黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui

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第四章 剣血喝祭篇

第九十七話「譲れないプライド」

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 任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
 遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス

 
 2005年 7月17日 剣血喝祭3日目――

 長崎県佐世保市。ここのある店では今も多くの客で賑わっていた。新鮮な外の空気を吸いながら口にする佐世保バーガーは、今日を生きる者達の腹と心を癒やしていた。
 約2日前にホテルで目覚めた武刀正義もまた、その一人であった。

「うおっ、何だこりゃ! めちゃくちゃ美味ぇじゃねぇか!! 半熟の目玉焼きといい巨大ベーコンといい、ハンバーガーのくせにボリュームてんこ盛りじゃねぇかよ!!」

 ……ったく、こんな美味いもんを総長や竜坊(桐谷優羽汰)は普段から食えるのか。羨ましすぎるぜ。

 例え『常夏の血祭り』とも呼ばれる剣血喝祭とは言っても、一応アルスタリア高等学院主催の学校祭である事には変わりない。俺を殺す奴が現れるまではお祭り気分でいさせてくれ。

「……ったく、学祭で血祭りだなんて何てひでぇ呼ばれ方なんだよ」

 『常夏の血祭り』なんて呼ばれる事への愚痴を吐きながら勢いよくメロンソーダを飲んでいると、突然何か爆発音が聞こえてきた。

「きゃあああああっ!!」
「うわああっ! な、何だ……!?」

 唐突すぎる出来事に客達が混乱する。逃げる人達の背後には家1つ分はあるであろう巨大な怪物が地を鳴らしながらゆっくりと歩いていた。

「ゴオアアアアアアアッ!!!」
「――!?」

 土埃つちぼこりから姿を現したそれは、紫色の殻とはさみを持っていてまるで蟹のようだ。

「何だありゃ……」

 流石の俺も驚かずにはいられなかった。まさか戦後からしばらく経った日本……ましてや長崎にこんなバケモンが襲ってくるとは。

 蟹のような化け物は両手の鋏を振り回してはありとあらゆるものを吹き飛ばす。更にゆっくりと俺の方に向かっているではないか。

「あっははは! アルスタリアの生徒み~っけ! やっちゃいな、『凶星之獣ディザスター』!!」
「ゴアアアアアアアッ!!!」

 ……マジかよ。あのバケモンをアルスタリア高等学院の生徒が作ったってのかよ。ただこの血祭りで優勝するためだけに街を壊す気だ。
 ――んなの黙ってられるかよ!

「すまんそこの兄ちゃん、俺のバーガーセット達頼んだ!!」
「え、ちょっと……えぇ……?」

 たまたま近くにいた2人の男性にバーガーを見守るよう頼み、俺は地を蹴って飛び、下にいる化け物との間合いを詰める。

「あれは……正義クンだ! 運がいいねぇ! 最初にネフティス推薦者を倒せる時が回ってくるとは!」
「何だか知らねぇけど俺の昼飯の邪魔すんじゃねぇ!!」

 化け物は図所で居合いの構えをとる正義に気づき、口から闇の炎を吐き出した。

「ゴアアアアアアアッ!!」

 炎が佐世保の空を焼く。それでも赤き侍は恐れることを知らず、刀を抜くタイミングだけに集中する。迫る。紫に染まった炎が一直線に迫ってくる。

「――六剴殺刀ろくがいさっとう…………」

 炎で身体が焼けそうになる、その寸前に右手の刀を勢いよく抜く。

「――恋鐘之舞こがねのまい

 刹那、力強く抜いた刀が瞬時に桃色の光を帯びては闇の炎を螺旋状らせんじょうに斬る……いや、打ち消す。

「あの炎を斬った……」
「自慢の最強モンスター引き連れるのは構わねぇが、市民巻き込むんじゃねぇぞ非常識が!!」
「ゴギュアアアアアアッ!!!」

 今度は大きく開いたはさみを俺の腹に突きだしてくる。見た目からしてまるでチェーンソーのようにギザギザとした刃に外側も刀のように鋭い。つまるところ隙なしと言ったところか。

「ちっ……!」

 斬られるか、避けるか、斬るか。俺に与えられた選択肢はこの3つ。ほんの僅かな時間で選択しなければならない。

「ゴアアアアッ!!」

 俺から見て左から鋭いはさみが振り下ろされる。あの大きさからは想像も出来ない程の速さで迫ってくる。

「くそっ!」

 両手で刀を持ち、ありったけの力で受け止める。しかし、圧倒的なパワーで押し負けて俺は後方に弾き飛ばされる。途端、背中に激痛が走る。石段に思い切りぶつけたのか。

「ゴオアアアアッ!!!」

 今度は左のはさみで追い打ちをかけてくる。いや、狙いは俺じゃねぇ。どう見てもあの化け物は俺を見ていない。奴の目の先にいるのは――

「うっ……ううっ……!!」
「――!?」

 小さな女の子だった。アルスタリアの生徒でも何でも無く、この佐世保に住む普通の子供だ。

「僕がこの剣血喝祭で勝つ方法……そう、この長崎ごと焼き尽くすことさ!!」

 ちっ、身体が動かねぇ……頭から血も流れてきやがった。何としてでもあのクズメガネを止めねぇといけねぇってのに!

 ――このままじゃ、長崎が消えちまう。そうなれば俺も黒坊も白坊も嬢ちゃんも、あの子も全員お陀仏だ。

「ギュアアアアアアアッ!!!」

 なのに、動けない。たかが一時的な痛みで身体が動くことを拒んでいる。これ以上動いたらもう壊れてしまうと叫んでいるかのように。

「きゃあああああっ!!!」

 小さな子供が化け物に殺されるってのに、何も出来ねぇのかよ俺は……

「さぁ、皆殺しだあああ!!!」

 化け物のはさみが少女の目の前にまで迫り、少女は目を瞑った――




 チリ~ンッ……チリリ~ンッ…………

 聞こえる。風鈴のような爽やかな音色に鐘のような重い音が微かに混じり合うような音が。そう、恋鐘の音色だ。俺――武刀正義が昔によく親父からこの音色を聞かされていた。これを脳に覚えさせるといざという時に本来以上の力を発揮出来るのだとか。

「正義よ。常にこの音を脳に焼き付けておけ。いついかなる時に鳴らしても構わん。鳴らしてそれを脳が覚えた時、お前は剣の才を開花させるだろう――」

 ……だから何だよ。結局俺は小さな女の子1人の命も守れなかったんだぞ。元々俺に剣の才能なんて無かったんだよ。ただのクソガキだったんだよ俺は。

「いいか正義よ。身体は剣と同じであり異なるものだ。どちらも限界を超えれば壊れる。だが、身体はお前自身の意思の力で鋼よりも強靭になる。この鬼丸の刃なんて比べ物にならない程な。
 だからな、自分を見捨てるな。卑下するな。それだけで心という刃は簡単に錆びてしまう。ほんの僅かでもいい……可能性を信じろ。一人でも多くの人を救う可能性を信じ、己の手で実現させるのだ。それがお前に与えられた鬼丸が在る意味だ。だから……」

 
 お前もそれに応えよ、武刀正義――



 刹那、少女の前にピンクの稲妻を纏った青年が抜刀の構えをとっていた。それでも巨大なはさみは青年を容赦なく斬りつけようとするが、青年からは慌てる仕草が一切見当たらない。

「はぁぁ…………」

 ゆっくりと一度深呼吸をしながら右手で柄を掴む。その直後、巨大ないかづちが正義の頭上に落ちた。

恋鐘之刀こがねのとう…………」

 はさみが正義の髪を掠ったその時、一筋の稲妻が神速の如く駆け抜けた。

 ――親父、ありがとな。この動かねぇもろい身体を動かしてくれてよ。もちろん応えてやるよ。鬼丸の意思ってやつも……親父の期待も……そして、

 可愛い女の子を守るっていう俺のプライドにもなあああ!!!!

 強靭なはさみが一直線に真っ二つになる。そこからドロドロの血のような魔力を噴出しながら化け物は痛みにもがく。

「ゴガアアアッ!!」
「……可愛い女の子泣かしてんじゃねぇぞ、ゴミクズ」
「なっ……!?」

 目にも止まらぬ速さで化け物の全身を斬り裂く。足から腕、殻のように硬い腹、そして背中と首にかけて容赦なく斬り裂いていく。化け物に防御させる隙は一切与えない。

「ガアアアアアアア!!!」
「おい……おいどうした! 早く反撃しろっ……!?」

 ふと正面を向くと、目の前に桃色の稲妻が迫っていた。

「……未来ある小さな女の子殺そうとしたてめぇに相応しい裁きを下してやる」
「くっ……!」

 化け物の肩の上に乗っていたメガネをかけた生徒は腰から剣を抜き、刀身を青く染める。

「このおおおおお!!!」
「……『甜逆之雷刄てんぎゃくのらいじん』」

 ――そして、化け物の首に一筋の稲妻がほとばしった。同時に生徒のメガネが粉々に砕け散った。全身が稲妻の痛みに包まれた。化け物が黒い塵となって消えていく。 

 化け物を作った生徒は眼鏡の破片を散らしながら仰向けに倒れた。正義はトドメを刺すべく、生徒の元へとゆっくりと歩み寄った。
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