黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui

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第三章 学園惑星編

第七十七話「地獄針(下)」

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「……惜しい、惜しいね~」

 彼はもう少しで掴めそうだ。でもまだ完全にコツを掴みきれていないってところだ。

「でも、1日目でここまでいくなんて前代未聞だよ……」

 私――ミスリアは正直驚いている。まだまだ訓練はあるというのにもうを習得しようとしている。そう、彼に秘められた潜在能力……いや、

 ――

「……もう少しだけ我慢してね、魔剣ちゃん」

 ベッドに置かれた純黒の魔剣は未だ静かに眠っていた――
 



「シャアアア!!!」

 また針がとんでくる。死はもう目の前まで迫ってきている。終わりの予兆。それは俺が宿命に敗北するという事。全てが、終わる。

 ……というか、ミスリアはこの理不尽な訓練で俺に何を身に着けさせたかったのだろうか。武器も、魔法も使えないこの状況で。回避術や麻痺毒の耐性を極めようというのか。

 音も立てずに針が俺の身体に突き刺さる。毒が全身に回る。感覚が失われる。意識が遠ざかる……


『――相変わらず宿命に翻弄される生涯を送る所は未来でも健在とはな』

「……」

『言っておくがお前は俺だ。正式にはだがな』

「……お…………ま」
『姿は無い。あくまで俺はお前の魂に宿る遺伝子の一部だからな』

 一体何をする気だ。こっちは毒で身体もまともに動かせない。まさか死ねとでも言うのか。

『ふっ、その逆だぞ未来の俺。残酷に塗れた運命に負けそうな惨めなお前に俺の力を託しにきた』

 随分と上からだな。俺とお前は会ってすら無いだろ。

『確かにそうだ。だがさっきも言っただろう。お前は本来俺にあるはずの無い未来だと……』

 刹那、感覚が徐々に戻っていくのを感じる。針の痛みも毒が回ってくるのも、体温の暖かさも感じられる。

『過去が未来に託すのは当然の事だ。俺はただそれをしているだけだ』

 ――俺に何をした。まさか亜玲澄みたく二重人格でも起こすつもりか。

『その答えは目覚めてからその目と身で体感する事だな――』

 待て、まだ話は――――――
 
 








「…………!!」

 刹那、ドクンと心臓が強く脈を打つ。右目から暖かい涙が流れてくるのを感じる。

「シャアアア!!」

 また蛇が無数の毒針を飛ばす構えをとると同時に、俺の身体が誰かに操られるが如く蛇の頭上の高さまで飛んだ。

「――!?」
「シャアアアアアアア!」

 噴出口を見るに、これから飛んでくる針の数は64本。狙いは俺。恐らく着地するタイミングを狙って放ってくる。

「シャアア!!!!!」

 何故か俺の予測通りに、着地したと同時に針が放たれた。刺される前に俺は再び飛んだ。

「――!?」

 現状俺の武器は左手に刺さった針のみか。それにこいつの弱点はホースのような尾とシャワーヘッドを接続する部分。そこを狙わないと即死は不可能だ。
 チャンスは一撃のみ。つまり、このチャンスを逃せば俺はサボテンのように毒針に刺されて殺される。

 ――って、何を考えてるんだ俺は。この左手の針が武器? あの声の奴は結局俺に何をしたんだ。

 いや、この際一切の思考は不要。やるしかない。

「うおおおおお!!!」

 俺自身何が何だか分からないまま雄叫びをあげながら針だらけの左手を大きく振りかぶる。それに気づいた蛇はこちらに頭を突きつけるが、感覚の無いはずの左足で床に蹴り飛ばす。その隙を狙って――

「おおおおおああああ!!!」

 グサリッ――――という音が針だらけのバスルームに鳴り響き、蛇は痛みに苦しんでいた。

「シャアアアッ!! シャアアアアア!!!」

 ――今すぐ左手の針を抜いてバスルームから出なければ。あの蛇の血も毒が入ってる。浴びたら道連れにされるぞ。

「くっ……!」

 抜けない。どれほど力を加えても抜けない。

『両目を思い切り開け』
「――!?」
『今のお前には時間が無い……死にたくなければ早くしろ』

 さっきの声の者の声がまた聞こえ、少し驚くも今はそれどころではない。早く両目を大きく開くんだ……

 目を瞑り、ふぅ……っと一度深呼吸をする。そして大きく見開く。

「――!!!」

 ドクンッとまた強く脈打つ。途端、俺の身体から真紅の衝撃波が放たれ、それに触れた全ての針が粉々に砕け散っていく。

「これは……!」

 ――って、待て。俺の左手の針も見る影もない。ということは蛇の傷穴から毒が……!

「早く逃げなければ……!!」

 急いでバスルームの扉目掛けて走った刹那、勢いよく紫じみた赤黒い血が勢いよく噴射される。

「シャアアアアア!!!」

 痛みで蛇は暴れだすせいで至る所に血がつく。一滴でも身体についたら即死の猛毒の血が。

 ――畜生、天井についてポタポタと血が目の前に落ちる……!

「っ――!!」

 何度か転びそうになるものの、何とか扉に右手を掴み、勢いよく開けて入ってはすぐに閉めて鍵をかける。するとすぐに扉に勢いよく血がつく。

「危ねぇ……、あと1秒たらずで死んでたところだった……!」

 助かった。あの蛇を倒せた。これほど死の崖っぷちの中で戦った事は無い。本当に運命が俺の死へと導いていくのがようやく身にしみた。

 ――しかし、戦いはここで終わらなかった。

「あがっ――」

 視界が霞む。針だらけになってた身体の至る所からあの蛇みたいに血が吹き出る。力が抜ける。そして冷たい床に倒れた。

『――ん! 大蛇君!!』

 ほんの少しだけ、あの子の声がかつての恋人の声と重なって聞こえた気がした――
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