上 下
121 / 232
第四章 剣血喝祭篇

第百二十話「別れと決意」

しおりを挟む
 長い間、俺はベディヴィエルと握手しては距離をとり、一時的に同盟を組むこととなった。仲間とまではいかないものの、これから生徒会一同は北条銀二討伐のために俺達に手を貸すと生徒会長であるベディヴィエルの口から放たれた。
 本当に頼れる協力関係ができ、これで一件落着かと思ったその時、身体から何かが抜ける感じがした。

「あぅっ……!!」
「大蛇君っ!!」
「大蛇さんっ……!」

 ベディヴィエルとクロムが倒れた俺に駆け寄る。更にその背後にボロボロの漆黒の鎧を身に着けた少女の姿が目に映った。

『あ、あの……起きて、ください主様!!』
「あれはっ――!」
「大蛇君の身体に取り込まれた……魔剣の本体!」

 突然の登場に驚く二人の騎士を無視し、少女は倒れる俺にそっと優しく抱きしめた。

『ごめん、なさい……私……もう、行かなくちゃ……』

 おい、いきなり何の真似だ。一体どこに行くというんだ。

『……天国。という名前の……天国に、行かなくちゃ……』

 は……? 何を言っているんだエリミネイト。お前は俺の剣だろう。前に俺に取り込めと言ったのはお前の死から救うためで、決してこんな事のためにやったわけじゃない。

『さっき、主様が使った技……あれで私の……魔力、尽きちゃったんです』
「――!!」

 そうか。そうだったのか。どうりで奥義を二つ同時に使う事が出来たのか。そして、それは俺の死を避けると同時にエリミネイトの死を招くという事なのか。

 つまりエリミネイトは、本来俺に迫るはずの死から俺を庇って代わりに死ぬと言うのだ。それも、魔力切れを口実にして。

 ――ふざけるな、そんな事俺は許さないぞ。俺が何のために血を流し、命を投げ捨ててまで戦ってると思ってるんだ。たとえ魔剣だろうとお前に一つの命が宿されてる事には変わりないだろう。お前にも未来これからがあるというのに……何で俺一人のためにお前が死ななくてはいけないのだ。

『……大丈夫ですよ。私はこれからも主様の剣として、貴方の中で生き続けます。私の全てを、貴方に託します。人々の……世界の未来は貴方にかかっていますから――』

 おい待て、やめろ。俺の身体に取り込まれようとするな。そのままいてくれ。俺のために死なないでくれ。元の魔剣の姿に戻ってくれ。そしてこれからの任務もお前と共に遂行して……

 突き放そうと両手でエリミネイトの肩を掴もうとしたが、とっくに彼女の身体は透けていて触れる事すら出来ない。彼女は微笑みながら俺の身体に取り込まれていく。

反命剣リベリオン。私がいなくても、主様にはその立派な剣があるではないですか。なので私は主様の魔力となり、血となり肉となります……全ては主様の望む未来のために――』

 ……ここでお別れです、主様。そして、これからは貴方の中で永遠に生き続けます――

「やめろっ……やめろおおおおおおお!!!!」


 今までにないほど大きな声でエリミネイトが我が身に取り込まれるのを拒んだ。しかし、彼女から放たれていた光は確実に俺の身体に飲み込まれ、全身が白い光に包まれる。

「……」

 全員が黙り込む。ただカペラを焼く炎だけが鳴り響く。そのせいか、はたまた他に原因があるのか分からないが、両目がとても熱い。そしてあの時の悲劇がフラッシュバックされた。

 ――恩人、友、恋人をこの手で殺めた瞬間の一部始終が全て蘇る。
 そうだ、エリミネイトは俺の中で死んだ。もっと早く真実に気づいていればロスト・ゼロ作戦なんてものも、剣血喝祭なんてものも無かった。彼女がこうして命尽きる事なんてことも無かったというのに。

 俺はまた、過ちを犯してしまった。もう誰も死なせないと誓ったのに。もう死なせてしまった。大事な相棒を。きっと心の中では俺の事を恨んでるだろう。表では微笑んでいたけど、それも嘘なのかもしれない。

「……ベディヴィエル、俺もまた一つ過ちを犯した」
「大蛇君……」
「俺、ずっと誰かに守られてばっかりだった。今まで過酷な任務を……運命を乗り越えてきたのは、俺が大切な仲間を守り切る事が出来たからだって思ってた。でも違った……むしろ逆だった。
 俺はどんな結末を辿ることになろうとも、仲間と共に笑い合って……いつも通りの日常を過ごせればそれで良かった。それをあらゆる人々が暮らせる事が、俺の望む未来なんだ。その中にエリミネイトあいつも入ってたんだ……! なのに俺の力となって死んだ! この時点で俺は運命に負けたんだよ…………俺の復讐劇はもう、終わったんだ……っ」

 目から熱い雫がポロポロと溢れていく。両隣でベディヴィエルとクロム、ディアンナが見つめる。

「――まだ終わってねぇよ、馬鹿野郎」

 刹那、背後から何度も聞いた声が聞こえて思わず後ろを向く。そこにはボロボロになったネフティス制服を着た亜玲澄が正義を肩に担ぎながら現れた。

「てめぇの復讐劇ってのは、まだ序章プロローグに過ぎねぇだろうが。ま、てめぇの事は時間を操る方の俺様とかエレイナが一番分かってるとは思うけどな」
「亜玲澄……」
「あと言っとくがなぁ、あの魔剣女は死んだんじゃなくててめぇの身体に魂を宿してんだよ。今風に分かりやすく言ってやる、あの女はてめぇという名の新居に引っ越したんだ。
 言葉通り、あいつは今もてめぇの中で生き続けてるから安心しとけ。過ちなんてもんも背負う必要もねぇよ」
「……!! そう、だな……そう信じるとしよう…………」

 今は素直に親友の言葉を信じるとしよう。彼女……エリミネイトは必ず俺の中で生きている。あのたどたどしい彼女も、戦闘で見せた凛々しく強い彼女も……姿は無くともここにいる。

「――なら、これから尚更死ぬわけにはいかなくなったな」

 俺は勢いよく起き上がり、川越しに見えるアートガーデンエリアを眺めながら口を開いた。

「これから俺は真の意味で命を背負って戦うんだ。新たな任務として、エリミネイトの想いに応えなければな……」

 ――お前の想いには必ず応える。お前の主に恥じないように、俺はこの歪んだ宿命から仲間を……エレイナを守る。

「……変わったな、大蛇」

 隣に亜玲澄が座り込み、ニヤッと微笑んだ。それにつられて俺も思わず口元を緩めながら呟いた。

「あぁ……そうかも、しれないな」

 上る朝日がハウステンボスを暖かく包み込む。たとえ戦場と化したとしても、仲間と眺める朝日はとても綺麗に映っていた。


 今そっちに行くから……もう少しだけ待っててくれ、エレイナ――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...