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第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百七話「黒幕達の復讐」

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 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐
 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
 犠牲者:0名


 ――札幌にあった電話ボックスのような形をした転送装置に一人乗り込み、新たな星の地に足を踏み入れる。巨大な魔方陣の線が刻まれた石板から降りたその先に見えた景色は、もはやスラムと化した街そのものだった。まるで今の渋谷のように。

「ここが、テューレル……『廃無の惑星』か」

 『廃無の惑星』テューレル。人類はこの星を火星とか、マーズなんて言う事が多い。気候的には地球よりも多少暑いが、極端に暑かった水星リヴァイスよりはまだ過ごしやすい。

 そんなテューレルで、桐谷優羽汰きりたにゆうたはただ一人スラム街を歩いていた。今亡き海王トリトンの子である人魚五姉妹の末子すえこでかつ『女神の末裔』とも呼ばれたマリエル……エレイナ・ヴィーナスを謎の男に引き渡した今、その男から礼として新たな武器を貰うために、アジトのあるこの惑星に来ている。

「……黒神大蛇は俺が殺す。これだけは誰にも譲れない。そしてそのためにはを蘇らせなければ……!」

 気づいたらもう目の前に巨大な倉庫のような建物が待ち構えていた。ここが恐らく、あの仮面男のアジトであり、『あれ』を蘇らせるための武器が眠る場所なのだ。もう、この手に収まる時は近い。そんな期待で胸を膨らませながら、優羽汰はアジトの門を開けた。目の前に待っていたのは、あの仮面男であった。

「桐谷か」
「例のあれを貰いに来た。エレイナを渡したお礼と言っていたあれだ」
「待ってろ」

 仮面男はポケットに手を突っ込んだまま積み上げられた武器やアクセサリー等の山へと歩いた。そこから細長い古びた箱を取り出す。右手で軽く埃を払いながら優羽汰に向かって投げ飛ばした。

「っ……!」
「これが例のあれだ。名は『竜蝕剣ジーク』。かつて竜殺しジークフリートが使っていたバルムンクの剣をデータを基に一本のなまくら刀にその全てを落とし込んだ、『竜葬の刀』だ。あとは好きに使え」 

 古びた箱から紫の鞘袋が出てきた。そこから本体を抜き、鞘から刀身を抜く。見た目は普通の刀だが、思ったより短い。やはり、あれを蘇らせる『鍵』でしかないからか。

「……お望み通り、好きに使わせてもらう」

 仮面男がその場を去っていくのを見た直後、優羽汰は刀を鞘に納め、腰に帯刀させる。鞘袋は箱に入れてアジトの山に投げた。そして札幌に帰るためにまた足を進めた。

「黒神……お前が北条に復讐するように、俺もお前に復讐する時が来たようだな……!」

 無論、この男が何のためにこの復讐を果たそうとしているかなど本人以外誰も知らない。対して、既にハロウィン戦争が終わった事は、彼のみが知らず――



『廃無の惑星』テューレル 謎のアジト――

 今から約30分前に優羽汰が入っていったアジトの隣にある倉庫で、透明な結界に全身を拘束された状態でエレイナが封印されていた。
「んんんっ――!!」
「おいおい、どんだけわめいたっては帰ってこねぇぜお嬢ちゃん。でも安心しろよ、家族達を殺した奴はもうとっくに死んだとよ」
「んんっ……! んんんっ!!!」

 必死に抵抗しようとしても、全身を縛る電気の糸が更にエレイナを苦しめる。

「おいロッゾ! そろそろ任務だぜ!!」

 入り口の方から男の仲間が呼び掛け、エレイナの監視をしていたロッゾという男もすっと立ち上がる。

「ようやくか……大人しく待ってなお嬢ちゃん、今から俺達はからよぉ」
「んんっ――!!」

 止めないとと思って必死に動いても動かせない。このままじゃ大蛇君達が危ない。でも何も出来ない。今の私じゃ彼らの先に待ち受ける絶望変える事は出来ない。

「んんんんっ!!!!」

 全身に流れる電流の痛みに耐えながら拘束を解こうとしている最中にも、ロッゾは禍々しい細剣を背中に背負って入り口の方に走っていった。

(皆……どうか無事でいて。もう二度とあんな光景見たくないっ!!)

 その心の叫びは、ただ拘束に苦しむ喚き声にしかならなかった――
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