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第三章 学園惑星編

第八十七話「抗うために」

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 2、3時間ほど経っただろうか。俺の感覚なので実際どれほど経ったかなんて分かりもしないが、いよいよ身体に疲労を感じてきた。それも動いて汗をかいたとかではなく、退屈による疲労である。要するに時間を持て余してるのである。

「……」

 剣の手入れも、今はその剣自体が人の姿になって眠っているので出来ない。授業でミスリアに教わった魔法の仕組みを実践してみようとしても、そもそも今の俺には魔力が無いので無理だ。
 これから強くなって、将来俺に襲いかかる運命に挫けないようにするためには、この時間さえも無駄に出来ない。

 ――さて、どうしたものか。

「はぁ……」

 思い浮かばない。思い浮かばなさすぎてため息を無意識に吐いてしまう。これ実際あのシャワーの化け物の時と同じくらいしんどいぞ。

 あ、待て……あの化け物まだバスルームにいるのか?

 もしあれが訓練用なら、何度でも生まれ変わる事が出来るはずだ。

「……よし」

 決めた。俺はまた、あの化け物と戦いに行く。今度は魔眼があるので前より苦労する事は無いだろう。しかし、当然ながらまだ使いこなせていない。
 今後そんな危険な祭に参加する運命ならば、今のうちに少しでも魔眼の力を使いこなせるようにしないといけない。

「ふぅ……」

 深呼吸をし、俺は勢いよくバスルームのドアを開いた。流石にあの怪物は元のシャワーの状態になっている。湯船の蓋も閉まっているまま。あの時の針も今や床の穴すら見当たらない。

 ……一体誰が手入れしてるのだろうか。

「……」

 じっと目の前のシャワーを見つめる。何の変哲もない白いシャワーがあの蛇のような化け物だったと考えると触る気にもなれないが、これはまだ序盤にすぎない。これから当然こんなやつより厳しい訓練を用意してくることだろう。 

「……かかってこい」

 意地で無理矢理右手をシャワーに掴ませる。刹那、あの時同様シャワーヘッドから無数の目を開き、叫びだした。

「シャアアアア!!」
「っ――!!」

 叫んだ途端に俺は魔眼の力を解放させる。その証拠として右目から血が流れてくる。

 ……戦闘パターンは前と変わらずと言ったところか。外見も強さも変わらない。まぁ訓練用の化け物はこんなものか。初見はかなりきつかったがな。

「シャアアア!!!」

 噴射口からの針攻撃。前回と同じなら一定の時間が経った時に狙いが定まり、そこへ一直線に放つ。つまり常に動き続ければ避けられる。

 だが、課題がもう一つ。前は手に刺さった針を刺して倒せたが、今度は壁や床に刺さる前に針を捕らえなければならない。それもあの目の数の分。恐らく最低50本は針をキャッチしなければならない。

「シャアアッ!!」

 狙いが定まった合図なのか、無数の目が赤く光りだした刹那、無数の針が俺がいる一直線に放った。銃弾の如く鋭い毒針が俺に迫る。

 ……そこっ!

 直撃まで体感15センチくらいのタイミングを狙って、右手で無数の針を一気に掴む。
 しかし、全ては掴みきれなかったので反射で顔を左に避ける。

「……27本か」

 今ので掴んだのはそれくらい。あと左手でどこまで掴めるかだ。

「シャアッ!!」

 針を掴まれた事に苛立っているのか、蛇の化け物は身体を長くして俺に噛み付いてくる。

「……お前の技はとっくに時代遅れだ」

 噛みつくときに出てきた細い舌を狙って一本の毒針を投げて刺す。少し狙いから外れて根本に刺さったものの、化け物は喘ぎ始めた。

 ……舌は封じた。後は目だけか。

 少しずつだが、段々呼吸が浅くなってきてる。頭もくらくらしてきた。間違いなく貧血だ。早急に片付けなければ。

「シャアアアッッ!!」

 暴れだす。蛇の化け物が狂うように暴れだす。狙いが定めづらくなった。

「くそっ、こっちは貧血だと言うのに……」

 まだ前回の戦いの分は回復出来ていなかったのか。くそっ、それも引きずりながら戦うのか。

「シャアアアアアア!!!」

 再び噛みつき……ではなく、締め付けだった。それに気づけず、俺は避けきれずに左足を巻き付けられた。

「ちっ……!」

 また血が右目から流れていく。復讐に使う血が床に落ちる。命の砂時計が徐々に下に尽きていく気がしてきた。

 ……まだ魔眼を使いこなせていないのか。それとも、俺は過去の力に頼らないと使えないのか。

 そんな無力さを噛み締めながら、必死に左足を振りほどくようにひたすら足を動かして暴れる。

 正に、運命に踊らされてる奴隷のように。運命に囚われないように。必ず使いこなしてやる。残酷な運命に抗うために。
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