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第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百十四話「誘拐の真相」

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 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐、謎の刺客黒神元利の討伐
 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
 犠牲者:0名


 東京都足立区 地球防衛組織ネフティス本部――

 はぁ、はぁ……と息を吐きながら私――丸山雛乃は若干積もった東京の雪道を走る。巨大なビルの群れに埋もれる白い建物……ネフティス本部を目指して。

「はぁ、はぁ……やっと……着いたっ…………!」

 いくらアイドル活動で歌いながら踊っていても、転送装置から本部までの約500メートルを全力疾走し続けるのは流石にしんどい。

 そんな愚痴を口にしそうになった自分の頬を両手で叩いて忘れ、急いで入り口に入る。運が良かったのか、入り口の自動ドアが開いた途端に書類の束を抱えたマヤネーン博士の姿があった。

「博士っ……!」
「ん、どうしたのひなのん。大蛇君は?」
「それがっ……!!」



「なっ、襲撃された……!?」

 私は簡潔に今さっき札幌で起きた出来事を博士に伝えた。今もきっと大蛇はあの男と戦っている。世間では帰宅する人がほとんどな時間帯で長引けば、また莫大な被害を受ける事になる。


「うん。今大蛇がその人と戦ってて……それで、もしかしたらその人が例の誘拐犯かもしれないって大蛇が言ってて!!」

 今回の秘匿任務で起きた異常事態に、博士は頷きながらしっかりと耳を向けている。そして話し終えた直後、少しだけ微笑んだ。

「そうか、大体分かったよ。……ひなのんは少し休んでていいよ」
「えっ……これからどうするの?」
「そりゃあ、これから現場に向かうに決まってるだろう?」
「えっ、博士が!? 危ないよ、私も見たけどあの男めっちゃ強いよ! それよりこの事を皆に伝えてって大蛇言ってたし!」

 私は必死に博士の白衣の裾を掴みながら訴える。しかし博士は「ごめん」と呟くだけだった。

「……でも大丈夫。必ず大蛇も一旦連れて帰って来るから。皆に伝えるってのはその後からにして、今は何より大蛇の救出を優先しよう」

 確かにその通りだと思い、私は軽く頷く。そんな私に博士は手に持っていた書類を渡してきた。

「じゃ、これから行ってくるから。これ悪いんだけど僕の部屋の机に置いといてくれないかな。鍵渡しとくね」
「わ、分かった……ちなみにこの書類って?」
「……ふふんっ」

 こう言われるのを悟っていたのか、博士は自慢気に笑った。表情を崩さないままとんでもない事を口にした。

「――の歴史書、だよ」
 



 休憩がてら博士から渡された書類を読むべく、鍵についてある番号を確認しながら早足で博士の部屋へと向かった。書類を落とさないように気をつけながら片手で鍵をかけ、中に入ってすぐに施錠する。入ってすぐにテーブルの姿が見え、すぐさま走ってその上に書類を置く。

「ふぅ……さて、早速書類の詳細を拝見しましょうかね~」

 今は何より大蛇の事が心配でならないが、彼の事は博士に任せて私は私の出来る事を徹底的に行う事にした。
 博士曰く、私が代わりに運んだこの書類の山には新たな惑星で起きた歴史書のデータらしい。もしかしたら謎の誘拐犯や大蛇を襲った男に関係するものが書かれているかもしれない。

 そんな期待をしながら、まずは一番上に乗ったファイルを開く。そこには『フィーナ・リル・テューレル叙事詩』と大きく書かれていた。

「……この名前見た感じどこかのお姫様なのかな?」

 何となくだけどそう察して一枚めくる。そこには試験の長文問題かと思うくらいの文字がぎっしり詰まっていた。

「うわっ、何これ……」

 日本語とはいえ、新聞なんて比にならないレベルの文字量を見せつけられたら流石に読む気が失せてしまう。それでも任務遂行の手がかりにするために、事前に買っておいた缶コーヒーを飲んで再び書類に目を通す。

「『異星の民達から、テューレルは火星と呼ばれていたという』……へぇ、今度は火星か~♪」

 実は過去……それこそ正嗣元総長が総長に就任したばかりの時に、一度任務としてリヴァイスに足を運んだ事がある。
 任務はきつかったが、綺麗な海に賑やかな街……そんな予想だにしなかった事を多く知り、あれから私は他の惑星に行くのが好きになったのだ。

 そんな楽しい思い出をふと脳内で蘇らせながら読んでいるその途中、突如読み進めるのを止めた。

「『テューレル』帝王……モルトリーゼ・リル・テューレル…………フィーナ王女が通っていた貴族学院の同級生で、彼女は彼を『』と呼んでいたっ!!?」

 モトリ。そう、あの男……今頃大蛇が戦っている人物も、元利もとりだ。もしあの男がテューレル帝国と深い関係があるとしたら、もしかしたらそうなのかもしれない。

「まさか……そんなはず、無いよね!?」
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