189 / 232
第六章 ハロウィン戦争編
第百七十五話「一斉乱入」
しおりを挟む
最優先緊急任務:東京都渋谷区に起きた異常事態の調査
遂行者:ネフティス全メンバー
犠牲者:???
光が夜の闇に飲まれるように消えていく。徐々に右拳を地面に突きおろしたまま一時停止している黒服の青年の姿が顕になる。
「トリック……オア……トリィィィィトォォォォォアアア!!!」
(今のを一掃したというのに早速向こうの増援か……)
俺はもうあらゆる力を一滴残さず使い切った。体力なんてとっくに無い。魔力も北条に根こそぎ奪われた。そして禁忌魔法の魔力源となる負力も、北条を倒すのに全て使った。
もう俺はやりきった。後は宿命に負ける時まで待つだけだ。それしか出来ることが無い。俺の前に敷かれたレールはこの一方通行だ。
「トリィィィィィィ!!!!」
――ごめん、エレイナ。最後の最後までお前を守る事が出来なかった。やっぱり俺には無理だったよ。人を……大切な存在を守るだなんて。
そもそも本来存在しないはずのこの世界で、最初からそんな理想が実現するわけがなかったんだ。『一度失ったものを取り戻し、守り抜く』なんてこと。数多の命を焼き尽くしてきた俺にはそんなの向いていなかった。
「…………さよならだ、エレイナ――」
そっと目を瞑る。開いた所でその先に映るのは亡霊の鋭い鎌だ。その先に希望も、理想も、未来もない。ここがもう行き止まりなのだ。
亡霊が回転しながら鎌を振り回し、勢いに乗せて上段に振りかぶる。そして風を深く裂く音と同時に鋭利な刃が俺の頭から真っ二つに斬り裂いて――
「……今だ、突撃しろ!! 回復隊は大蛇君を後ろに退かせて回復を! 私も突撃する!!!」
「会長、こっちも援護します! ……全員一斉に魔法を放て! どの属性でも構わない! とにかく放って奴らの弱点を探るぞ!!」
「頼んだぞ、銀河! ……剣血喝祭以来だな、大蛇君」
「――!!」
……刹那、この運命は大きく変わった。本来一方通行だったはずの俺の運命のレールが新たに敷かれた。「分かれ道」という名の新たな生き残る希望を。
「……今更になるが、あの時はすまなかった。この戦争を引き起こしたのも、その根端は学院祭にあり、全て私の責任だ。北条さんを黒幕と見抜けなかった挙句、我がアルスタリア学院の一生徒である君を死器という存在だけで殺そうとした。この援助はほんの僅かのお詫びだと思ってくれて構わない。当然、許してほしいとも思っていない」
本当に、今更だ。一体誰のおかげでこんな目に遭ってると思ってるんだ。でももし俺があの学校に入学していなければ、今この渋谷含め日本がどうなったか分からなかった。最初からエリミネイトが北条の手に回っていたかもしれない。
でも、そんな過去の過程などどうでもいい。それを嘆いたところで未来に光は差し込まない。復讐も果たせない。だから俺は残った力全てを振り絞って彼に言い放った。
「――過去の詫びは地獄でいくらでも聞いてやる。 だから今は……死ぬなよ、生徒会長」
言い切った直後、ついに身体の限界を迎えた。自然と背中から倒れるのを感じ、ベディヴィエルの両手に後頭部を置いたと同時に再び意識を失った。
力尽き果てて倒れた俺を歩道の一角に優しく置き、ベディヴィエルは背中の鞘からジャリィィィィンッと甲高い音を立てながら引き抜く。
「当然君に与えられた任務は果たすよ。僕を誰だと思っているんだい? 共にこの命を賭けて互角に剣を交えた好敵手ではないか。あんなハロウィンの仮装集団如きに無様に散るほど私も甘くはない!!」
ベディヴィエルは右足を後ろに引き、腰を落として剣を正面に構える。そして刹那、炎を纏ったベディヴィエルの突進が仮装集団に襲い掛かった。
「アルスタリア全生徒に告ぐ! これはこの世界に限らず、人類の存続を決める歴史に残る戦争となるだろう! 将来我々が目指すネフティスの未来が掛かっている! 私達は今、その戦いの最前線にいる……命に代えてでも、ネフティスを……人類を守るために剣を振るえ!!!!」
おおおおおおおっ!!!!! と雄叫びをあげながら生徒達は仮装亡霊集団と交戦する。
「お前ら……」
俺を生かすために、この戦争に勝つために生徒一人一人が命を賭けてハロウィンの亡霊と戦っている。全ては北条の野望を……ベディヴィエルが犯してしまった過ちの権化を止めるために。
突撃するアルスタリアの生徒達の中に、一人の黒い影が俺の横を通り抜けた。そして俺に向かって何か言っているのが何となく分かった。
「大蛇さんは、私が殺させません――」
あの剣血喝祭を共に乗り越えた『もう一人の相棒』の声で、そう言っているように感じた。
そしてその影も、ハロウィン戦争の波へと飲み込まれていった――
遂行者:ネフティス全メンバー
犠牲者:???
光が夜の闇に飲まれるように消えていく。徐々に右拳を地面に突きおろしたまま一時停止している黒服の青年の姿が顕になる。
「トリック……オア……トリィィィィトォォォォォアアア!!!」
(今のを一掃したというのに早速向こうの増援か……)
俺はもうあらゆる力を一滴残さず使い切った。体力なんてとっくに無い。魔力も北条に根こそぎ奪われた。そして禁忌魔法の魔力源となる負力も、北条を倒すのに全て使った。
もう俺はやりきった。後は宿命に負ける時まで待つだけだ。それしか出来ることが無い。俺の前に敷かれたレールはこの一方通行だ。
「トリィィィィィィ!!!!」
――ごめん、エレイナ。最後の最後までお前を守る事が出来なかった。やっぱり俺には無理だったよ。人を……大切な存在を守るだなんて。
そもそも本来存在しないはずのこの世界で、最初からそんな理想が実現するわけがなかったんだ。『一度失ったものを取り戻し、守り抜く』なんてこと。数多の命を焼き尽くしてきた俺にはそんなの向いていなかった。
「…………さよならだ、エレイナ――」
そっと目を瞑る。開いた所でその先に映るのは亡霊の鋭い鎌だ。その先に希望も、理想も、未来もない。ここがもう行き止まりなのだ。
亡霊が回転しながら鎌を振り回し、勢いに乗せて上段に振りかぶる。そして風を深く裂く音と同時に鋭利な刃が俺の頭から真っ二つに斬り裂いて――
「……今だ、突撃しろ!! 回復隊は大蛇君を後ろに退かせて回復を! 私も突撃する!!!」
「会長、こっちも援護します! ……全員一斉に魔法を放て! どの属性でも構わない! とにかく放って奴らの弱点を探るぞ!!」
「頼んだぞ、銀河! ……剣血喝祭以来だな、大蛇君」
「――!!」
……刹那、この運命は大きく変わった。本来一方通行だったはずの俺の運命のレールが新たに敷かれた。「分かれ道」という名の新たな生き残る希望を。
「……今更になるが、あの時はすまなかった。この戦争を引き起こしたのも、その根端は学院祭にあり、全て私の責任だ。北条さんを黒幕と見抜けなかった挙句、我がアルスタリア学院の一生徒である君を死器という存在だけで殺そうとした。この援助はほんの僅かのお詫びだと思ってくれて構わない。当然、許してほしいとも思っていない」
本当に、今更だ。一体誰のおかげでこんな目に遭ってると思ってるんだ。でももし俺があの学校に入学していなければ、今この渋谷含め日本がどうなったか分からなかった。最初からエリミネイトが北条の手に回っていたかもしれない。
でも、そんな過去の過程などどうでもいい。それを嘆いたところで未来に光は差し込まない。復讐も果たせない。だから俺は残った力全てを振り絞って彼に言い放った。
「――過去の詫びは地獄でいくらでも聞いてやる。 だから今は……死ぬなよ、生徒会長」
言い切った直後、ついに身体の限界を迎えた。自然と背中から倒れるのを感じ、ベディヴィエルの両手に後頭部を置いたと同時に再び意識を失った。
力尽き果てて倒れた俺を歩道の一角に優しく置き、ベディヴィエルは背中の鞘からジャリィィィィンッと甲高い音を立てながら引き抜く。
「当然君に与えられた任務は果たすよ。僕を誰だと思っているんだい? 共にこの命を賭けて互角に剣を交えた好敵手ではないか。あんなハロウィンの仮装集団如きに無様に散るほど私も甘くはない!!」
ベディヴィエルは右足を後ろに引き、腰を落として剣を正面に構える。そして刹那、炎を纏ったベディヴィエルの突進が仮装集団に襲い掛かった。
「アルスタリア全生徒に告ぐ! これはこの世界に限らず、人類の存続を決める歴史に残る戦争となるだろう! 将来我々が目指すネフティスの未来が掛かっている! 私達は今、その戦いの最前線にいる……命に代えてでも、ネフティスを……人類を守るために剣を振るえ!!!!」
おおおおおおおっ!!!!! と雄叫びをあげながら生徒達は仮装亡霊集団と交戦する。
「お前ら……」
俺を生かすために、この戦争に勝つために生徒一人一人が命を賭けてハロウィンの亡霊と戦っている。全ては北条の野望を……ベディヴィエルが犯してしまった過ちの権化を止めるために。
突撃するアルスタリアの生徒達の中に、一人の黒い影が俺の横を通り抜けた。そして俺に向かって何か言っているのが何となく分かった。
「大蛇さんは、私が殺させません――」
あの剣血喝祭を共に乗り越えた『もう一人の相棒』の声で、そう言っているように感じた。
そしてその影も、ハロウィン戦争の波へと飲み込まれていった――
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

逆行したら別人になった
弥生 桜香
ファンタジー
最後最後に性別なしの精霊は大切な人を失い、そして、自分の命も最終的に死んでしまう。
しかし、声が聞こえたと思ったら、精霊は赤子になっていた。
女の子となった元精霊の「マラカイト」は自分が過去にいる事を知るようになる。
彼女が十となり、物語が動き出す。
逆行したはずなのに、別の人生を歩むようになってしまった元精霊の物語が始まった。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

婚約者は義妹の方が大切なので、ふたりが結婚できるようにしてあげようと思います。
櫻井みこと
恋愛
侯爵家令嬢アデラの幼い頃からの婚約者であるレナードは、いつしか義妹ばかり優先するようになっていた。まだ家族になったばかりなのだから、時間が必要なのだろう。アデラはそう思って、婚約者同士のお茶会に義妹が乱入してきても、デートの約束を一方的にキャンセルされても、静かに見守っていた。
けれどある日、アデラはふたりの会話を聞いてしまう。それはアデラを蔑ろにし、ふたりで愛し合っているかのような内容の、酷いものだった。
そんなに義妹が好きなら、彼女と結婚すればいい。
そう思ったアデラは、彼らを後押しするために動き出した。
※以前掲載した短編の、長編版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる