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第四章 剣血喝祭篇

第百十四話「命をかける理由」

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 任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
 遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス


 漆黒のスカートが風に揺れる。同時に闇の波動がエリミネイトの足元から波打つように放たれる。

「主様とそのお仲間は、私が殺させません」
「あれがあの死神……オロチ君の持ってた魔剣の真の姿と言う事か」

 彼女から放たれる凄まじいオーラからか、ベディヴィエルは思わず生唾を飲む。カペラも続いて両手を広げて無数の魔力玉を精製する。

「……所詮はただの魔剣の擬人化に過ぎないわ、ベディヴィエル。空間ごと焼き尽くせばっ!」
「やってみせなさい、学園最強の魔女。その唯一無二の爆裂魔法というもので私を殺して見せなさい」
「っ……!!」
「カペラ、挑発に乗るな!」

 ベディヴィエルが注意喚起するも時すでに遅しだった。既にカペラの両手の魔力玉はエリミネイトに迫りかかっていた。

「焼き尽くしてあげるわ……骨すら残さずにね!」
「全てを喰らい、飲み込みなさい……『暴飲暴喰イベルゲーテ』!!」

 エリミネイトが右手をかざした途端、螺旋状に広がる禍々しい闇がカペラの魔力玉を一つも残すことなく喰らい尽くす。

「……甘いわ」

 カペラが指を鳴らした刹那、闇に飲み込まれた魔力玉が一気に爆発を起こす。闇は散りばめられ、爆風でエリミネイトの右腕が焼かれる。

「っ……!!」
「っ――! 主様!!」
「これで終わりよ……破滅之雷ゲイルスパーク』!!」
 
 今度は稲妻を帯びた魔力玉が閃光の如くエリミネイトに襲いかかる。

「がっ……ぁぁぁあああっ!!!」
「くっ……!!」
「今はここから出ちゃダメっ! 貴方も雷に焼かれるわ!!」

 分かっている。そんなの分かっている。だからここから出せ。魔剣あいぼうが死ぬ前に――


「おいちゃんよぉ、何か大蛇のやつが言いたげだぜぇ?」

 俺の向かいで同じように障壁で守られている亜玲澄がエルフの少女にそう言った。話すことさえも困難な俺の表情を読み取ってそう判断したのだろうか。


「彼の言いたいことは分かっているわ、亜玲澄。でもここから出したら彼も焼かれるわ! 」
「あいつが今までどれほど地獄を見てきたか分かってんのか! あいつは……大蛇は俺達が想像すら出来ない程の地獄を味わってんだ! でもそれを一つ一つ乗り越えて今ここにいんだよ!
 確かにこんなクソみてぇな祭りで犠牲を増やしたくねぇ気持ちも分かるが、少しは大蛇を信じろよ! そもそもこのままあの子を放置するなんてこと、俺にゃ出来ねぇよ……」
「亜玲澄……」

 圧倒されたのか、ディアンナは黙り込む。その間にもエリミネイトはカペラの雷に焼かれ続けている。

「ぁ……るじ、さまぁぁああっ……!!」

 あぁ、もう見てられない。いてもたってもいられなくなった。このまま他人に守られるだけの復讐なんてしたくない。そんなの運命への復讐でも何でもない。ただ逃げてるだけだ。そんな真似をするくらいなら、相棒と共に雷に撃たれて死んでやるよ。


 右目がじんわりと熱くなる。血が流れ始めた。失った両腕が焼かれるように熱くなる。

「うっ……くあああ!!」
「エリミネイト……!!」

 早く。早くしないと俺の魔剣が焼け焦げてしまう。

「終わりにしてみせよう、死神の魔剣エリミネイト。この私、ベディヴィエル・レントが終止符を打ってみせよう!!」
「させませんっ……!」

 雷に撃たれるエリミネイトを真っ正面から斬りかかろうとしたベディヴィエルだが、その寸前にクロムが割り込んでは止めた。

「何故お前がっ……!」
「生憎バリアの方も持久力が落ちてきてですね、強制的に割ったんですよ。貴方と戦うために」
「ちぃっ、毎度私の邪魔ばかりっ……!」
「大蛇さん、ベディヴィエルは私が食い止めます。その間に魔剣さんを!」
「邪魔者は皆氷漬けにしてあげるわ……!」

 カペラは空いた左手で氷の魔力玉を精製させたと同時に地面に放った。瞬時に地面に氷の膜ができ、障壁をも巻き込んでハウステンボスを氷のテーマパークに仕上げる。

「へっ、残念だったなぁ! そんな氷はソフトクリームみてぇにドロドロに溶かしてやんよぉ!!」
「悪りぃなエルフの嬢ちゃん! 死なせたくねぇ気持ちはありがたく受け取っておくが、俺等は一応戦いに身を置く存在に過ぎねぇんだぜ!」
「何で……皆、死にたいのっ!?」

 自ら障壁を破っては対峙する姿を見て、ディアンナは悲劇を予知するような険しい顔をしながら訴えかける。それを見て亜玲澄はニヤリと笑いながらディアンナに答える。
 
「そうじゃねぇよバーカ。俺達は仲間のために命張ってんだ。てめぇも含めてな」
「亜玲澄……」
「少なくともてめぇに地球を案内する時が来るまで俺は簡単には死ねねぇよ!!!」
「――!!」

 その揺るぎない誓いが具現化したかのように、亜玲澄の右手から太陽が作り出される。ディアンナの両手から力が抜け、全員の障壁が解除される。

 そうだったな……私、亜玲澄にそんな約束してたな。それに、覚えていてくれてたんだ。でも、私もに来た時点で忘れただなんて言えないかもだけど。

「正義! 今からこいつ落とすからてめぇがぶった斬って流星群にするぞ!!」
「あぁ、任せとけ……白坊!!」
「行くぜ……おらああああ!!!」

 太陽が落ちていく。東から西へ落ちるという太陽の理をも無視し、太陽神が生み出した太陽は無慈悲にハウステンボスに沈み込む。

「はぁっ……」

 ……親父、頼む。もう一度力を貸してくれ。

「『恋鐘之刀こがねのとう甜逆之雷刄てんぎゃくのらいじん』!!」

 太陽がハウステンボスに衝突するギリギリで正義の刀が太陽に切り込みを入れる。

「っ――! くそったれが!!」

 左手の袖に太陽の炎が燃え移り、激しさを増す。次第に正義の左半身に炎が纏う。

「ふざっ……けんなよなあああ!!!!」

 速く、速く斬れ。始祖神の魔力で作られたやつなんだからやべぇに決まってんだろ。良いから速く斬れ。そうしねぇと死ぬぞ、俺。

「正義っ!!」
「安心しやがれ! てめぇはあの魔女を何とかしろ!!」

 炎が燃え広がる。まずい、エリミネイトも正義もこのままじゃ死ぬ。クロムも懸命にベディヴィエルと死闘を繰り広げているし、ディアンナは魔力切れで倒れている。今この中で動けるのは俺しかいない。でもそんな俺でさえも両腕を失っている。
 
「あるじっ……さまああっ……!!」

 考えろ。どうしたらこのうんめいを避けられる。俺に出来る事は何だ。今の俺に何が変えられる…………



 ――思い出せ、桐雨芽依を救ったあの光を。

『お前が持っていたのか……その!!』
「――!!」

 ……そうか。禁忌魔法は使えなくても、あれは使のか。この残酷なる宿命を創った暗黒神でさえも恐れたこれなら、この危機を打破出来る。いや、俺に残された選択肢はこれしかない――


「――――――っ!!!!」

 言葉として表現出来ない程の声を発しながら、俺は腹の底から叫ぶ。その刹那、エメラルド色の波動がエリミネイトの闇の波動とリンクするような形で空間を波打った。

「うっ……! 何、これっ……!」
「ちっ……この共鳴は……」

 俺とエリミネイト以外の全員が衝撃波によって地面に倒れ込む。

「おいおい何だあれはっ!?」
「大蛇さん……」

 エリミネイトの身体が透明化し、俺の身体に取り込まれる。その後再び黒い霞が発生し、二つの波動に合わせて霧が動く。両腕も元に戻り、完全復活を果たしたのだった。

「まだ生きていたか……死神」
「……さぁ、第二ラウンドを始めようか、ベディヴィエル」

 薄虹の如く七色に輝くベディヴィエルの聖剣と、漆黒に彩られた俺の剣が共に討つべき敵に切っ先を向けた――
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