黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui

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第六章 ハロウィン戦争編

第百八十九話「懐かしい感覚」

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 最優先緊急任務:ネフティスNo.2錦野蒼乃と北条銀二の討伐及び『完全蘇生体』錦野智優美の討伐、死器『葬無冥殺之機神鈴白ほうむめいさつのきしんすずしろ』の討伐

 遂行者:錦野蒼乃、北条銀二を除くネフティス全メンバー
 犠牲者:???


 東京都渋谷区 黒神大蛇サイド――

 突如、視界が闇に覆われた。まだ洗脳されたメンバーが残っていたのかは不明だが、とりあえず俺は今最悪な展開に持ってかれている事は分かる。だからと言ってここからどうすることも出来ない。つまり俺はこれから訪れるであろう事が起こるまでじっと待つしかないのだ。

「凪沙さん、これは不味いですよ……見事にめられちゃいましたよ」
「まだ分からないでしょ。そうかもしれないけど、助け舟の可能性だってあるからね」
「何を言って……」
「もう忘れちゃったの? の事♪」

 この展開で助け舟なんか来るわけないと呟こうとした俺の口を凪沙さんが遮る。

「あの子……」

 凪沙さんが言ったその言葉を一人呟いた時、脳裏に閃光が走るかのように思い出した。

(待て……じゃあさっきのマントを翻すような音は、まさか……!)

 そのまさかに対する答えは、返事をするかのように返ってきた。

「『天廻光波ゼルクウェーブ』」
「――!!」

 少女のような声で唱えられたそれは、かつて俺が不思議に使えたであった。

(嘘だろ……何でがそれを使えるんだ!? あの時の俺しか放てなかったはずなのに……)

 瞬時に浮かんだ数多の疑問で頭を混乱させる俺と予感が的中して嬉しそうな表情を浮かべる凪沙さんを、エメラルドの光が覆いつくした。





 ――凪沙さんの姿が消え、いつの間にか唯一人呆然と突っ立っていた。

 ――――懐かしいような、そうでないような感覚がよみがえる。全てを失った際に再びそれを取り戻すかのような、不思議な感覚。

「――君が、黒神大蛇君?」
「――!!」

 背後から名を呼ばれ、ふと振り向く。すると辺り一面に黒百合の花が咲き誇り、多少雲がかっているものの、黒い空が月の光に照らされる。そして目の前に映った少女は俺の顔を見た途端、優しく微笑んだ。白い肌を対極となる黒で包んだその姿は、あの時戦った『黒花』そのものだった。

「久しぶり。私の事、覚えてる?」
「――嫌でも忘れねぇよ、『黒花』レイア・ヴィーナス」
「あら、そこまで覚えてくれているなんて嬉しいわ。それで、今あなたをあの子に呼んでもらったの」
――桐雨芽依にか」
「その通り。そしてここは私の禁忌の領域。安心して、あなたを殺す気は一切無いわ。今回はあなたに一つお願いがあって呼んだの」
「――お願い?」

 うんっと幼い少女のように頷いたレイアは、それに反する程の衝撃的なお願いを要求してきた。

「君の持ってる剣……エリミネイトを私に返してほしいの」
「は――?」
「知らなかったの? あれは元々よ。それを知らずに私と同じくらいにまであの剣を操っていたなんて……君は本当にすごいのねっ」
「いや、一度殺そうとしてきた奴に言われてもな……」
「そ、それは色々複雑な事があったの! それで、返してくれないかしら? もちろんそのお礼としてあなたの要望も聞いてあげるわ。ねっ、いいでしょ??」
「はぁ……」

 ただでさえ今こんな状態なのに簡単に武器をかつての敵に引き渡すなんて出来るわけがない。ましてや俺はもう反命剣リベリオンを失っている。今エリミネイトを元の使い手とはいえ返して、武器無しに怪我を負った状態で北条達と戦うなど無謀にも程がある。だが、そんな彼女もかつての敵とはいえ怪しい様子は一切無いように感じられる。きっとお礼とやらも『今の黒花』ならしっかりしてくれると思う。
 でもむやみに唯一の武器を手放したくない。一体どうすれば……

 必死に悩んで数分、俺の出した答えは――



「……レイア」
「……なぁに?」
「――お前の要求を呑んでやる。ただし、二つの条件を呑んでもらう。お前には色々聞きたいことが山のようにあるからな。一つはその真実を全て吐くこと。そして二つ目。今の俺には何としてでも殺さなければならない奴がいる。そのためにこの剣の力が必要だ。もしこの剣がお前の手に返るなら、その間だけでいい……俺に力を貸すことだ」

 しばらく沈黙が続く。優しい風で黒百合達が小さく揺れる。黒百合の香りが鼻の奥を突き抜けたその時、ふっと少女の笑う声が聞こえた。

「――分かったわ。あなたに全てを明かすわ。シンデレラ宮殿事件から今にかけてあなたが抱いた謎を。それと、私で良ければあなたの力になるわ。あなたの復讐を果たすために……ね?」
「……交渉成立だ」
「ふふっ、いつから交渉になったのかしら?」
「敵に不平等条約を交わすなど一切御免だからな」

 こうしてかつての敵同士による、互いの要求が成立された。

 だが、この時の俺はまだ何も分かっていなかった。黒花が語る、シンデレラ宮殿事件に隠された『裏の物語』を――
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