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第七章 千夜聖戦・斬曲編
第二百六話「秘匿任務開始」
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秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
犠牲者:0名
俺は凪沙さんがいつもの姿に戻ってくれることを信じて休憩室を後にし、雛乃さんを探すべく走ろうと思った。しかしその直後、ふと左を向くとそこには白衣を着た青年が腕組みをしながら壁にもたれていた。先程休憩室で俺が行ったのと同じように。
「――凪沙ちゃんに言ったんだね。君の正体」
「……!」
偶然会ってすぐに衝撃的な一言を突かれた。まるで前から俺がここに転生してきたのを知っているかのような言い方だ。
「……まさかずっとここにいたのか」
「まさか。全く、僕はストーカーじゃないんだから。君の事は父から色々教えられたからね」
「父……か」
マヤネーン博士の父。そう、過去に俺とアレスを養っていたアズレーン博士だ。あの遊園地事件からこの世界に転生してから一度もアズレーン博士の行方は分からないままだ。
「あれからあの人はどこにいるんだ……」
「……大蛇君?」
「あっ、いや、何でもない。ただの独り言だ」
急に博士に呼ばれ、俺は咄嗟に何事もなかったかのように口を滑らせる。そしてそのまま話題を変える事だけに頭を回転させる。
「……それで、雛乃さんはどこに?」
「あぁそういえばひなのんも大蛇君を探していたよ。それも『仲良くしたいのに逃げられちゃった~!!』って、泣きながら僕に君がどこにいるか聞かれたよ」
「ちっ、俺が一方的に悪いみたいな言い方しやがってあの野郎……」
少しはお前の積極的すぎる性格にも原因あることを自覚しろよ!!
……って叫びそうになったのを何とか止める。そこまで言ってしまったらこれからの秘匿任務を気まずい空気の中行うことになる。それだけは勘弁だ。
「……まぁいいや。今からひなのんにここに来るように連絡しておくね」
そう言って博士は白衣の右ポケットから携帯電話を取り出した。だが、それと同時にこちらに手を振りながら走っていく女性の姿が見えた。
「お~い! 探したよ大蛇君~!!」
「……博士、もう連絡の必要なくなったぞ」
「んっ!? あぁ、ひなのん! よくここが分かったね」
「うん! 途中で大蛇君の大きな声がここら辺から聞こえたし!」
「…………」
あぁ、落ち込んでた凪沙さんと休憩室にいた時か。先輩に向かって少し怒ったからまたしばらく落ち込んでいるんじゃ……って、それ今さっきの事じゃね??
「雛乃、お前まさか最初から俺がここにいるの知ってて……」
「っ!? ……て、てへっ☆」
雛乃さんが照れながら少し舌を出して笑う。その『可愛さでこの非道を許してもらおう』的な行動を俺は完全にスルーし、容赦ない言葉を突きつける。
「……博士、この人ほんとにアイドルなのか? 他人を勝手にファン扱いする挙句尾行するアイドルとか終わってる」
「がっ――!!」
博士の前で言い放った罵倒で、雛乃さんはショックのあまりその場でしゃがみ込んだ。
「……大蛇君、女の子の心は案外脆いんだよ」
博士はショックで落ち込んだ雛乃さんを慰めながら若干紳士的な言葉を放った。若干と言ったのは博士を紳士だと思いたくない自分がいたからだ。
「うぅ……そうだよぉ! 君は少し女心を学んだ方がいいと思うよぉ!! モテないよそんなんじゃああ!!」
「知った事かよ……」
ついでに雛乃さんも仕返しのつもりか、俺に鋭い言葉の刃を突きつけた。しかし俺はそれを素っ気なく返す。
「ねぇこの人冷たいよ~! これから2人で秘匿任務なんて出来るか心配だよぉ~!!」
「大丈夫だよ、大蛇君は普段は素っ気ないし可愛気も無いけど優しい子だよ」
「……ほんとに?」
「あぁ見えてお人好しだからね。常に仲間や他人を最優先に考えてるし。でもその分自己犠牲が強いからしっかり見てあげてね」
「そう、なんだ……」
その直後、博士がこちらを向いて『やってやったぞ!』と言わんばかりに笑顔で親指を立てた。
「……おい、何吹き込んでやがる」
「何って、そりゃあ影に隠れて消えかけた君の本質だよ」
「は……!?」
「さっ、二人共転送装置に行って! 早くしないとエレイナちゃんを取り返せないよ!!」
結局博士の言っている事が理解出来ないまま、俺と雛乃さんは博士に背中を押されながら転送装置のある場所へと向かった。
(それにしても、エレイナをこうして奪ったということは前にあった人魚四姉妹の一斉自殺事件とも何かしら関係がありそうだ。そう考えれば秘匿任務というのも好都合……か)
全ては時を超えて愛し続けた唯一人の女神を救うため。最愛の運命を閉ざす俺の宿命を変えるため。
こうして俺――黒神大蛇は未知に満ちた新たな戦いに身を乗り出す事になった。
遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃
犠牲者:0名
俺は凪沙さんがいつもの姿に戻ってくれることを信じて休憩室を後にし、雛乃さんを探すべく走ろうと思った。しかしその直後、ふと左を向くとそこには白衣を着た青年が腕組みをしながら壁にもたれていた。先程休憩室で俺が行ったのと同じように。
「――凪沙ちゃんに言ったんだね。君の正体」
「……!」
偶然会ってすぐに衝撃的な一言を突かれた。まるで前から俺がここに転生してきたのを知っているかのような言い方だ。
「……まさかずっとここにいたのか」
「まさか。全く、僕はストーカーじゃないんだから。君の事は父から色々教えられたからね」
「父……か」
マヤネーン博士の父。そう、過去に俺とアレスを養っていたアズレーン博士だ。あの遊園地事件からこの世界に転生してから一度もアズレーン博士の行方は分からないままだ。
「あれからあの人はどこにいるんだ……」
「……大蛇君?」
「あっ、いや、何でもない。ただの独り言だ」
急に博士に呼ばれ、俺は咄嗟に何事もなかったかのように口を滑らせる。そしてそのまま話題を変える事だけに頭を回転させる。
「……それで、雛乃さんはどこに?」
「あぁそういえばひなのんも大蛇君を探していたよ。それも『仲良くしたいのに逃げられちゃった~!!』って、泣きながら僕に君がどこにいるか聞かれたよ」
「ちっ、俺が一方的に悪いみたいな言い方しやがってあの野郎……」
少しはお前の積極的すぎる性格にも原因あることを自覚しろよ!!
……って叫びそうになったのを何とか止める。そこまで言ってしまったらこれからの秘匿任務を気まずい空気の中行うことになる。それだけは勘弁だ。
「……まぁいいや。今からひなのんにここに来るように連絡しておくね」
そう言って博士は白衣の右ポケットから携帯電話を取り出した。だが、それと同時にこちらに手を振りながら走っていく女性の姿が見えた。
「お~い! 探したよ大蛇君~!!」
「……博士、もう連絡の必要なくなったぞ」
「んっ!? あぁ、ひなのん! よくここが分かったね」
「うん! 途中で大蛇君の大きな声がここら辺から聞こえたし!」
「…………」
あぁ、落ち込んでた凪沙さんと休憩室にいた時か。先輩に向かって少し怒ったからまたしばらく落ち込んでいるんじゃ……って、それ今さっきの事じゃね??
「雛乃、お前まさか最初から俺がここにいるの知ってて……」
「っ!? ……て、てへっ☆」
雛乃さんが照れながら少し舌を出して笑う。その『可愛さでこの非道を許してもらおう』的な行動を俺は完全にスルーし、容赦ない言葉を突きつける。
「……博士、この人ほんとにアイドルなのか? 他人を勝手にファン扱いする挙句尾行するアイドルとか終わってる」
「がっ――!!」
博士の前で言い放った罵倒で、雛乃さんはショックのあまりその場でしゃがみ込んだ。
「……大蛇君、女の子の心は案外脆いんだよ」
博士はショックで落ち込んだ雛乃さんを慰めながら若干紳士的な言葉を放った。若干と言ったのは博士を紳士だと思いたくない自分がいたからだ。
「うぅ……そうだよぉ! 君は少し女心を学んだ方がいいと思うよぉ!! モテないよそんなんじゃああ!!」
「知った事かよ……」
ついでに雛乃さんも仕返しのつもりか、俺に鋭い言葉の刃を突きつけた。しかし俺はそれを素っ気なく返す。
「ねぇこの人冷たいよ~! これから2人で秘匿任務なんて出来るか心配だよぉ~!!」
「大丈夫だよ、大蛇君は普段は素っ気ないし可愛気も無いけど優しい子だよ」
「……ほんとに?」
「あぁ見えてお人好しだからね。常に仲間や他人を最優先に考えてるし。でもその分自己犠牲が強いからしっかり見てあげてね」
「そう、なんだ……」
その直後、博士がこちらを向いて『やってやったぞ!』と言わんばかりに笑顔で親指を立てた。
「……おい、何吹き込んでやがる」
「何って、そりゃあ影に隠れて消えかけた君の本質だよ」
「は……!?」
「さっ、二人共転送装置に行って! 早くしないとエレイナちゃんを取り返せないよ!!」
結局博士の言っている事が理解出来ないまま、俺と雛乃さんは博士に背中を押されながら転送装置のある場所へと向かった。
(それにしても、エレイナをこうして奪ったということは前にあった人魚四姉妹の一斉自殺事件とも何かしら関係がありそうだ。そう考えれば秘匿任務というのも好都合……か)
全ては時を超えて愛し続けた唯一人の女神を救うため。最愛の運命を閉ざす俺の宿命を変えるため。
こうして俺――黒神大蛇は未知に満ちた新たな戦いに身を乗り出す事になった。
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