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第六章 ハロウィン戦争編

第百六十七話「予想外」

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 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、ミスリア、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:黒神大蛇、エレイナ・ヴィーナス


「お前……嘘だろっ……!!?」

 あれだけ斬り刻んだ身体が、すっかり元通りになっている。ボロボロの衣服に身を包んでいた身体は闇に染まっていた。

「……よぉ、感動の再会だなぁ……北条」
「……何故生きているんだ、黒神大蛇」
「至って単純シンプルな話だぜ。今まで流れ出た俺の血を全部回収して元の身体に戻した。それだけだぜ」

 この技法は、前にアルスタリア学院での訓練で習得した、『血剣』を回復に応用したものだ。視界に入る量の自分の血を分解・再生し、新鮮な血液に変換させて身体の傷を癒やしたり、離れ離れになった身体をくっつけたりすることが出来る。

「……死神どころか化け物だな、君は」
「何とでも言えよ……今の俺はてめぇを殺す事しか頭にねぇからなぁぁぁ!!!!」

 右手で魔剣を素早く回し、柄を強く握ったと同時に強く地を蹴る。

「……君は一応智優美の敵なのでな……本気で殺す」
「手ぇ抜くなんてあり得ねぇよなぁ!!?」

 左下から迫る北条の短剣と右上から振り下ろされる俺の剣が火花を散らしながら交差する。あの短剣はさっき俺を八つ裂きにしたものと同じだ。単純な斬れ味、回復した後も体内に残る鋭い痛み、刀身に秘める魔力量……どれをとっても間違いなく、あの短剣は神器だ。

「……まさか、結界以外に神器を隠してたなんて最初は驚いたぜ。それも、いにしえから伝わる代物しろものとはな。それ、天羽々斬あまのはばきりだろ。よりによって短剣の三叉になってたなんてなぁ……どうりで魔力量が凄まじいわけなんだなぁぁ!!!」

 満身創痍まんしんそうい故に自分の思っている以上にハイになっているが、脳だけは何とか心に秘めた熱を冷却し、冷静に戦況を分析する。
 実を言うと身体は治ってもこれまでの戦闘で負担した疲労量は変わっていない。だから今北条と戦っている今も総長や紗切、ピコ達との戦闘の分も加算されている。なのでこうして意地でもハイにならないとこれ以上身体が動かない所まで来てしまっているのだ。

「……全てこの時のために備えてきたものだ……簡単に殺させるわけにはいかない!」

 北条の短剣が前髪を少し斬るが、何とかして避ける。しかしその直後に右足がとっさにガードした左手に直撃し、渋谷の坂を大きく吹き飛ばされる。

「ちっ……持久戦するつもりだな、あいつ」

 恐らくそれが北条の狙いだ。あえて防御に専念することで俺の僅かな体力を削り、動けなくなったところを一撃で斬り殺すのだろう。確実に俺を地獄に落とすために。
 
「……させるかよっ!」

 俺は左手から反命剣リベリオンを召喚する。右手の魔剣で北条の短剣を弾き、空いた隙に左手の剣を突き出す――!

「届けっ――!!」

 思い切り踏み出した左足に体重を乗せ、ジェットのような速さで繰り出す。切っ先が北条に届くまであと数ミリ……のところで、事態は急変した。

「『神器解放エレクト』」

 パキィィィィィンッ!!!!

「なっ――!?」

 嫌な感触がした。今まで心強かった剣の重みが、今の謎の衝撃で消え去っていった。

「は……?」

 反命剣リベリオンの刀身が折れた。切っ先から半分が真っ二つに折られていた。その先には、北条が右手に持ち替えた短剣が目に見えた。

「天羽々斬……またの名を『神器殺し』。あらゆる神器の能力、魔力を無視かつ強制解除する」
「マジかよ……」
「それと、もう一つ――」

 刹那、北条の短剣が俺の胸を貫く。その直後、ブレーカーが落ちるかのように体内の魔力が一気に失われた。

「対象の魔力を枯渇させ、魔法攻撃及び魔力付与の物理攻撃を使えなくする……」
「がっ……」
「実を言えばこれを使うのは君が初めてだ。試運転がてら使ってみたが、中々に効果はありそうだな」

 俺の中に眠るエリミネイトも、恐らく機能停止している。完全なる魔力供給の停止。これはもう、俺に攻撃手段が無いのと同じようなものだ。
 元はと言えば魔力でこの疲れ切った身体を動かしていたのだ。そのエンジンの機能を奪われた今、俺は何も出来ないのだ。

「はぁ、はぁ……おい、マジかよ……ふざけやがって……」
「人の愛を殺めた罪は重いぞ、英雄」
「……」
「さぁ、この戦いを終わりにしよう……『消壊ジーク』」

 徐々に感覚が足から奪われていく。五秒もしたら下半身全ての感覚が無くなる。そして腹、胸へと広がり、内臓の動きも止められる。
 これこそ、死へのカウントダウン。宿命に負けた事を知らせる合図だ――



 ザシュッ――!

「っ……!!?」

 この時、また状況は一変した。北条の口から血が零れ落ち、貫かれた腹からも血が噴き出し、白衣に染みる。

「――!!」

 北条の背後にちらつくその金の長髪を見た途端、俺は思わず息を呑んだ。

 怪盗を思わせる黒とピンクのスカートとマント。左手には五枚のトランプを持ち、白い仮面を身に着けた一人の少女。

「――おっ君を殺すなんて……ボクが許すわけないでしょ!」
「貴様っ……まさか、あのか!」
「そんな人、ここにいないよ。ボクは桐雨芽依きりさめめい。おっ君……大蛇君の怪盗ともだちさっ♪」 
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