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第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百十一話「闇夜の刺客」

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 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐
 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
 犠牲者:0名


 雛乃さんにラーメンを仕方なく奢り、3000円近くを支払って建物から出た俺と雛乃さんは、本部に戻るために札幌駅の外を歩いていた。

「はぁ~、美味しかったぁ~!」
「……麺伸びてスープほぼ無かったけどな」
「あははっ、それは話が盛り上がったからね~」

 そりゃ1時間近く話していたら麺も伸びるよなと心の中でツッコミを入れ、転送装置までの道を歩いていく。

 靴底が少し積もった白い大地を踏みつける感覚、空からゆっくりと降ってくる雪が頬を触れる度に感じる冷たさ。
 あの頃を思い出す。家族のために恋人を殺し、その悲しみのあまり暴走しながら今のような景色の中で数多の魔物を殺しまくった、あの頃を。
 そしてあの後、俺は唯一の相棒と共に不自然な場所に作られた遊園地で――

「っ……!!」

 吸った空気が一気に冷たくなる。恐怖、後悔、絶望。吐き気がする。

「……大蛇、大丈夫? 食べすぎた?」
「いや、少し気分が悪くなっただけだ。転送装置も近いからすぐに本部に戻って休めば治る」
「そっか。でも休みたいときはちゃんと言ってね?」

 雛乃さんが心配そうな顔を浮かべていたので、何とか安心させようと大きく頷く。そしてすぐに本部に戻るべく、走って転送装置まで向かう。

 ――だが、俺の足が途中で踏みとどまる。

「大蛇……?」
「何やら背後に変な気配が――」

 さっきの気持ち悪くなった原因である背中から禍々しい気配をまたもや感じ、ふと後ろを向いた刹那、右から俺の首元目掛けて刃が襲ってきた。

「っ……!?」
「えっ……」

 なんと振り向いた先には謎の男が俺に刀身を向けていた。それも、な姿で。

「よう……会いたかったぜ、
「弟……?」

 俺を弟と呼ぶその男はニヤリと笑いながら見つめる。それに対して俺は何言っているのか全く分からない状況に陥っていた。

「久しぶりだから忘れたか。俺は黒神元利くろがみもとり。これでもお前の兄貴分なんだけどなぁ。心外だな、大蛇!」
「――!!」

 突如元利の剣の刀身から巨大な魔力爆発が発生し、俺は体勢を崩して白い地に背中をぶつけて転がる。痛みと冷たさが同時に襲ってくる。右を向くと何が起こっているのか全く理解していない雛乃さんが立っていた。

「……雛乃さん、今すぐ本部に戻ってこの事を博士に伝えろ。こいつは俺が何とか止める」
「でも、大蛇今気分優れてなければ武器も無いんじゃ戦うも何も……」
「何とかする。今はとにかくネフティス側に情報を流すのが最優先だ。もしかしたら例の誘拐犯と関与しているかもしれない」
「……分かった。でも取り返しのつかなくなる前に逃げてねっ!」
「……承知している」

 すぐに雛乃さんが俺の後ろを走っていき、転送装置に入っていった。姿が無くなったのを確認し、正面を向く。そこには禍々しい魔剣を右肩に担いだ元利の姿があった。

「……雛乃さんを逃がしてくれた事は感謝するぜ、兄貴」
「俺の狙いはてめえだけだからな。……早く遊ぼうぜ」

 元利は楽しそうな笑みを浮かべながら緑色のオーラを纏った魔剣の切っ先を俺に向けた。ここは亜玲澄達が来るまでの耐久戦になるなと判断し、ゆっくりと元利の元へ歩き出す。

「……少し兄の顔を見ておきたくてな。もう忘れる事が無いようにな」
「ほう……ならその目に再び焼き付けろ。生涯忘れぬようにな」

 じっと俺の兄(一応)である元利の顔を見つめている裏で、俺は背後で両手に魔力を流す。それもさっきまでの気持ち悪さも含めた『負の力』を全て両手に集める。

 ――そして不意を突きつつ最強を解き放つ!!


「――しっかり焼き付けておいた。だがここでお別れだっ!!」

 元利が完全に隙を見せた瞬間に右手を正面に出してすぐに指を鳴らす。更に一秒も経たずに左手の指を鳴らし、負のエネルギーで生み出した魔力を精製する。

「っ……!!」
「『禁忌逆式きんきぎゃくしき』……」

 右手で黒光無象ブラックバリスタを精製し、左手で負の力と対になる『正の力』を魔力に変え、対極の二つを合成して本来の禁忌魔法と真逆の力を解き放つ……!

「――『闇白有想ブラックアヴニール』」

 黒光無象ブラックバリスタとは違い、純白の波動が互いに映る景色を蝕む。その後視界が真っ白に染め上げられた。雪のような冷たさも闇夜の暗さも人の気配すら感じられない、虚無の世界へ誘う――

「……遊ぶなら、全力尽くさねぇとな」
「そう言うならしっかり楽しませろよ……大蛇っ!!」
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