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第四章 剣血喝祭篇
第九十六話「血祭りから始まる縁」
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任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス
2005年 7月14日 剣血喝祭1日目――
長崎の空は澄み切っている。常夏の血祭りを最高の天候で始められた俺とクロムは、松浦市の街を歩いていた。
「……いい街ですね」
「そんな街がこれから血祭りにされちまうとはな」
……それだけは避けなくてはならない。当然ながら多くの市民が住んでいる。学園祭如きで一般市民から犠牲を生み出すわけにはいかない。それこそ戦争は避けられない。
「……大事になる前に片を付けるか」
「そうですね、早いうちに実行した方が良さそうですしね」
とりあえず市民を守る事を優先するべく、松浦駅へと向かおうと一歩踏み入れた時だった。
「――! 大蛇さん!」
「っ――!!」
突然歩道が泥のように柔らかくなり、踏み込んだ右足が沈んでいく。上げようとしても中々上がらず、身動きが封じられた。
「全く俺というやつは運がいいぜ。初日から特別区分の生徒を殺せるんだからな! そうすりゃ優勝に一歩近づくぜ!!」
……誰かは分からないが亜玲澄や正義と同じ一般区分の生徒か。制服の左胸あたりにアルスタリア高等学院の校章の刺繍がある。
「あのスチールウールみたいな髪のババアに変形魔法を教わっといて良かったぜ。この隙に殺らせてもらうぜ!!」
一瞬赤髪の刀使いを思い浮かんだが、そんな場合ではない。生徒は背中の剣を抜き、身動きがとれない俺達に剣を振りかぶりながら走ってくる。
「うおおおおお!!」
エメラルド色に輝き出した刀身が俺の目の前に迫ってくる。
「『旋風刀』!」
「大蛇さん!」
今はじっと待つ。どうせ俺は動けないのだ。なら間合いが詰めるまでじっと耐える。
体感で約30センチにまで迫ってきた……今だ!
「……ふっ!」
生徒が剣を振り下ろしたと同時に俺は背中から魔剣を引き抜き、エメラルド色に輝く剣と交差させた。朱色の火花が散っては頬に当たって一瞬熱さを覚えて歯を食いしばる。
「へぇ……流石は特別区分だな!」
身動きがとれない中の戦闘はこれまでのバスルームでの訓練で慣れている。流石に毒を使ったりは無いが、あの特訓がここで活かされるとはな。
「くっ……!」
右手に思い切り力を入れる。このままあの剣を真っ二つに斬る。そうすればあとは魔法を避ければ戦うのも時間の問題だ。そうすればこの人は強制的にリタイア出来る。
――この『常夏の血祭り』のリタイア条件は2つ。今日の夜まで生徒が気絶状態にあること。それと、武器及び魔力の枯渇による戦闘不能状態にあることだ。
「少し我慢しろよ……!」
『は、はい……耐えて、見せます!』
魔剣のテレパシーを無言で聞き取り、先程より強い力を魔剣に加える。生徒の刀身から火花を散らしながら漆黒の魔剣の刀身が通り抜けていく。
「嘘だろ……? お前まさか……!」
「その……まさかだ!」
刹那、ジャリィィィンッという甲高い音と共に生徒の刀身が真っ二つに斬られ、先端から半分が道路に突き刺さる。
「ま、マジかよ……」
剣を折られた生徒はショックのあまりか膝から崩れ落ちた。恐らく今の一撃で身動きを封じた俺を殺す作戦だったのだろう。
ということは、この人に攻撃魔法は使えない。この物質変形魔法が彼の唯一使える魔法なのだ。
「はぁ……、上手くいったと思ったのにな……」
作戦失敗して絶望した生徒の前にいつの間にかクロムが立っていた。
「貴方、お名前は?」
「……いきなり何だお前は」
「私の後輩の名前くらい、一人でも多く覚えておきたいと思いましてね」
「……変な人だな」
「そうでしょうか。でも、これを機に仲良くしてくださる方もいるので」
もうこの人には何言っても通じないと思ったのか、生徒はため息を吐きながら自分の名前を呟いた。
「……ギール。ギール・クレイグ。フランス出身だけど育ちは日本なんだ。富山ってとこなんだけど」
「富山ですか……良いところですよね。郷土料理でもある蛍烏賊の酢味噌和えが私は好きですよ」
……今ならギールの気持ちが分かるかもしれない。クロムはどこか変わっている。いや、もしかしたらこの血祭りでさえも学祭の一環としてコミュニケーションをとっているのかもしれない。
だからなのか、一概にも変な人とは言えない。でもやっぱり変わってる。俺だって初対面からこの松浦市がアジフライの聖地だっていう豆知識がクロムとの初めての会話なのだから。
「今度、富山に行って一緒に食べましょう。私ももっと富山について知りたいので」
「お、おう……」
「ですが今はゆっくり休んでください。元気になったらもっと話しましょう」
ゆっくりと背後に回り込み、手刀でギールの首を当てる。
「がっ……」
直後、ギールは倒れた。クロムは気絶したかを確認して肩に担ぐ。
「大蛇さん、いつまで魔法にかかってるのですか? もう動けますよ?」
「あ……」
どうやって抜け出せたのかと思ったらもうとっくに魔法が解けてたと思うと余計に恥ずかしくなる。それを隠すべく勢いよく右足を泥のような道路から抜き出し、もとに戻った道路に踏み込む。
「はぁ……解けたなら元に戻って欲しいところだ」
「それをしたら大蛇さん本当にずっとあのままですよ?」
と、クロムが笑いながらからかってくる。それに対して俺も先程のギールと同じ様にため息をついてホテルに戻る。クロムも謝りながらも俺の後をついていっては部屋のベッドに気絶したギールを寝かせる。
「……少しでもいい夢を見てください」
まるで念じをかけるかのように呟き、クロムは俺と共に部屋を出た。
その日の夜、ギールは学園の保健室に引き取られリタイアとなった――
遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス
2005年 7月14日 剣血喝祭1日目――
長崎の空は澄み切っている。常夏の血祭りを最高の天候で始められた俺とクロムは、松浦市の街を歩いていた。
「……いい街ですね」
「そんな街がこれから血祭りにされちまうとはな」
……それだけは避けなくてはならない。当然ながら多くの市民が住んでいる。学園祭如きで一般市民から犠牲を生み出すわけにはいかない。それこそ戦争は避けられない。
「……大事になる前に片を付けるか」
「そうですね、早いうちに実行した方が良さそうですしね」
とりあえず市民を守る事を優先するべく、松浦駅へと向かおうと一歩踏み入れた時だった。
「――! 大蛇さん!」
「っ――!!」
突然歩道が泥のように柔らかくなり、踏み込んだ右足が沈んでいく。上げようとしても中々上がらず、身動きが封じられた。
「全く俺というやつは運がいいぜ。初日から特別区分の生徒を殺せるんだからな! そうすりゃ優勝に一歩近づくぜ!!」
……誰かは分からないが亜玲澄や正義と同じ一般区分の生徒か。制服の左胸あたりにアルスタリア高等学院の校章の刺繍がある。
「あのスチールウールみたいな髪のババアに変形魔法を教わっといて良かったぜ。この隙に殺らせてもらうぜ!!」
一瞬赤髪の刀使いを思い浮かんだが、そんな場合ではない。生徒は背中の剣を抜き、身動きがとれない俺達に剣を振りかぶりながら走ってくる。
「うおおおおお!!」
エメラルド色に輝き出した刀身が俺の目の前に迫ってくる。
「『旋風刀』!」
「大蛇さん!」
今はじっと待つ。どうせ俺は動けないのだ。なら間合いが詰めるまでじっと耐える。
体感で約30センチにまで迫ってきた……今だ!
「……ふっ!」
生徒が剣を振り下ろしたと同時に俺は背中から魔剣を引き抜き、エメラルド色に輝く剣と交差させた。朱色の火花が散っては頬に当たって一瞬熱さを覚えて歯を食いしばる。
「へぇ……流石は特別区分だな!」
身動きがとれない中の戦闘はこれまでのバスルームでの訓練で慣れている。流石に毒を使ったりは無いが、あの特訓がここで活かされるとはな。
「くっ……!」
右手に思い切り力を入れる。このままあの剣を真っ二つに斬る。そうすればあとは魔法を避ければ戦うのも時間の問題だ。そうすればこの人は強制的にリタイア出来る。
――この『常夏の血祭り』のリタイア条件は2つ。今日の夜まで生徒が気絶状態にあること。それと、武器及び魔力の枯渇による戦闘不能状態にあることだ。
「少し我慢しろよ……!」
『は、はい……耐えて、見せます!』
魔剣のテレパシーを無言で聞き取り、先程より強い力を魔剣に加える。生徒の刀身から火花を散らしながら漆黒の魔剣の刀身が通り抜けていく。
「嘘だろ……? お前まさか……!」
「その……まさかだ!」
刹那、ジャリィィィンッという甲高い音と共に生徒の刀身が真っ二つに斬られ、先端から半分が道路に突き刺さる。
「ま、マジかよ……」
剣を折られた生徒はショックのあまりか膝から崩れ落ちた。恐らく今の一撃で身動きを封じた俺を殺す作戦だったのだろう。
ということは、この人に攻撃魔法は使えない。この物質変形魔法が彼の唯一使える魔法なのだ。
「はぁ……、上手くいったと思ったのにな……」
作戦失敗して絶望した生徒の前にいつの間にかクロムが立っていた。
「貴方、お名前は?」
「……いきなり何だお前は」
「私の後輩の名前くらい、一人でも多く覚えておきたいと思いましてね」
「……変な人だな」
「そうでしょうか。でも、これを機に仲良くしてくださる方もいるので」
もうこの人には何言っても通じないと思ったのか、生徒はため息を吐きながら自分の名前を呟いた。
「……ギール。ギール・クレイグ。フランス出身だけど育ちは日本なんだ。富山ってとこなんだけど」
「富山ですか……良いところですよね。郷土料理でもある蛍烏賊の酢味噌和えが私は好きですよ」
……今ならギールの気持ちが分かるかもしれない。クロムはどこか変わっている。いや、もしかしたらこの血祭りでさえも学祭の一環としてコミュニケーションをとっているのかもしれない。
だからなのか、一概にも変な人とは言えない。でもやっぱり変わってる。俺だって初対面からこの松浦市がアジフライの聖地だっていう豆知識がクロムとの初めての会話なのだから。
「今度、富山に行って一緒に食べましょう。私ももっと富山について知りたいので」
「お、おう……」
「ですが今はゆっくり休んでください。元気になったらもっと話しましょう」
ゆっくりと背後に回り込み、手刀でギールの首を当てる。
「がっ……」
直後、ギールは倒れた。クロムは気絶したかを確認して肩に担ぐ。
「大蛇さん、いつまで魔法にかかってるのですか? もう動けますよ?」
「あ……」
どうやって抜け出せたのかと思ったらもうとっくに魔法が解けてたと思うと余計に恥ずかしくなる。それを隠すべく勢いよく右足を泥のような道路から抜き出し、もとに戻った道路に踏み込む。
「はぁ……解けたなら元に戻って欲しいところだ」
「それをしたら大蛇さん本当にずっとあのままですよ?」
と、クロムが笑いながらからかってくる。それに対して俺も先程のギールと同じ様にため息をついてホテルに戻る。クロムも謝りながらも俺の後をついていっては部屋のベッドに気絶したギールを寝かせる。
「……少しでもいい夢を見てください」
まるで念じをかけるかのように呟き、クロムは俺と共に部屋を出た。
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