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第四章 剣血喝祭篇
第百二十話「別れと決意」
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長い間、俺はベディヴィエルと握手しては距離をとり、一時的に同盟を組むこととなった。仲間とまではいかないものの、これから生徒会一同は北条銀二討伐のために俺達に手を貸すと生徒会長であるベディヴィエルの口から放たれた。
本当に頼れる協力関係ができ、これで一件落着かと思ったその時、身体から何かが抜ける感じがした。
「あぅっ……!!」
「大蛇君っ!!」
「大蛇さんっ……!」
ベディヴィエルとクロムが倒れた俺に駆け寄る。更にその背後にボロボロの漆黒の鎧を身に着けた少女の姿が目に映った。
『あ、あの……起きて、ください主様!!』
「あれはっ――!」
「大蛇君の身体に取り込まれた……魔剣の本体!」
突然の登場に驚く二人の騎士を無視し、少女は倒れる俺にそっと優しく抱きしめた。
『ごめん、なさい……私……もう、行かなくちゃ……』
おい、いきなり何の真似だ。一体どこに行くというんだ。
『……天国。主様という名前の……天国に、行かなくちゃ……』
は……? 何を言っているんだエリミネイト。お前は俺の剣だろう。前に俺に取り込めと言ったのはお前の死から救うためで、決してこんな事のためにやったわけじゃない。
『さっき、主様が使った技……あれで私の……魔力、尽きちゃったんです』
「――!!」
そうか。そうだったのか。どうりで奥義を二つ同時に使う事が出来たのか。そして、それは俺の死を避けると同時にエリミネイトの死を招くという事なのか。
つまりエリミネイトは、本来俺に迫るはずの死から俺を庇って代わりに死ぬと言うのだ。それも、魔力切れを口実にして。
――ふざけるな、そんな事俺は許さないぞ。俺が何のために血を流し、命を投げ捨ててまで戦ってると思ってるんだ。たとえ魔剣だろうとお前に一つの命が宿されてる事には変わりないだろう。お前にも未来があるというのに……何で俺一人のためにお前が死ななくてはいけないのだ。
『……大丈夫ですよ。私はこれからも主様の剣として、貴方の中で生き続けます。私の全てを、貴方に託します。人々の……世界の未来は貴方にかかっていますから――』
おい待て、やめろ。俺の身体に取り込まれようとするな。そのままいてくれ。俺のために死なないでくれ。元の魔剣の姿に戻ってくれ。そしてこれからの任務もお前と共に遂行して……
突き放そうと両手でエリミネイトの肩を掴もうとしたが、とっくに彼女の身体は透けていて触れる事すら出来ない。彼女は微笑みながら俺の身体に取り込まれていく。
『反命剣。私がいなくても、主様にはその立派な剣があるではないですか。なので私は主様の魔力となり、血となり肉となります……全ては主様の望む未来のために――』
……ここでお別れです、主様。そして、これからは貴方の中で永遠に生き続けます――
「やめろっ……やめろおおおおおおお!!!!」
今までにないほど大きな声でエリミネイトが我が身に取り込まれるのを拒んだ。しかし、彼女から放たれていた光は確実に俺の身体に飲み込まれ、全身が白い光に包まれる。
「……」
全員が黙り込む。ただカペラを焼く炎だけが鳴り響く。そのせいか、はたまた他に原因があるのか分からないが、両目がとても熱い。そしてあの時の悲劇がフラッシュバックされた。
――恩人、友、恋人をこの手で殺めた瞬間の一部始終が全て蘇る。
そうだ、エリミネイトは俺の中で死んだ。もっと早く真実に気づいていればロスト・ゼロ作戦なんてものも、剣血喝祭なんてものも無かった。彼女がこうして命尽きる事なんてことも無かったというのに。
俺はまた、過ちを犯してしまった。もう誰も死なせないと誓ったのに。もう死なせてしまった。大事な相棒を。きっと心の中では俺の事を恨んでるだろう。表では微笑んでいたけど、それも嘘なのかもしれない。
「……ベディヴィエル、俺もまた一つ過ちを犯した」
「大蛇君……」
「俺、ずっと誰かに守られてばっかりだった。今まで過酷な任務を……運命を乗り越えてきたのは、俺が大切な仲間を守り切る事が出来たからだって思ってた。でも違った……むしろ逆だった。
俺はどんな結末を辿ることになろうとも、仲間と共に笑い合って……いつも通りの日常を過ごせればそれで良かった。それをあらゆる人々が暮らせる事が、俺の望む未来なんだ。その中にエリミネイトも入ってたんだ……! なのに俺の力となって死んだ! この時点で俺は運命に負けたんだよ…………俺の復讐劇はもう、終わったんだ……っ」
目から熱い雫がポロポロと溢れていく。両隣でベディヴィエルとクロム、ディアンナが見つめる。
「――まだ終わってねぇよ、馬鹿野郎」
刹那、背後から何度も聞いた声が聞こえて思わず後ろを向く。そこにはボロボロになったネフティス制服を着た亜玲澄が正義を肩に担ぎながら現れた。
「てめぇの復讐劇ってのは、まだ序章に過ぎねぇだろうが。ま、てめぇの事は時間を操る方の俺様とかエレイナが一番分かってるとは思うけどな」
「亜玲澄……」
「あと言っとくがなぁ、あの魔剣女は死んだんじゃなくててめぇの身体に魂を宿してんだよ。今風に分かりやすく言ってやる、あの女はてめぇという名の新居に引っ越したんだ。
言葉通り、あいつは今もてめぇの中で生き続けてるから安心しとけ。過ちなんてもんも背負う必要もねぇよ」
「……!! そう、だな……そう信じるとしよう…………」
今は素直に親友の言葉を信じるとしよう。彼女……エリミネイトは必ず俺の中で生きている。あのたどたどしい彼女も、戦闘で見せた凛々しく強い彼女も……姿は無くとも俺にいる。
「――なら、これから尚更死ぬわけにはいかなくなったな」
俺は勢いよく起き上がり、川越しに見えるアートガーデンエリアを眺めながら口を開いた。
「これから俺は真の意味で命を背負って戦うんだ。新たな任務として、エリミネイトの想いに応えなければな……」
――お前の想いには必ず応える。お前の主に恥じないように、俺はこの歪んだ宿命から仲間を……エレイナを守る。
「……変わったな、大蛇」
隣に亜玲澄が座り込み、ニヤッと微笑んだ。それにつられて俺も思わず口元を緩めながら呟いた。
「あぁ……そうかも、しれないな」
上る朝日がハウステンボスを暖かく包み込む。たとえ戦場と化したとしても、仲間と眺める朝日はとても綺麗に映っていた。
今そっちに行くから……もう少しだけ待っててくれ、エレイナ――
本当に頼れる協力関係ができ、これで一件落着かと思ったその時、身体から何かが抜ける感じがした。
「あぅっ……!!」
「大蛇君っ!!」
「大蛇さんっ……!」
ベディヴィエルとクロムが倒れた俺に駆け寄る。更にその背後にボロボロの漆黒の鎧を身に着けた少女の姿が目に映った。
『あ、あの……起きて、ください主様!!』
「あれはっ――!」
「大蛇君の身体に取り込まれた……魔剣の本体!」
突然の登場に驚く二人の騎士を無視し、少女は倒れる俺にそっと優しく抱きしめた。
『ごめん、なさい……私……もう、行かなくちゃ……』
おい、いきなり何の真似だ。一体どこに行くというんだ。
『……天国。主様という名前の……天国に、行かなくちゃ……』
は……? 何を言っているんだエリミネイト。お前は俺の剣だろう。前に俺に取り込めと言ったのはお前の死から救うためで、決してこんな事のためにやったわけじゃない。
『さっき、主様が使った技……あれで私の……魔力、尽きちゃったんです』
「――!!」
そうか。そうだったのか。どうりで奥義を二つ同時に使う事が出来たのか。そして、それは俺の死を避けると同時にエリミネイトの死を招くという事なのか。
つまりエリミネイトは、本来俺に迫るはずの死から俺を庇って代わりに死ぬと言うのだ。それも、魔力切れを口実にして。
――ふざけるな、そんな事俺は許さないぞ。俺が何のために血を流し、命を投げ捨ててまで戦ってると思ってるんだ。たとえ魔剣だろうとお前に一つの命が宿されてる事には変わりないだろう。お前にも未来があるというのに……何で俺一人のためにお前が死ななくてはいけないのだ。
『……大丈夫ですよ。私はこれからも主様の剣として、貴方の中で生き続けます。私の全てを、貴方に託します。人々の……世界の未来は貴方にかかっていますから――』
おい待て、やめろ。俺の身体に取り込まれようとするな。そのままいてくれ。俺のために死なないでくれ。元の魔剣の姿に戻ってくれ。そしてこれからの任務もお前と共に遂行して……
突き放そうと両手でエリミネイトの肩を掴もうとしたが、とっくに彼女の身体は透けていて触れる事すら出来ない。彼女は微笑みながら俺の身体に取り込まれていく。
『反命剣。私がいなくても、主様にはその立派な剣があるではないですか。なので私は主様の魔力となり、血となり肉となります……全ては主様の望む未来のために――』
……ここでお別れです、主様。そして、これからは貴方の中で永遠に生き続けます――
「やめろっ……やめろおおおおおおお!!!!」
今までにないほど大きな声でエリミネイトが我が身に取り込まれるのを拒んだ。しかし、彼女から放たれていた光は確実に俺の身体に飲み込まれ、全身が白い光に包まれる。
「……」
全員が黙り込む。ただカペラを焼く炎だけが鳴り響く。そのせいか、はたまた他に原因があるのか分からないが、両目がとても熱い。そしてあの時の悲劇がフラッシュバックされた。
――恩人、友、恋人をこの手で殺めた瞬間の一部始終が全て蘇る。
そうだ、エリミネイトは俺の中で死んだ。もっと早く真実に気づいていればロスト・ゼロ作戦なんてものも、剣血喝祭なんてものも無かった。彼女がこうして命尽きる事なんてことも無かったというのに。
俺はまた、過ちを犯してしまった。もう誰も死なせないと誓ったのに。もう死なせてしまった。大事な相棒を。きっと心の中では俺の事を恨んでるだろう。表では微笑んでいたけど、それも嘘なのかもしれない。
「……ベディヴィエル、俺もまた一つ過ちを犯した」
「大蛇君……」
「俺、ずっと誰かに守られてばっかりだった。今まで過酷な任務を……運命を乗り越えてきたのは、俺が大切な仲間を守り切る事が出来たからだって思ってた。でも違った……むしろ逆だった。
俺はどんな結末を辿ることになろうとも、仲間と共に笑い合って……いつも通りの日常を過ごせればそれで良かった。それをあらゆる人々が暮らせる事が、俺の望む未来なんだ。その中にエリミネイトも入ってたんだ……! なのに俺の力となって死んだ! この時点で俺は運命に負けたんだよ…………俺の復讐劇はもう、終わったんだ……っ」
目から熱い雫がポロポロと溢れていく。両隣でベディヴィエルとクロム、ディアンナが見つめる。
「――まだ終わってねぇよ、馬鹿野郎」
刹那、背後から何度も聞いた声が聞こえて思わず後ろを向く。そこにはボロボロになったネフティス制服を着た亜玲澄が正義を肩に担ぎながら現れた。
「てめぇの復讐劇ってのは、まだ序章に過ぎねぇだろうが。ま、てめぇの事は時間を操る方の俺様とかエレイナが一番分かってるとは思うけどな」
「亜玲澄……」
「あと言っとくがなぁ、あの魔剣女は死んだんじゃなくててめぇの身体に魂を宿してんだよ。今風に分かりやすく言ってやる、あの女はてめぇという名の新居に引っ越したんだ。
言葉通り、あいつは今もてめぇの中で生き続けてるから安心しとけ。過ちなんてもんも背負う必要もねぇよ」
「……!! そう、だな……そう信じるとしよう…………」
今は素直に親友の言葉を信じるとしよう。彼女……エリミネイトは必ず俺の中で生きている。あのたどたどしい彼女も、戦闘で見せた凛々しく強い彼女も……姿は無くとも俺にいる。
「――なら、これから尚更死ぬわけにはいかなくなったな」
俺は勢いよく起き上がり、川越しに見えるアートガーデンエリアを眺めながら口を開いた。
「これから俺は真の意味で命を背負って戦うんだ。新たな任務として、エリミネイトの想いに応えなければな……」
――お前の想いには必ず応える。お前の主に恥じないように、俺はこの歪んだ宿命から仲間を……エレイナを守る。
「……変わったな、大蛇」
隣に亜玲澄が座り込み、ニヤッと微笑んだ。それにつられて俺も思わず口元を緩めながら呟いた。
「あぁ……そうかも、しれないな」
上る朝日がハウステンボスを暖かく包み込む。たとえ戦場と化したとしても、仲間と眺める朝日はとても綺麗に映っていた。
今そっちに行くから……もう少しだけ待っててくれ、エレイナ――
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