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第六章 ハロウィン戦争編

第百五十二話「相棒は敵となり」

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 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:???


 兵士の大軍がそれぞれ雄叫びを上げながら、氷漬けにされて動けない亜玲澄と正義に襲いかかる。もはや内臓や神経すらも氷漬けにされている今の二人に打開は無い。このままタコ殴りにされるだけ――

「くそがっ……!」
「っ……」

 氷が全身をむしばみ、大軍が更に二人との距離を確実に詰めていく。そして大軍の最前線が剣を振りかぶった、その刹那――




「やあぁぁぁぁ!!!!」

 青白いいかづちが二人の頭上の至る所から放たれる。兵士達がその音に身体を硬直させ、打たれた者とその周囲はバタバタと倒れていく。

「ふぅ~、ギリギリセーフっ♪」
「凪沙パイセンっ……!」
「……タイミング、絶対計ったな」

 左腕でおでこを拭うような仕草をして言った凪沙に、正義が驚き、亜玲澄があまりのテンプレすぎる登場に苦笑いしていた。

「……貴方がそっち側とは心外ですね、凪沙さん」

 呆れたような表情を浮かべながら、蒼乃は凪沙の目の前まで歩く。凪沙は今の蒼乃を見た途端、いつもの笑顔を引き締める。

「それはこっちのセリフだよ。まさか蒼乃ちゃんが北条の手に堕ちるなんて思わなかった」
「人理壊滅をももたらす死器使いの味方についたそっちも言えた事ではありませんよ」

 かつての相棒同士の睨み合いが続く。凪沙の後ろで氷漬けにされている二人はその光景を見ることになるだなんて思いもしなかった。

 まさか、かつての相棒同士が敵となって殺し合う事になるとは。

「死器、なんて……結局北条が大蛇君を殺すためだけの架空の口実じゃない!」
「それはどうか分かりませんが……ですが今の私達には黒神大蛇を殺す事が任務。貴方も邪魔をするというなら、ここで終止符を打たせてもらいます」
「ふふっ、丁度いいや……ここで君を倒してネフティスNo.2の座を奪っちゃおうかな~、なんてね♪」
「いつまでその口調でいられるか、とても楽しみですね……っ!!」

 言い終わりと同時に蒼乃が右手の銃を凪沙に向けて引き金を引く。零距離での発砲を凪沙は瞬時に首を右に傾けて避ける。避けた弾丸はビルのガラスに直撃し、一瞬で氷漬けとなった。

「うわ、何だこれ!!」
「突然ビルが氷ったぞ!」
「ハロウィンだというのにさっきから何が起きてるんだ……?」

 ハロウィンを楽しんでいる最中の人々を、今の一撃で恐怖に陥れる。そのあまり逃げる者達が続出した。

「……これが、人類を守る者のする事なの?」
「これは任務です。任務であれば、何もかもを惜しむ必要は無いです!」

 凪沙が回転しながら振り回す槍を跳んだり身体を反らしたりして避けていき、短い隙を見つけては即座に引き金を引く。だが凪沙にその攻撃は全くと言っていいほど通用しなかった。むしろ逆効果と言うべきか。弾を兵士達に目掛けて槍で弾き返し、氷漬けにさせたのだ。

「……変わったね、蒼乃ちゃん」
「その後輩思いの所は変わらずですね、凪沙さん」

 その短い会話を交わし、数秒の沈黙が流れる。その後二人は地を蹴った。凪沙は前に、蒼乃は後ろに。

「はあぁぁ!!」
「……!」

 稲妻のような速さで蒼乃との距離を詰め、全身の回転で更に勢いをつけて槍を蒼乃の首元目掛けて振る。蒼乃は銃口に魔力を流し、氷の刃を精製してガンブレードのような形状にする。すぐに銃を振り、凪沙の槍を受け止める。

「……大蛇君が狙われてるのも、私が相棒と殺し合うのも、こんな時期に渋谷で内乱だなんて……全部北条のせいなんだ……あいつが、私達を……ネフティスを狂わせた!!!」
「その元凶は大蛇さんにあります! 今の私達は……彼の手のひらの中で踊らされているんですよ!!」
「っ……!!」

 一瞬、動揺した。それを突かれ、勢いに負けて槍が弾かれる。

「終わりです……!」

 無防備の凪沙の心臓目掛けて引き金が引かれる――
 


「……させないよ!!」
「えっ……」

 ふと凪沙の口から声が漏れる。何度も聞いた覚えのある声。それは間違いなくあの人だった。
 しかし、そこから感じた魔力は全く別のものだった。あの人からは全く思えない、禍々しい闇の魔力。
 
「くっ……!」

 突如蒼乃の銃を防いだ闇の剣によって弾かれ、二人に距離が出来た。

「ミスリア、先生……?」

 何の因果かは分からない。だが、かつての生徒である凪沙を守るために動いてくれたのだ。右手に持つ魔剣……キリシュタリアと共に。

「やぁ、久しぶりだね……凪沙ちゃん」
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