上 下
155 / 232
第六章 ハロウィン戦争編

第百四十三話「危機連髪」

しおりを挟む
 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:???

 東京都足立区 ネフティス本部前――

「始まったか……」

 ラジオの時報が0時を知らせた。そして戦争は開幕を迎えた。車の中でコーヒーを飲みながら、マヤネーン博士はその時をじっと待ち受けていた。

「死器……『闇に溺れた神器』か。結局は一つの神器に過ぎない。それなのにこんな戦争を起こすのか……! しかもハロウィンの時期に渋谷でやるなんてっ!!」

 この時期の渋谷なんて多くの人で賑わう事など火を見るより明らかだろう。でも、北条はあえてそこを狙ってこの争いを起こし、もしネフティス側が勝ったら『死器による渋谷のハロウィン虐殺事件』とか言って大蛇君を法で裁いて殺すのだろう。

 ――そうだ。きっと北条が……あいつが…………

「大蛇君の運命をおかしくしているんだっ……!」

 僕も一応今回のハロウィン戦争では密かに大蛇君側についている。実は退職届も出してネフティスから抜けてきた。
 やっぱりこんな理不尽な戦争で大事な仲間が殺されるだなんて真っ平御免だ。どれだけの付き合いだと思ってるんだ。

「でも凪沙ちゃんもエレイナちゃん達も大蛇君側についてくれている。残りのネフティスメンバーにだけ気をつければ勝機はある……」

 もし負けたら僕達の運命はそこで終わるけど、勝つことを信じるしか無い。

「……全ては死器と君の復讐劇にかかっているぞ、大蛇君っ!!」

 大蛇君を信じる……ただその一心で僕は覚悟を決め、車を動かした。もちろん目的地は――


 ◇

 東京都渋谷区 街の一角――

 北条によって呪われたネフティスの兵士達を確実に倒していく。だが、流石にこのまま防戦一方になりつつある。

(くそっ……あいつらはいつになったら合流するんだ!)

 ちなみにハロウィン前日の夜、俺だけがネフティスによって帰還命令が出されたのが理由で一人になっている。そして蓋を開ければこの有り様。勝手に討伐対象とされ、目の前にはネフティスの総員が武器をこちらに構えていた。

「地球の民達を守るためにっ……!!」
「今のお前はそれを破壊する存在に過ぎない!!」

 全方位と言っていいほどに、あらゆる所から雄叫びを上げながら兵士達が襲いかかってくる。俺は軽く舌打ちしながら再び神器を召喚し、迎え撃つ事にする。

「言動が一致してねぇよ……っ!」

 目の前に見えた兵士達に突進しようとした刹那、背後と正面の兵士達から突然青白い電気を纏った網のようなものが射出する音が聞こえた。

「っ……!?」

 避けようと前に足を踏み込んだと同時に網が磁石のように俺の身体に張り付いた。同時に強い電気が身体に流れ込む。

「ぁ……ぁぁああああ!!!」

 俺が捕獲される姿を見てニヤリと笑った兵士達は一斉に俺にむかって剣を突き刺そうとしてくる。こちらは網のおかげで何も見えない。何も動けない。いや、動くことには動けるがその分電流が流れ込む。それが痛くて仕方がない。

「終わりだ死神ィィ!!!」
「死ねぇぇえええっ!!!」

 俺一人ではこれが限界か……と、思った時だった。

『全てを喰らい、飲み込みなさい……『暴飲暴喰イベルゲーテ』!!』

 テレパシーの如く聞こえてくる死器しょうじょの声と共に、俺の両腕から禍々しい闇の魔力が螺旋状らせんじょうに広がる。そして強い電気を纏った網を喰らい尽くす。

「なんだ今のは……!」
「これが……死器エリミネイトの力っ……!」

 周囲の兵士達と同じように俺も突然の出来事に驚いていた。あまりにもタイミングが良すぎたからか。

「ふぅ……」

 今だ痺れと痛みが残るがこれで晴れて自由の身になった。俺の中に眠っていたエリミネイトには後で感謝せねばならないな。

『聞こえていますよ、主様。このお礼は美味しいケーキでお願いしますね』
「……どうやって食べる気だ」
『その時になれば私を強制的に召喚させます』
「嫌と言ったら?」
『主様に拒否権はありません。主様を危機から救ったのですから、そのくらいのは必要だと思います!』
「……こいつは貯金崩し確定だな」

 そもそもこの緊迫した状態でこんな事を話している場合では無い。だが拒否権を失われ、更に力を解放させている魔女エリミネイトの口調で言われると余計に調子が狂う。テレパシーで会話してるから尚更なのかもしれないが。

「……とりあえず後にしてくれ。今は任務で忙しい」
『ぜっ……絶対、ですからね……!』
「都合良く口調を変えるな」

 今は邪魔くさい兵士達を一気に排除するべく右手から先程の闇の魔力を生み出す。

「『暴飲暴喰イベルゲーテ』」

 刹那、魔力が一気に竜巻のように吹き乱れ、建物ごと兵士達を一掃した。次第に全身の痺れも消え失せ、改めて北条の居場所を特定するべく足を踏み出した直後だった。

「っ……!?」

 右足から激痛が走り、ふと見ると先程紗切からもらった傷口から血混じりの紫色の液体が出ていた。間違いなく毒だった。

「くそっ……!」

 解毒するべく一先ひとまず傷口から毒を抜く。しかしその途中に更なる危機が襲いかかる。

「ここにいたか」
「っ……、総長……」

 今まで見たことが無いほどにまで冷たい視線を俺に向けながら、正嗣総長は左腰から刀を抜いて突進してくる。

「安心しろ、私がすぐに終わらせてやろう」

 神速にも等しい程の速さで迫り、今だ俺は毒を抜いている時だった。まずい、これでは何も出来ない。この速さではとても避けきれない。

「――っ!!」

 俺が正嗣総長に斬られると分かった今、既に刀は俺の首元に迫っていた――
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神の手プロジェクト~新世界創造したつもりが奴に蝕まれていく~

くりくりさん
ファンタジー
 野崎真人(のざき まなと)は、ブラック企業に勤める25歳。  パワハラ、時間外労働、休日出勤ばかりの日々。  その夜も20時間勤務に疲れ、コーヒーを買いに外に出たところを、背中を押され、トラックに轢かれて呆気なく死んでしまう。  神が現れ、手違いで殺してしまったことを謝罪し、異世界へ転生させてやると言うが、労働に疲れた真人は消滅を希望する。  だが、神は真人の願いは受け入れず、自分のミスを隠すため、それなら神になれと持ちかけてくる。  真人は受け入れ神となり、新しい世界を創造する。順調に育っていく世界ーーだが、突然『guest』と名乗る人物が、真人の世界に入り込み、一変させてしまった。  『guest』を倒すには、世界に行き、直接本体を叩くしかない。真人は、ありったけのチートを詰め込んだキャラを作り、復讐に乗り出すのだがーー ※本編突入まで長いです。  本編に到達する第2章の第20話まで、毎日更新。  それ以降は週3の隔日更新予定です。  チートと言いつつ、序盤はあまり使用しません。  1話1話は短めです。なんちゃってが多いので、さくっと読んで頂ければ幸いです。  応援よろしくお願いします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

キスから始まる異世界ハーレム冒険譚

楠富 つかさ
ファンタジー
夢の中で異世界へ行かないかと誘われた俺。そんな自分が貰えるという能力は『キスした相手の知識・能力を得られる』というもの。ただし、同性に限るという条件付。男とキスなんて絶対に嫌だと思った俺は女の子になることを選ぶ。そんな彼を待ち受けていた世界とは……。 この作品はハーメルン様でも掲載しておりますが、アルファポリス移転に際してタイトルを『キスから始まる異世界百合色冒険譚』から変更。タグやタイトルから百合というワードを撤去しました。 第13回ファンタジー小説大賞にエントリーしました。

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

偽聖女はもふもふちびっこ獣人を守るママ聖女となる

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
旧題:偽物聖女は孤児院を守るママ聖女となる〜もふもふちびっこ獣人は今日も元気いっぱいです〜 ★第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞、読者選考3位 2024年 3月中旬 書籍発売  看護師として働く主人公は患者の点滴を交換していると、突然部屋が明るくなり、知らない世界にいた。  鎧を着た知らない人に囲まれている患者のお孫さん。  どうやら、私は聖女召喚に巻き込まれたようだ。  生きるために宰相に仕事の派遣をお願いすると、その仕事は孤児院のママ先生だった。  中は汚くて、今にも死にそうになっている子ども達。  聖女でもなく、チートもない主人公は看護師としての知識と生きる知恵を使ってどうにか孤児院を復活させる。  可愛いちびっこ獣人達とイケメンわんこ騎士とのドタバタファンタジーです!  恋愛要素少なめです。 ※誤字報告ありがとうございます!  誤字脱字のみは感想コメント消します。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...