上 下
184 / 232
第六章 ハロウィン戦争編

第百七十一話「女神の輪廻」

しおりを挟む
 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐(遂行済)、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、ミスリア、桐雨芽依、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙


 
 ――あの時を、思い出す。かつて愛した一匹の竜に、骨すら残さず焼かれた時の事を。
 死に方は違えど、死ぬと分かった時の虚無感は全く同じ。まるで舞台で何も出来ずに退場していく、憐れな踊り子の如く。

 皆……ごめんね。私はもうここまで。後のことは皆に任せるよ。きっと、トリトン王お父様も姉様達も、皆許してくれる。『よく頑張って生きたね』って、褒めてくれる。

 でも、やっぱり悔いはあるよ。人魚だった頃から……いや、もっと前から私の事を愛してくれた彼をこの残酷な世界に置いていく事になる。どうせなら、一緒に死にたかったな。でも、彼にはお兄ちゃんや正義君もいる。きっと私がいない分の寂しさ、悲しさ全てを少しでもかき消してくれるはず。

「……これから大変だけど、強く生きてね。大蛇君」

 ……じゃあ、そろそろ行くね。皆の事、ちゃんと見守ってるから――



「――何一人でぶつぶつ言ってるんだ」
「ほぇ?」

 突然後ろから声が聞こえ、思わず情けない声が出る。ふと振り向くと、そこには見覚えのある彼の姿があった。

「……言っておくが、お前を成仏させる気は無い。お前はまだを一ミリも遂行していないだろうに」
「えっ……どういう事?」

 意味が分からない。目の前にいるのは大蛇君だ。でも、全身をボロボロの黒服で統一されている。口元も色褪せた白のマフラーで覆われており、いつも見る彼とはまた違うように感じる。でも今目の前にいる大蛇君の方が私にとっては馴染みがある気がする。

「……ここは死生の狭間。あらゆる魂が彷徨さまよい、次の道を探す場所。そして俺はこの狭間の守護者だ」
「守護者……」

 ……という事は、こっちの大蛇君と現世向こう側の大蛇君は別人って事なのかな。何かこっちの方が愛想が無い。

「それで、お前の任務というのは『お前を殺した邪竜への復讐』だ。わざわざ人魚から過去の姿に輪廻転生しておいて人間に化けたあの竜を殺せずにいたままここに来るとは……女神一族も愚かなものだな」
「っ……」

 違う。この人は絶対に大蛇君じゃない。私の知ってる大蛇君は、私やその家族を卑下するような竜じゃない。なのに……あの人はそれを簡単に口にしている。誰かに取り憑かれてるのだろうか。

「……私はその任務、果たす気は無いよ。だって私はそんな彼を愛しているから。たとえ一度私を殺したとしても、私に少しでも楽しい思い出を作ってくれた彼が好きなの。だから復讐なんて出来ない。したくない! 今、心の底から私は貴方を拒絶しているの!!」
「……」

 言ってしまった。これでこの後何が起こるかなんて分かりきってるようなものだ。でも、大蛇君に復讐するくらいなら死んだ方がマシ。彼は絶対に、殺さないし殺させないって決めたから。

「……もう好きにしろ。どんな悲惨な末路に辿ろうと知らんからな。んな事より早くそこに仰向けになれ」
「……ありがとね」

 ため息を吐きながらも私の意志を受け止めてくれた大蛇君に感謝し、私は言われた通り魔法陣が浮かぶ床に仰向けになる。

「……次はただの人間になるんだよね、私」
「それはその目と身体で確かめろ――」

 ほんの少し楽しみにしながら、私はただその時を待つ。次第に身体が浮き上がるように軽くなり、いつしか視界が真っ白になった。


 

 そして、エレイナ・ヴィーナスは三度目の輪廻転生を遂げる事となる――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...