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第四章 剣血喝祭篇

第百十九話「真実と危機」

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 任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
 遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス


 ――終わった。これで長き生徒会との戦いが終わった。残念ながら完全勝利とはいかないが、作戦上の意味では勝利と言っていいだろう。

「……大蛇、くん……」

 俺の反命剣リベリオンが突き刺さった状態で、ベディヴィエルは微笑みながら俺の名を呼んだ。同じくベディヴィエルの聖剣に胸部を刺されて今にも意識が飛びそうな俺は薄く目を開いて彼の目をじっと見つめる。

「何故……こんな祭りを開催したか、知りたいか……?」

 ……今更何を言っている。まさか遺言のつもりだろうか。にしてもそれを最期の言葉にするか、普通。

 心の底からそう思ったが、内心気になってはいたので聞いてみることにする。

「……何故、こんな事を」

 その質問にベディヴィエルは微笑みながら答えた。それも、自分では止めようが無かったと言わんばかりに。

「君を……殺すためだ。全部、あの人……ホウジョウさんのための計画だったんだ。この剣血喝祭も」
「ホウジョウ……だと?」
「あぁ……今のネフティスNo.6の北条銀二だ。私は去年、その人から推薦を貰って入学して……君と同じく特別区分生徒として勉学に励んでいた」
「……」

 それはそうだろうな、とは剣を交わらせた時からつくづく思っていた。というか、生徒会長という学園最強の座に彼は君臨しているのだからそれくらい当然というべきか。

「いつか……ホウジョウさんと一緒に任務を遂行して、今を生きる人々を救うのが私の夢だった……。でも、それはもう叶わない……私自身の手でその夢を壊してしまった」
「……」
「それと、今のホウジョウさんはあの頃とはだ……。君一人を殺すためがだけにネフティスの養成学校の生徒を使って、こんな危険な祭りを開けと言うんだからな……
 今思えば私は愚かだったよ。ホウジョウさんの闇に気づけず、まんまと乗っかってしまったのだから……」
「ベディヴィエル……」

 なら、あの集会も、入学前試験も、シャワーヘッドの怪物やら何やら全て俺を殺すための罠だったというのか。全部、北条銀二が仕掛けたトラップなのだろうか。

 もしそうなのだとしたら、北条銀二こそ、と言う事だ。つまり、俺が運命に……血塗られた宿命に復讐するとは北条銀二を殺す事にある。

 これで大方分かってきた。この運命の奥に潜む闇を。真実を。根源を。

 ――だが、その前にするべき事が……

「大蛇さん、ベディヴィエル!」

 左を向くと、クロムとディアンナが駆けつけてきた。二人はそれぞれ俺とベディヴィエルを起き上がらせ、背後に立つ。そして互いを突き刺している剣を引き抜く。俺もベディヴィエルもそれに合わせて己の剣を抜く。

「うぐっ……」
「うっ……」

 剣が抜けた途端俺とベディヴィエルはその場に倒れ込んだ。そこにディアンナが地面に巨大な魔法陣を生成する。

「『妖精之息吹フェアリー・ブレス』」

 刹那、優しい風が傷ついた肌をそっと撫でる。俺が生み出した竜巻とは違い、優しく上に舞い上がる風によって痛みが上に飛んでいく感じがした。ベディヴィエルもそれが心地良いのか、思わず頬を緩めた。

「……大蛇くん」
「何だ、ベディヴィエル」
「大事な事を2つ言っておこう。1つは及び私が今まで戦ったアルスタリアの生徒は殺していない。ホウジョウさん、そして今までの私の目的は君を殺す事だけだったからな」
「……そうか」

 エレイナは生きているのか。それだけでも十分と言えるほどに安心した。誰よりもいち早く合流しなければならなかったから、彼女の無事が知れただけ安堵してしまう。今の彼は嘘なんて言う口でも無さそうだから尚更だ。

「それで……2つ目はなんだ」
「それなんだが……これはあくまで私の予言に過ぎないが、今後に関わる話だ」

 君にしか言わないと口にし、ベディヴィエルは目を瞑りながらぼそっと言った。

「今の北条銀二は何としてでも殺さなくてはならない。早くしないとお前の運命は残酷そのものになるだろう――」
「は……? それはどういう――」
「君の運命は君の目でしか見られない。君の恋人は君にしか救えない。だからその行く先は君自身で確かめると良い」

 何とか聞き出そうとしたが、途中で遮られるように口を挟まれた。

 ベディヴィエル……お前は一体何を知っていると言うんだ。どこまで世の……俺の未来を知り、お前の予言は当たるのか。そもそもそれは現実となって俺に襲いかかるのか。

「――よし、何とか回復出来たかな」

 いつの間にか地面の魔法陣は消え、俺とベディヴィエルの傷も完全に癒えていた。二人はクロムに支えられながらも立ち上がり、跡形もなく消えたハウステンボスのアドベンチャーパークをじっと見つめていた。

「――私はとてつもなく重い過ちを犯してしまった。5年ぶりの祭典は私の……北条銀二によって厄災と化した……」

 ベディヴィエルはゆっくりと左を振り向く。そこには両腕を失って倒れる銀河と左半身が燃え尽きた正義、そして今だ焼かれているカペラをじっと見る亜玲澄の姿が見えた。

「……こうなったのも、全て私の責任だ」

 そんなベディヴィエルを見て、俺はどんな言葉をかけたらいいか分からなかった。だがこれだけは確信がついた。

 ――宿命に呪われているのは、俺だけでは無いということ。ベディヴィエルや凪沙さん、そしてその創生者であろう北条銀二でさえも己の宿命に呪われては苦しみ、抗っているのだろう。全ては個々が望む未来のために。

「……ベディヴィエル、言ったらあれだがの過ちだ。『黒き英雄』だなんて二つ名を貰ってる俺とて過去に何度も殺め、罪なき人の血飛沫を浴びてきた。そして苦しくて、辛くて……その度にこの命を絶ってきた」
「大蛇君……」
「この『常夏の血祭り』でさえも、お前が己の宿命に復讐するための手段だろう? それ自体を否定するつもりは無いし、否定できる身では無い。だがお前は復讐故に守る相手を間違えた――」

 ――誤った復讐は、数多の復讐を生むだけだ。

「――!!」
「必ずしも復讐は人を殺すだけに限らない。俺のように、数多の命を守るために呪われた現実に刃を向ける者もいる。今からでも遅くはない……ベディヴィエル・レント、共にこの宿命に終止符を打とう」

 ベディヴィエルは思わず目を見開く。それもそのはず。元々彼にとって俺は殺すべき対象者でしか無かったのだ。だが彼は剣血喝祭を以て自身が呪われている事に気づいたのだ。俺とは違い、己の手で自分の命を絶つ前に。

 これ以上、俺みたいな人間を増やしたくない。だから過去にどれほど敵対してようとも必ず手を差し伸べる。アカネからこの身体を授かった時から、そう心の底に深く刻んでは誓ったんだ。水星リヴァイスでの正義のように。

 俺の強い意志に心打たれたのか、ベディヴィエルは苦笑しながら俺の顔をじっと見つめながら言った。

「後輩とはいえ、やっぱり君には敵わないなぁ。参ったよ、まさか殺すどころか敵である私に手を差し伸べるなんてね。卑怯な人間だよ、君は」
「卑怯でも構わない。俺はこの宿命に復讐するためならどんな手でも使ってやる」

 そして、星降る月夜を背景に互いに手を取り合った。その後二人は心の中で誓う。

 今まで俺の運命の影の糸を引いては弄んだ……
 私やアルスタリア高等学院を利用して夢を絶望へと塗り替えた……

 ――現ネフティスNo.6 北条銀二を殺すと。
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