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第六章 ハロウィン戦争編

第百四十二話「渋谷ハロウィン戦争」

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 地球防衛組織ネフティスと死器エリミネイトの行使者黒神大蛇くろがみおろちによる全面戦争が、ついに幕を開ける――!

 ――――――――――――――――――――

 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:???



 西暦2005年 10月31日ハロウィン当日 東京都渋谷区――

「「ハッピーハロウィーンッ!!!」」

 時計の針が2つとも午前0時を指し、今年もハロウィンの時を迎えた。朝早くから多くの店ではハロウィングッズやお菓子などを仕入れては店頭に並べ、多くの客が各々気に入ったグッズを買う。
 この渋谷の街では多くの仮装をした人々で満ち溢れ、かぼちゃの被り物やミイラ、死神やお化けなどといったコスプレをして楽しむ姿が数多く見受けられる。

 そんな渋谷で今宵、後に戦後最大の闘争とも呼ばれる戦いが起こるとも知らずに――

 ◇

 渋谷区の街の一角に、ぞろぞろとネフティスの制服を着た大軍が歩く。通り過ぎた先の人々は思いがけない集団に驚くことも出来ないまま、ただその後ろ姿を見ることしか出来なかった。
 そんな人々の目を無視し、ネフティスメンバー及び全兵士は目の前に立つ一人の青年に向かって歩いていく。そして先頭が目の前に着いたと同時に止まる。下を向いているからか、青年の顔は前髪に隠れてよく見えない。

「……一人でここに来たか。さては今更降伏でもするのか?」

 先頭にいる男……桐谷正嗣が青年にそう吐き捨てると後ろのメンバー達がそれぞれ武器を手に取る。ネフティス側だけの人数だとざっと5000人は軽く超える。更に周囲からぞろぞろと武器を構えながらネフティスの兵士達が青年を囲む。

「たとえ降伏したところで、貴方を待つのは死のみですよ」

 これまでとは比にならない程の鋭く冷たい声で蒼乃さんが銃口を青年に向けながら忠告する。
 それでも青年は口を開かない。ただ両手をポケットに突っ込んだまま突っ立っている。

「……己の選択を後悔することだな。……総員突撃ッ!!」

 正嗣総長が左腰から刀を抜いて切っ先を青年に向けるとすぐに後ろの兵士達が雄叫びを上げながら青年に襲いかかる。

「消えろ死神ィィ!!」
「お前の思い通りになどさせてたまるかぁぁっ!!」

 様々な怒声が街の一角に響き渡る。そんな中、ついに青年は右手をポケットから出し、横に伸ばす。右手に魔力を流し込み、反命剣リベリオンを召喚する。

「……最初から俺を待つのは死の運命だけだ」

 静かに吐き捨て、強く地を蹴る。目の前に迫ってきた兵士の剣の刀身にあえて振り抜き、真っ二つに折る。

「一振りでっ……!?」

 その後腹部めがけて左足で思い切り蹴り飛ばす。その兵士は後ろを巻き込みながら後方に吹き飛んでいく。

「終わりだ、死神ィィ!!」
「……雑魚が」

 背後の兵士にもとっさに反応して攻撃を避け、同じ手順で次々と倒していく。

「……殺さずに倒すなど、エレイナも随分と無茶を言うようになったものだ」

 そう、このようにして戦っているのはエレイナの強い意思が込められた頼みだ。たとえ敵でも元はかつての仲間。倒すべき敵は北条しかいないからと他は全員武器を使えなくして気絶させたり降伏させたりして、とにかく殺さないでというものだ。

「本当に、無茶言う野郎だ」

 だがこっちには凪沙さんがついているのに対し、向こうには蒼乃さんや総長、そして恐らくは桐谷優羽汰もついているだろう。
 仮にこの戦いが終わり、勝敗がどちらに傾こうが結局ネフティスの戦力が大幅に減るのは避けられない。その原因が総長や他のネフティスメンバーだとしたら今後ネフティスがこれまでのように任務遂行出来るはずがない。そして最終的にネフティスはこの世から姿を消す事になるかもしれない。

 俺達の思い出の場をこんな戦いで消し去りたくない。彼女には恐らくその想いを抱いているのかもしれない。俺も出来る限り最善を尽くす。でもやっぱり……

「……下らない思想だ」

 どうしても、目の前に続々と現れる兵士達を見るとそう思ってしまう。そして剣を振るたびにその約束を思い出してしまう。

『忘れないで、私にとってあそこは大蛇君と同じくらい大切なんだから! だから、北条って人以外は……殺さないで!!』
「――あぁ、そうかよ。分かったよ。なら仕方ねぇな……」

 ――ぶっ潰すか、みたいに。

「待ってろ……北条ッ!!」

 波のように迫る兵士達を掻い潜りながらスクランブル交差点を通り抜け、兵士の集団の一番奥に見える人影に向かって剣を突く。

 しかし、その刹那だった――

 ドスッという鈍い音が俺の左足に響いた。 ふと振り向くと、そこには見たことの無い女性の姿が目に映った。

「……誰だお前は」

 鋭い視線でそう言うと、女性は笑いながら答える。

「まぁまぁそう怒らないでよ~。私はネフティスNo.8の姫原紗切ひめはらさぎり。この通り忍者なんだ~」
「……見た目通り厄介なのは分かった」
「ふふっ、焦ってるのバレバレだよ……っ!」

 突如、目にも止まらぬ速さで紗切が目の前から消えた。俺はとっさに周囲を見渡すがどこにも彼女の姿が見えなかった。

 ……流石は忍者。気配を消すのだけは一流といったところか。だが……

「……無駄だ」
「はぇっ……!?」

 頭上から迫ってくる紗切の攻撃を読み取り、首を掴む。俺の持つ『八之竜眼わかつのりゅうがん』は視界内の未来を見る能力がある。だが見れるのはなので、背後からの攻撃や奇襲などは見ることができない。

「隙しか見えないぞ、死器使い」
「っ――!?」

 早速背後から剣が空を斬る音が聞こえ、とっさに右手で掴んだ紗切を背後の男に投げ飛ばす。

「おい、嘘だろ!? 避けろ紗切っ!!」
「ひゃあああああっ!!」

 男の斬撃が紗切の衣服を斬り裂き、背中だけ露出した状態で吹き飛んでいく。それを無視し、俺はまた更に大軍を掻い潜っては避けていく。目の前を塞ぐものは衝撃波を放ったり剣で受け流したりして足止めを防ぐ。

「北条銀二……お前だけは何としてでも殺すっ!!」

 ただその一心のみを心に刻み、俺はネフティスの大軍に刃を振るう。

 あの冬の日の、魔物を斬り殺してきた日々を思い出すかのように――
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