137 / 232
第五章 廻獄厄死篇
第百二十五話「今に遅し真実」
しおりを挟む
時、空間、呼吸、心臓の音すらも聞こえない。ただその領域には何も無い。強いて言えば『無』のみがある。
そんな禁忌魔法に蒼乃さんは飲み込まれた。蒼乃さんはキョロキョロと真っ暗な視界を見渡す。
「これが……大蛇さんの……」
しかし、禁忌魔法を放った当の本人が目の前に……いや、領域内にいないのはどういう事なのだろうか。
「禁忌魔法『黒光無象』は対象を含む範囲内を虚無に誘い、過去の記憶による精神的苦痛を物理的に与える魔法……」
「ですが、その対象がここにいませんが」
「これは俺自身を対象にしてるからな。俺は今この虚無と化して蒼乃さんを閉じ込めている」
パチンッと指を鳴らす音が聞こえた刹那、過去の記憶が蒼乃さんの目の前に映し出された。
『おっ君の……人殺しっ!!』
「――!!」
この声は、間違いない。お母さんの声だ。幼い頃しか顔を見なかったけどこの声は鮮明に覚えている。冷たくも暖かい、とても優しい声だ。
『ち、智優美さんっ! 本当に俺は何もしていない!!』
『言い訳はやめて。これ程の証拠が出ている以上、おっ君は罪を免れる事は無いわ』
あれは……過去の大蛇さん、なんでしょうか。というか、お母さんが生きている時に大蛇さんも生きているのは何故でしょうか。それも今の大蛇さんと同じくらいの年齢で。
「もしかして、大蛇さんは……」
思いもよらない予感を察している間にも記憶は映画の如く流れ続ける。
『おっ君、このまま死んで成仏出来ると思わないでね。私は永遠に、おっ君が犯したこの『過ち』を嘆いて、恨んで、地獄の果てまで呪うわ』
『そうですか……、それが智優美さんの選択、ですか……。それなら好きにしてください。それでも俺は貴方と戦う気は無い!』
「これは……」
本当に、殺していないのだろうか。現時点で大蛇さんには殺意どころか戦う気すら無いように見える。
しかし、驚きを隠せなくなったのはここからだった。
バキバキバキッ……
「この音は……氷?」
恐らくお母さんに撃たれたであろう氷が砕け散っていく。更に大蛇さんの身体が禍々しい闇の魔力を纏っているのが目に見えた。
『偽りの英雄よ。元々お前は厄災を齎《もたら》すヤマタノオロチなのだ。なら殺せ。ここで殺す事でお前はお前でいる事が出来るのだ』
「――!?」
今、誰かの声が聞こえた。当然大蛇さんの声では無い。この声はもはや闇に墜ちた神……いや、闇の権化と言ってもいいほどに聞くだけで背筋が凍りつく程に恐ろしい気配が声だけで感じられる。
『何を驚く。これはお前の運命なのだ。ここであの女を殺せ。運命には誰も逆らえないのだ』
『やめろっ……!』
『さあ、受け入れろ。これが運命だ。ここがお前の終点だと思え』
『おっ君……!』
『抗うな。抗うだけ無駄だ。力を抜け。そして我にされるがままに身体を委ねるのだ』
『智優美、さん…………逃げ、て……っ!!』
『――っ!!』
「お母さんっ……!!」
私は必死に手を伸ばす。こんな事しても、届かない事なんて分かってる。でも気づいた。気づいてしまった。大蛇さんが、お母さんが死んでしまった真実を教えてくれた。私に自分と同じような道を歩んでほしくないから。
『逃げろおおおおおッッ!!!』
『おっ君――!!』
「お母さん――!!!!」
刹那、映像にヒビが入る。徐々に周りにヒビが増え、白い光が入り込む。
そして、ガラスが割れるような音と同時に砕け散っては粒子となって消えた。
「はぁ、はぁ……」
また、病院に戻ってきた。私自身に怪我は無かった。しかし、青年の人影すらも見えなくなった。
「大蛇……さん?」
周りを見回しても、人が来る気配すら感じられなかった。
まさか、これを伝えるために身を犠牲にして――
「あっ……あぁっ……」
私はふと天井を見上げた。溢れてきそうなものが溢れないように――
そんな禁忌魔法に蒼乃さんは飲み込まれた。蒼乃さんはキョロキョロと真っ暗な視界を見渡す。
「これが……大蛇さんの……」
しかし、禁忌魔法を放った当の本人が目の前に……いや、領域内にいないのはどういう事なのだろうか。
「禁忌魔法『黒光無象』は対象を含む範囲内を虚無に誘い、過去の記憶による精神的苦痛を物理的に与える魔法……」
「ですが、その対象がここにいませんが」
「これは俺自身を対象にしてるからな。俺は今この虚無と化して蒼乃さんを閉じ込めている」
パチンッと指を鳴らす音が聞こえた刹那、過去の記憶が蒼乃さんの目の前に映し出された。
『おっ君の……人殺しっ!!』
「――!!」
この声は、間違いない。お母さんの声だ。幼い頃しか顔を見なかったけどこの声は鮮明に覚えている。冷たくも暖かい、とても優しい声だ。
『ち、智優美さんっ! 本当に俺は何もしていない!!』
『言い訳はやめて。これ程の証拠が出ている以上、おっ君は罪を免れる事は無いわ』
あれは……過去の大蛇さん、なんでしょうか。というか、お母さんが生きている時に大蛇さんも生きているのは何故でしょうか。それも今の大蛇さんと同じくらいの年齢で。
「もしかして、大蛇さんは……」
思いもよらない予感を察している間にも記憶は映画の如く流れ続ける。
『おっ君、このまま死んで成仏出来ると思わないでね。私は永遠に、おっ君が犯したこの『過ち』を嘆いて、恨んで、地獄の果てまで呪うわ』
『そうですか……、それが智優美さんの選択、ですか……。それなら好きにしてください。それでも俺は貴方と戦う気は無い!』
「これは……」
本当に、殺していないのだろうか。現時点で大蛇さんには殺意どころか戦う気すら無いように見える。
しかし、驚きを隠せなくなったのはここからだった。
バキバキバキッ……
「この音は……氷?」
恐らくお母さんに撃たれたであろう氷が砕け散っていく。更に大蛇さんの身体が禍々しい闇の魔力を纏っているのが目に見えた。
『偽りの英雄よ。元々お前は厄災を齎《もたら》すヤマタノオロチなのだ。なら殺せ。ここで殺す事でお前はお前でいる事が出来るのだ』
「――!?」
今、誰かの声が聞こえた。当然大蛇さんの声では無い。この声はもはや闇に墜ちた神……いや、闇の権化と言ってもいいほどに聞くだけで背筋が凍りつく程に恐ろしい気配が声だけで感じられる。
『何を驚く。これはお前の運命なのだ。ここであの女を殺せ。運命には誰も逆らえないのだ』
『やめろっ……!』
『さあ、受け入れろ。これが運命だ。ここがお前の終点だと思え』
『おっ君……!』
『抗うな。抗うだけ無駄だ。力を抜け。そして我にされるがままに身体を委ねるのだ』
『智優美、さん…………逃げ、て……っ!!』
『――っ!!』
「お母さんっ……!!」
私は必死に手を伸ばす。こんな事しても、届かない事なんて分かってる。でも気づいた。気づいてしまった。大蛇さんが、お母さんが死んでしまった真実を教えてくれた。私に自分と同じような道を歩んでほしくないから。
『逃げろおおおおおッッ!!!』
『おっ君――!!』
「お母さん――!!!!」
刹那、映像にヒビが入る。徐々に周りにヒビが増え、白い光が入り込む。
そして、ガラスが割れるような音と同時に砕け散っては粒子となって消えた。
「はぁ、はぁ……」
また、病院に戻ってきた。私自身に怪我は無かった。しかし、青年の人影すらも見えなくなった。
「大蛇……さん?」
周りを見回しても、人が来る気配すら感じられなかった。
まさか、これを伝えるために身を犠牲にして――
「あっ……あぁっ……」
私はふと天井を見上げた。溢れてきそうなものが溢れないように――
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこかにあるという、摩訶不思議な場所『転生者派遣センター』。その場所では簡単な面談を行い、自身の希望を伝えることによって、好みの異世界へ転生することが出来る。
今日も様々な思い(主に欲望)を抱いたものたちがその場所を訪れ、それぞれの希望にできるだけ沿った異世界へと旅立つ。あくまでもできるだけではあるが……。
これは転生者派遣センターを気軽な気持ちで利用し、様々な予期せぬ事態に見舞われ、翻弄されるものたちを描いたオムニバスストーリーである。
※オムニバス形式です。ケース1~3、いずれから読んで頂いても構いません。
【完結】赤獅子の海賊〜クマ耳の小人種族となって異世界の海上に召喚されたら、鬼つよの海賊が拾ってくれたのでちやほやされながら使命果たします〜
るあか
ファンタジー
日本からの召喚者ミオがクマ耳の小人種族となって相棒のクマのぬいぐるみと共に異世界ヴァシアスへ転移。
落ちた場所は海賊船。
自分は小さくなって頭に耳が生えてるし一緒に来たぬいぐるみは動くし喋るし……挙句に自分は変な魔力を持ってる、と。
海賊船レーヴェ号の乗組員は4名。
船長のクロノ、双子のケヴィン、チャド。
そして心も身体もおじさんのエルヴィス。
実はめっちゃ強い?彼らの過去は一体……。
ミオは4人で善良にクエストや魔物ハント活動をしていた愉快な海賊の一員となって、自分の召喚者としての使命と船長のルーツの謎に迫る。
仲間との絆を描く、剣と魔法の冒険ファンタジー。
※逆ハー要素があります。皆の愛はミオに集中します。ちやほやされます。
※たまに血の表現があります。ご注意ください。
最弱パーティのナイト・ガイ
フランジュ
ファンタジー
"ファンタジー × バトル × サスペンス"
数百年前、六大英雄と呼ばれる強者達の戦いによって魔王は倒された。
だが魔王の置き土産とも言うべき魔物達は今もなお生き続ける。
ガイ・ガラードと妹のメイアは行方不明になっている兄を探すため旅に出た。
そんな中、ガイはある青年と出会う。
青年の名はクロード。
それは六大英雄の一人と同じ名前だった。
魔王が倒されたはずの世界は、なぜか平和ではない。
このクロードの出会いによって"世界の真実"と"六大英雄"の秘密が明かされていく。
ある章のラストから急激に展開が一変する考察型ファンタジー。
何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜
琥珀のアリス
ファンタジー
悪役貴族であるルイス・ヴァレンタイン。彼にはある目的がある。
それは、永遠の眠りにつくこと。
ルイスはこれまで何度も死に戻りをしていた。
死因は様々だが、一つだけ変わらないことがあるとすれば、死ねば決まった年齢に戻るということ。
何度も生きては死んでを繰り返したルイスは、いつしか生きるのではなく死ぬことを目的として生きるようになった。
そして、一つ前の人生で、彼は何となくした自殺。
期待はしていなかったが、案の定ルイスはいつものように死に戻りをする。
「自殺もだめか。ならいつもみたいに好きなことやって死のう」
いつものように好きなことだけをやって死ぬことに決めたルイスだったが、何故か新たな人生はこれまでと違った。
婚約者を含めたルイスにとっての死神たちが、何故か彼のことを構ってくる。
「なんかおかしくね?」
これは、自殺したことでこれまでのストーリーから外れ、ルイスのことを気にかけてくる人たちと、永遠の死を手に入れるために生きる少年の物語。
☆第16回ファンタジー小説大賞に応募しました!応援していただけると嬉しいです!!
カクヨムにて、270万PV達成!
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
カフェ・ユグドラシル
白雪の雫
ファンタジー
辺境のキルシュブリューテ王国に、美味い料理とデザートを出すカフェ・ユグドラシルという店があった。
この店を経営しているのは、とある準男爵夫妻である。
準男爵の妻である女性は紗雪といい、数年前にウィスティリア王国の王太子であるエドワード、彼女と共に異世界召喚された近藤 茉莉花、王国騎士であるギルバードとラルク、精霊使いのカーラと共に邪神を倒したのだ。
表向きはそう伝わっているが、事実は大いに異なる。
エドワードとギルバード、そして茉莉花は戦いと邪神の恐ろしさにgkbrしながら粗相をしていただけで、紗雪一人で倒したのだ。
邪神を倒しウィスティリア王国に凱旋したその日、紗雪はエドワードから「未来の王太子妃にして聖女である純粋無垢で可憐なマリカに嫉妬して虐めた」という事実無根な言いがかりをつけられた挙句、国外追放を言い渡されてしまう。
(純粋無垢?可憐?プフー。近藤さんってすぐにやらせてくれるから、大学では『ヤリマン』とか『サセコ』って呼ばれていたのですけどね。それが原因で、現在は性病に罹っているのよ?しかも、高校時代に堕胎をしている女を聖女って・・・。性女の間違いではないの?それなのに、お二人はそれを知らずにヤリマン・・・ではなく、近藤さんに手を出しちゃったのね・・・。王太子殿下と騎士さんの婚約者には、国を出る前に真実を伝えた上で婚約を解消する事を勧めておくとしましょうか)
「王太子殿下のお言葉に従います」
羽衣と霊剣・蜉蝣を使って九尾の一族を殲滅させた直後の自分を聖女召喚に巻き込んだウィスティリア王国に恨みを抱えていた紗雪は、その時に付与されたスキル【ネットショップ】を使って異世界で生き抜いていく決意をする。
紗雪は天女の血を引くとも言われている千年以上続く陰陽師の家に生まれた巫女にして最強の退魔師です。
篁家についてや羽衣の力を借りて九尾を倒した辺りは、後に語って行こうかと思っています。
えぞのあやめ
とりみ ししょう
歴史・時代
(ひとの操を踏みにじり、腹違いとはいえ弟の想い女を盗んだ。)
(この報いはかならず受けよ。受けさせてやる……!)
戦国末期、堺の豪商今井家の妾腹の娘あやめは、蝦夷地貿易で商人として身を立てたいと願い、蝦夷島・松前に渡った。
そこは蝦夷代官蠣崎家の支配下。蠣崎家の銀髪碧眼の「御曹司」との思いもよらぬ出会いが、あやめの運命を翻弄する。
悲恋と暴虐に身も心も傷ついたあやめの復讐。
のち松前慶広となるはずの蠣崎新三郎の運命も、あやめの手によって大きく変わっていく。
それは蝦夷島の歴史をも変えていく・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる