黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui

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第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百九話「予想斜め上の真相」

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 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐
 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
 犠牲者:0名


 秘匿任務の前のウォーミングアップ(……というのは建前)として、雛乃さんと雪遊びをしてすぐに任務に取り掛かった……のは良いとしてだ。

「ねぇ、誘拐犯の討伐はいいんだけどネフティス側は誘拐犯がいる場所の目星ついてるのかな……?」
「大まかな部分しか分かってないだろ。だが北海道ここまで来たという事は何かしらこの場所にその誘拐犯の証拠があるはず……」

 当然この言葉に確証は無い。結局この地を隅から隅までがむしゃらに捜索するしか打つ手が無いのだ。確証無くとも多少の希望を抱いてないとやっていられない。

「……そうだよね。とりあえず怪しい所ひたすら探すしか無さそうだね! よぉし頑張ろー!!」
「テンション高ぇなおい……」

 これから日本一の大きさを誇る北海道の首都を片隅まで捜索するというのに、雛乃さんはそれを知らないのか元気全開で右手を空高く突きつけた。
 流石アイドルと言うべきか、彼女の明るさは僅かながら力がみなぎる気がしてきた。多分気のせいだが。

「え~、大蛇テンション低いよぉ~! もっと元気出して! ほら!!」
「はいはい……頑張りますかね」
「もうっ、つれないな~!!」

 雛乃さんは頬を大きく膨らませて子供みたいに怒る。そんな現役アイドルを気にもせずに、俺は市内の至る所を探し始めた。


 ――雛乃さんと二人で捜索を始めてから約2時間が経過した。しかし、どこを探しても誘拐犯どころかその証拠たるものも見つからない。

「ねーーっ! どーこにいるのー!! はーんにーん!!!」
「……叫んでも無駄だ。あと周囲に迷惑かけるからやめろ」

  午後7時過ぎの帰宅ラッシュで混み合う札幌駅の広場で雛乃さんが大声で叫ぶ。そこに背後から手刀で雛乃さんの脳天を叩いて黙らせる。

「いった~いっ! 大蛇ったらひどいよ……! か弱い女の子の頭をチョップするなんてぇ……!」
「ネフティスメンバーに選ばれてる時点でか弱くないだろ」
「そういうことじゃなくてぇ~!!」

 両手で頭を抑えながら、雛乃さんは俺に怒り出す。……とは言ってもこれは怒りの類には入らないのだが。

「……とりあえず、今日は無理そうだな。早く本部に戻って――」

 そう言って目の前にあった転送装置の取っ手に手をかけた、その刹那。

「――動くな」
「っ――!」

 突然首元に鋭い刃物が現れ、口元を黒い手袋をつけた左手で封じられる。目線を右に向けると、全身を黒で包んだ仮面の男が俺と同様に雛乃さんを拘束していた。

(ちっ、こいつらが例の誘拐犯か……!)
「……悪く思うな。お前らはここで殺す」

 ゆっくりと、首元に向けられた刃が近づく。そして切っ先が触れた瞬間に右手の指を鳴らす。

 パチンッ――!!

「んなっ――!?」

 右手から魔力爆発を起こし、拘束から解放される。すぐに俺は右手の指からアメジスト色の糸……『闇糸剣シュナイデン』を精製し、後ろに転んだ男に巻き付ける。

「ぐっ……何だこれっ!」
「……お前らにはあらゆる情報を吐き出してもらわなければならないからな。まぁ……」

 俺は素早く雛乃さんを拘束する男の背後に回る。

「――何も言わねぇなら殺すけどな」
「お前、何を――」

 左足に魔力を流し、黒いオーラを帯びる。その後情け無用でもう一人の仮面男の顔面を後ろから蹴り倒す。

「……『黒蹴クラッシュバースト』」

 黒く帯びた背面踵蹴りは男の右頬に直撃し、大きく吹き飛ばした。男はそのまま白い泡を吹いて意識を失う。

「大蛇……」
「雛乃さん、無事なうちに言っておく。もう二度と夜に大声で叫ぶのやめろ」
「うっ……すみま、せん……」

 返す言葉も無く、雛乃さんは叱られた子供のように謝った。もし博士が今の雛乃さんを見たら可愛らしいと言いながら笑っていただろう。

「……さて、吐いてもらおうか。エレイナを攫ったのは誰か。一体どこに誘拐したのか。そして例のメッセージを残して裏で何を企んでいるのかをな」
「……」
「生憎俺に時間は無い。吐かないなら仮面ごとその頭蓋を砕く」

 仮面の男はひたすら黙り込んだ。やっぱり吐かないか……と諦め、右手で男の頭蓋を掴もうとしたその時、男の口が開いた。


「――桐谷優羽汰」
「は……?」
「お前の言うエレイナという女を攫った奴だ」
「――!?」

 嘘だろ。あの桐谷優羽汰が、エレイナを攫った誘拐犯だというのか。にしてもどうやって攫ったんだ……

「悪いが場所と目的は話せねぇよ。俺も知らねえからな」
「……そうか」

 恐らくこいつら二人は博士が言っていたメッセージの送り主の部下だ。場所も目的も不明となると、それらの情報はこいつらが所属する謎の集団の幹部辺りに聞かないと分からないということか。

「本来なら無理矢理全て吐き出そうと思ったが……」
「ひっ、ひぃっ……!!」
「二人一緒に警察送りで勘弁してやる……!」

 俺は再度指から糸を垂らしてもう一人の男も拘束し、気絶している男と同じ位置に向かって投げ飛ばす。

「雛乃さん、警察に通報を」
「うん、分かった」

 後の事は警察に任せるとして、今日は一先ず本部に戻る事にした。
 再度取っ手に手をかけようとしたその時、今度は雛乃さんに止められた。

「あの、ちょっと待って……!」
「……? どうした」
「もうちょっと、付き合って……くれないかな?」
「……は?」

 想像の斜め上過ぎて思わず変な声が出たと同時に一気に吹雪が襲いかかった。
 これから現役アイドルと何をする事になるのか、全く想像つかずに頭が真っ白になっていた――
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