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第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百十七話「大蛇の正体」

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 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐、謎の刺客黒神元利の討伐
 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃、マヤネーン・シューベル
 犠牲者:0名


 東京都足立区 ネフティス本部 治療室――


「大蛇君……」

 酸素マスクと左腕に点滴を打っている状態で眠る大蛇君を僕と雛乃(以後ひなのん)、そして天空さんの3人が見守る。息は未だしておらず、昏睡状態が続いている。
 寒い札幌の街中で長時間倒れていたために毛布をかけ、定期的に大蛇君の右手を頬につけて体温が上がっているか確認するも、温もりが微塵も感じない。

「しばらくは様子見になりそうですね~」

 眠たくなるようなおっとりとした声でコツコツと靴音をたてながら、白衣を纏った女性がこちらに向かって歩いているのが見えた。

「おや、来栖くるすちゃん」
「ちゃん付けするのやめてください。それより、彼が目覚めるもそうでなくとも、肉体を完全回復させるのに三週間はかかると思いますよ~」

 獲物を狩るような目で睨まれ、僕は思わず背筋を一気に凍らせて黙り込んだ。来栖さんはすぐに話を戻して大蛇君の様態についてゆっくりと話した。

「そうですか……三週間、ですか」

 秘匿任務を指示した故の責任を感じているのか、空さんは俯いてがっくりと肩を落とした。今ので一気に治療室がどんよりとした空気になった気がした。しばらく沈黙が続くうちにこの空気に耐えられなくなり、僕は無意識に罪悪感で押し潰されている空さんの両肩をガシッと掴んだ。

「空さん、これは貴方だけの責任ではありません。更に言えばまだ彼は死んだわけではありませんし、必ず戻ってきますよ。それも三週間も経たずに」
「……この状態だというのに大した自信をお持ちですね、マヤネーン博士」
「そりゃありますよ。だって彼、過去にはなんて呼ばれてましたしね」
「「えっ……!?」」

 ふと口が滑って言ってしまった。その発言に空さんとさっきからずっと大蛇君の様態を気にしていたひなのんがこちらに振り向くと同時にびっくりするように驚いた。
一方の来栖さんはやれやれといった表情を浮かべながら額に右手を当てて深いため息をついた。完全に『こいつやったな』と言わんばかりの顔であった。

「黒き英雄って……」
「彼が、あの八岐大蛇だというのですか!?」

 ……自分のせいとはいえ、こうなってしまったからには致し方無い。彼の全てを吐き出すとしよう。

「あくまで推測だけどね。彼……黒神大蛇はあの『黒き英雄』八岐大蛇の生まれ変わりだ。それも宿
「……!!」
「僕もこれまでの彼を見てきたけど、最初からちょっとだけ変な違和感があったんだ。魔力が無いのにも関わらず、廊下で会うたびに禍々しい気配を感じたし、ネフティスに入りたての新人だというのにいとも簡単に禁忌魔法を使った。更に人の理を超えるほどの身体能力……どれをとっても異常だと思っていたんだ。
だから僕は彼に対してこう解釈した。……即ち異界の存在だってね」
「大蛇が……!?」

 表情から『信じられない』と言っているようにひなのんは両手を口元に当てて驚く。それもそのはず。今の時代に生まれ変わりや異界の概念なんてこれっぽっちも存在しないのだから。

「ちょっと……どころかもろ滑って口から出ちゃったけど、だから彼は生きて戻ってくる。必ず僕たちの元に帰ってくるよ」
(それに、エレイナちゃんが誘拐されてるから尚更死ねないよね)

 そう期待と希望を込めて三人に言い放ち、僕は白いベッドでずっと眠っている大蛇君の左手を優しく握った。ふと目をやった先には、少しだけ自信を持った空さんの引き締まった顔が映った。それを見て僕はふっと笑った。

(さて、その覚悟は……ファウスト)
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