黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui

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第四話「過ちの対価(下)」

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 痛い。苦しい。辛い。あらゆる負の感情が俺の全身をきつく締めようとしてくる。

「がっ……!! ぁぁぁあああっ!!」
『耐えろ。耐えなければそのまま闇に呑まれるぞ』
「くそっ……首を焼かれた次は闇に呑まれるのか!!」

 左手で右腕を支える。腕の先に気持ち悪い5本の物体の使い方が分からないが、とりあえず力を入れる。
 あとそろそろこいつの名前も覚えなければ。

「くっ……ぉぉぉおおおおっ!!!」
『その意気だ。だが決して油断するなよ』

 右腕から肩へ、そして胸を通って全身に闇が伝わる。
 とても気持ち悪い。まるで腐敗した血がドロドロと全身をむしばむかのような感触だ。

「がっ……ぁぁあああっ!!!」

 右腕に激痛が走る。見てみると、右腕から一本の剣の刃が飛び出していた。赤い鮮血を飛ばしながら一本、また一本と剣が飛び出てくる。

「ぁぁぁああああっ!!!!」
『その程度耐えろ! その剣はお主の罪を断ち切る剣……「罪狩剣ギルティレイン」。
 過ちを力にするためには、その過ちを刃として俺の未来を担うお前が受け入れなければならないのだ!!』
「くっ……くそぉぉぉおおおっ!!!!!」

 負けてたまるか。こんな剣如きに。何本でも来やがれ。これで俺の過ちを償えるなら軽いものだ。どんと来い。

「がぁぁぁぁあああああああっ!!!!!」

 右腕が無数の剣で見えなくなる。気づかぬうちに右腕の感覚が痛みで消えていく。

「くそっ……こうなったら右腕一本くれてやる!!」

 どの道この闇を全て取り込んでも、この右腕は使い物にすらならないだろう。
 はぁ……、まだこの腕をまともに使ってないのに早速失うことになるのか。左腕だけじゃ今後生きられそうにないな。

 だが、そんな事を考えるのはまだ早い。
 とりあえず早く禁忌魔法とやらを手に入れて、智優美さんの職務質問の続きをしなくては。

 ――このから抜け出さなくては。

「ぉぉぉぉおおおおああああっっ!!!!」

 感覚が無い右腕にありったけの力を込める。
 闇の速度が今よりも早く感じた。精神も狂いそうになる。闇に蝕まれる。

 だがこれでいい。むしろもっと寄越せ。

「おい……、俺はこんなんじゃ満足しねぇぞ……」

 右眼から温かい涙が流れるのを感じる。口元を通ったので少し舐めてみると、鉄の味がした。

「俺の身体全部寄越してやるから……、
 さっさと全部入ってこいよっ……!!!」
『ここまで取り込めるとはな……。 流石はヤマタノオロチである俺の未来を担う者だ。 だが少しでも気を抜いたら闇に殺されるぞ』

 知っている。そんなの分かっている。

 右腕からまた剣が飛び出てくる。痛みなど知ったものか。過ちを償えるなら全部背負ってやる。それが俺の新しい生き方だ。

「おい……、遠慮なんかしてねぇで早く俺のものになれよ……」

 痛みが感じられなくなった今、俺はただ、禁忌という名の強靭な力をただ求めていた。

 これで、罪を償えるならどうなってもいい。これを期に家族に、アレスに、エレイナに謝る事ができるならそれでいい。

 そして今度こそは裏切らない。この命を以て守り切る。そのための俺であり、俺が犯した『過ち』の償い方だ。
 この禁忌魔法は、そんな過ちの対価に過ぎないのだから。

「がっ……!!」

 無数の剣が肩にまで飛び出してくる。支えてる左手にも突き刺さる。
 これで左手が離せなくなった。後はこのまま耐えるしかない。

「早く……寄越せっ……!!!」

 刹那、禍々しい球体から更に勢いを増して闇が全身を蝕む。視界が黒く染まる。
 闇の力で右腕の骨が悲鳴を上げる。飛び出してきた剣の先が塵となって砕け散る。右腕から流れる血が右の頬に付く。

「まだ隠してんだろ……、一つ残らず取り込んでやるからさっさと狭い空間から飛び込んで来いよ……!」

 ビキッと右腕の骨が砕ける音はしなかったが、痛みとなって直接響いた。そんなボロボロの右腕から容赦なく剣が飛び出していく。

 今の右腕はまるで金棒や釘バットに似たものと化している。


「っ……!!」
『想定外だ……。これほどまで禁忌を取り入れても耐えられているとはな。
 こやつなら、なんてものをを変える事も出来るかもしれないからな……。
 使を、きっとこの青年なら果たしてくれるだろう』

「構わねぇよ……、お前を丸ごと取り込んでやるがらっ……ぐっ……!!
 俺に付いたかせ……早く外せ……!!」

 途端、全身が闇に染まった。外から見ても今の俺は影でしかないだろう。
 だがそんな事は気にするまでもない。そろそろ全て取り込められる。球体に溜まった全ての闇を。

 また過去の記憶がフラッシュバックされる。その度に無数の剣が俺の身体を襲う。

「おい、ラストスパートだ……。最後くらい派手に喰えよ……!!」

 禍々しい球体はそれに応えたのか、球体自身が闇の流星となり、大蛇の身体を右腕から喰らい尽くすように飲み込んでいく。

「ぁぁぁぁぁぁああああああああっっっ!!!!!!!!」


 ――ついに、闇は一人の精霊の身体に取り込まれた。

 かざしたボロボロの右腕から徐々に精霊を覆う闇から肌があらわになる。

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」


 取り込んだ後から一気に力が抜け落ち、ボロボロの右腕が剣の重さで落ちる。
 幸い腕は持ってかれていないようだ。骨は折れているが。


「がっ……!! がぁぁっ……!!!」

 刹那、今まで感じたことのない痛みが一気に全身を襲った。大蛇は思わず倒れ込む。

 真っ白い空間キャンバスを赤い血と黒い精霊が彩る。視界が霞む。全身の感覚が消えていく――
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