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第七章 千夜聖戦・斬曲編
第二百八話「秘匿の雪遊び」
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秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
犠牲者:0名
俺――黒神大蛇とネフティスNo.5の丸山雛乃はマヤネーン博士に無理矢理近くの転送装置に押し込まれ、秘匿任務のために札幌へと派遣された。
念のため亜玲澄と正義は博士に任せたので、俺が秘匿任務に行っている事もしっかり隠してくれるはずだ。
そんな期待をしている間に、突如雛乃さんは転送装置の扉を勢いよく開けた。そこから見える景色は、正に北海道と言わんばかりの純白に包まれた風景だった。
「わぁ……! ねぇねぇ、雪だよ!! 私こんなたくさんの雪見るの初めてなんだよね~!」
「……そうだな」
『いい年して雪如きで騒ぐな』と喉の底から一気に滝登るような勢いで言いかけたが、何とか我慢して嬉しそうな雛乃さんを保護者かのように見守る。
(雪……か。あの頃を思い出すな。夢も希望も無いまま、無作為に魔物を斬り殺しては返り血を浴びて、終いにはあの遊園地で……)
今でもあの二人組……ピコとマコに殺されたあの日は、昨日の事かのように鮮明に覚えている。あの日もこんな雪がしんしんと降り積もっていた。今この札幌の雪景色を見ていると、どうしてもあの記憶が蘇ってしまう……
「――えいっ!」
「っ――!?」
刹那。可愛いらしい掛け声と共に右頭部に何かをぶつけられた衝撃が走った。直後、ぶつけられたそれは雪道の中へ沈むように砕け落ちる。
「ふふっ、油断は禁物だよ大蛇!」
「……あの野郎」
そう、俺は今雛乃さんに雪玉をぶつけられたのだ。どうりで当たったと同時に一瞬冷気が襲ってきたわけだ。
……こうとなれば、やり返す以外の手段は選ばずだ。
「ふっ……!」
若干右手に魔力を流し、雪を掃除機のように吸い込む。そして玉状にした雪を優しく掴み、容赦なく雛乃さんの右頭部に投げる。しかし、直撃する一歩手前で雛乃さんが首を左に傾けて避けられた。
「ふふんっ、そんな単純な攻撃じゃ私には効かないよ~!」
……今の雛乃さんの発言に少しイラッとした。なので、少しだけ本気を出す事にした。
「……単純な攻撃、か」
投げた雪玉に向けて右手を伸ばし、頭で描いた軌道に沿ってなぞるように右腕を動かす。すると雪玉がなぞる右手に追尾するように動き出す。
「ふぇっ!? な、何で雪玉が返ってくるの!?」
「これでも単純な攻撃だと言い切れるか、現役アイドルさんっ!」
雛乃さんの前後上下左右に雪玉を動かすように右手で操る。
これの原理としては、単純に物質を魔力で吸引する(或いは直接触れて魔力を纏わせる)事でこのように自分の好きなようにその物質を操れる。
これまで何度か使ってきた俺の奥義『果てをも穿ちし逆鱗の花』
も、この原理を使っている。
「ち、ちょっとここ大きい公園だし人たくさんいるよ! これ見られて大騒ぎ起きたら大変な事になるよ!」
「先に仕掛けたのはそっちだろうが! 何が何でもぶつけ返してやるよ!!」
いくら任務とかけ離れようとも、やられる一方なのは御免だ。
「そうだな……むしろ騒がしてみるか」
右手を大きく振り回し、周囲の雪をかき集めるように雪玉が徐々に巨大化していく。
「え、ほんとに何をする気なの!? 私達の事がバレたら……」
「あのハロウィン戦争でとっくに世間は俺達の存在を知っているだろ。緊急放送もしていたらしいしな。だから今更俺達の存在を隠す必要は……」
恐らく一軒家を埋め尽くすであろう程の巨大な雪玉を作り上げた俺は、頭上に右手を振り上げる。同時に巨大な雪玉も俺の頭上に昇っていく。
「何だあれ……」
「あんなの落ちたらやばいぞ絶対!」
「皆ここから離れろ!!」
周囲の人達が空高く浮かぶ巨大化した雪玉を見て騒然となる。流石に危険だと思っていたのか、雛乃さんは俺に向かって走り出した。
その直後、俺は頭上に突き上げた右手で空気を強く掴む。
「……無いっ!!」
「「――!!?」」
刹那、巨大な雪玉がその場で爆発し、無数の結晶となって砕け散る。周りにいた人達も逃げる足を止め、ゆっくりと落ちてくる無数の雪の結晶を目に焼き付ける。
「おい……これ全部雪の結晶だぞ!」
「あのでけぇ雪玉からどうやって作り出したんだ!?」
「ママ、すごい! 雪のキラキラがいっぱいっ!!」
「ねぇ~、すごいキラキラしてるよね~!」
今となっては警戒など一切無く、無数の雪の結晶に魅了されていた。子供達はその光景に目を輝かせながらはしゃぎ、大人もまた驚きと感動を隠せないといった様子だ。
「大蛇、これって……」
「……ただの子供騙しだ」
あんな巨大な雪玉落として大惨事を起こすわけにいかないなんて、口が裂けてもいえない。これでネフティスから剥奪されたらそれこそ俺は生きていられなくなる。
「へぇ~っ、子供騙しとか本気なのぉ~?」
「……逆に違ったらただの脅迫だろ」
「子供が好きだから少しでも喜ばせるため、じゃなくて?」
「……んなわけ無いだろっ」
さっきの仕返しも兼ねて、今度は単純に雪玉を作って雛乃さんの右頭部目掛けて投げた。そして見事に命中した。
「わっ、もうひど~い! いきなり雪玉投げないでよぉ~!!」
「さっきの仕返しだ。良いから速く任務遂行するぞ」
雪遊びはこの辺にしておき、俺ははしゃぐ子供達の声を聞きながら歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ大蛇~! 置いて行かないでぇ~!!」
誰よりも雪ではしゃいでいた現役アイドル兼ネフティスメンバーの雛乃さんは、すぐに俺の背中を追った。
……しかし、誰も思わなかった事だろう。この雪遊びが後に大きな影響を及ぼす事など――
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
犠牲者:0名
俺――黒神大蛇とネフティスNo.5の丸山雛乃はマヤネーン博士に無理矢理近くの転送装置に押し込まれ、秘匿任務のために札幌へと派遣された。
念のため亜玲澄と正義は博士に任せたので、俺が秘匿任務に行っている事もしっかり隠してくれるはずだ。
そんな期待をしている間に、突如雛乃さんは転送装置の扉を勢いよく開けた。そこから見える景色は、正に北海道と言わんばかりの純白に包まれた風景だった。
「わぁ……! ねぇねぇ、雪だよ!! 私こんなたくさんの雪見るの初めてなんだよね~!」
「……そうだな」
『いい年して雪如きで騒ぐな』と喉の底から一気に滝登るような勢いで言いかけたが、何とか我慢して嬉しそうな雛乃さんを保護者かのように見守る。
(雪……か。あの頃を思い出すな。夢も希望も無いまま、無作為に魔物を斬り殺しては返り血を浴びて、終いにはあの遊園地で……)
今でもあの二人組……ピコとマコに殺されたあの日は、昨日の事かのように鮮明に覚えている。あの日もこんな雪がしんしんと降り積もっていた。今この札幌の雪景色を見ていると、どうしてもあの記憶が蘇ってしまう……
「――えいっ!」
「っ――!?」
刹那。可愛いらしい掛け声と共に右頭部に何かをぶつけられた衝撃が走った。直後、ぶつけられたそれは雪道の中へ沈むように砕け落ちる。
「ふふっ、油断は禁物だよ大蛇!」
「……あの野郎」
そう、俺は今雛乃さんに雪玉をぶつけられたのだ。どうりで当たったと同時に一瞬冷気が襲ってきたわけだ。
……こうとなれば、やり返す以外の手段は選ばずだ。
「ふっ……!」
若干右手に魔力を流し、雪を掃除機のように吸い込む。そして玉状にした雪を優しく掴み、容赦なく雛乃さんの右頭部に投げる。しかし、直撃する一歩手前で雛乃さんが首を左に傾けて避けられた。
「ふふんっ、そんな単純な攻撃じゃ私には効かないよ~!」
……今の雛乃さんの発言に少しイラッとした。なので、少しだけ本気を出す事にした。
「……単純な攻撃、か」
投げた雪玉に向けて右手を伸ばし、頭で描いた軌道に沿ってなぞるように右腕を動かす。すると雪玉がなぞる右手に追尾するように動き出す。
「ふぇっ!? な、何で雪玉が返ってくるの!?」
「これでも単純な攻撃だと言い切れるか、現役アイドルさんっ!」
雛乃さんの前後上下左右に雪玉を動かすように右手で操る。
これの原理としては、単純に物質を魔力で吸引する(或いは直接触れて魔力を纏わせる)事でこのように自分の好きなようにその物質を操れる。
これまで何度か使ってきた俺の奥義『果てをも穿ちし逆鱗の花』
も、この原理を使っている。
「ち、ちょっとここ大きい公園だし人たくさんいるよ! これ見られて大騒ぎ起きたら大変な事になるよ!」
「先に仕掛けたのはそっちだろうが! 何が何でもぶつけ返してやるよ!!」
いくら任務とかけ離れようとも、やられる一方なのは御免だ。
「そうだな……むしろ騒がしてみるか」
右手を大きく振り回し、周囲の雪をかき集めるように雪玉が徐々に巨大化していく。
「え、ほんとに何をする気なの!? 私達の事がバレたら……」
「あのハロウィン戦争でとっくに世間は俺達の存在を知っているだろ。緊急放送もしていたらしいしな。だから今更俺達の存在を隠す必要は……」
恐らく一軒家を埋め尽くすであろう程の巨大な雪玉を作り上げた俺は、頭上に右手を振り上げる。同時に巨大な雪玉も俺の頭上に昇っていく。
「何だあれ……」
「あんなの落ちたらやばいぞ絶対!」
「皆ここから離れろ!!」
周囲の人達が空高く浮かぶ巨大化した雪玉を見て騒然となる。流石に危険だと思っていたのか、雛乃さんは俺に向かって走り出した。
その直後、俺は頭上に突き上げた右手で空気を強く掴む。
「……無いっ!!」
「「――!!?」」
刹那、巨大な雪玉がその場で爆発し、無数の結晶となって砕け散る。周りにいた人達も逃げる足を止め、ゆっくりと落ちてくる無数の雪の結晶を目に焼き付ける。
「おい……これ全部雪の結晶だぞ!」
「あのでけぇ雪玉からどうやって作り出したんだ!?」
「ママ、すごい! 雪のキラキラがいっぱいっ!!」
「ねぇ~、すごいキラキラしてるよね~!」
今となっては警戒など一切無く、無数の雪の結晶に魅了されていた。子供達はその光景に目を輝かせながらはしゃぎ、大人もまた驚きと感動を隠せないといった様子だ。
「大蛇、これって……」
「……ただの子供騙しだ」
あんな巨大な雪玉落として大惨事を起こすわけにいかないなんて、口が裂けてもいえない。これでネフティスから剥奪されたらそれこそ俺は生きていられなくなる。
「へぇ~っ、子供騙しとか本気なのぉ~?」
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「……んなわけ無いだろっ」
さっきの仕返しも兼ねて、今度は単純に雪玉を作って雛乃さんの右頭部目掛けて投げた。そして見事に命中した。
「わっ、もうひど~い! いきなり雪玉投げないでよぉ~!!」
「さっきの仕返しだ。良いから速く任務遂行するぞ」
雪遊びはこの辺にしておき、俺ははしゃぐ子供達の声を聞きながら歩き出した。
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誰よりも雪ではしゃいでいた現役アイドル兼ネフティスメンバーの雛乃さんは、すぐに俺の背中を追った。
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