上 下
232 / 232
第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百十八話「謎の復讐(上)」

しおりを挟む
 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐、謎の刺客黒神元利の討伐
 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃、マヤネーン・シューベル
 犠牲者:0名


  西暦2005年11月11日 東京都渋谷区――

 闇より黒く染まった荒れ果てた街の夜に申し訳程度の月光がぼんやりと照らす。その下で二つの人影がスラムと化した地を歩いていた。

「――にしても博士のやつ、こんな夜中に渋谷の捜索させるなんて頭狂っちまったのかぁ? ふあぁっ……ねみぃ」

 そう、こうなったきっかけは数時間前の事――


「正義君、お願いあるんだけど」

 いつも通りふらっと博士が現れて、俺の肩をぽんぽんと叩きながら呼ぶ。

「ん、何すか博士」
「ちょっとさ、今から彼女とエレイナを攫った誘拐犯を探してほしいんだけど」
「はぁ? こんな時間にすか? もう23時32分46秒っすよ!?」
「こんな時間だからこそだよ。それに、一刻も早くエレイナちゃんを奪還したいだろう? お願いだよぉ~! 
 あ、それとこの子はネフティスNo.8の姫原紗切ちゃん。忍者と侍のコンビで頑張ってほしいんだよね~」
「……しょうがねぇなぁ。博士の要望通り行ってやりますよっと」

 こうして、侍と忍者のコンビが今になって結成することとなったのだ。



「まぁ、博士なりに色々考えてると思うよ」
「それに初対面の俺らをセットにしやがって……共通点和風キャラってとこだけだろうが!」

 しかし、この俺――武刀正義はぐちぐちと独り言の如くマヤネーン博士への愚痴を吐いていた。
 
 何故か俺は『エレイナちゃんの誘拐犯』を探すべく、ネフティスNo.8の姫原紗切ひめはらさぎりちゃんと無理矢理組まされてこの渋谷の地に足を踏み入れたのだ。
 ハロウィン戦争の爪痕がくっきりと残っている渋谷街に、初対面かつ前に黒坊……黒神大蛇と剣を交えた敵である彼女と共に任務遂行にあたっている。何とも居心地が悪い環境に身を置かれているが、とにかく紗切ちゃんがナイスバディで可愛いってだけが唯一の救いだった。

「あははっ、確かに私達忍者と侍だもんね」
「服装だけで相性いいとか言いやがってあのオタク! 仕返しに今度博士の家の秘密の隠し部屋ネフティス中に一斉拡散してやる」
「まぁまぁ正義君、実際私達相性良さそうだけどね?」
「へっ、ちょっ……!?」

 突如紗切ちゃんが俺の方に身体を寄せながらぐいっと顔を近づける。反射で顔を反らすもその分詰められる。それも小悪魔のような笑みを浮かべながら。

「……『良さそう』じゃなくて『抜群』の間違いかな?」
「え、えっと……そ、そそそうだな多分博士もそこんとこ見てるんだろうなーあはははーーー」

 ふと恥ずかしくなり、何とか平常心を装いながら三日月の方に目をやる。こんなみっともない顔を初対面のお嬢ちゃんに見られたくない。弱さを見せるというのは俺の……いや、男のプライドが許さない。

「ぷっ……ふふふっ」

 突然紗切ちゃんが腹を抱えながら笑い出した。今の反応を面白がって馬鹿にしているに違いない。
 
「んなっ、何だよ笑いやがって!」
「いや、照れる姿を隠してるの可愛いな~って」
「アホか! 黒坊じゃあるまいし! こんなん照れるうちに入んねぇよ!!」
「顔、赤いよ?」
「顔、近すぎなんだよ」

 恥ずかしがりながら冷静に突っ込みを入れる俺にまた笑いだした。

「ふふっ、私の容姿ビジュアルもまだまだ現役だね~♪」
「どういう意味だよ……ったく、恥かかせやがって」
「あ、今照れてるって認めた~!」
「うるせぇさっさと終わらせんぞ!!」
「ふふっ、はぁ~いっ♪」

 流石に耐えられなくなった俺のツンとした反応を見て、紗切ちゃんはにやにやしながら俺の後ろについてくように歩いた。それも少しでもくっつこうという思考が丸見えなくらいに。嬉しいけど紗切ちゃん相手じゃ調子が狂う。本気かからかってるのかが分からないからな。

「……帰ったら博士の顔面マジで殴ろ」

 紗切ちゃんに聞こえない程度の小声で呟いた。しかしそれも夜に吹くひんやりとした風と共に流れていく。その心地よさに癒されながら歩いている時、事態は一変した。

「っ……!」
「えっ……」

 突如目の前に現れた白のコートを羽織った黒髪の青年。背中に竜の形をした鞘が見え、一瞬強く吹いた風がコートをなびかせた。

「竜坊……」
「桐谷、君……?」
「……止めに来たのか。俺のを」

 急に変な事を言いだしてきて、俺は息を呑んだ。その直後に彼……桐谷優羽汰の発言を否定するように言い放つ。

「は……? 何言ってんだよ! 誘拐犯の捜索……もそうだけどよぉ、ハロウィン戦争からずっとお前がいないから連れ戻して来いって博士から言われてんだ! 皆心配してんぞ……早く帰――」
「――俺はもうネフティスの人間じゃねぇ」
「「――!?」」

 二人して驚きを隠せずにいた。久しぶりに会ってすぐにネフティスを辞めたと言っているようなものだ。そして今の優羽汰の発言から俺は悟った。

 ――誘拐犯はこいつだな、と。


「――悪いな、やっぱ予定変更だ。てめぇのその復讐ってやつを止めにきたぜ」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ふりったぁ
2023.05.03 ふりったぁ

勢いのある物語展開と、力強い戦闘描写が印象深く残りました。犠牲者数が毎話表示されているのが不穏ですね。まだまだ謎多いところが今後どのようにして開示されていくのか、ひっそりと楽しみにさせていただきます。

Siranui
2023.05.03 Siranui

わざわざ読んでくださりありがとうございます!!
戦闘シーンと物語展開は特に意識して書いてるので評価してくださってとても嬉しいです!
任務遂行状況を分かりやすくするためにあえて犠牲者数も入れたのですが、入れない方が良いんですね……とても勉強になります!

 今公開されている部分が今後どのように繋がるか期待しながらこれからの展開を読んでくださるととても嬉しい限りです! これからも楽しんで読んでもらえるよう精一杯頑張ります!!

解除

あなたにおすすめの小説

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~

八神 凪
ファンタジー
 僕は残念ながら十六歳という若さでこの世を去ることになった。  もともと小さいころから身体が弱かったので入院していることが多く、その延長で負担がかかった心臓病の手術に耐えられなかったから仕方ない。  両親は酷く悲しんでくれたし、愛されている自覚もあった。  後は弟にその愛情を全部注いでくれたらと、思う。  この話はここで終わり。僕の人生に幕が下りただけ……そう思っていたんだけど――  『抽選の結果あなたを別世界へ移送します♪』  ――ゆるふわ系の女神と名乗る女性によりどうやら僕はラノベやアニメでよくある異世界転生をすることになるらしい。    今度の人生は簡単に死なない身体が欲しいと僕はひとつだけ叶えてくれる願いを決める。  「僕をリッチにして欲しい」  『はあい、わかりましたぁ♪』  そして僕は異世界へ降り立つのだった――

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。