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第五章 廻獄厄死篇
第百三十五話「復讐の意味」
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灼熱の太陽の下で、俺はファウストから剣血喝祭から今に至るまでの経緯を話してくれた。
「まず第五次剣血喝祭などという下らん祭典にお前が参加する事を北条銀二の口から明かされた。そこで我は今お前が取り込んである死器エリミネイトの回収と共にお前を殺すよう頼まれた。それと、お前の味方にあたる関係者もな」
「関係者っ……!?」
関係者……間違いない、ロスト・ゼロ作戦メンバーの事だ。それに、北条は剣血喝祭が開催される前からエリミネイトが『死器』である事を知っていたのか。あえてネフティスに存在を教えないようにし、俺を既成事実を以てネフティス及び国の力で殺そうとした、も言うことになる。
常夏の血祭りの裏に隠された真実に少し驚きながらも、俺はファウストの話の続きを聞いていた。
「長崎に張られた結界を突き破り、我は血祭りの開催地へと辿り着いた。そして関係者を見つけては倒しの繰り返し……」
「おい待て、そいつらはまだ生きているんだよな?」
もしかしたら祭り中に一度も見てないエイジやカルマ、エレイナがこいつに殺されていてもおかしくないと思い、右足を一歩前に踏み込んでファウストに問い詰める。
「落ち着け邪竜、神をも超えしこの我が人間如きの命令に従うと思うか?」
「……殺してはないんだな」
「我の目的はお前に会うこと。関係無い者を無慈悲に殺すなど崇められる立場である神の非道というもの」
嘘は言っているようには見えなかった。信用しきっているわけではないが、疑うのも違うような気もしたので、この件だけはファウストの言葉を信じる事にした。
「……さぁ、こうして出会ったのだ。一つやろうじゃないか。創造者と復讐者による……真の血祭りをな」
突然何を言っているのかと思った刹那、目の前にファウストが現れ、左からの一撃をもらう。俺は瞬時にふっ飛ばされ、果てしなく続く砂浜に勢いよく転がる。そこに追い打ちをかけるかのように背後からファウストが軽く俺を上に蹴り飛ばした。
「ふぐっ……」
一気に視界が真っ青に澄む、その矢先に背中に蹴られるような強い痛みと衝撃を感じ、顔面から砂浜に落ちる。
「ちっ……!」
「ヤマタノオロチよ、何故人間になる道を選んだ? 何故強さを……力を求めなかった? 人間如きに己に課せられた宿命に復讐出来ると思っているのか?」
「何だとっ……?」
「我には見えるのだ……お前に待ち受ける未来が、宿命が、悲劇が……だがそれは人間である今のお前では払拭する事は出来ない」
まるで自分の歩む運命を侮辱されたような怒りを覚え、俺は強く右足を蹴った。そして炎のように燃える人型の魂の顔面めがけて思い切り殴る。
「っ……!」
「そんなの知った事じゃねぇ……」
俺は静かに心の奥底に溜まった思いを吐き出しながらファウストの背後へ瞬時に回り、振り向いた所を左足で飛び、空中回し蹴りを繰り出す。
「お前が見た俺の未来など知った事じゃねぇ! 俺の未来は俺にしか見えない。俺に取り憑いた宿命は俺にしか変えられない。ただ俺含むあらゆる概念を遥か上からしか見えてないお前に俺の宿命を決める権利などないっ!」
先程の俺と同じように砂浜に転がり倒れたファウストの頭上めがけて飛び、更に追撃で『黒壊』を喰らわせる。黒い閃光が白い身体を貫き、激しく散っていく。
「くっ……弱い、弱いぞ邪竜ヤマタノオロチ! 我が知る英雄オロチはこの程度の力では無かったぞ! 今すぐその器を脱ぎ捨てろ! 過去に消えた竜の姿を取り戻すのだ!」
「ちっ……!」
呆気なく俺の一撃が終わったと同時にファウストの右手から一直線に光線が放たれる。左肩に掠りつつもギリギリで右に転がり避け、体制を整える。
「持ち前の反射速度は人間になった今も健在……か」
ファウストも立ち上がり、体制を整える。更に右手から魔力で精製した剣を召喚する。
「人間を悪く言うつもりは到底無い。むしろ認めなければならない。人間の隠された強さを……可能性の強さを……アストレアと名乗る青年が我に教えてくれたのだ……」
アストレア。神を超えるとされるファウストが唯一認めた人間……か。
「……その人以外に宿命は変えられないってか」
「否、どんな人間にも定められた宿命には抗えない。どの道を歩もうが結局結末は同じに過ぎないのだ。
欲を満たし、理不尽に抗い、異性を愛し、長い時を得て命の灯火が消える。だがそれが本来の宿命というもの。それはアストレアも、今を生きる人間も、そしてお前も同じはずだった。だがお前は人間として己の宿命に復讐するという意志そのものが……」
――お前自身で運命を呪いに染めたのだ!!
「っ――!?」
ファウストの剣から一筋よ閃光が俺の胸部を貫いた。それは一瞬だった。閃光と共に吹き飛ばされた俺はそのまま深い海へと沈み、赤い鮮血で海を染めた。
水面に激しく背中をぶつけた途端、意識が朦朧とし、消えていく――
……俺は一体何に復讐しようとしていたんだ。冷静に考えたら、自分の宿命に復讐するって結局俺が死ねば解決する話じゃないか。なのに亜玲澄や正義、ネフティスのメンバーやカルマ、エイジ、芽衣……そしてエレイナを勝手に巻き込んで命の危険に晒してる。
これって結局人殺しと同じじゃないか。そもそも俺の復讐自体が俺を絶望の道へと駒を進めているのではないか?
もしかしたら北条は俺にこれを教えるためにあの数々の悲劇を見せたのかもしれない。こんな無謀な抗いに区切りをつけるために。
叶いもしない復讐に、諦めがつくように…………
今この瞬間が、今までで一番生きている心地がしない。身体が海の底に沈む感覚すらも感じられない。ついに俺はここで己の死を悟った――
「まず第五次剣血喝祭などという下らん祭典にお前が参加する事を北条銀二の口から明かされた。そこで我は今お前が取り込んである死器エリミネイトの回収と共にお前を殺すよう頼まれた。それと、お前の味方にあたる関係者もな」
「関係者っ……!?」
関係者……間違いない、ロスト・ゼロ作戦メンバーの事だ。それに、北条は剣血喝祭が開催される前からエリミネイトが『死器』である事を知っていたのか。あえてネフティスに存在を教えないようにし、俺を既成事実を以てネフティス及び国の力で殺そうとした、も言うことになる。
常夏の血祭りの裏に隠された真実に少し驚きながらも、俺はファウストの話の続きを聞いていた。
「長崎に張られた結界を突き破り、我は血祭りの開催地へと辿り着いた。そして関係者を見つけては倒しの繰り返し……」
「おい待て、そいつらはまだ生きているんだよな?」
もしかしたら祭り中に一度も見てないエイジやカルマ、エレイナがこいつに殺されていてもおかしくないと思い、右足を一歩前に踏み込んでファウストに問い詰める。
「落ち着け邪竜、神をも超えしこの我が人間如きの命令に従うと思うか?」
「……殺してはないんだな」
「我の目的はお前に会うこと。関係無い者を無慈悲に殺すなど崇められる立場である神の非道というもの」
嘘は言っているようには見えなかった。信用しきっているわけではないが、疑うのも違うような気もしたので、この件だけはファウストの言葉を信じる事にした。
「……さぁ、こうして出会ったのだ。一つやろうじゃないか。創造者と復讐者による……真の血祭りをな」
突然何を言っているのかと思った刹那、目の前にファウストが現れ、左からの一撃をもらう。俺は瞬時にふっ飛ばされ、果てしなく続く砂浜に勢いよく転がる。そこに追い打ちをかけるかのように背後からファウストが軽く俺を上に蹴り飛ばした。
「ふぐっ……」
一気に視界が真っ青に澄む、その矢先に背中に蹴られるような強い痛みと衝撃を感じ、顔面から砂浜に落ちる。
「ちっ……!」
「ヤマタノオロチよ、何故人間になる道を選んだ? 何故強さを……力を求めなかった? 人間如きに己に課せられた宿命に復讐出来ると思っているのか?」
「何だとっ……?」
「我には見えるのだ……お前に待ち受ける未来が、宿命が、悲劇が……だがそれは人間である今のお前では払拭する事は出来ない」
まるで自分の歩む運命を侮辱されたような怒りを覚え、俺は強く右足を蹴った。そして炎のように燃える人型の魂の顔面めがけて思い切り殴る。
「っ……!」
「そんなの知った事じゃねぇ……」
俺は静かに心の奥底に溜まった思いを吐き出しながらファウストの背後へ瞬時に回り、振り向いた所を左足で飛び、空中回し蹴りを繰り出す。
「お前が見た俺の未来など知った事じゃねぇ! 俺の未来は俺にしか見えない。俺に取り憑いた宿命は俺にしか変えられない。ただ俺含むあらゆる概念を遥か上からしか見えてないお前に俺の宿命を決める権利などないっ!」
先程の俺と同じように砂浜に転がり倒れたファウストの頭上めがけて飛び、更に追撃で『黒壊』を喰らわせる。黒い閃光が白い身体を貫き、激しく散っていく。
「くっ……弱い、弱いぞ邪竜ヤマタノオロチ! 我が知る英雄オロチはこの程度の力では無かったぞ! 今すぐその器を脱ぎ捨てろ! 過去に消えた竜の姿を取り戻すのだ!」
「ちっ……!」
呆気なく俺の一撃が終わったと同時にファウストの右手から一直線に光線が放たれる。左肩に掠りつつもギリギリで右に転がり避け、体制を整える。
「持ち前の反射速度は人間になった今も健在……か」
ファウストも立ち上がり、体制を整える。更に右手から魔力で精製した剣を召喚する。
「人間を悪く言うつもりは到底無い。むしろ認めなければならない。人間の隠された強さを……可能性の強さを……アストレアと名乗る青年が我に教えてくれたのだ……」
アストレア。神を超えるとされるファウストが唯一認めた人間……か。
「……その人以外に宿命は変えられないってか」
「否、どんな人間にも定められた宿命には抗えない。どの道を歩もうが結局結末は同じに過ぎないのだ。
欲を満たし、理不尽に抗い、異性を愛し、長い時を得て命の灯火が消える。だがそれが本来の宿命というもの。それはアストレアも、今を生きる人間も、そしてお前も同じはずだった。だがお前は人間として己の宿命に復讐するという意志そのものが……」
――お前自身で運命を呪いに染めたのだ!!
「っ――!?」
ファウストの剣から一筋よ閃光が俺の胸部を貫いた。それは一瞬だった。閃光と共に吹き飛ばされた俺はそのまま深い海へと沈み、赤い鮮血で海を染めた。
水面に激しく背中をぶつけた途端、意識が朦朧とし、消えていく――
……俺は一体何に復讐しようとしていたんだ。冷静に考えたら、自分の宿命に復讐するって結局俺が死ねば解決する話じゃないか。なのに亜玲澄や正義、ネフティスのメンバーやカルマ、エイジ、芽衣……そしてエレイナを勝手に巻き込んで命の危険に晒してる。
これって結局人殺しと同じじゃないか。そもそも俺の復讐自体が俺を絶望の道へと駒を進めているのではないか?
もしかしたら北条は俺にこれを教えるためにあの数々の悲劇を見せたのかもしれない。こんな無謀な抗いに区切りをつけるために。
叶いもしない復讐に、諦めがつくように…………
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