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第五章 廻獄厄死篇
第百二十七話「もう一人の反逆者」
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西暦2005年8月8日 東京都足立区ネフティス本部――
コツコツと革靴の底が床を叩く音が廊下内に響き渡る。歩く速度で白衣が僅かに揺らぐ。
「……」
長崎から戻ってきた北条銀二は治療室のドアを開ける。本来ならこのまま真っ直ぐ歩いて総長室に行って例の事態の報告をするべきなのだが、久しぶりの長期出張なのもあってか身体にかなり疲れの色が目立っていた。
「この程度で疲れていては、死神は殺せない……」
いち早く回復させるべく、銀二は衣服を脱ぎ捨て、バスタオルを巻いた状態で休憩室のシャワールームに入っていった。壁にあるスイッチを押すとすぐに小粒の温水が全身の汗を流れ落としていく。
「……このまま順調にいけば、死神は必ず殺せる。私の背中にはネフティスやFBIもついている。ここまで来ればあの青年とて白旗を上げざるを得ないだろう」
アルスタリア高等学院で見つかった……いや、置いておいた死器殺歪剣と黒神大蛇をあえて接触させ、第五次剣血喝祭で存分に暴れてもらう。
それを証拠にネフティス内で討伐対象としてあの青年を排除出来ればと思っていたが、まさか死器自体が人の身体に取り込む事を望んだとは思わなかった。当然、私にとっては都合のよい話だ。
「そして緊急任務として黒神大蛇を殺し、その遺体から死器エリミネイトを回収する……」
そう、彼らがアルスタリア高等学院に行かせる理由も全てこれが目的だ。あの青年に死器と接触させる機会を作り、最終的には――
「ふっ……ふふふふ………ふはははははははは!!!!!」
銀二はシャワールームの中で魔王の如く高らかに笑う。大きく開いた口に容赦なくシャワーの水が入り込む。
「はははぼっ……ごぼぼぼぼっ!!」
途端、笑いから一変苦しい表情を浮かべながらシャワーから離れ、口の中に入った水を吐いた。その後すぐにシャワーで床を洗い流す。
「はぁ、はぁ……」
咄嗟にシャワールームのドアを開け、周りを見たが、人の姿は見受けられなかった事に銀二はほっとする。
「シャワーめ……この私に恥をかかせた罪は重いぞ」
◇
ネフティス本部 メインルーム――
この部屋一面に大きく映る大蛇と蒼乃。互いに後輩と相棒という関係を持つ凪沙は、ただ一人凛とした表情で行方を見守る。
「これが……死器……」
……死器。神器とは対極に位置する悪魔の武具。存在するだけでも人々を恐怖と絶望に陥れると言われている。有名なものだとソウルイーターや妖刀村正等がある。
その中でもあのエリミネイトという死器は格が違うというのを北条さんから聞いた。何と言ってもあらゆる魂を無慈悲に喰らいつくすというのだ。
「……確かにあれは怖いよ。そもそもあんな危険なものは今まで見た事無い。それでも私は博士と約束したんだ……何があっても大蛇君の味方でいるって」
今私に出来る事はあの二人の衝突を止める。そして二人の関係を元に戻す。これが今の私の最優先にするべき任務。
「待っててね……二人共!」
どっちか助けても意味無い。たとえどっちかが死ぬ運命だとしても、蒼乃ちゃんも大蛇君も私の大事な仲間なんだからどっちも助ける。そんな運命は私が変える。
今度は私が、運命を変える番だ。
『大切な人達のために戦っている凪沙さんの事……尊敬、してます』
ふと、大蛇が言ったある言葉が脳内再生された。尊敬……だなんて、やっぱり照れちゃうな。
「……今は大事な相棒と後輩のために、この運命と戦うよ」
今は死器だなんてどうでもいい。二人を助けるんだ。
その一心で私はメインルームを走り抜け、本部から出た。そして目の前の転送装置に足を踏み入れて長崎へと移動する。
「絶対……死なせないから。この運命を止められるのは私しかいないから!」
こうして、ネフティスNo.3涼宮凪沙は唯一の相棒と死器を取り込んだ後輩を助ける任務に出動したのだった――
コツコツと革靴の底が床を叩く音が廊下内に響き渡る。歩く速度で白衣が僅かに揺らぐ。
「……」
長崎から戻ってきた北条銀二は治療室のドアを開ける。本来ならこのまま真っ直ぐ歩いて総長室に行って例の事態の報告をするべきなのだが、久しぶりの長期出張なのもあってか身体にかなり疲れの色が目立っていた。
「この程度で疲れていては、死神は殺せない……」
いち早く回復させるべく、銀二は衣服を脱ぎ捨て、バスタオルを巻いた状態で休憩室のシャワールームに入っていった。壁にあるスイッチを押すとすぐに小粒の温水が全身の汗を流れ落としていく。
「……このまま順調にいけば、死神は必ず殺せる。私の背中にはネフティスやFBIもついている。ここまで来ればあの青年とて白旗を上げざるを得ないだろう」
アルスタリア高等学院で見つかった……いや、置いておいた死器殺歪剣と黒神大蛇をあえて接触させ、第五次剣血喝祭で存分に暴れてもらう。
それを証拠にネフティス内で討伐対象としてあの青年を排除出来ればと思っていたが、まさか死器自体が人の身体に取り込む事を望んだとは思わなかった。当然、私にとっては都合のよい話だ。
「そして緊急任務として黒神大蛇を殺し、その遺体から死器エリミネイトを回収する……」
そう、彼らがアルスタリア高等学院に行かせる理由も全てこれが目的だ。あの青年に死器と接触させる機会を作り、最終的には――
「ふっ……ふふふふ………ふはははははははは!!!!!」
銀二はシャワールームの中で魔王の如く高らかに笑う。大きく開いた口に容赦なくシャワーの水が入り込む。
「はははぼっ……ごぼぼぼぼっ!!」
途端、笑いから一変苦しい表情を浮かべながらシャワーから離れ、口の中に入った水を吐いた。その後すぐにシャワーで床を洗い流す。
「はぁ、はぁ……」
咄嗟にシャワールームのドアを開け、周りを見たが、人の姿は見受けられなかった事に銀二はほっとする。
「シャワーめ……この私に恥をかかせた罪は重いぞ」
◇
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「これが……死器……」
……死器。神器とは対極に位置する悪魔の武具。存在するだけでも人々を恐怖と絶望に陥れると言われている。有名なものだとソウルイーターや妖刀村正等がある。
その中でもあのエリミネイトという死器は格が違うというのを北条さんから聞いた。何と言ってもあらゆる魂を無慈悲に喰らいつくすというのだ。
「……確かにあれは怖いよ。そもそもあんな危険なものは今まで見た事無い。それでも私は博士と約束したんだ……何があっても大蛇君の味方でいるって」
今私に出来る事はあの二人の衝突を止める。そして二人の関係を元に戻す。これが今の私の最優先にするべき任務。
「待っててね……二人共!」
どっちか助けても意味無い。たとえどっちかが死ぬ運命だとしても、蒼乃ちゃんも大蛇君も私の大事な仲間なんだからどっちも助ける。そんな運命は私が変える。
今度は私が、運命を変える番だ。
『大切な人達のために戦っている凪沙さんの事……尊敬、してます』
ふと、大蛇が言ったある言葉が脳内再生された。尊敬……だなんて、やっぱり照れちゃうな。
「……今は大事な相棒と後輩のために、この運命と戦うよ」
今は死器だなんてどうでもいい。二人を助けるんだ。
その一心で私はメインルームを走り抜け、本部から出た。そして目の前の転送装置に足を踏み入れて長崎へと移動する。
「絶対……死なせないから。この運命を止められるのは私しかいないから!」
こうして、ネフティスNo.3涼宮凪沙は唯一の相棒と死器を取り込んだ後輩を助ける任務に出動したのだった――
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