78 / 232
第三章 学園惑星編
第七十七話「地獄針(下)」
しおりを挟む
「……惜しい、惜しいね~」
彼はもう少しで掴めそうだ。でもまだ完全にコツを掴みきれていないってところだ。
「でも、1日目でここまでいくなんて前代未聞だよ……」
私――ミスリアは正直驚いている。まだまだ訓練はあるというのにもうあるものを習得しようとしている。そう、彼に秘められた潜在能力……いや、
――魂の中に眠る彼本来の力。
「……もう少しだけ我慢してね、魔剣ちゃん」
ベッドに置かれた純黒の魔剣は未だ静かに眠っていた――
「シャアアア!!!」
また針がとんでくる。死はもう目の前まで迫ってきている。終わりの予兆。それは俺が宿命に敗北するという事。全てが、終わる。
……というか、ミスリアはこの理不尽な訓練で俺に何を身に着けさせたかったのだろうか。武器も、魔法も使えないこの状況で。回避術や麻痺毒の耐性を極めようというのか。
音も立てずに針が俺の身体に突き刺さる。毒が全身に回る。感覚が失われる。意識が遠ざかる……
『――相変わらず宿命に翻弄される生涯を送る所は未来でも健在とはな』
「……」
『言っておくがお前は俺だ。正式には本来俺にあるはずの無い未来だがな』
「……お…………ま」
『姿は無い。あくまで俺はお前の魂に宿る遺伝子の一部だからな』
一体何をする気だ。こっちは毒で身体もまともに動かせない。まさか死ねとでも言うのか。
『ふっ、その逆だぞ未来の俺。残酷に塗れた運命に負けそうな惨めなお前に俺の力を託しにきた』
随分と上からだな。俺とお前は会ってすら無いだろ。
『確かにそうだ。だがさっきも言っただろう。お前は本来俺にあるはずの無い未来だと……』
刹那、感覚が徐々に戻っていくのを感じる。針の痛みも毒が回ってくるのも、体温の暖かさも感じられる。
『過去が未来に託すのは当然の事だ。俺はただそれをしているだけだ』
――俺に何をした。まさか亜玲澄みたく二重人格でも起こすつもりか。
『その答えは目覚めてからその目と身で体感する事だな――』
待て、まだ話は――――――
「…………!!」
刹那、ドクンと心臓が強く脈を打つ。右目から暖かい涙が流れてくるのを感じる。
「シャアアア!!」
また蛇が無数の毒針を飛ばす構えをとると同時に、俺の身体が誰かに操られるが如く蛇の頭上の高さまで飛んだ。
「――!?」
「シャアアアアアアア!」
噴出口を見るに、これから飛んでくる針の数は64本。狙いは俺。恐らく着地するタイミングを狙って放ってくる。
「シャアア!!!!!」
何故か俺の予測通りに、着地したと同時に針が放たれた。刺される前に俺は再び飛んだ。
「――!?」
現状俺の武器は左手に刺さった針のみか。それにこいつの弱点はホースのような尾とシャワーヘッドを接続する部分。そこを狙わないと即死は不可能だ。
チャンスは一撃のみ。つまり、このチャンスを逃せば俺はサボテンのように毒針に刺されて殺される。
――って、何を考えてるんだ俺は。この左手の針が武器? あの声の奴は結局俺に何をしたんだ。
いや、この際一切の思考は不要。やるしかない。
「うおおおおお!!!」
俺自身何が何だか分からないまま雄叫びをあげながら針だらけの左手を大きく振りかぶる。それに気づいた蛇はこちらに頭を突きつけるが、感覚の無いはずの左足で床に蹴り飛ばす。その隙を狙って――
「おおおおおああああ!!!」
グサリッ――――という音が針だらけのバスルームに鳴り響き、蛇は痛みに苦しんでいた。
「シャアアアッ!! シャアアアアア!!!」
――今すぐ左手の針を抜いてバスルームから出なければ。あの蛇の血も毒が入ってる。浴びたら道連れにされるぞ。
「くっ……!」
抜けない。どれほど力を加えても抜けない。
『両目を思い切り開け』
「――!?」
『今のお前には時間が無い……死にたくなければ早くしろ』
さっきの声の者の声がまた聞こえ、少し驚くも今はそれどころではない。早く両目を大きく開くんだ……
目を瞑り、ふぅ……っと一度深呼吸をする。そして大きく見開く。
「――!!!」
ドクンッとまた強く脈打つ。途端、俺の身体から真紅の衝撃波が放たれ、それに触れた全ての針が粉々に砕け散っていく。
「これは……!」
――って、待て。俺の左手の針も見る影もない。ということは蛇の傷穴から毒が……!
「早く逃げなければ……!!」
急いでバスルームの扉目掛けて走った刹那、勢いよく紫じみた赤黒い血が勢いよく噴射される。
「シャアアアアア!!!」
痛みで蛇は暴れだすせいで至る所に血がつく。一滴でも身体についたら即死の猛毒の血が。
――畜生、天井についてポタポタと血が目の前に落ちる……!
「っ――!!」
何度か転びそうになるものの、何とか扉に右手を掴み、勢いよく開けて入ってはすぐに閉めて鍵をかける。するとすぐに扉に勢いよく血がつく。
「危ねぇ……、あと1秒たらずで死んでたところだった……!」
助かった。あの蛇を倒せた。これほど死の崖っぷちの中で戦った事は無い。本当に運命が俺の死へと導いていくのがようやく身にしみた。
――しかし、戦いはここで終わらなかった。
「あがっ――」
視界が霞む。針だらけになってた身体の至る所からあの蛇みたいに血が吹き出る。力が抜ける。そして冷たい床に倒れた。
『――ん! 大蛇君!!』
ほんの少しだけ、あの子の声がかつての恋人の声と重なって聞こえた気がした――
彼はもう少しで掴めそうだ。でもまだ完全にコツを掴みきれていないってところだ。
「でも、1日目でここまでいくなんて前代未聞だよ……」
私――ミスリアは正直驚いている。まだまだ訓練はあるというのにもうあるものを習得しようとしている。そう、彼に秘められた潜在能力……いや、
――魂の中に眠る彼本来の力。
「……もう少しだけ我慢してね、魔剣ちゃん」
ベッドに置かれた純黒の魔剣は未だ静かに眠っていた――
「シャアアア!!!」
また針がとんでくる。死はもう目の前まで迫ってきている。終わりの予兆。それは俺が宿命に敗北するという事。全てが、終わる。
……というか、ミスリアはこの理不尽な訓練で俺に何を身に着けさせたかったのだろうか。武器も、魔法も使えないこの状況で。回避術や麻痺毒の耐性を極めようというのか。
音も立てずに針が俺の身体に突き刺さる。毒が全身に回る。感覚が失われる。意識が遠ざかる……
『――相変わらず宿命に翻弄される生涯を送る所は未来でも健在とはな』
「……」
『言っておくがお前は俺だ。正式には本来俺にあるはずの無い未来だがな』
「……お…………ま」
『姿は無い。あくまで俺はお前の魂に宿る遺伝子の一部だからな』
一体何をする気だ。こっちは毒で身体もまともに動かせない。まさか死ねとでも言うのか。
『ふっ、その逆だぞ未来の俺。残酷に塗れた運命に負けそうな惨めなお前に俺の力を託しにきた』
随分と上からだな。俺とお前は会ってすら無いだろ。
『確かにそうだ。だがさっきも言っただろう。お前は本来俺にあるはずの無い未来だと……』
刹那、感覚が徐々に戻っていくのを感じる。針の痛みも毒が回ってくるのも、体温の暖かさも感じられる。
『過去が未来に託すのは当然の事だ。俺はただそれをしているだけだ』
――俺に何をした。まさか亜玲澄みたく二重人格でも起こすつもりか。
『その答えは目覚めてからその目と身で体感する事だな――』
待て、まだ話は――――――
「…………!!」
刹那、ドクンと心臓が強く脈を打つ。右目から暖かい涙が流れてくるのを感じる。
「シャアアア!!」
また蛇が無数の毒針を飛ばす構えをとると同時に、俺の身体が誰かに操られるが如く蛇の頭上の高さまで飛んだ。
「――!?」
「シャアアアアアアア!」
噴出口を見るに、これから飛んでくる針の数は64本。狙いは俺。恐らく着地するタイミングを狙って放ってくる。
「シャアア!!!!!」
何故か俺の予測通りに、着地したと同時に針が放たれた。刺される前に俺は再び飛んだ。
「――!?」
現状俺の武器は左手に刺さった針のみか。それにこいつの弱点はホースのような尾とシャワーヘッドを接続する部分。そこを狙わないと即死は不可能だ。
チャンスは一撃のみ。つまり、このチャンスを逃せば俺はサボテンのように毒針に刺されて殺される。
――って、何を考えてるんだ俺は。この左手の針が武器? あの声の奴は結局俺に何をしたんだ。
いや、この際一切の思考は不要。やるしかない。
「うおおおおお!!!」
俺自身何が何だか分からないまま雄叫びをあげながら針だらけの左手を大きく振りかぶる。それに気づいた蛇はこちらに頭を突きつけるが、感覚の無いはずの左足で床に蹴り飛ばす。その隙を狙って――
「おおおおおああああ!!!」
グサリッ――――という音が針だらけのバスルームに鳴り響き、蛇は痛みに苦しんでいた。
「シャアアアッ!! シャアアアアア!!!」
――今すぐ左手の針を抜いてバスルームから出なければ。あの蛇の血も毒が入ってる。浴びたら道連れにされるぞ。
「くっ……!」
抜けない。どれほど力を加えても抜けない。
『両目を思い切り開け』
「――!?」
『今のお前には時間が無い……死にたくなければ早くしろ』
さっきの声の者の声がまた聞こえ、少し驚くも今はそれどころではない。早く両目を大きく開くんだ……
目を瞑り、ふぅ……っと一度深呼吸をする。そして大きく見開く。
「――!!!」
ドクンッとまた強く脈打つ。途端、俺の身体から真紅の衝撃波が放たれ、それに触れた全ての針が粉々に砕け散っていく。
「これは……!」
――って、待て。俺の左手の針も見る影もない。ということは蛇の傷穴から毒が……!
「早く逃げなければ……!!」
急いでバスルームの扉目掛けて走った刹那、勢いよく紫じみた赤黒い血が勢いよく噴射される。
「シャアアアアア!!!」
痛みで蛇は暴れだすせいで至る所に血がつく。一滴でも身体についたら即死の猛毒の血が。
――畜生、天井についてポタポタと血が目の前に落ちる……!
「っ――!!」
何度か転びそうになるものの、何とか扉に右手を掴み、勢いよく開けて入ってはすぐに閉めて鍵をかける。するとすぐに扉に勢いよく血がつく。
「危ねぇ……、あと1秒たらずで死んでたところだった……!」
助かった。あの蛇を倒せた。これほど死の崖っぷちの中で戦った事は無い。本当に運命が俺の死へと導いていくのがようやく身にしみた。
――しかし、戦いはここで終わらなかった。
「あがっ――」
視界が霞む。針だらけになってた身体の至る所からあの蛇みたいに血が吹き出る。力が抜ける。そして冷たい床に倒れた。
『――ん! 大蛇君!!』
ほんの少しだけ、あの子の声がかつての恋人の声と重なって聞こえた気がした――
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~
砂礫レキ
ファンタジー
勇者ライルが魔王を倒してから3年。
彼の幼馴染である村娘アデリーンは28歳にして5歳年下の彼に粗雑に扱われながら依存されていた。
まるで母親代わりのようだと自己嫌悪に陥りながらも昔した結婚の約束を忘れられなかったアデリーン。
しかしライルは彼女の心を嘲笑うかのようにアデリーンよりも若く美しい村娘リンナと密会するのだった。
そのことで現実を受け入れ村を出ようとしたアデリーン。
そんな彼女に病んだ勇者の依存と悪女の屈折した執着、勇者の命を狙う魔物の策略が次々と襲い掛かってきて……?
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!
林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。
夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。
そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ?
「モンスターポイント三倍デーって何?」
「4の付く日は薬草デー?」
「お肉の日とお魚の日があるのねー」
神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。
※他サイトにも投稿してます

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~
K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。
次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。
生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。
…決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる