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第六章 ハロウィン戦争編

第二百話「終幕の代償」

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 最優先緊急任務:死器『葬無冥殺之機神鈴白ほうむめいさつのきしんすずしろ』の討伐

 遂行者:錦野蒼乃、北条銀二を除くネフティス全メンバー、アルスタリア高等学園全生徒及び教師
 犠牲者:2名


 ――この戦争の終わりと同時に、かけがえのないものを失った。大切な人を、また悲しませた。これでエレイナを守り抜くなんて出来るのだろうか。たった一人の人間すら守れないで、多くの仲間達を死の運命から守るなんて出来るのだろうか。

「……はぁ」

 こうして自分で自分を責めているが、身体がまともに動かない以上、蒼乃さんの死は運命として受け入れる他無い。本来なら俺あるいは凪沙さんが今の蒼乃さんの立場になっていたはずなのだ。つまり、俺達に降りかかったであろう死の運命を蒼乃さんが代わりに受けたとも読み取れる。

 凪沙さんという、蒼乃さんにとって何にも代えられない大切な存在を死なせないために。蒼乃さんもまた、己の宿命に抗ったのかもしれない。

「あおっ……のっ……!」

 足を引きずりながら、ゆっくりと北条が蒼乃さんのもとに近づいていく。懸命に伸ばされた左手が蒼乃さんの頬に触れようとしたその時、北条の左手が思い切り地面に落とされた。正確には誰かが北条の左手を踏み潰した。

「――数多の罪なき命をけがしたその手で来易く触れるな、愚か者」
「君……はっ……!」
「えっ……?」
「……!?」

 空から降り立って現れたその後ろ姿を見た途端、思わず目を見開いた。純白の衣服に身を包み、周りが神々しい光の粒子が輝いていた。

「――まさか君が『始祖神』だとはね……」
「不服か? まぁ貴様が消え果てる前にちょっとした慈悲とでも思うがいいさ」
 
(始祖神……名前も存在も聞いたことが無い。なのに何でだ? あの後ろ姿……)

 ――

 始祖神の正体に繋がる手がかりを掴むべく、じっとその姿を焼き付けている最中に俺はついに意識を失い、その場で倒れた。
 始祖神はただじっと北条を睨む。そしてすぐに左手から足を離し、今度は北条の頭を掴んだ。

「――がっ、ああああああ!!!」

 北条は空中に浮いた状態で目を強く見開きながら叫ぶ。

「さて、どうやって消し去って見せようか……言っておくが貴様を地獄にすら行かせるつもりは無い。永久の無に苦しませてやろう」
「あああっ……!! があああああ!!!!」
「――特別だ、貴様に最後の慈悲を与えよう。始祖の力をその身に刻め……『無天冥災ヘブンズ・ヘル』」

 掴んだ右手から太陽の如く赤い光が差し込んでは無数の線を描いては広がっていく。爆発の予兆だ。

「くっ……これだけは、忘れるなよ君達……! 私の復讐は、私と同じ意思を持った者に受け継がれ、いずれ必ず果たされる! その時が来たときは……君ごと消して見せよう、始祖神ゲ――」


 ――――――。


 光が北条の身体を飲み込むような大爆発を起こした。渋谷一帯が一気に吹き飛ばされ、街の面影すらなくなっていった。やがて爆発は俺や凪沙さん、そして渋谷にいる全員を飲み込んでいって――










 同時刻 丸山雛乃サイド――

 突如現れたスポーツカーからサーシェスという男が巨大な大剣を肩に担ぎながら、動きを封じた鈴白の方へと歩いていく。

「S'agit-il de la plus ancienne arme divine existante, transformée en arme mortelle ? Je suis ici pour vous achever.(こいつが例の『現存最古の神器』がか。早速であれだが、この俺がトドメを刺しに来たぜ)」

 何を言っているかはさっぱりだが、大剣を地面に叩きつけた瞬間に察した。あの男は鈴白にとどめの一撃を与えようとしているのだと。

「『séparation obligatoire(神断之魔刃かみたちのまじん)』!!!」

 鈴白の頭上高くまで跳んだサーシェスは、大上段に大剣を振りかぶった。そしてそのまま縦一直線に鈴白の身体を真っ二つに断ち斬った。

「がっ……がががががああああああ!!!!!」

 悶え苦しむように鈴白が爆発しながら身体を震わせる。そんな鈴白の斬られた頭部に何やら小さな紫の結界らしきものが見えた。

(これがあの怪物を動かす『核』ってことかもしれないわね……まぁどっちにしろ壊さないと倒せなさそうね!)
「皆そこから離れてっ! 頭のとこにある結界を今から私が撃ち抜く!!」

 幸い皆には聞こえたのか、全員が鈴白の元から離れる。やるなら今だ、と自分に言い聞かせながら深呼吸をする。そして弓の弦を思い切り引く。

「――私が終わらせる。この戦いの核を、必ず撃ち落とすっ!!」

 桃色の炎が弦を引く右手にまで広がる。それすら気にせず、よく狙って一撃で撃ち落とす事だけに全意識を集中させる。

「『終穿之流星ラストステラ』!!」

 そして、一筋の矢を放った。ハロウィン戦争を終わらせる、全てを撃ち抜く流れ星を。星は鈴白の『核』の中心を確実に狙い撃っては、穿った。

「――――――!!!!!」

 バチバチッと激しい音を盛大に散らしながら鈴白は再びバラバラに崩れ落ちた。その直後、火花を所々から散らしながら大爆発を起こした。

「うわっ――」
「全員、伏せ――」
「きゃあああ――!!」

 全員が吹き飛ばされる。何とか踏みとどまろうとしたその時、今度は別の場所で巨大な爆発が発生した。

「えっ、またっ――!?」

 驚く暇も無く、今度は爆風と共に爆発に飲み込まれた――――







「痛ててっ……」

 体勢を崩してビルがあったはずの空き地に倒れた私は右手で痛めた尻餅をさすりながら起き上がった。幸い今の爆発を直撃したのに生き延びた。

 ……それは良いとして、まずは皆が無事かが気になるところだ。

「みんなぁー!! 無事ぃー!! 返事してぇー!!!」

 一先ひとまず大声で叫んで皆の無事を確認する。

「それにしても、ここもう渋谷じゃないよね。建物なんて一つも無い……」

 完全に跡地と化した今の渋谷を見て、私は絶望した。たった一つの戦いがこれほどの被害を生むという事を改めて思い知らされた。これでは渋谷に住む都民は全員助からないだろう。生きていたら奇跡だ。

そんな事を考えながらふらふらと歩いていると、続々と人影が集まってきた。

「ひなのーん! 私は無事だよー!!」
「俺も無事だぜぇー! ガイル隊長も無事らしいぜ!!」
「皆ぁ! 怪我した人から先に治療部隊が回復させるからこっちに集まってぇー!!」
「良かった……皆、無事でっ……!!」

 今の今まで戦い抜いたアルスタリア学園の生徒達も全員無事だった。だがその代償も大きく、戦い始めからおよそ三分の二近くの生徒が鈴白の犠牲となってしまった。

 そんな中、サーシェスもこっちに向かって歩いていた。しかし、右肩に大きな怪我を負った赤髪の青年を担いでいた。その姿を見た途端、私は息をのんだ。

「正義君っ――!」
「……コイツハココニオイテク。オレハシゴトガノコッテルカラサキニイク」

 片言の日本語で私に言い残して、サーシェスは歩き去ってしまった。恐らく不良達の無事を確認しに行ったのだろう。……それより正義君の治療が先だ。

「ねぇ、この子……正義君の治療って出来るかな!? 酷い怪我なの、お願いできる!?」
「はい、任せてください! ……治療部隊、二手に分かれて! 片方は私と一緒に重傷者の治療をして! もう片方はそのまま怪我をした人の治療に専念して!」
「「はいっ!!」」
「……ありがと」
「お気になさらず、です!」

 治療部隊を指揮している女子生徒はにこっと笑った。そしてすぐに正義君の治療にまわった。

「凪沙ちゃん、亜玲澄君……皆も無事かな……」

 いつの間にかいなくなっていた亜玲澄君と、北条と戦っていた凪沙ちゃんの心配をしているのも束の間、スカートのポケットに入っている携帯が突然震えだした。すぐに反応し、画面を開くと、そこに一通の着信が来ていた。

『地球防衛組織ネフティス総員に告ぐ――
現在時刻午後15時13分、北条銀二、錦野蒼乃及び『葬無冥殺之機神鈴白ほうむめいさつのきしんすずしろ』の討伐を確認した。更に、被害対象である黒神大蛇の生存も確認。直ちに諸君達を一斉に救急搬送し、治療を行う。それまでその場で待機するように。

 ――これを以て任務完了とする』

「はぁ……終わったぁ……長かったなぁ」

 この先に待ち受ける課題や代償は計り知れない。でも、まずはこの戦いを終わらせ、乗り越えた英雄達に少しでも安らぎを与えてほしい……なんて、皆思っているだろうな。スペシャルライブはその後かな。

「……あっ」

 ハロウィン戦争の終わりを告げるかのように、戦場の跡地渋谷の地に白い粒子がゆっくりと降っては私の肌を少しだけひんやりと冷やした――
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