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第七章 千夜聖戦・斬曲編
第二百十二話「兄弟(上)」
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秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐、謎の刺客黒神元利の討伐
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
犠牲者:0名
モスキート音すら聞こえない白紙の世界に、ただ二人の兄弟が向かい合う。
「……遊ぶなら、全力尽くさねぇとな」
両手の拳を握り締め、一歩前に踏み込んで俺の兄である黒神元利を睨む。
「そう言うならしっかり楽しませろよ……大蛇っ!!」
対して元利も同様に俺を睨みつける。数秒睨み合った直後、元利の魔剣が俺の顔があった場所を斬り裂いた。瞬時に背中を反らして音速の斬撃を避け、アクロバットを決めて一度元利との距離を取る。
――しかし、その刹那。
「……やはりな」
「あがっ……!?」
背後から胸部を貫かれた。何故? 今もずっと俺の正面にいるのに。何故元利がもう一人いるのだ。
「死器『異想剣』。相手の思考及び行動を魔力で感知し、予測不能の急所攻撃を常時与える……中々にイカれたものだろう?」
あり得ない。思考を魔力で読んでその裏を確実に急所で当てる死器なんて見たことがない。これだけで世界を無双出来るんじゃないかと言わんばかりの能力をしている。あれを持った兄元利に、俺は武器無しで戦おうとしているのか。
――でも、そんなの今に始まった事では無い。
「……ふっ」
ふと笑みが零れる。今まで感じてきた絶望から一変、何だか楽しくなってきた。これは間違いなく今までで一番の敵だ。故に、誰よりも倒し甲斐がある。
「……やっぱりチート使いは殺し甲斐しかねぇな!」
右手を伸ばし、床に飛び散った鮮血を手元に浮上させて一本の剣を作る。その柄をしっかり掴み、地を蹴って元利に突進する。
「その意気だ……俺を殺してみろ、出来るものならな!!」
元利も両足で強く地を蹴って突進する。同時に異想剣を頭上に振りかぶる。
(奴が持ってる能力は魔力依存の思考感知と常時急所攻撃、そして分身攻撃……対象の未来をフラッシュバックさせる禁忌逆式とはかなり相性が悪いな。今この瞬間も、奴は俺の禁忌逆式を読み、俺が読んだ裏の裏を突かれている……!)
打開策が浮かばない中、俺は一先ず血剣を左斜め方向に振り上げる。
「っ……!」
(まずはひたすら動いて奴の動きを把握する……!)
無暗に攻撃したらその裏を突かれて致命傷を喰らう。ならここは持久戦に持ち込む。
……しかし、その考えもとっくに元利には筒抜けだった。
「無駄だ……!」
「ぐっ……!」
頭上から振り下ろされた元利の一撃を咄嗟に剣で受けたものの、あまりに重い衝撃で俺の右腕が痺れると同時に大きく吹き飛ばされる。血剣が今の一撃で粉砕され、跡形も無く消える。
「ちっ、血剣がただの鈍になるとはな」
何とか受け身をとって身体の損傷を最小限に留めたものの、唯一の武器が一撃で木端微塵にされた。どうする。禁忌は確実に読まれるからこれ以上使えない。無論、肉弾戦も無意味だろう。
「もう後がなくなったか!」
「くそっ……!!」
元利が更に俺を追い詰める。打つ手がない。なら仕方がない。武器がないなら俺自身が武器になるまで。
「っ……!」
黒い稲妻が激しく怒号をあげるように俺の周囲に鳴り響く。右目からじわりと生温い雫が頬を伝う。
「『八之竜眼』か……まだまだ楽しませてくれるんだろうな!」
俺がこいつに勝てる唯一の方法。そんなのどれだけ考えても一つしかなかった。いや、これ以上考えても疲れるだけだった。どうせ思考を読まれるのなら、単純に俺の最大で元利相手に火力で無理矢理押し通すまで。世に言うゴリ押しというものだ。
「あぁ、精々楽しめよ……『果てをも穿ちし逆鱗の花』」
空中に雨粒程度の大きさの黒い魔力玉を精製する。すぐに元利目掛けて右手を伸ばして一気に飛ばす。
「雑魚同然だったお前がいつからこんな大層な技を会得したのか……まぁ、思ったよりは楽しめそうだなっ!!」
四方八方から襲う逆鱗の雨が容赦なく元利を襲う。だが元利は一つ一つ確実に避けてはひたすら斬り払って前進する。
「ふっ……!!」
余裕の笑みを崩さないまま進み続け、剣を後ろに引いて突きの動作に入った。俺は何も考えずに右手を頭上に伸ばす。吸い込まれるように魔力玉が集まりだし、剣の形を作り出していく。
「『制裁之剣』」
「そう来たかっ……!」
俺の一撃を読んだのか、元利はわざと俺に当たるギリギリの所で剣を振った。その後一回転しながら左手を伸ばして指を鳴らした。
この時、俺は予想だにしない展開を目にする事となる。
「『黒光無象』」
「っ――――!!」
反射で剣を振り下ろしたと同時に逆式が打ち消され、黒い波動が俺を襲い、そしてそれを漆黒の斬撃が禁忌の世界ごと断ち斬って――
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
犠牲者:0名
モスキート音すら聞こえない白紙の世界に、ただ二人の兄弟が向かい合う。
「……遊ぶなら、全力尽くさねぇとな」
両手の拳を握り締め、一歩前に踏み込んで俺の兄である黒神元利を睨む。
「そう言うならしっかり楽しませろよ……大蛇っ!!」
対して元利も同様に俺を睨みつける。数秒睨み合った直後、元利の魔剣が俺の顔があった場所を斬り裂いた。瞬時に背中を反らして音速の斬撃を避け、アクロバットを決めて一度元利との距離を取る。
――しかし、その刹那。
「……やはりな」
「あがっ……!?」
背後から胸部を貫かれた。何故? 今もずっと俺の正面にいるのに。何故元利がもう一人いるのだ。
「死器『異想剣』。相手の思考及び行動を魔力で感知し、予測不能の急所攻撃を常時与える……中々にイカれたものだろう?」
あり得ない。思考を魔力で読んでその裏を確実に急所で当てる死器なんて見たことがない。これだけで世界を無双出来るんじゃないかと言わんばかりの能力をしている。あれを持った兄元利に、俺は武器無しで戦おうとしているのか。
――でも、そんなの今に始まった事では無い。
「……ふっ」
ふと笑みが零れる。今まで感じてきた絶望から一変、何だか楽しくなってきた。これは間違いなく今までで一番の敵だ。故に、誰よりも倒し甲斐がある。
「……やっぱりチート使いは殺し甲斐しかねぇな!」
右手を伸ばし、床に飛び散った鮮血を手元に浮上させて一本の剣を作る。その柄をしっかり掴み、地を蹴って元利に突進する。
「その意気だ……俺を殺してみろ、出来るものならな!!」
元利も両足で強く地を蹴って突進する。同時に異想剣を頭上に振りかぶる。
(奴が持ってる能力は魔力依存の思考感知と常時急所攻撃、そして分身攻撃……対象の未来をフラッシュバックさせる禁忌逆式とはかなり相性が悪いな。今この瞬間も、奴は俺の禁忌逆式を読み、俺が読んだ裏の裏を突かれている……!)
打開策が浮かばない中、俺は一先ず血剣を左斜め方向に振り上げる。
「っ……!」
(まずはひたすら動いて奴の動きを把握する……!)
無暗に攻撃したらその裏を突かれて致命傷を喰らう。ならここは持久戦に持ち込む。
……しかし、その考えもとっくに元利には筒抜けだった。
「無駄だ……!」
「ぐっ……!」
頭上から振り下ろされた元利の一撃を咄嗟に剣で受けたものの、あまりに重い衝撃で俺の右腕が痺れると同時に大きく吹き飛ばされる。血剣が今の一撃で粉砕され、跡形も無く消える。
「ちっ、血剣がただの鈍になるとはな」
何とか受け身をとって身体の損傷を最小限に留めたものの、唯一の武器が一撃で木端微塵にされた。どうする。禁忌は確実に読まれるからこれ以上使えない。無論、肉弾戦も無意味だろう。
「もう後がなくなったか!」
「くそっ……!!」
元利が更に俺を追い詰める。打つ手がない。なら仕方がない。武器がないなら俺自身が武器になるまで。
「っ……!」
黒い稲妻が激しく怒号をあげるように俺の周囲に鳴り響く。右目からじわりと生温い雫が頬を伝う。
「『八之竜眼』か……まだまだ楽しませてくれるんだろうな!」
俺がこいつに勝てる唯一の方法。そんなのどれだけ考えても一つしかなかった。いや、これ以上考えても疲れるだけだった。どうせ思考を読まれるのなら、単純に俺の最大で元利相手に火力で無理矢理押し通すまで。世に言うゴリ押しというものだ。
「あぁ、精々楽しめよ……『果てをも穿ちし逆鱗の花』」
空中に雨粒程度の大きさの黒い魔力玉を精製する。すぐに元利目掛けて右手を伸ばして一気に飛ばす。
「雑魚同然だったお前がいつからこんな大層な技を会得したのか……まぁ、思ったよりは楽しめそうだなっ!!」
四方八方から襲う逆鱗の雨が容赦なく元利を襲う。だが元利は一つ一つ確実に避けてはひたすら斬り払って前進する。
「ふっ……!!」
余裕の笑みを崩さないまま進み続け、剣を後ろに引いて突きの動作に入った。俺は何も考えずに右手を頭上に伸ばす。吸い込まれるように魔力玉が集まりだし、剣の形を作り出していく。
「『制裁之剣』」
「そう来たかっ……!」
俺の一撃を読んだのか、元利はわざと俺に当たるギリギリの所で剣を振った。その後一回転しながら左手を伸ばして指を鳴らした。
この時、俺は予想だにしない展開を目にする事となる。
「『黒光無象』」
「っ――――!!」
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