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一
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鬱蒼とした山道を牛車の男が進でいた。人の往来どころか生き物も眠りについたかのような静けさだ。
それもそのはず。いつもは家に着いている時間だ。麓の町まで荷物おろしの仕事をしていたのだが今日は、いや、昨日は難癖をつける客にあたり帰るのが夜中を過ぎてしまったのだ。
静寂が男を急かしたのか、足を早めようと手綱を握り直し顔を上げると、前方に人影が見える。
赤色の袴に白衣を着たその風貌から、巫女だと当たりをつけた男は声をかけた。
「どうしたんだい、女の子が一人で歩いてちゃ危ねぇぞ。俺が送ってってやるから、乗ってきな」
ハツラツとした人当たりのよい声であったが、突然声をかけられた少女は警戒しており、
「お構いなく」
と言っただけで横に止まった男には目もくれず、てくてく歩いていく。その無愛想ともとれる態度に一瞬顔を顰めた男だったが、間近で見るその少女の美しさに言葉を呑んだ。
後ろで結ばれた濡羽色の黒髪は乱れ、真っ白な肌に雪崩落ちてはいるものの、逆に色っぽさがあった。その真っ白な肌にしても死者を思わせる青白さで、ひと目見てその異様さに気づくべきであった。
しかしその生気がない美しい顔に見惚れていた男では既に手遅れである。
行ってしまおうとする少女の細い腕をすぐさま掴んで再び言った。
「お前さんみたいなかわいい子が一人で歩いてたら、何されるか分かんねぇからな。
お前さんは知らんかもしれんけど、昔この近くで強姦事件があってね。今ではそんな話も聞かなくなったけど、俺が心配なんだ。
女の子一人じゃ危ねぇからな?送らしておくれ」
引き止められた少女は振り向くと冷ややかな視線を送り、何かを呑み込むようにゆるりと微笑み、言い放つ。
「一人で帰れます」
得体のしれない空気を纏う引き攣った笑顔の少女が、こうもハッキリ言っている異様な様子に尚も引き下がらずに男が続ける。
「お前さんみたいにかわいい子が一人じゃ狙われちまうだろうよ!」
少女は男が掴んでいた腕を振り払うようにして払った。
「それと、私は女性じゃないです。男ですので大丈夫です」
少年はそう言い切ったように口をキュッと結ぶ。
「何言ってんだ!その顔じゃ男だろうと女だろうと関係ないだろ。さっ、乗ってきな!」
それもそのはず。いつもは家に着いている時間だ。麓の町まで荷物おろしの仕事をしていたのだが今日は、いや、昨日は難癖をつける客にあたり帰るのが夜中を過ぎてしまったのだ。
静寂が男を急かしたのか、足を早めようと手綱を握り直し顔を上げると、前方に人影が見える。
赤色の袴に白衣を着たその風貌から、巫女だと当たりをつけた男は声をかけた。
「どうしたんだい、女の子が一人で歩いてちゃ危ねぇぞ。俺が送ってってやるから、乗ってきな」
ハツラツとした人当たりのよい声であったが、突然声をかけられた少女は警戒しており、
「お構いなく」
と言っただけで横に止まった男には目もくれず、てくてく歩いていく。その無愛想ともとれる態度に一瞬顔を顰めた男だったが、間近で見るその少女の美しさに言葉を呑んだ。
後ろで結ばれた濡羽色の黒髪は乱れ、真っ白な肌に雪崩落ちてはいるものの、逆に色っぽさがあった。その真っ白な肌にしても死者を思わせる青白さで、ひと目見てその異様さに気づくべきであった。
しかしその生気がない美しい顔に見惚れていた男では既に手遅れである。
行ってしまおうとする少女の細い腕をすぐさま掴んで再び言った。
「お前さんみたいなかわいい子が一人で歩いてたら、何されるか分かんねぇからな。
お前さんは知らんかもしれんけど、昔この近くで強姦事件があってね。今ではそんな話も聞かなくなったけど、俺が心配なんだ。
女の子一人じゃ危ねぇからな?送らしておくれ」
引き止められた少女は振り向くと冷ややかな視線を送り、何かを呑み込むようにゆるりと微笑み、言い放つ。
「一人で帰れます」
得体のしれない空気を纏う引き攣った笑顔の少女が、こうもハッキリ言っている異様な様子に尚も引き下がらずに男が続ける。
「お前さんみたいにかわいい子が一人じゃ狙われちまうだろうよ!」
少女は男が掴んでいた腕を振り払うようにして払った。
「それと、私は女性じゃないです。男ですので大丈夫です」
少年はそう言い切ったように口をキュッと結ぶ。
「何言ってんだ!その顔じゃ男だろうと女だろうと関係ないだろ。さっ、乗ってきな!」
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