上 下
146 / 232
第五章 廻獄厄死篇

第百三十四話「困惑と謎」

しおりを挟む
 巨体の男の援護のおかげで、北条の結界を破る事が出来た。しかし、結界は真っ二つに浮いたまま何も起きない。
 
 そんな中、私は男の言葉に困惑していた。『ネフティスに宣戦布告する』という言葉を。

「待って、たとえ大蛇君を殺そうとした人達でも私の大事な……」

 言い終える途中、男は軽く舌打ちをしながら人差し指を左右に振る。その後、また片言で話した。

「ココノネフティスジャネェ。ネフティスダ」
「へ……?」

 ふと情けない声が出てしまう。つまり、あの真っ二つに斬れた結界の中にネフティスがあるって事……? 全然意味が分からない。

「オレタチハコレカラ、『オロチノユメノナカ』ニイクンダヨ。アノケッカイハソノイリグチダ」
「――!?」

 ゆ、夢……? あの結界が、その入り口? 
どういう事なんだろうか。これはとりあえず入ってみないと分からない感じか。

「よく分かんないけど……あの中、入ってみよう?」
「ソノホウガハヤイカモナ」

 男の言う『宣戦布告』が全く理解出来ないまま、私は結界の中に入るべく助走をつけながら思い切り跳んだ。頑張って右手を結界に向かって伸ばした刹那、結界に吸い込まれていく。

「うわっ……!?」

 次第に視界が真っ暗になる。その後に男の声が遠くで聞こえた。更にその後、前から青年の声が聞こえた。

『助けて』。あるいは『殺してくれ』と――



     


         ◇

 また身体の感覚が元に戻る。瞼を開くと晴天が広がっていた。何度も同じ事を繰り返してる内に嫌になる。死んでからの目覚めに飽きてくる。どうせこの後死ぬんだろうなと思いながら重い身体を起こす。

「ここは……」

 さざ波の音色。少し熱く感じる砂浜。容赦なく肌を焼こうとする太陽。波と共に吹く爽やかな風。ここは間違いなく海だった。

「懐かしいな……」

 確か最初の任務の時、海に沈んだ後に気を失っていて、目の前でエイジが見守ってたよな。その後いきなり模擬戦みたいになったのを鮮明に覚えている。

 ――今頃、あいつらは無事だろうか。

「……なわけないか。蒼乃さんだけでなく、総長さえも北条の手に染められてるからな」

 ふと思った事を振り払うように、俺は現実を独り言として吐いた。もうここまで来れば俺はネフティス全メンバーを敵に回したと言っても過言では無い。更にはエレイナも俺が殺された事によって暴走している。

 まさか、あのエリミネイトがここまで大事を引き起こすとは思わなかった。ベディヴィエルとの戦いでは唯一の倒す手段がエリミネイトを己の身体に取り込む事しか無かった。
 とはいえ、もし最初から『死器』という存在を知っていたら、最初の入学前試験の際に俺はエリミネイトに手を出さなかった。一体何故ネフティスは『死器』の存在を俺に隠したのだろうか。
 
「北条銀二……お前はどこまで

 言動といい俺を眠らせた魔法といい、あの男は明らかに人間ではない。まるで俺に取り憑いた悪魔のようだ。はたまたこの運命の創世神とでも言うのだろうか。

 北条の目的が一切読めず、一旦疲労しきった頭を空にするべく砂浜に身体を預けていると……

「久しぶりだな、
「っ――!?」

 いきなり過去の名前で呼ばれ、驚きつつ身体を勢いよく起こして目を開けると、そこには白い炎で覆われた人型のが立っていた。

「我が名はファウスト。天と地を纏いし神の超越者なり」
「ファウスト……」

 知っている。俺はその名を名乗った超越者を知っている。しかし、こんな姿ではない。これは一体どういう事か。

「ずっと、お前を探していた。待っていたぞ、この時のためにどれ程の人間を追い払ってきた事か」
「何だとっ……?」

 その言い方的に数多くの人間を殺してきたと言える。だがどうして地球ここに降り立った? 何故俺がここにいると分かったんだ?

 頭を悩ませる。何もかもが意味不明だという俺の思考を読み取ったかのように、ファウストというは言った。

「人間共の下らんいさかいから今に至るまで、この我が全て話してやろう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...