黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui

文字の大きさ
上 下
196 / 232
第六章 ハロウィン戦争編

第百八十二話「完全蘇生体」

しおりを挟む
 最優先緊急任務:東京都渋谷区に起きた異常事態の調査

 遂行者:ネフティス全メンバー
 犠牲者:??? 

 東京都渋谷区 黒神大蛇サイド――

 本来なら数多の高層ビルの隙間から日が差し込み、それを浴びながら凪沙さんとこの道路を走っていたはずなのに。今はもうこの大都市がスラムと化してしまっていた。これまで通りなら多くの若者が各々仮装をして、子供達は近所にお菓子を貰いに行き、ハロウィンというイベントを充実していたというのに。

「昔のこの時期は楽しかったのになぁ~。実は私、下に妹と弟が一人ずついてね……よくミイラとかそれこそジャック・オー・ランタンの仮装をして『トリックオアトリート!』って近所の家に言いながら回ってたなぁ~」
「……そうなんですね」

 まさか凪沙さんに下の兄妹がいたとは。どうりで初めて会った時から他のネフティスメンバーとは違う雰囲気を感じたわけだ。
(そんな一年に一度のイベントを、あの男は血祭りに塗り上げた。今のところどれだけ犠牲になったかすら不明だ。だがこれ以上増やす訳には行かない。一刻も速くサーシェスの言っていたを見つけなければっ……!)

「あ~あ……去年のバレンタインの時も、こんな感じだったなぁ。ここまで酷くはならなかったけど」
「……今何か言いました? 風でよく聞こえなかっt」
「ううん! 何でも無いよ! それよりこっから突っ走るからしっかり捕まっててよ!!」

 今凪沙さんが何か独り言を話しているようだったが、景色と共に少し冷たい朝の風に流れ去っていった。それを促進するかのようにバイクはより速度を上げた。

 ――が、その時だった。

「――!! 凪沙さん、止まれっ!」
「えっ――!?」

 俺の突然の指示で凪沙さんがとっさにブレーキペダルを踏んだ直後、遠くから衝撃波のようなものがバイクの前輪から後輪までを真っ二つに斬った。幸い二人の両足の下を通ったが、一気にタイヤの空気が抜け、衝撃のあまりバイクが頭から回転する。

「うわっ……!!」
「ちっ……!」

 それぞれハンドルと腰から手を離し、頭をぶつけないように受け身をとって地面に転がり落ちる。宙に浮いたバイクも勢いを保ったまま地面に落下し、エンジンから炎を勢いよく噴き出しながら爆発する。

「いてて……大蛇君大丈夫?」
「こっちは何とか……それにしても、今のは一体……」

 衝撃で痛めた身体を起き上がらせ、遠くに目を細めて見てみると、そこには信じられない光景が俺の両目に映し出されていた。

「っ……!?」
「何か見つけたの!?」
「はい……距離はありますが、栗色の長髪の人が見えます。それも、右手に剣を持っています」
「えっ……!?」

 凪沙さんも今の俺と同じように驚く。

(まさかとは言わないが、俺達の行動を妨害したのがあの人だというのか!? いや、北条側の新手が来たのか……? だが、あの人の魔力量、戦闘能力はこれまでとは比較にすらならないくらい強い。まさかあの亡霊達はあの人を呼ぶための時間稼ぎだったって事か!? なら誰が呼んだんだ? 北条は俺が殺したはず。まさかもう一人黒幕がいるのか……!?)

 ――と、あれこれ考えてるその時、俺の宿命は背後からその模範解答を出してくれた。

「――一時はどうなるかと思っていたよ、大蛇君」
「は……??」

 首元に冷たい鎌の刃がかかる。間違いない、あの亡霊のやつだ。だが明らかに口調が違う。いや、明らかにと一致していた。

 ……何でだよ。何で死んでねぇんだよ。お前はあの時殺したよな? なのに何で普通に呼吸してんだよっ……!!

「……北条ッ!!」
「何で……!? 死んだんじゃなかったの!?」
「あぁ。確かにこの世から去ったさ。。惜しかったな大蛇君。さっきの君の奥の手……いや、『禁忌逆式きんきぎゃくしき』と言うべきかな。本来内部にダメージを与える禁忌魔法を形質変化させ、一般的に呼ばれる魔法と同じ要領で外部にダメージを与える禁忌の応用術だ。君を廻獄結界に閉じ込めた時に、君はそれを使える魔術師だと知ったからな、あらかじめ私の魂を他の結界で複製させ、このように亡霊の抜け殻に私の魂を映したのさ」
「嘘だろ……じゃあ、あの時殺したお前は……」
「その通り、あれは実質偽物の私だ」
「そんなっ……!?」

 絶望した。むしろ絶望を超えて今までやってきた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。あれだけ死ぬ気で殺したあいつが偽物なのだ。しかも結界に閉じ込められている間に北条は俺の戦闘データを盗んでいた。もっと言えばベディヴィエルとの戦闘で俺がどんな戦いをするのかが知られていたとも読める。最初から俺ははめられていたのだ。北条に……宿命に。

「そうだ、君達には見せていなかったな。私のを」
「はっ……!?」

 奴の愛人? まさか再婚したのか? でも何でこんなとこで紹介するんだ?
 ……と思っていた矢先に見えたのは、さっきバイクを破壊したあの栗色の長髪の人だった。

「っ――!!!!」
「初めまして……大蛇君は『久しぶり』かな。この人は私の妻の錦野智優美だ」
「嘘でしょ……そんなの信じられないよ……」
「智優美……さんっ……!!!」
『おっ君の……人殺しっ!』
『人殺し!』
『人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し!!!!!!』

「がっ……ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

 掘り返された、過去の辛くて憎い、残酷の思い出。蒼乃さんの母親であり、北条の妻であり、そして何より過去の俺の恩人であったあの智優美さんが、何一つ表情を浮かべることなく俺をにらみつける。まるで始めから殺人兵器でしかなかったかのように。

「彼女も君たちが懸命に戦っている亡霊と同じものだ。いや……今はこう呼んでおこうか……『完全蘇生体』、と」

 『完全蘇生体』錦野智優美。かつての恩人はもはや、無慈悲に命をほうむる殺人兵器となっていた。あの時の面影など、微塵も無かった。

 そして俺は思い知らされた。今目の前にいる智優美さんこそ、俺が犯してきた過ちの制裁なのだと――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! ※本作品は他サイトでも連載中です。

婚約破棄された私の結婚は、すでに決まっていた

月山 歩
恋愛
婚約破棄され、心の整理がつかないアリスに次の日には婚約の打診をするルーク。少ししか話してない人だけど、流されるままに婚約してしまう。政略結婚って言ったけれど、こんなに優しいのはどうしてかしら?

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...