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第七章 千夜聖戦・斬曲編

第二百三話「確定した未来へ」

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「はっ――!?」

 ふと、目が覚めた。周りにはミスリア先生とマヤネーン博士の姿が見えた。きっと俺をこの病院に運んではしばらく面倒を見てくれていたのだろう。俺が青い患者服を着ているのが何よりの証拠だ。

 状況理解をしている間に、突如扉が開くと同時に足音が近づいていくのを感じた。

 その直後――

「良かった……! 無事で良かっだぁ……!!」
「ちょっと凪沙、君も彼も酷い怪我してるんだからねっ!」

 起きてすぐ、凪沙さんが抱き着いてきた。よっぽど俺の心配したのか、はたまた別の理由か……

「大蛇君、とりあえず君が無事で良かった。それより緊急事態だ、皆も話だけでも聞いてほしい」
「は……?」

 こんなタイミングで今度は何が起きているんだ、と思っている最中に博士の口が開く。

「――エレイナちゃんが、何者かの手に奪われた。返してほしければ12月25日にネフティス総員で力ずくで奪い返しに来い。さもなければ『女神の末裔』……エレイナちゃんの命は無い……というメッセージを残して……ね」
「っ――!?」
「えっ……!」

 俺と凪沙さんが思わず息を呑む。

(エレイナが奪われたっ!? どういうことだ。エレイナは亜玲澄達と行動を共にしていたはずじゃ……!)

 ……いや、それもそうだが何よりも――

【――西暦2005年12月25日、お前の悲劇が再び訪れる。今もまた、それと同じような悲劇が待ち受けている。これは薄っぺらい予知なのでは無く、のようなものだ】
(……まさか、あれが正夢になるとはな。となると冗談抜きで『俺がエレイナを殺す未来』を変える方法を考えないといけない。一体どうすれば……!)



「大丈夫、それまでにエレイナを殺したりはしないと言っている。だがしかし、何よりやばいのはそこじゃない……エレイナちゃんが奪われた以上、このネフティスの中にがいる! それも北条や蒼乃ちゃんとはまた別人のね」
「嘘でしょ……」
「ちっ……!」
(俺の運命を歪ませた元凶ともいえる北条を倒したというのに、何でこうなる一方なんだ……!)

 これはつまり、他に俺の運命を歪ませる存在がいるという事だ。それも北条同様、このネフティスの中に……

「今すぐその裏切り者を見つけてエレイナを助けねぇとっ……!」
「ダメだよ、オロチ君。今は安静にしておくこと。この事は治してからだよ」

 ミスリア先生に正論中の正論を突かれ、俺は返す言葉も無かった。そんな中話題を変えようとマヤネーン博士が口を開こうとしたその時、勢いよく扉が開く音が聞こえた。

「ねぇ、彼無事っ!!?」
「あ、雛乃ちゃん!」
「彼って、この子の事?」

 ミスリア先生が俺を指差し、ピンク髪の少女はうんと頷きながら俺のいるベッドまで駆けつけた。

「良かった……! 亜玲澄君達、君の事心配してたから」
「亜玲澄がっ!?」
「うん、亜玲澄君も正義君も酷い怪我だけど息はしてる。これから長期間、治療に専念することになるだろうけどね」
「……そう、ですか」

 良かった。俺としてもあいつらが何より心配だった。何せ俺のために時間稼ぎとしてあの機神鈴白と北条と対峙してくれたのだから。

「大したものだ……」

 あれほどの規模に及んだ戦いで常に俺の近くにいた仲間達が死ぬ事なく乗り越えた。過去では絶対こんな事は起こらなかった。これだけでもかなり運命を変えられたと思う。

 ここまでは順調に本来の未来から遠ざかっている。あとはエレイナを無事に奪還し、裏切り者を倒せば俺の望む平和な未来が実現する……!

(アカネ……あともう少しで約束を果たせるぞ)

 そのために、まずはいち早く怪我を治すべく左手を胸に当てて回復魔法をかけながらしばらく横になった。

 そんな俺の横にある丸椅子に座っている雛乃さんはふと俺の名を呼んだが、途中で止めた。

「……寝ちゃったのかな」
「雛乃ちゃん、話しかけたい気持ちも分かるけど、この戦いで彼が一番疲れてるだろうさ。だから少し寝かせてあげよう」
「起きたら私が話す機会作るからさ、ほら、私達も疲れたから休も?」
「……うん、そうだね。ありがと、凪沙ちゃん」

 雛乃さんは博士と凪沙さんににこりと微笑みながら礼を言い、凪沙さんと共に病室から去っていった。

「……ミスリア先生、ここ頼めるかい? 亜玲澄君達の様子を確認したい」
「悪いね、私も生徒達の様態をこの目で見ないといけなくてね。多くの生徒を犠牲にしてしまったせめてもの責任を果たさなくては」
「……じゃあ、今は一人にしてあげますか」
「むしろそっちの方が彼的にもありがたいのかもしれないしね」

 そしてとうとう、病室から俺以外の人間がいなくなった。しばらくして照明がふっと消えた。回復魔法の光がより明るく感じた。

「……」

 しかし、僅かに回復した魔力がすぐに尽き果て、緑の光が徐々に消えていくと共に再び眠りについた。

 ……この時の俺は知る由も無かった。さっき見たあの刀が出てきた夢が、徐々に正夢となりかけているという事を――
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