231 / 232
第七章 千夜聖戦・斬曲編
第二百十七話「大蛇の正体」
しおりを挟む
秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐、謎の刺客黒神元利の討伐
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃、マヤネーン・シューベル
犠牲者:0名
東京都足立区 ネフティス本部 治療室――
「大蛇君……」
酸素マスクと左腕に点滴を打っている状態で眠る大蛇君を僕と雛乃(以後ひなのん)、そして天空さんの3人が見守る。息は未だしておらず、昏睡状態が続いている。
寒い札幌の街中で長時間倒れていたために毛布をかけ、定期的に大蛇君の右手を頬につけて体温が上がっているか確認するも、温もりが微塵も感じない。
「しばらくは様子見になりそうですね~」
眠たくなるようなおっとりとした声でコツコツと靴音をたてながら、白衣を纏った女性がこちらに向かって歩いているのが見えた。
「おや、来栖ちゃん」
「ちゃん付けするのやめてください。それより、彼が目覚めるもそうでなくとも、肉体を完全回復させるのに三週間はかかると思いますよ~」
獲物を狩るような目で睨まれ、僕は思わず背筋を一気に凍らせて黙り込んだ。来栖さんはすぐに話を戻して大蛇君の様態についてゆっくりと話した。
「そうですか……三週間、ですか」
秘匿任務を指示した故の責任を感じているのか、空さんは俯いてがっくりと肩を落とした。今ので一気に治療室がどんよりとした空気になった気がした。しばらく沈黙が続くうちにこの空気に耐えられなくなり、僕は無意識に罪悪感で押し潰されている空さんの両肩をガシッと掴んだ。
「空さん、これは貴方だけの責任ではありません。更に言えばまだ彼は死んだわけではありませんし、必ず戻ってきますよ。それも三週間も経たずに」
「……この状態だというのに大した自信をお持ちですね、マヤネーン博士」
「そりゃありますよ。だって彼、過去には黒き英雄なんて呼ばれてましたしね」
「「えっ……!?」」
ふと口が滑って言ってしまった。その発言に空さんとさっきからずっと大蛇君の様態を気にしていたひなのんがこちらに振り向くと同時にびっくりするように驚いた。
一方の来栖さんはやれやれといった表情を浮かべながら額に右手を当てて深いため息をついた。完全に『こいつやったな』と言わんばかりの顔であった。
「黒き英雄って……」
「彼が、あの八岐大蛇だというのですか!?」
……自分のせいとはいえ、こうなってしまったからには致し方無い。彼の全てを吐き出すとしよう。
「あくまで推測だけどね。彼……黒神大蛇はあの『黒き英雄』八岐大蛇の生まれ変わりだ。それも前世の記憶を持ったまま今の肉体に魂を宿したんだ」
「……!!」
「僕もこれまでの彼を見てきたけど、最初からちょっとだけ変な違和感があったんだ。魔力が無いのにも関わらず、廊下で会うたびに禍々しい気配を感じたし、ネフティスに入りたての新人だというのにいとも簡単に禁忌魔法を使った。更に人の理を超えるほどの身体能力……どれをとっても異常だと思っていたんだ。
だから僕は彼に対してこう解釈した。今とは違う世界軸で生きていた人間……即ち異界の存在だってね」
「大蛇が……!?」
表情から『信じられない』と言っているようにひなのんは両手を口元に当てて驚く。それもそのはず。今の時代に生まれ変わりや異界の概念なんてこれっぽっちも存在しないのだから。
「ちょっと……どころかもろ滑って口から出ちゃったけど、だから彼は生きて戻ってくる。必ず僕たちの元に帰ってくるよ」
(それに、エレイナちゃんが誘拐されてるから尚更死ねないよね)
そう期待と希望を込めて三人に言い放ち、僕は白いベッドでずっと眠っている大蛇君の左手を優しく握った。ふと目をやった先には、少しだけ自信を持った空さんの引き締まった顔が映った。それを見て僕はふっと笑った。
(さて、その覚悟はどっちに向けられたものかな……ファウスト)
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃、マヤネーン・シューベル
犠牲者:0名
東京都足立区 ネフティス本部 治療室――
「大蛇君……」
酸素マスクと左腕に点滴を打っている状態で眠る大蛇君を僕と雛乃(以後ひなのん)、そして天空さんの3人が見守る。息は未だしておらず、昏睡状態が続いている。
寒い札幌の街中で長時間倒れていたために毛布をかけ、定期的に大蛇君の右手を頬につけて体温が上がっているか確認するも、温もりが微塵も感じない。
「しばらくは様子見になりそうですね~」
眠たくなるようなおっとりとした声でコツコツと靴音をたてながら、白衣を纏った女性がこちらに向かって歩いているのが見えた。
「おや、来栖ちゃん」
「ちゃん付けするのやめてください。それより、彼が目覚めるもそうでなくとも、肉体を完全回復させるのに三週間はかかると思いますよ~」
獲物を狩るような目で睨まれ、僕は思わず背筋を一気に凍らせて黙り込んだ。来栖さんはすぐに話を戻して大蛇君の様態についてゆっくりと話した。
「そうですか……三週間、ですか」
秘匿任務を指示した故の責任を感じているのか、空さんは俯いてがっくりと肩を落とした。今ので一気に治療室がどんよりとした空気になった気がした。しばらく沈黙が続くうちにこの空気に耐えられなくなり、僕は無意識に罪悪感で押し潰されている空さんの両肩をガシッと掴んだ。
「空さん、これは貴方だけの責任ではありません。更に言えばまだ彼は死んだわけではありませんし、必ず戻ってきますよ。それも三週間も経たずに」
「……この状態だというのに大した自信をお持ちですね、マヤネーン博士」
「そりゃありますよ。だって彼、過去には黒き英雄なんて呼ばれてましたしね」
「「えっ……!?」」
ふと口が滑って言ってしまった。その発言に空さんとさっきからずっと大蛇君の様態を気にしていたひなのんがこちらに振り向くと同時にびっくりするように驚いた。
一方の来栖さんはやれやれといった表情を浮かべながら額に右手を当てて深いため息をついた。完全に『こいつやったな』と言わんばかりの顔であった。
「黒き英雄って……」
「彼が、あの八岐大蛇だというのですか!?」
……自分のせいとはいえ、こうなってしまったからには致し方無い。彼の全てを吐き出すとしよう。
「あくまで推測だけどね。彼……黒神大蛇はあの『黒き英雄』八岐大蛇の生まれ変わりだ。それも前世の記憶を持ったまま今の肉体に魂を宿したんだ」
「……!!」
「僕もこれまでの彼を見てきたけど、最初からちょっとだけ変な違和感があったんだ。魔力が無いのにも関わらず、廊下で会うたびに禍々しい気配を感じたし、ネフティスに入りたての新人だというのにいとも簡単に禁忌魔法を使った。更に人の理を超えるほどの身体能力……どれをとっても異常だと思っていたんだ。
だから僕は彼に対してこう解釈した。今とは違う世界軸で生きていた人間……即ち異界の存在だってね」
「大蛇が……!?」
表情から『信じられない』と言っているようにひなのんは両手を口元に当てて驚く。それもそのはず。今の時代に生まれ変わりや異界の概念なんてこれっぽっちも存在しないのだから。
「ちょっと……どころかもろ滑って口から出ちゃったけど、だから彼は生きて戻ってくる。必ず僕たちの元に帰ってくるよ」
(それに、エレイナちゃんが誘拐されてるから尚更死ねないよね)
そう期待と希望を込めて三人に言い放ち、僕は白いベッドでずっと眠っている大蛇君の左手を優しく握った。ふと目をやった先には、少しだけ自信を持った空さんの引き締まった顔が映った。それを見て僕はふっと笑った。
(さて、その覚悟はどっちに向けられたものかな……ファウスト)
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる