殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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リモネの正体

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「クハハッ!! これこれ! 肉を切り裂いて突き抜けるこの感覚! たまらんねぇ!」

 一度引き抜いた刀を、もう一度リモネの傷口に挿し込む。同じ傷口の中で刀の軌道が変わり、新たな傷を作ってリモネは悲鳴を上げた。

「ああああ! 痛いッ! 誰か助けて!」

 ここにはリンネもいねぇ。あいつの前で残虐な事をしなけりゃセーフ。

「キリマルッ! 止めたまえッ!」

 うるせぇ。ビャクヤはすっこんでろ。俺は肩に触れたビャクヤの手を振りほどく。

「あ、悪魔に襲われています! 冒険者の皆さん、助けてください!」

 左肩から突き抜けた刀に抗えず、震えてただ立つリモネが叫ぶと、いつでも飛び掛かれる間合いをはかりながら冒険者たちが俺ににじり寄る。

 そして一人の冒険者がリモネに尋ねた。

「よぉ、奥さん。ギャラは出るのか? 相手は悪魔だ。戦えばただじゃすまねぇ。俺らは依頼を受けてナンボの冒険者なんよ。報酬が出ないことには動かねぇぜ?」

 歯抜けの皮鎧戦士が真剣な顔で、報酬次第で背中のフランベルジュを抜いて、やってもいいという動きを見せる。

「ワシはやる。報酬はいらねぇ。ふぁふぁひゃ」

「私は錬金術師なので、お金はそこそこ持っています! この悪魔を退治してくれた方に金貨十枚の報酬を!」

 リモネをよく見ると装飾品を結構身に着けているな。特に右手。指輪でゴテゴテだ。

「ヒュー! 金貨十枚だってよ! 普通なら十分な報酬だが! 悪魔相手にゃ安いな! 奥さん!」

 まだ交渉するのか、冒険者。早くかかってこい。フランベルジュのジジイも来いよ!

「では金貨二十枚! 貢献度によって参加してくださった方にも報酬を払いますから! 早く助けてください!」

 右手で懐を探って、リモネは金貨の入った革袋を受付口にいるルロロに投げる。

「正式なクエスト発生だ! ルロロちゃん! 記録しといてくれよ! いくぜ! 野郎ども!」

 名も知らねぇ冒険者はそう喚く。ルロロに依頼が発生したことを認識させ、自分のパーティ仲間に声をかけた。

「は、はい! でも・・・あの、キリマルさん? なぜリモネさんに攻撃を?」

 ルロロの仮初の綺麗な顔が困惑色に染まる。

「まぁいいから、俺を信じろや」

「???」

 へへへ! 面白いことになってきたな!

「おい! キリマルッ! 無駄な騒ぎを起こすんじゃないッ!」

 ビャクヤは必死になって騒ぎを止めようとはしねぇ。今になって、ようやく俺の心を読んだか。俺がなぜリモネを刺したかをこいつはもう理解しているはずだ。しかしまだ迷っている感じもあるな・・・。アホが。

 でもまぁよ、少しは楽しんでもいいだろう? 幽霊相手のつまんねぇ依頼で退屈してんだ、こっちは。冒険者ってのがどれ程の強さか知りてぇんだわ。

 俺が仕掛ける前に、フランベルジュを持った歯抜け戦士が俺の体を背中から袈裟斬りしようと襲い掛かる。波状の刃で斬られると傷が治りにくい。中々嫌な武器を装備しているぜ。

「小さい体で両手剣か。扱い難いだろう? ジジイ!」

 俺はリモネの肩から刀を引き抜くと、背中に回して袈裟斬りを防ぐ。

 普通なら片手で持った刀で、両手剣の一撃は防げねぇ。力の弱い俺なら尚更のことだ。しかし容易に防げてしまった。

 そう、俺は今の一撃を防げねぇと思ったからアマリが防いだんだ。

 俺はいつだって死と隣り合わせに生きている。人の命を奪うというのは、相手の反撃を受けて死ぬ可能性もあるってこった。幾ら悪魔の力があっても絶対に死なねぇとは限らねぇからな。

 実際、東京で俺は警察の銃でハチの巣にされて一回死んでっしな! ヒャハハ!

「流石は悪魔といったところか! ワシだって普通の攻撃でなんとかなる、なんて思っちゃいねぇさ!」

 皮鎧に素足のジジイ戦士さんも楽しそうだな。冒険者も死が身近だもんな。胆が据わってて当然か。

「いくら悪魔のお前さんでも、こんだけの冒険者相手に何分持つかな? 俺らはグレーターデーモンを倒した事があるんだぞ(一匹の時を狙ってだがな)」
 
 そう言って冒険者がイキる。

「なんだって! あ、あ、あのグレーターデーモンを! (知らねぇよ、そんな悪魔)」

 俺は大げさに驚いてみせる。

「チィ! 馬鹿にしやがって! そんだけ余裕をぶっこいてるって事は、お前はグレーターデーモンより格上だって事か? 精々がっかりさせんなよ? 悪魔の・・・・、なんて名前だ?」

「キリマルだ! お前らこそがっかりさせんなよ?」

 俺が無残一閃の構えをとると、突然足元からイバラの蔓が現れた。

 おっと、油断した。俺が魔法を認識する前に魔法をかけられた。これからはスペルキャスターの動きに注意して戦わねぇとな。

 蔓が足に絡んだ事で俺の自慢の素早さが封じられる。俺に魔法をかけた奴を確かめようと、冒険者たちを注意深く見た。

「誰だ? あいつか。なるほどなるほど、魔法を発動させるとメイジは、暫くの間、微妙に全身が赤く光るんだな」

 一つ学習してから、襲い掛かってきた冒険者の一撃を往なし、当たり前のようにアマリで魔法の蔓を切断する。

 それを見た他の冒険者がどよめく。

「は? あいつなにをしやがった? 刀で魔法の蔓を切断したのか? 嘘だろ?」

「魔法を物理的に斬ったように見えたが・・・。そんな事、可能なのか?」

 俺もそんな事は可能ではないと思ってるぜ? だからこそできるんだがよ。

「見ての通り俺に魔法はあまり効果的とはいえねぇ。さぁて、後は斬り合いぐらいしか残ってねぇがどうする?」

 俺は構えるのを止めて刀の背で肩を叩く。

 どうする? と訊いてみたものの、ちょっと剣を交えただけで冒険者ってもんが何となく解ったぜ。

 ハッキリ言うと、こいつらは対人では素人並みだ。勿論、暗殺が得意な奴もいるだろうが、俺と同じ人殺しなら、目を見りゃ解る。暗殺が得意だろう忍者モドキのクドウでさえ、覚悟を決めねぇと人殺しの目にはならねぇからな。こん中に人殺しはいねぇ。

 ここにいる奴らは魔物の相手をする冒険者としては申し分ない実力なのだろうが、人殺しとしては三流。俺とやり合うには力不足だな。

「はぁ。白けちまったなぁ。それに、まだ気が付いてねぇのか? お前ら冒険者ってのは大したことねぇな」

 俺はチラリとビャクヤを見てから、ふりをするリモネを見た。

「なんだ? ビビったのか? キリマル。今、そこの変態仮面に助けてくれと、視線を送ったな?」

 歯抜け戦士が笑う。前歯二本はどこへやったんだ?

「あのな、ビビるビビらないの話をしてじゃねぇんだわ。お前らの目は節穴かって言いたかったんだが? ダンジョンではお前らを騙して殺そうとする化け物がうじゃうじゃいるんだろ? ちったあ洞察力ってもんを養ってんのかと思ったら案外ぼんやりしてんじゃねぇか」

「あ?」

 冒険者たちは何の事を言われているのか解らず、殺気立つ。

「俺らは柔軟な思考と多様な手段で魔物と戦い、生き延びてダンジョンから帰還してんだ。目が節穴だったらここにはいねぇよ」

「ほー、じゃあよ・・・」

 俺は素早く動いてリモネに近づき、彼女の右手首を素早く斬り落とした。

「ぎゃああ!」

 途端にリモネの姿が赤いとんがり帽子を被った醜悪な悪鬼に変わる。ビンゴ。やはり右手の沢山の指輪の中に変身系アイテムがあったんだな。

「これはなんだ?」

「げぇ! レッドキャップ!」

 手首を斬られて転げまわるゴブリンモドキに、冒険者たちが騒めいた。
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