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間章 Episode of 0

第三話「過ちの対価(中)」

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 あらすじ

 俺――八岐大蛇やまたのおろちは、目覚める前まで治療をしてくれていた『ネフティス』と呼ばれる機関の本部長である錦野智優美にしきのちゆみに職務質問をされる。
 そこで俺の過去のことについて話してほしいと言われたので、話そうとしたその時、今までの記憶がフラッシュバックし、共に激しい頭痛が俺を襲った。

 その痛みは過ちへの罰か。それとも未来の対価か――



「おっ君! しっかりしてっ!!」

 徐々に視界が霞む。意識が失われていく。
 そして、俺は痛みを抱えたまま職務室の床に倒れた。

 目の前が真っ暗になった。




 ……。
 ……………。



 はぁっ……またか。 さっきもこの展開あったよな。


「がぁぁっ……ぁぁああっ!!!」

 でも、今度は感覚がちゃんとある。体の震えも、頭の痛みも感じられる。意識も元に戻った。
 なのに、視界に映るは真っ白の風景。一体これはどういう状況なのだ。

 その時、どこからか声が聞こえる。

『やはり、お前の力は尋常では無いと見た。お前になら宿せそうだ』

「ぁぁああっ……! ああぁっ……!」

 頭痛が酷すぎて何て言っているのかが分からない。
 というか、他人がこんな状況なのにいきなり話しかけてこないでほしいところだ。そもそも誰の声なんだ。

『……すまない、まだだったな。待ってろ、今すぐ解いてやろう』

 言い終わりと同時に指を鳴らす音が聞こえ、反響した。その反響に合わせて、痛みも徐々に和らいでいく。

「あぁ……、死ぬかと思った……」

『すまないな、よ』

 未来……? 一体何を言っているんだ。

「おい、どういう事だ。生憎未来の俺は人間だ」
『何を言っている。今のお前は完璧なだ。竜翼のような羽、お前の身体を巡る魔力、明らかに人間なんかではなかろう』
「は……? 精霊……!?」

 とっさに言われてふと首を後ろに回す。すると何故か、本当に竜翼のような妖精の羽が生えていた。

「人間……じゃないのかよ……!?」
『だから言っただろ。……さて、本題に移るとしよう。このままではお前の世界の者達が困るからな。
 早速だが未来の俺、即ちお前は今「禁忌魔法きんきまほう」のとして選ばれた』
「禁忌……魔法……?」

 聞いたことが無い。だが、明らかに危険な魔法であることは確かだ。禁忌という単語が入っているレベルだからな。

『特別に教えてやる。禁忌魔法とは聞いての通り、一般の魔法とはの魔法だ。それを決定づけるのはただ一つ。
 それは魔力源だ。一般の魔法では、精神力、知力、属性適応能力など様々な要素が求められる分、誰にでも習得することが出来る。
 一方で禁忌魔法は、過去に犯した過ちや罪、そして怒りといった『負の力』を魔力源としている。一般の魔法よりも簡単に習得出来ると思いがちだが、それは大きな間違いだ。
 禁忌魔法は本来それを持てる者が限られているが、それは『神』あるいは『竜』の血を持つ者だけだ。もちろんお前のような例外も存在する。
 更に禁忌魔法にはそれぞれ『適性者』が決められている。適性者にならなければ、たとえ神や竜の血が流れようとも禁忌魔法を習得出来ない。
 お前は今、その適性者に選ばれたのだ。……というか俺がんだがな』
「――!?」
 
 見知らぬ声の長ったらしい説明を聞いてようやく分かった。

 やはりあの頭痛は過去の『過ち』が引き起こしたものだったか。痛みが走る寸前、過去の出来事がフラッシュバックされたのは偶然では無かったか。
 そして、それらは全て禁忌魔法を俺に宿すためだ。どれだけ俺を適性者にしたかったのだろうか。

「……俺の過去が、その禁忌魔法とやらの魔力源と言うことか」
『然り。奇跡なことにお前の過去……いや、俺の生涯全てが魔力源となっている。四度くらい生まれ変わっても魔力が途切れる事は当分無いぞ』
「おい、本当にお前は過去の俺か?」
『当然だ。俺の名はヤマタノオロチ。お前の知っての通り「八枚舌の厄災竜」と呼ばれた頃のお前だ』
「厄災竜……俺が……?」

 信じられない。あの声の主が過去の俺というのもそうだが、何より俺自身が遥か昔に人類に厄災をもたらしたあのヤマタノオロチの血を引いている事が信じられないのだ。

『そんな事今はどうでも良い。それよりもお前に禁忌魔法を宿したいのだ。そのためにわざわざ来たからな』

 そもそも一般の魔法でさえ一度たりとも使ったこと無いし、何ならその存在すら知らない俺にその強大な魔法を宿させるとか馬鹿にも程があるだろ。


『早速だが、右手をここにかざせ』

 すると、大蛇の目の前に何やら禍々しい球体が浮かびだす。まるで小さなブラックホールのようなもので、今すぐにでも吸い込まれそうだ。

「……これにかざすのか?」

『然り。いいから早くしろ』
「はいはい……」

 あまり乗り気ではないが、とりあえず黒い球体に右手をかざす。

 刹那、球体から禍々しい闇が流星のように大蛇の右手を通って全身に流れる。

 刹那、激痛が全身をむしばんだ――
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