188 / 232
第六章 ハロウィン戦争編
第百七十五話「一斉乱入」
しおりを挟む
最優先緊急任務:東京都渋谷区に起きた異常事態の調査
遂行者:ネフティス全メンバー
犠牲者:???
光が夜の闇に飲まれるように消えていく。徐々に右拳を地面に突きおろしたまま一時停止している黒服の青年の姿が顕になる。
「トリック……オア……トリィィィィトォォォォォアアア!!!」
(今のを一掃したというのに早速向こうの増援か……)
俺はもうあらゆる力を一滴残さず使い切った。体力なんてとっくに無い。魔力も北条に根こそぎ奪われた。そして禁忌魔法の魔力源となる負力も、北条を倒すのに全て使った。
もう俺はやりきった。後は宿命に負ける時まで待つだけだ。それしか出来ることが無い。俺の前に敷かれたレールはこの一方通行だ。
「トリィィィィィィ!!!!」
――ごめん、エレイナ。最後の最後までお前を守る事が出来なかった。やっぱり俺には無理だったよ。人を……大切な存在を守るだなんて。
そもそも本来存在しないはずのこの世界で、最初からそんな理想が実現するわけがなかったんだ。『一度失ったものを取り戻し、守り抜く』なんてこと。数多の命を焼き尽くしてきた俺にはそんなの向いていなかった。
「…………さよならだ、エレイナ――」
そっと目を瞑る。開いた所でその先に映るのは亡霊の鋭い鎌だ。その先に希望も、理想も、未来もない。ここがもう行き止まりなのだ。
亡霊が回転しながら鎌を振り回し、勢いに乗せて上段に振りかぶる。そして風を深く裂く音と同時に鋭利な刃が俺の頭から真っ二つに斬り裂いて――
「……今だ、突撃しろ!! 回復隊は大蛇君を後ろに退かせて回復を! 私も突撃する!!!」
「会長、こっちも援護します! ……全員一斉に魔法を放て! どの属性でも構わない! とにかく放って奴らの弱点を探るぞ!!」
「頼んだぞ、銀河! ……剣血喝祭以来だな、大蛇君」
「――!!」
……刹那、この運命は大きく変わった。本来一方通行だったはずの俺の運命のレールが新たに敷かれた。「分かれ道」という名の新たな生き残る希望を。
「……今更になるが、あの時はすまなかった。この戦争を引き起こしたのも、その根端は学院祭にあり、全て私の責任だ。北条さんを黒幕と見抜けなかった挙句、我がアルスタリア学院の一生徒である君を死器という存在だけで殺そうとした。この援助はほんの僅かのお詫びだと思ってくれて構わない。当然、許してほしいとも思っていない」
本当に、今更だ。一体誰のおかげでこんな目に遭ってると思ってるんだ。でももし俺があの学校に入学していなければ、今この渋谷含め日本がどうなったか分からなかった。最初からエリミネイトが北条の手に回っていたかもしれない。
でも、そんな過去の過程などどうでもいい。それを嘆いたところで未来に光は差し込まない。復讐も果たせない。だから俺は残った力全てを振り絞って彼に言い放った。
「――過去の詫びは地獄でいくらでも聞いてやる。 だから今は……死ぬなよ、生徒会長」
言い切った直後、ついに身体の限界を迎えた。自然と背中から倒れるのを感じ、ベディヴィエルの両手に後頭部を置いたと同時に再び意識を失った。
力尽き果てて倒れた俺を歩道の一角に優しく置き、ベディヴィエルは背中の鞘からジャリィィィィンッと甲高い音を立てながら引き抜く。
「当然君に与えられた任務は果たすよ。僕を誰だと思っているんだい? 共にこの命を賭けて互角に剣を交えた好敵手ではないか。あんなハロウィンの仮装集団如きに無様に散るほど私も甘くはない!!」
ベディヴィエルは右足を後ろに引き、腰を落として剣を正面に構える。そして刹那、炎を纏ったベディヴィエルの突進が仮装集団に襲い掛かった。
「アルスタリア全生徒に告ぐ! これはこの世界に限らず、人類の存続を決める歴史に残る戦争となるだろう! 将来我々が目指すネフティスの未来が掛かっている! 私達は今、その戦いの最前線にいる……命に代えてでも、ネフティスを……人類を守るために剣を振るえ!!!!」
おおおおおおおっ!!!!! と雄叫びをあげながら生徒達は仮装亡霊集団と交戦する。
「お前ら……」
俺を生かすために、この戦争に勝つために生徒一人一人が命を賭けてハロウィンの亡霊と戦っている。全ては北条の野望を……ベディヴィエルが犯してしまった過ちの権化を止めるために。
突撃するアルスタリアの生徒達の中に、一人の黒い影が俺の横を通り抜けた。そして俺に向かって何か言っているのが何となく分かった。
「大蛇さんは、私が殺させません――」
あの剣血喝祭を共に乗り越えた『もう一人の相棒』の声で、そう言っているように感じた。
そしてその影も、ハロウィン戦争の波へと飲み込まれていった――
遂行者:ネフティス全メンバー
犠牲者:???
光が夜の闇に飲まれるように消えていく。徐々に右拳を地面に突きおろしたまま一時停止している黒服の青年の姿が顕になる。
「トリック……オア……トリィィィィトォォォォォアアア!!!」
(今のを一掃したというのに早速向こうの増援か……)
俺はもうあらゆる力を一滴残さず使い切った。体力なんてとっくに無い。魔力も北条に根こそぎ奪われた。そして禁忌魔法の魔力源となる負力も、北条を倒すのに全て使った。
もう俺はやりきった。後は宿命に負ける時まで待つだけだ。それしか出来ることが無い。俺の前に敷かれたレールはこの一方通行だ。
「トリィィィィィィ!!!!」
――ごめん、エレイナ。最後の最後までお前を守る事が出来なかった。やっぱり俺には無理だったよ。人を……大切な存在を守るだなんて。
そもそも本来存在しないはずのこの世界で、最初からそんな理想が実現するわけがなかったんだ。『一度失ったものを取り戻し、守り抜く』なんてこと。数多の命を焼き尽くしてきた俺にはそんなの向いていなかった。
「…………さよならだ、エレイナ――」
そっと目を瞑る。開いた所でその先に映るのは亡霊の鋭い鎌だ。その先に希望も、理想も、未来もない。ここがもう行き止まりなのだ。
亡霊が回転しながら鎌を振り回し、勢いに乗せて上段に振りかぶる。そして風を深く裂く音と同時に鋭利な刃が俺の頭から真っ二つに斬り裂いて――
「……今だ、突撃しろ!! 回復隊は大蛇君を後ろに退かせて回復を! 私も突撃する!!!」
「会長、こっちも援護します! ……全員一斉に魔法を放て! どの属性でも構わない! とにかく放って奴らの弱点を探るぞ!!」
「頼んだぞ、銀河! ……剣血喝祭以来だな、大蛇君」
「――!!」
……刹那、この運命は大きく変わった。本来一方通行だったはずの俺の運命のレールが新たに敷かれた。「分かれ道」という名の新たな生き残る希望を。
「……今更になるが、あの時はすまなかった。この戦争を引き起こしたのも、その根端は学院祭にあり、全て私の責任だ。北条さんを黒幕と見抜けなかった挙句、我がアルスタリア学院の一生徒である君を死器という存在だけで殺そうとした。この援助はほんの僅かのお詫びだと思ってくれて構わない。当然、許してほしいとも思っていない」
本当に、今更だ。一体誰のおかげでこんな目に遭ってると思ってるんだ。でももし俺があの学校に入学していなければ、今この渋谷含め日本がどうなったか分からなかった。最初からエリミネイトが北条の手に回っていたかもしれない。
でも、そんな過去の過程などどうでもいい。それを嘆いたところで未来に光は差し込まない。復讐も果たせない。だから俺は残った力全てを振り絞って彼に言い放った。
「――過去の詫びは地獄でいくらでも聞いてやる。 だから今は……死ぬなよ、生徒会長」
言い切った直後、ついに身体の限界を迎えた。自然と背中から倒れるのを感じ、ベディヴィエルの両手に後頭部を置いたと同時に再び意識を失った。
力尽き果てて倒れた俺を歩道の一角に優しく置き、ベディヴィエルは背中の鞘からジャリィィィィンッと甲高い音を立てながら引き抜く。
「当然君に与えられた任務は果たすよ。僕を誰だと思っているんだい? 共にこの命を賭けて互角に剣を交えた好敵手ではないか。あんなハロウィンの仮装集団如きに無様に散るほど私も甘くはない!!」
ベディヴィエルは右足を後ろに引き、腰を落として剣を正面に構える。そして刹那、炎を纏ったベディヴィエルの突進が仮装集団に襲い掛かった。
「アルスタリア全生徒に告ぐ! これはこの世界に限らず、人類の存続を決める歴史に残る戦争となるだろう! 将来我々が目指すネフティスの未来が掛かっている! 私達は今、その戦いの最前線にいる……命に代えてでも、ネフティスを……人類を守るために剣を振るえ!!!!」
おおおおおおおっ!!!!! と雄叫びをあげながら生徒達は仮装亡霊集団と交戦する。
「お前ら……」
俺を生かすために、この戦争に勝つために生徒一人一人が命を賭けてハロウィンの亡霊と戦っている。全ては北条の野望を……ベディヴィエルが犯してしまった過ちの権化を止めるために。
突撃するアルスタリアの生徒達の中に、一人の黒い影が俺の横を通り抜けた。そして俺に向かって何か言っているのが何となく分かった。
「大蛇さんは、私が殺させません――」
あの剣血喝祭を共に乗り越えた『もう一人の相棒』の声で、そう言っているように感じた。
そしてその影も、ハロウィン戦争の波へと飲み込まれていった――
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる