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第六章 ハロウィン戦争編

第百六十六話「循環せし絶望」

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 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、ミスリア、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:黒神大蛇

 東京都渋谷区 スペイン坂――


 早く。早くしないと北条に殺される。あの人の狙いは大蛇君じゃない。否、それもあるけどそれは表向きでの話。私を殺すのが裏に隠された真実なのだ。

「はぁ、はぁ……!」

 海の惑星での任務完了直後に起きた、人魚四姉妹の一斉自殺。しかし、彼女達はそれぞれ別の存在として現代に生まれ変わっている。現状分かっているのがあのパンサーが五姉妹の次女サリエルであることのみだが、当然北条自身もその事はとっくに知っているはず。だって、あの自殺を指示したのもその男なのだから。

「はぁはぁ……はぁっ……!」

 でも、唯一それから免れたのは私……五姉妹の五女マリエルことエレイナ・ヴィーナス。しかも姉さん達と違い、私だけ過去の姿……女神ヴィーナスの娘として、更にマリエルの頃の記憶や魂を持ったまま生まれ変わった。

 また更に言えば、生まれ変わったとは言いつつもまだ。言わば、過去の姿にフォルムチェンジしたという事になる。
 それを北条は狙っているのだ。まだ一度も死んでいない私を殺す。即ち『大蛇君の恋人である私を殺す』事こそ、北条銀二が企てたこの戦争の根本的な目的だ。一度殺せば、もう二度とその姿にはなれない事を知っていて。

 だから私は逃げ続けているのだ。ハロウィンが始まってから、ずっと。博士にも逃げろと言われてきた。お前だけはこの戦いに参加するなと。

「はぁ……はぁ…………」

 ここまで約2時間は走り続けただろう。スペイン坂を抜け、橙色の光に囲まれた道をひたすら走り回り、とにかく見つからないように人気ひとけのない道を探しては走った。流石に息が上がる。正直限界だ。これ以上走れと言われてももう無理に近い。

「ここまで……はぁ……来ればっ……大丈夫、はぁ……だよねっ…………」

 完全に安心しきっていた、その時だった――


「……ようやく会えたな、『星の魔女』」
「っ――!!」

 左手に三叉の鋭い短剣を持ち、若干返り血を浴びた白衣と銀の前髪が揺れる。

「前からマヤネーン君から君の話は聞いている。その神々しい瞳に純白の肌……間違いなく、君があの女神ヴィーナスの血を引く者だ」

 今私が最も近づいてはならない存在……北条銀二が、目の前にいる。どこから私の存在に気づいたかは分からない。でも、確かな事が一つ。

「……貴方、その返り血もしかしてっ……」
「ほう……そこに目をつけるとはなかなか鋭いな。そうだ、君の予感通りこの血は黒神大蛇のものだ。そして、黒神大蛇は既に私が殺した」
「――!!」

 そんな。そんなわけがない。禁忌魔法や死器を使ってでもあの男に勝てないなんてあるはずがない。あの時密かに見ていたが、あのミスリア先生とも互角に戦っていたあの大蛇君が、こんな所で呆気なく殺されるなんて……あり得ない。信じたくない。
 嘘だ、騙されないで私。きっと私を絶望させるための罠だから、絶対。

 ――でも、それでも。何故か分からないけど、私の身体から少し肌の温もりが消え去ったような気がした。

「本当に……死んだの?」
「本当は遺体を君に見せてあげようと思ったが……我ながらかなり特殊な殺し方をしたものでな。とても人が見るような姿では無くなっている」
「嘘だ……そんなの……っ!!」

 途端、私の全てが吹っ切れた。自然と流れる涙もピタリと止まり、つま先から脳天までが北条への憎悪で染まりきっていた。

「そんなの私は絶対信じないっ!!」

 両手を広げ、周囲に無数の光を生成する。それを一気に北条目掛けて放つ。

「……なら、その身に証拠を刻むしか無いな」

 右足を前に蹴り、後方に下がりながら光線を避け続ける。すると今度は左手の短剣で目にも止まらぬ速さで光線を弾きながら勢いよく前進してくる。

「隙だらけだ、星の魔女!」
「っ――!?」

 速い。速すぎる。彼を目で捉えた時にはもう私の背後にいた。否、とっくに短剣が私のうなじを貫いていた。

「あがっ……!」
「人魚と女神の掛け持ちは人間の身体ではとてもきついものだろうな。あまりにも……遅すぎる!」

 刹那、1秒も経たずに背後に鋭い痛みが私を苦しめる。

「『旋風孤月ブリッツストリーム』」

 そしてトドメと言わんばかりに北条が短剣を逆手に持ち、そのまま私の左胸を強引に引き裂いた。身体が半分に斬られたように感覚がバラバラになる。痛みなんてものは、もうとっくに私の中から消えていた。

「うっ…………」
「……さらばだ、星の魔女。この姿を見たら、もうあの死神も自死を免れまい」

 短剣についた鮮血を一振りで払いながら、北条はそのまま歩き去っていった。

「ぉ……ろち……くん…………ごめん、ね…………」

 唯一の恋人に謝って、私はその場に顔から倒れ込んだ。







 黒神大蛇、そしてエレイナ・ヴィーナスを殺した北条は、近くのコンビニの駐車場である男に電話をかけている。

「……目標の星の魔女と死器使いは殺した。これで良いのだろう? 網野」
『あぁ。遺体は後に我々の部隊が回収する。ご苦労様だったな、北条』
「わざわざこんな大規模な事しなくても良かったのでは?」
『ネフティスを我らの手につけるにはそれしか無かったのだ。それに、その『天羽々斬あまのはばきり』の試運転にも丁度良い機会だろう?』
「あまりその名で呼ぶな。……まぁ、使い心地としては過去一だ」
『それはどっちの意味だ?』
「さぁな。その脳みそで考えてみろ」

 電話を切り、携帯を白衣のポケットに入れて駐車場を出たその直後、北条の目に信じられない光景が入り込んだ。

「お前……嘘だろっ……!!?」

 あれだけつけた傷がほぼ完全に回復されている。分断された身体も元に戻っており、全身も黒の魔力で覆われている。

 その姿は正に、だった。


「……よぉ、感動の再会だなぁ……北条」
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