にその神の導きを受けていたッ!」
またほら吹きやがって。
「はは・・・。子供というのは、親にほったらかしにされると、寂しさのあまり幻聴が聞こえたりはするものだ。・・・で話の続きだが、君たちがその神に会いに行って、リンネの蘇生を頼めばいいのだ」
ビャクヤは記憶の中にある知識でも探っているのか、天井を見たまま動かなくなった。
暫くしてから動きだしたビャクヤだったが、ソファに深く座った彼の体からは、生気が消えていくように見えた。
「残念ながら、ヒジリ様でも無理でしょう。彼はほんの僅かな体の破片からでも、人を丸々復活させることが出来ますがッ! ホムンクルスであるリンネ様の体の一部を持って行ったところでッ! ホムンクルスを蘇らせるだけです。しかもアマリの蘇生と同じく寿命までは増やせない」
「そう、なのか? 君がそう言うならそうなのだろう。だが、リンネの体の一部ならあるぞ? なぁアトラス」
リンネの復活に希望を感じたのか、アトラスの顔から涙が消える。
「そうだ! ここにっ! ここにある!」
そう言ってアトラスは立ち上がると、騒がしくタンスの中を引っかきまわし始めた。
まるでブルドッグが、土の中に埋めた骨を探し当てようとしてるみてぇだな。ハハッ!
「あった!」
アトラスは桐の小さな木箱を出すと、大事そうにテーブルに置く。
なんだか見覚えがあるな。日本人の感覚で箱の中身を想像するのであれば、これにはへその緒が入っているはずだ。
アトラスが箱を開けると、干物のようなものが麻の布に包まれて入っていた。これは間違いなくへその緒だ。
「キリマルは馴染みがあるのではないか? この習慣は希少な黒髪族から教えてもらったものだ」
アトラスはリンネの赤ん坊の頃を思い返しているのか、声が柔らかくなった。
「希少?」
俺のクエスチョンに、ビャクヤが答える。
「キリマルのような黒髪で猫のような顔をした人間は、この島国では珍しいのだよッ! この島の人間は皆、大昔に転移してきた異世界人の末裔だからね。その中に君と同郷の者がいてもおかしくはないッ!」
猫って・・・。俺は垂れ目だがよ。そういや、どいつもこいつも金髪か赤髪か茶髪で、瞳の色も様々だな。白人系ばかりだわ。じゃあ黒人もどっかにいるな?
「これは間違いなくへその緒だな。で、これを現人神のところに持っていけってか? ハ! 馬鹿を言うなよ? よしんば、ヒジリが蘇生を快諾したとしてもよ。復活するのは赤ん坊のリンネだろうが」
ビャクヤは俺の言葉に何か気づいて、クライネを見る。
「普通ならばッ! 恋敵の蘇生を手伝おうなどとは思わない! クライネ様が蘇生の情報をくれた理由はこれですね!? リンネ様が復活しても赤ん坊からだと知っていた!」
「悪いな、ビャクヤ。これでお互い様だ。君だって私を幻で抱いただろう? 私は蘇生の情報をくれてやるとは言ったが、どういう状態で蘇生するかは何も約束していない。諦めて私のものになれ」
「うぐぐ・・・。くそッ!」
おい、俺の口癖が移ったか? ビャクヤ。高貴な身分のお前が、クソなんて言うもんじゃねぇぜ?
「クハハッ! 残念だったな、ビャクヤ。ほら、アトラスを見ろ。あの期待する目を、お前は見なかった事に出来るか? アトラスの願いを無下に断れば、お前も教会の守銭奴坊主となんら変わらねぇぞ? (おわ! アトラスは目を見開くと綺麗な目をしてやがんだな。いっつも笑ってて薄目だったからわからなかったけどよ。きめぇな! ハハハ!)」
「クッ!」
「そういやビャクヤは上位転移魔法の使い手だが、この島は転移結界が張られているんだろ? 西の大陸まで転移するのは無理じゃねぇか」
「尖り岬だけはその例外だ。尖った先は結界から外れている。広い足場を作っておくので、転移に失敗して海に落下するという事もない。安心して行って帰ってこい」
クライネは女だが、中々の男前だな。
「準備万全だな。アトラスのためにも現人神様のところへいこうじゃあないか。なぁ? 善なる大魔法使いのビャクヤ様」
はぁ~、悔しそうなビャクヤを見るのは気持ち良いねぇ。
「じゃあ俺はアンナをぶち殺しに、地下室に行ってくるわ。おっと間違えた蘇生しに」
握りこぶしを作って俯くビャクヤを見て、俺は更に良い気分になり、地下室へと軽い足取りで向かった。
通りからはビャクヤを称える声が聞こえてきたり、あのままだと間違いなく俺たちもゾンビの仲間入りしていた、と笑い合う声が聞こえてくる。
賑やかな外と違って、村を救った英雄たちが集うボーン家は静かだった。
俺やビャクヤから全ての事情を聞かされたアトラスは、涙を零して頭を下げてきた。
泣き顔にもかかわらず、張り付いたような笑顔でやはり不気味だな。
「そうであったか・・・。リンネは私の為に・・・」
自分の死期を知りながらも必死になって父親の名誉の回復と、復活を成そうとしたリンネを思って泣いているのだろうよがよ、お前のせいで俺たちは色々大変だったんだぞ。糞が。
「私は・・・。寂しかったのだ。十数年前に家族を失ってから、孤独に耐えられなくなり狂気に憑りつかれていたのかもしれない。そしてなんとかして大切な家族とその絆を取り戻そうとした結果がこれだ。本当に申し訳なく思っている」
アトラスは大柄な体を窮屈そうにしながらも、背の低いテーブルを囲むソファに座って、深々と頭を下げる。
しかし、それを目の前にしたビャクヤは納得できないという表情を仮面に浮かべていた。
「アトラス様。だったらなぜ、そんなに大切な人たちをッ! こんな中途半端な形で復活させたのですか? こんなものはッ! その場しのぎじゃないですかッ! ・・・軽率だったとか軽はずみとかの次元を超えていますよッ!」
「私に出来うる最大限が、これだったのだ。教会を頼って家族の復活を請うたが無下に断られ、頭を抱えているところを、この村に居ついたネクロマンサーが私に話しかけてきた。そしてまるで私の心の中を見透かしたように、望んでいるものを差し出してきた・・・」
ディンゴは【読心】の魔法でアトラスの心を読んだのだな。罪な魔法だぜ、なぁ? ビャクヤ。
が、今は読心の魔法を常駐させていないのか、ビャクヤは俺の心の声に全く反応しなかった。
「ディンゴがどうやってこの島に来たかは知らないですがッ! この島に流れ着いたばかりの地走り族の彼はッ! 生活資金が欲しかったのでしょう。貴方のような人を見つけてはッ! 【読心】の魔法で心を読みッ! 欲しいものを与えて大金を貰っていたのだと思います。ですがッ! ゾンビの妻にホムンクルスの娘! そんなまやかしの家族などッ・・・!」
ビャクヤは仮初の家族で、心を満たそうとしたアトラスに悔しさを滲ませた。他の手段をなぜ模索しなかったのかという事か?
生死に関しては宗教関係者が利権を握って離さないこの世界で、そうそう上手く他の蘇生手段が見つかるものか。
例え何か簡単に生き返る手段があったとしても、潰されてるだろうよ。
「まぁそう、おっさんを責めるな、ビャクヤ」
俺はこいつが誰かを責めていたら、責められている奴を無性に庇いたくなる。誰かを褒めていたら、褒められた奴を貶したくなる。アマリの性質が移ったか? ヒヒヒ。
「誰だって先が見えていてもよ、それでもどうしようもねぇって事があるんだ。皇帝の孫である、お前のように、偉い奴が先を見越して立てた計画の中で、チヤホヤされながら生きてきた者には理解できないかもしれねぇがな。人ってのはよぉ、本来こんなもんよ。今がなんとかなればそれでいい。その”目先の未来をなんとかする“ってぇのを、一つ一つ積み重ねながら足場を固めて、未来に進んでいくもんだろ」
舌が渇いてきたので、俺は紅茶を飲んで喉を湿らせる。
「その生き方は一見、行き当たりばったりのように思えるかもしれねぇがよ、ずっと先なんか見ながら生きていたら、普通の人間なら不安で気が狂っちまうもんんさ。アトラスのおっさんも、その場しのぎと理解しつつも、なんとか足掻いて、待ち構える未来を変えようとしたんだ。だから焦って戦場で敵に背を向けるという馬鹿な事をした。そうだろう? おっさん」
「うむ。だからと言って自分のやった事を正当化するつもりは毛頭ない。ゾンビにしたアンナも、ホムンクルスのリンネも・・・、現状維持が精いっぱいで、そもそも二人を蘇生できる見込みなどなかった・・・。私のせいで皆に迷惑をかけて本当にすまなかった」
「現状維持? リンネ様はどうするつもりだったのです? 寿命の短い彼女が死んだら、またディンゴに! 新しいホムンクルスをッ! 作ってもらうつもりだったのですか? 彼女は今ッ! 短い人生を終えて自室で冷たくなっていますッ! ここに来るまでッ! 彼女は自分を人間だと信じて疑わなかった! そんな彼女が真実を知っても尚、死の恐怖と戦いながらッ! 貴方を救おうとしていたのに! 貴方は今も彼女の死に顔すら見に行こうともしないッ! もしかしてッ! 使い捨てのホムンクルスをッ! 娘だとは思っていないのですか?」
「・・・」
リンネの事になるとどうしようもなくなるビャクヤは、隣に座るクライネが脚を触れてきた事で、我に返り冷静になった。そして肩を落とすとソファに座る。
しかし、すぐに何かを思い出して背筋を伸した。
「そういえばッ! クライネ様はッ! リンネ様の復活について何か知っているようでしたがッ!」
ビャクヤは自分の横で、慰めるようにしな垂れかかるクライネの肩を掴む。
「しかし・・・、まだ約束の途中だが?」
「約束は必ず守ります! ツィガル帝国の皇帝皇太孫であるッ! ビャクヤ・ウィンの名に懸けて!」
そんな身分、外の世界を知らないこいつらに言っても通じるわけねぇだろ。
「ツィガル帝国云々は知らぬが、君が只者ではない事は解る。だから信頼しようじゃないか。いいだろう、情報を先に渡しておこう。しかしあまり期待はするなよ? 雲を掴むような話だからな。なんならお伽話の類と言ってもいいほどなのだから」
「ええ。覚悟はしておきます」
クライネはビャクヤから体を離すと、紅茶を飲んでから話す体勢に入った。
「最近、飛空艇で来たノームに聞いた話なのだがな。西の大陸で神が降臨したそうなのだ。現人神のなんといったかな・・・。そう! ゴジリ!」
ゴジリ? 現人神はそんな名前だったかな? なんかウィザードリィの何作目かに出てくる偽ゴジラ(見た目はティラノサウルス)みたいな名前だな。
「ヒジリです! ヒ・ジ・リ様! 無礼ですよッ!」
ビャクヤが憤慨しながら頭の上で拳を回して訂正する。思い入れが強すぎだろ。そういや、ヒジリってのは、お前が信仰している神だったか?
「なんだ知っていたのか。そう、そのヒジリが一瞬で人を生き返らせた、という噂を聞いてな。奇跡の祈りであれ、魔法による蘇生であれ、復活の儀式をするには入念な準備が必要なのだが、その現人神は言葉だけで、瞬時に死者を蘇らせたという」
「そりゃそうでしょうッ! 神様なのですからッ! 吾輩はッ! 子供の頃にその神の導きを受けていたッ!」
またほら吹きやがって。
「はは・・・。子供というのは、親にほったらかしにされると、寂しさのあまり幻聴が聞こえたりはするものだ。・・・で話の続きだが、君たちがその神に会いに行って、リンネの蘇生を頼めばいいのだ」
ビャクヤは記憶の中にある知識でも探っているのか、天井を見たまま動かなくなった。
暫くしてから動きだしたビャクヤだったが、ソファに深く座った彼の体からは、生気が消えていくように見えた。
「残念ながら、ヒジリ様でも無理でしょう。彼はほんの僅かな体の破片からでも、人を丸々復活させることが出来ますがッ! ホムンクルスであるリンネ様の体の一部を持って行ったところでッ! ホムンクルスを蘇らせるだけです。しかもアマリの蘇生と同じく寿命までは増やせない」
「そう、なのか? 君がそう言うならそうなのだろう。だが、リンネの体の一部ならあるぞ? なぁアトラス」
リンネの復活に希望を感じたのか、アトラスの顔から涙が消える。
「そうだ! ここにっ! ここにある!」
そう言ってアトラスは立ち上がると、騒がしくタンスの中を引っかきまわし始めた。
まるでブルドッグが、土の中に埋めた骨を探し当てようとしてるみてぇだな。ハハッ!
「あった!」
アトラスは桐の小さな木箱を出すと、大事そうにテーブルに置く。
なんだか見覚えがあるな。日本人の感覚で箱の中身を想像するのであれば、これにはへその緒が入っているはずだ。
アトラスが箱を開けると、干物のようなものが麻の布に包まれて入っていた。これは間違いなくへその緒だ。
「キリマルは馴染みがあるのではないか? この習慣は希少な黒髪族から教えてもらったものだ」
アトラスはリンネの赤ん坊の頃を思い返しているのか、声が柔らかくなった。
「希少?」
俺のクエスチョンに、ビャクヤが答える。
「キリマルのような黒髪で猫のような顔をした人間は、この島国では珍しいのだよッ! この島の人間は皆、大昔に転移してきた異世界人の末裔だからね。その中に君と同郷の者がいてもおかしくはないッ!」
猫って・・・。俺は垂れ目だがよ。そういや、どいつもこいつも金髪か赤髪か茶髪で、瞳の色も様々だな。白人系ばかりだわ。じゃあ黒人もどっかにいるな?
「これは間違いなくへその緒だな。で、これを現人神のところに持っていけってか? ハ! 馬鹿を言うなよ? よしんば、ヒジリが蘇生を快諾したとしてもよ。復活するのは赤ん坊のリンネだろうが」
ビャクヤは俺の言葉に何か気づいて、クライネを見る。
「普通ならばッ! 恋敵の蘇生を手伝おうなどとは思わない! クライネ様が蘇生の情報をくれた理由はこれですね!? リンネ様が復活しても赤ん坊からだと知っていた!」
「悪いな、ビャクヤ。これでお互い様だ。君だって私を幻で抱いただろう? 私は蘇生の情報をくれてやるとは言ったが、どういう状態で蘇生するかは何も約束していない。諦めて私のものになれ」
「うぐぐ・・・。くそッ!」
おい、俺の口癖が移ったか? ビャクヤ。高貴な身分のお前が、クソなんて言うもんじゃねぇぜ?
「クハハッ! 残念だったな、ビャクヤ。ほら、アトラスを見ろ。あの期待する目を、お前は見なかった事に出来るか? アトラスの願いを無下に断れば、お前も教会の守銭奴坊主となんら変わらねぇぞ? (おわ! アトラスは目を見開くと綺麗な目をしてやがんだな。いっつも笑ってて薄目だったからわからなかったけどよ。きめぇな! ハハハ!)」
「クッ!」
「そういやビャクヤは上位転移魔法の使い手だが、この島は転移結界が張られているんだろ? 西の大陸まで転移するのは無理じゃねぇか」
「尖り岬だけはその例外だ。尖った先は結界から外れている。広い足場を作っておくので、転移に失敗して海に落下するという事もない。安心して行って帰ってこい」
クライネは女だが、中々の男前だな。
「準備万全だな。アトラスのためにも現人神様のところへいこうじゃあないか。なぁ? 善なる大魔法使いのビャクヤ様」
はぁ~、悔しそうなビャクヤを見るのは気持ち良いねぇ。
「じゃあ俺はアンナをぶち殺しに、地下室に行ってくるわ。おっと間違えた蘇生しに」
握りこぶしを作って俯くビャクヤを見て、俺は更に良い気分になり、地下室へと軽い足取りで向かった。
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