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第三章 学園惑星編

第八十四話「悪魔の陰謀、英雄の隠し事」

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 西暦2005年 6月27日 長崎県佐世保市――

「……ここか」

 長めの銀髪に雪のように白い肌、そして黒く光る獲物を捕らえるかのような瞳。灰色のレザーコートを羽織る男は、ここ長崎の地に立つ。

「『剣血喝祭けんちかっさい』。中々面白そうな祭典を開くのだな……この長崎で」

 男は携帯を見ながら呟く。その画面にはアルスタリア高等学院のホームページが開かれていた。

『アルスタリア高等学院 第五次剣血喝祭 7月中旬3年ぶりに開催!! 今回の開催地は、現ネフティス総長桐谷正嗣さんの故郷でもある長崎県!!』

 これはいわゆる学校祭のようなもの。しかし、ただの祭ではない。なのだ。別名『常夏の血祭り』とも呼ばれている。

「今年は3年ぶりらしいからな。この長崎がかなり大規模な血祭りとなるだろう。君も放っておくなんて出来ないはずだ……桐谷正嗣」

 ――今年の夏がより楽しみになってきたよ。これによっては決して避けられない宿命と化してしまうだろうな。『』が。

「くくくっ……くははははは!!!!」

 男は人か、それとも悪魔か。はたまた神か……そして全ての元凶か。

 7月に行われる祭典……『常夏の血祭り』にて、それが確かめられる――




 
 同日 東京都足立区 ネフティス本部――

「はぁ……皆、楽しんでるのかな……」
「凪沙さん、あそこは本来思い出つくりなんて出来ないですからね。何も無いので」
「それでも友達や恋人と過ごすだけでも思い出じゃ~ん! 学校ってつけば何事も青春なんだよ~!!」

 任務が終わり、休憩室で身体を休めている蒼乃と凪沙は昔話をしていた。それもあの頃……彼女達が今の大蛇達と同じ養成学校に通ってた時の事だった。

「懐かしいな……ミスリア先生に思いっきりしごかれちゃってさ! 昔の私は素直じゃ無かったけど、あの先生の教え方といい振る舞い方といい、今の私の原形みたいなものだったな」
「ミスリア先生……?」
「そっ、私とか総長の養成学校時代の先生。すっごく強くてさ……私でも歯が立たないくらいすごい人だったんだよ!」
「そんな人がいるんですね……」

 それ程までに強い人がいるのかと蒼乃は関心する。世界の広さを侮ってはいけないと思わせられる。

「もし大蛇君と剣を交じらわせたら、あのミスリア先生も驚くだろうなー。だってあのシンデレラ宮殿での任務を乗り越えたんだから!」
「……それを言うなら亜玲澄さんやエレイナさんだって同じじゃないですか」
「まぁそうだけどさ……」

 てへへっと笑う凪沙を見てつられて蒼乃も笑みを零してしまう。

 そんな和やかな雰囲気の休憩室に一人の男性が入ってきた。

「あ、博士!」
「お疲れ様です、マヤネーン博士」
「凪沙ちゃん、蒼乃ちゃん、おつかれ!」

 コンビニで買ったコーヒーを片手に凪沙達と向かい合って座る。その後少し深刻そうな表情を浮かべる。

「……博士、どうかしたの?」
「あぁ、ちょっとね。大蛇君の事で少し考え事をしてたんだ」
「大蛇さん……ですか?」
「あぁ。僕が見てきたはずの大蛇君と今の大蛇君が少し違うような気がしてね」
「え……?」

 蒼乃が思わず声を上げる。一方で凪沙は声すら出さなかった。

「今の大蛇君と僕達ではような気がするんだ。依頼主を助ける……今地球ここに生きる人達を守る僕達とは違って、何か……ような……」
「――!!」

 凪沙は驚きと共にある事を思い出した。それは、パリの病院で入院してた時の……

『お前という呪われた宿命に復讐する。それだけが……、俺が今を生きる意味の全てだ』

 そうだ、私にも聞こえてた。大蛇君の嘆きの声が……

『凪沙さんにも聞こえたんですね、悪魔の囁きが――』

 同時に悪魔……大蛇君の本当の敵の声も聞こえたんだっけ。それで、私達同じだねって言ってたような……

『俺の生きる理由は……こんなにもちっぽけで夢物語にも無いようなしょうもない理由だからな――』

 そうか、やっぱりそうかもしれない。今の大蛇君はかもしれない。

「……凪沙さん?」
「あ、ごめんごめん! つい私も考え事を……」
「まさか君も大蛇君の事考えてたのかい?」
「い、いやそういう意味で考えてませんよー!!」

 分かりもしない話は今は忘れ、凪沙は頭を振りながらこの出来事が遭った事を誤魔化す。だってあれは、私と大蛇君の二人にしか分からない事だから――

「よ、よし! 休憩終わり!! 先行ってくるね~!」
「は、はい……」

 随分と早めに終わらせるなと思った蒼乃と、これはきっと何かあるなと期待してる博士が休憩室から出る凪沙をじっと見つめていた。
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