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第五話「人殺し」
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苦痛を乗り越え、身体をボロボロにしながらも何とか耐え抜いた。力尽きたのか、勝手に俺の身体が脱力し、自然と右膝を突いてしまう。
その時、今まで声だけだったヤマタノオロチがとうとう姿を現した。
巨大な身体に八つの首がある。想像通りの『ヤマタノオロチ』そのものだ。
実質死にかけの大蛇でさえも分かりやすい特徴をしている。
「やはりお前は想像通り……いや、想像以上の存在だ。闇に呑まれる事無く禁忌魔法を宿せたのだからな」
「これで宿せたのか……、禁忌魔法……」
「今お前に宿された禁忌魔法『黒光無象』は、数ある禁忌魔法の中でも最強と呼ばれるものだ。今だ竜族しか習得していない禁忌魔法だ」
「この……身体に……」
「この『黒光無象』の能力は、過去の記憶をフラッシュバックさせたり、それを『具幻化』させて幻に閉じ込めたり出来る。
更に、幻諸共肉体及び精神を破壊する事が出来る」
「そんな……危険な魔法を……、俺……にぃ……っ」
「おいお前、こんなところで死ぬのか。無様にも程があるぞ。折角最強の禁忌魔法を習得したものを……」
いや、俺をこんな目にさせたの誰だよ。
ただでさえ魔法使えないのに、勝手に危ない魔法の中の一番やばい奴取り込ませるとか
どんな不条理だよ。
「ちっ、ちょっと待ってろ……『癒天之旋律』」
ヤマタノオロチは死にかけの俺に向かって八つの首でよく分からない魔法を唱えた。
刹那、霞んだ視界に暖かい緑の光が差し込む。それは木漏れ日の如く大蛇の全身を暖める。
暖かい。次第に視界が広がる。痛みが癒えていく。
右腕から飛び出た剣も全て塵となって消え、空いた傷口を光が優しく照らし癒やしていく。右腕の痛みが完全に消えた。
右の白目から流れる血も止まり、あれだけボロボロだった身体が今では傷一つも無い。
光に全身を預けていると、いつの間にか寒気を感じた。目の前にはヤマタノオロチがいる。
「全く、危なかったな。こんな所で死んだら元も子もないぞ」
「はぁ……もう少し身体に負担が掛からない魔法は無かったのか」
「八岐大蛇、俺はお前にしかこの禁忌魔法を託せられないんだ。
家族のために恋人を殺し、永遠に続くはずだった愛の物語を終わらせたおかげで、俺は『裏切りの英雄』として永久に伝えられている。それをお前が変えろ。
間違いなくこれは……この俺の生涯は『必ずやそう仕向けられるように創られている』紛い物……世に言う宿命というものだ。そんな物を歴史に刻んではいけない。
俺の全てをお前に託した。後はお前が頼む。その禁忌魔法で、運命の歯車を正せ」
そう言い残すと、ヤマタノオロチは白い背景と同化して消えた。
「歯車を正す、か……」
俺自身もこの幻から消える感覚がした。やっと戻れる。まだまだ智優美さんに聞きたいことが山ほどあるのだ。
だが、今後やることは決まった。
どうやら俺やエレイナ、アレスとの思い出も全部創られたものらしい。しかも、どんな選択をしても必ず悲惨な死を遂げるように創られている。
誰がそれをしているかは分からないが。
とりあえず、そいつをこの禁忌魔法で倒す。それが今の俺に課せられた任務だ。
この『創られた運命』に抗い、名前も姿も分からない創造者を殺すと心に誓い、俺は幻から目を覚ます。
血で彩られた赤色はとっくに消えていた――
「はっ――!?」
突然目を覚ます。というより戻ってきた。先程来たばかりの職務室に、何故か安心感を抱く。
ふと両手が握られているのに気付き、見てみると、俺の両手を強く握りしめながら大粒の涙を流す智優美さんの姿があった。
「おっ君……!」
「智優美さん、心配かけて申し訳無いのですが、まだ職務質問の続き終わってませんよ?」
刹那、智優美さんは身体を思い切り震わせる。何か気に触るような事をしただろうか。
そして何故だか分からないが、智優美さんの右手がべったり濡れている感じがした。手汗だろうか。
そう思っているのも束の間だった。智優美さんは俺を化け物を見るような目で答えてきた。
「……こんな状況で、職務質問出来ると思ってるの?」
「は……?」
いきなりそう言われたのでふと周囲を見渡す。
「えっ……」
思いがけない事が起きていた。職務室周辺には血痕が至る所についてあった。床には大量の血の池が白い床を染めている。足元を見てみると、そこも血の池だった。
「なんだよ……これ……!!!」
入口付近から至る所に、青い手術着を着た人達の死体が転がっていた。恐らくネフティスの治療部隊の人達だろう。
「っ……!?」
俺が意識を失ってから一体何があったのだ。まさか、襲われたのか? 何かしらの反社会組織に。
「知らないような顔、しないでよ……おっ君」
「へっ……?」
智優美さん。まさかとは言わないけど、職務室がこんなに血まみれになってるのって……
「おっ君だよ……全部、おっ君が殺したんだよ……っ!!」
「何だとっ……!?」
意味が分からない。俺が殺した? 頭痛で苦しんでいたのに、人を殺す余裕なんて無かったが……
状況を理解しきれていない俺に、智優美さんは恐怖と怒りを混ぜたような表情をしてこう言い放った。
「おっ君の……人殺しっ!!」
その時、今まで声だけだったヤマタノオロチがとうとう姿を現した。
巨大な身体に八つの首がある。想像通りの『ヤマタノオロチ』そのものだ。
実質死にかけの大蛇でさえも分かりやすい特徴をしている。
「やはりお前は想像通り……いや、想像以上の存在だ。闇に呑まれる事無く禁忌魔法を宿せたのだからな」
「これで宿せたのか……、禁忌魔法……」
「今お前に宿された禁忌魔法『黒光無象』は、数ある禁忌魔法の中でも最強と呼ばれるものだ。今だ竜族しか習得していない禁忌魔法だ」
「この……身体に……」
「この『黒光無象』の能力は、過去の記憶をフラッシュバックさせたり、それを『具幻化』させて幻に閉じ込めたり出来る。
更に、幻諸共肉体及び精神を破壊する事が出来る」
「そんな……危険な魔法を……、俺……にぃ……っ」
「おいお前、こんなところで死ぬのか。無様にも程があるぞ。折角最強の禁忌魔法を習得したものを……」
いや、俺をこんな目にさせたの誰だよ。
ただでさえ魔法使えないのに、勝手に危ない魔法の中の一番やばい奴取り込ませるとか
どんな不条理だよ。
「ちっ、ちょっと待ってろ……『癒天之旋律』」
ヤマタノオロチは死にかけの俺に向かって八つの首でよく分からない魔法を唱えた。
刹那、霞んだ視界に暖かい緑の光が差し込む。それは木漏れ日の如く大蛇の全身を暖める。
暖かい。次第に視界が広がる。痛みが癒えていく。
右腕から飛び出た剣も全て塵となって消え、空いた傷口を光が優しく照らし癒やしていく。右腕の痛みが完全に消えた。
右の白目から流れる血も止まり、あれだけボロボロだった身体が今では傷一つも無い。
光に全身を預けていると、いつの間にか寒気を感じた。目の前にはヤマタノオロチがいる。
「全く、危なかったな。こんな所で死んだら元も子もないぞ」
「はぁ……もう少し身体に負担が掛からない魔法は無かったのか」
「八岐大蛇、俺はお前にしかこの禁忌魔法を託せられないんだ。
家族のために恋人を殺し、永遠に続くはずだった愛の物語を終わらせたおかげで、俺は『裏切りの英雄』として永久に伝えられている。それをお前が変えろ。
間違いなくこれは……この俺の生涯は『必ずやそう仕向けられるように創られている』紛い物……世に言う宿命というものだ。そんな物を歴史に刻んではいけない。
俺の全てをお前に託した。後はお前が頼む。その禁忌魔法で、運命の歯車を正せ」
そう言い残すと、ヤマタノオロチは白い背景と同化して消えた。
「歯車を正す、か……」
俺自身もこの幻から消える感覚がした。やっと戻れる。まだまだ智優美さんに聞きたいことが山ほどあるのだ。
だが、今後やることは決まった。
どうやら俺やエレイナ、アレスとの思い出も全部創られたものらしい。しかも、どんな選択をしても必ず悲惨な死を遂げるように創られている。
誰がそれをしているかは分からないが。
とりあえず、そいつをこの禁忌魔法で倒す。それが今の俺に課せられた任務だ。
この『創られた運命』に抗い、名前も姿も分からない創造者を殺すと心に誓い、俺は幻から目を覚ます。
血で彩られた赤色はとっくに消えていた――
「はっ――!?」
突然目を覚ます。というより戻ってきた。先程来たばかりの職務室に、何故か安心感を抱く。
ふと両手が握られているのに気付き、見てみると、俺の両手を強く握りしめながら大粒の涙を流す智優美さんの姿があった。
「おっ君……!」
「智優美さん、心配かけて申し訳無いのですが、まだ職務質問の続き終わってませんよ?」
刹那、智優美さんは身体を思い切り震わせる。何か気に触るような事をしただろうか。
そして何故だか分からないが、智優美さんの右手がべったり濡れている感じがした。手汗だろうか。
そう思っているのも束の間だった。智優美さんは俺を化け物を見るような目で答えてきた。
「……こんな状況で、職務質問出来ると思ってるの?」
「は……?」
いきなりそう言われたのでふと周囲を見渡す。
「えっ……」
思いがけない事が起きていた。職務室周辺には血痕が至る所についてあった。床には大量の血の池が白い床を染めている。足元を見てみると、そこも血の池だった。
「なんだよ……これ……!!!」
入口付近から至る所に、青い手術着を着た人達の死体が転がっていた。恐らくネフティスの治療部隊の人達だろう。
「っ……!?」
俺が意識を失ってから一体何があったのだ。まさか、襲われたのか? 何かしらの反社会組織に。
「知らないような顔、しないでよ……おっ君」
「へっ……?」
智優美さん。まさかとは言わないけど、職務室がこんなに血まみれになってるのって……
「おっ君だよ……全部、おっ君が殺したんだよ……っ!!」
「何だとっ……!?」
意味が分からない。俺が殺した? 頭痛で苦しんでいたのに、人を殺す余裕なんて無かったが……
状況を理解しきれていない俺に、智優美さんは恐怖と怒りを混ぜたような表情をしてこう言い放った。
「おっ君の……人殺しっ!!」
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