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占われた妊婦
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「お前さんは占いをしたことがあるかい?」
二里歩いた頃二人は、占い屋や呪い屋などが軒を連ねる、胡散臭い道を通っていた。
祖父は左わきの一角を指して孫娘に尋ねた。
「したことないわ。だって私占いなんて信じてないもの!あんなのお金の無駄よ!」
ハッキリと言う彼女に、祖父は昔の自分を思い出したのか苦笑し、二つ目の話をした。
────「魔術」「呪い」と物騒な看板を掲げ、紫の暖簾を下ろした小屋が並ぶ怪しげな道には、多くの人で賑わっている。左わきの一角で紫の着物を着た女を見つけ、青年は呼びかけた。
「あなたが彼の偉大な占い師ですか?」
青年は皮肉を含んだ声で言い、それを感じたからなのかは分からないが、美人の占い師の女は眉を顰めて口を開いた。
「違う」
「違う?僕は噂を耳にして来ました。ここの占い師はとある妊婦を占った。子供が十五歳になるまでしか生きられないと。
しかし妊婦は子供が十五歳になった後も生きており、その占い師もインチキと呼ばれるどころか、言霊のある本物の占い師だと有名になったそうだ。
なぜなら妊婦は二人目を妊娠していて占い師が占ったとおりなら、二人目が十五歳になるまで妊婦は生きられる。
これが有名な、言霊で延命した本物の占い師様の伝説でしょう?」
「それは私ではない。私の師匠のことだ」
当時の祖父自身は占いなんて信じていなかったが、そんなことは言ってられない!
あの遊郭の亡霊を祓えそうな者なら縋る思いで頼むだけだ!
「なら貴方は占い師の弟子ですよね?霊を祓えますか?」
「…あぁ」
美人の冷めた視線を浴びながらも、かつて栄えた遊郭の廃墟で、遊女が亡霊となって出てきたことのあらましを説明した。
「その遊女たちは怨みが深く、そこに留まっている。成仏させるには埋葬しなければならない」
「骨はもう僕たちが埋葬しました。なのになぜ霊となって出てくるのか?留まる理由がない」
「なぜ骨を埋葬するのか分かるか?
大抵骨は亡くなった者の魂の器で、埋葬されなければ成仏できずに地縛霊となる。
つまりその遊女の場合、骨では無い他の器を遊郭に残し、埋葬した後も成仏できずにいるのだろう」
────次の日の夜、月明かりだけを頼りに青年は遊郭で彼女たちの「器」を探した。畳の上に派手な衣や茶碗、床の道具が乱雑し、歩くたびに「ガシャガシャ」と鳴り冷や汗をかいた。
突然「シャンシャン」と鈴の音が鳴ったかと思うと、か細い女の声が彼の耳に届いた。
視界の端には真っ黒な煙が床から這い出し、遊女の姿で袖を振ったり、小格子から腕を出し、まぐわっている様な影もある。
彼は脈が激しくなったが、気にせず床を探って、やっと「器」を見つけた。それは豪華な装飾が施された髪飾りだった。
遊女である彼女たちは、「髪は女の命」という言葉のとおり髪を大切にしている。彼女たちの遺体は餓死により髪は薄くなりほぼ抜け落ち、髪飾りだけが死んだ後も綺麗に残り、「器」となって魂を縛り付けていた。
全ての髪飾りを巾着に入れ、足元に注意して部屋を後にした。
真っ黒な遊女の姿に慣れた彼は、結局は彼女たちも死に切れない魂なのだと思うと、怖がらずに入り口へ戻ることができた。
その時不意に頭を上げると人影を捉え、危うく巾着を落とすところだったが、グっと堪える。
真っ白な肌に真っ赤な衣と口紅、恐らくここの遊女の亡霊だろう。しかし他の遊女は真っ黒な影で死者であったが、この女は生きている人のようだ。
なぜ生きている人がいるのか、そして明らかに生きているはずの人間だが、生気を感じられない。
考える前に彼は飛び出した。
翌日、髪飾りは埋葬され遊女の亡霊の話はめっきり聞かなくなった。
しかし五日も経たずに再び遊女の話が立った。
あの日青年が見た真っ白な遊女のことだ。
二里歩いた頃二人は、占い屋や呪い屋などが軒を連ねる、胡散臭い道を通っていた。
祖父は左わきの一角を指して孫娘に尋ねた。
「したことないわ。だって私占いなんて信じてないもの!あんなのお金の無駄よ!」
ハッキリと言う彼女に、祖父は昔の自分を思い出したのか苦笑し、二つ目の話をした。
────「魔術」「呪い」と物騒な看板を掲げ、紫の暖簾を下ろした小屋が並ぶ怪しげな道には、多くの人で賑わっている。左わきの一角で紫の着物を着た女を見つけ、青年は呼びかけた。
「あなたが彼の偉大な占い師ですか?」
青年は皮肉を含んだ声で言い、それを感じたからなのかは分からないが、美人の占い師の女は眉を顰めて口を開いた。
「違う」
「違う?僕は噂を耳にして来ました。ここの占い師はとある妊婦を占った。子供が十五歳になるまでしか生きられないと。
しかし妊婦は子供が十五歳になった後も生きており、その占い師もインチキと呼ばれるどころか、言霊のある本物の占い師だと有名になったそうだ。
なぜなら妊婦は二人目を妊娠していて占い師が占ったとおりなら、二人目が十五歳になるまで妊婦は生きられる。
これが有名な、言霊で延命した本物の占い師様の伝説でしょう?」
「それは私ではない。私の師匠のことだ」
当時の祖父自身は占いなんて信じていなかったが、そんなことは言ってられない!
あの遊郭の亡霊を祓えそうな者なら縋る思いで頼むだけだ!
「なら貴方は占い師の弟子ですよね?霊を祓えますか?」
「…あぁ」
美人の冷めた視線を浴びながらも、かつて栄えた遊郭の廃墟で、遊女が亡霊となって出てきたことのあらましを説明した。
「その遊女たちは怨みが深く、そこに留まっている。成仏させるには埋葬しなければならない」
「骨はもう僕たちが埋葬しました。なのになぜ霊となって出てくるのか?留まる理由がない」
「なぜ骨を埋葬するのか分かるか?
大抵骨は亡くなった者の魂の器で、埋葬されなければ成仏できずに地縛霊となる。
つまりその遊女の場合、骨では無い他の器を遊郭に残し、埋葬した後も成仏できずにいるのだろう」
────次の日の夜、月明かりだけを頼りに青年は遊郭で彼女たちの「器」を探した。畳の上に派手な衣や茶碗、床の道具が乱雑し、歩くたびに「ガシャガシャ」と鳴り冷や汗をかいた。
突然「シャンシャン」と鈴の音が鳴ったかと思うと、か細い女の声が彼の耳に届いた。
視界の端には真っ黒な煙が床から這い出し、遊女の姿で袖を振ったり、小格子から腕を出し、まぐわっている様な影もある。
彼は脈が激しくなったが、気にせず床を探って、やっと「器」を見つけた。それは豪華な装飾が施された髪飾りだった。
遊女である彼女たちは、「髪は女の命」という言葉のとおり髪を大切にしている。彼女たちの遺体は餓死により髪は薄くなりほぼ抜け落ち、髪飾りだけが死んだ後も綺麗に残り、「器」となって魂を縛り付けていた。
全ての髪飾りを巾着に入れ、足元に注意して部屋を後にした。
真っ黒な遊女の姿に慣れた彼は、結局は彼女たちも死に切れない魂なのだと思うと、怖がらずに入り口へ戻ることができた。
その時不意に頭を上げると人影を捉え、危うく巾着を落とすところだったが、グっと堪える。
真っ白な肌に真っ赤な衣と口紅、恐らくここの遊女の亡霊だろう。しかし他の遊女は真っ黒な影で死者であったが、この女は生きている人のようだ。
なぜ生きている人がいるのか、そして明らかに生きているはずの人間だが、生気を感じられない。
考える前に彼は飛び出した。
翌日、髪飾りは埋葬され遊女の亡霊の話はめっきり聞かなくなった。
しかし五日も経たずに再び遊女の話が立った。
あの日青年が見た真っ白な遊女のことだ。
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