殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
上 下
24 / 299

実地訓練

しおりを挟む
 悪魔や夢魔を退けたせいか、それ以降はエリーの嫌がらせはなくなった。また何かしら準備をしているのかもしれねぇが、来るならさっさとしろと思っていたら、春が来てリンネは魔法学院の三年生になった。

「学年の初めと終わりの方で、実地訓練があるのが憂鬱・・・」

「吾輩がいればッ! 何も問題がないですぞ、主殿ッ!」

「あんたがいるおかげで、誰も私と組んでくれないけどね」

「足手まといにしかならない者をッ! 仲間にしても無意味ッ!」

「それでも友達と何かするってのは楽しいもんなの。話題の種になるし」

「そういえばッ! 最近はまた皆がッ! 話しかけてくれるようになりましたねッ!」

「キリマルが凄い剣士だって噂が広まっているからね。騎士団が私をスカウトするんじゃないかって噂になってる」

「ぬはっ! 手のひら返しが露骨ッ!」

「でも今日の実地訓練は、もしかしたら誰か組んでくれるかも!」

「その前に訓練内容をばッ! 見にいきますかッ!」

 木の上で二人の会話を聞いていた俺は、訓練の内容に興味があったので、飛び降りて二人の後について行く。

 校舎のすぐ前には掲示板があり、そこに訓練内容が紙に書かれて貼りだされていた。

「えっ! もう楽そうなやつは定員オーバーになってるじゃん! 残ってるのがアンデッド村の調査? そんな~」

「主殿は運が悪いッ! 相手はアンデッドですかッ! 吾輩も苦手ですなッ! 吾輩は氷と闇の魔法が得意ッ! どちらもアンデッドにッ! 効果的ではありませんぬッ!」

「でもやるしかないか・・・。のんびりと登校するんじゃなかった・・・」

「死人の村で何をすんだ?」

 項垂れるリンネに俺はそう尋ねた。

「えーっと・・・、リッチの動向を探れだって。これって冒険者でも嫌がりそうな内容だけど・・・。あ、リッチって、人間をやめた魔法使いの事ね。リッチ自体はアンデッドじゃないよ」

 リッチぐれぇ、知ってるわ。

「まぁ俺は暴れられりゃ、それでいいわ」

「そういえばッ! 天邪鬼・・・もとい魔刀アマリでッ! アンデッドを斬るとどうなるんぬッ?」

「知らねぇよ」

「う~ん、普通に倒せるんじゃないかな? だってアンデッドに回復魔法かけたらダメージ受けるじゃん」

「それにリッチの呪いが遮って、生き返る事はなさそうな気はするッ!」

「どうでもいいわ、その辺の事は。さぁ行こうぜ、アンデッド村」

「じゃあ手続きしてくるね」

 リンネは溜息をついて職員室へと向かった。



 ネクロマンサーであるリッチに占領された名もなき村は辺境にあり、学園から馬車が出ていた。他にも二台ほど学園の馬車が後ろを走っており、リンネ同様、乗り遅れた間抜けが二パーティあるって事だ。

「なぁ思ったんだけどよ、何で騎士はアンデッド村に出向いて、ネクロマンサーのリッチを討伐しないんだ?」

「それは吾輩にも判りかねるがッ! 恐らくは辺境の村に騎士を派遣するほどの価値がないという事なのでしょうッ! それにリッチは村を占領したきり何もしてこない。死霊魔法の実験が終われば、どこかに行くと思っているのかもしれないッ!」

「そんな都合いい話があるか?」

「リッチは黒魔法使いの成れの果てッ! 悪魔との契約で人間の姿を贄としてッ! 代わりに強大な魔力を貰っているッ! だからアンデッドと違いッ! 無条件で人を憎んだり襲い掛かってきたりはしないッ! だがしかしッ! とても自己中心的な者が多いがねッ!」

「でも現に村は支配されていて、村人はアンデッドにされてんだろ」

 俺は似たような風景が流れる窓の外を見て欠伸をした。

「職員室で先生に聞いたんだけど、アンデッドになった村人もそうそう襲ってこないらしいよ。だから訓練にもってこいだと思ったんだって」

「なんとッ! 襲ってこないアンデッドとな? それは世にも珍しいアンデッドなりッ!」

「でもこっちが村の物を盗もうとすると、襲ってくるんだって」

「ハッ! そりゃあ生きてる人間でも同じ反応をするだろうさ」

「それもそうね。でも何でアンデッドになってるのに、人間を憎んでないのかしら?」

「それを知るための調査でありましょうッ! 主様ッ!」

「で、後ろをついて来る馬車は、誰が乗ってんだ?」

「さぁ?」

「なんか嫌な予感がするんぬッ! エリーの差し金かもッ!」

「また悪魔の類ならいいな。今度は小賢しい事をしない悪魔がいいわ。正面から斬り合いができる奴な」

「悪魔のキリマルには解らないだろうがねッ! 人間が悪魔に勝てるのは稀なのだよッ! 人類が何とか倒せるのはグレーターデーモンまで。それも手練れの冒険者や騎士が、束になってようやっと一体倒せる。こないだの淫魔や夢魔の類でも普通は苦戦するのだよッ!」

「俺より悪魔みたいな見た目のお前が言うなよ」

 そういや、ビャクヤは人間からは悪魔だと思われてるが、悪魔からは悪魔と認識されてねぇな。俺は悪魔からも人間からも悪魔だと認識されるのに。

「吾輩は人間だがねッ!」

「どう見ても悪魔だろ。青い肌といい、体中にある変な白い模様といい」

「まぁどうとでも思うがいいッ!」

 こいつは自分の情報をあまり出さない。素性を話したところで、どのみち興味はねぇんだがよ。

「あ! そろそろアンデッド村が見えてきたよ! こうやって見ると普通の田舎の村だよね」

 確かにどこにでもある農村だな。水車小屋、納屋、わらぶき屋根の家。畑。

 アンデッド化した村人がウロウロしてなけりゃな。

「くせぇ。もう腐敗臭が漂ってきた」

 馬車を下りて俺は開口一番そう言った。そう言いたくなるほど臭い。リンネもあまりに臭かったのか手ぬぐいで口と鼻を覆っている。

「ビャクヤは臭くねぇのか? 平気っぽいが、どうせ鼻くそでも詰まってんだろ」

「下品なッ! 吾輩の仮面はご先祖様の骨粉で作られた、有難き魔法の仮面ッ! 空気に漂う毒や悪臭を通さない作りになっているッ!」

 人の骨でできてんのかよ、その仮面。

「おえ! 臭いわ! 何とかしなさいよ! クドウ!」

「無理でごぜぇます、お嬢様。堪えてつかーさい」

 他の馬車からツンケンした声と、愚鈍そうな男の声が聞こえてきた。

 俺たちが他の馬車から降りてきた生徒を確認していると、その中の一人を見てリンネが驚いた顔をした。

「うそ・・・。エリーがいるんだけど・・・」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...