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第三章 学園惑星編
第七十五話「危険察知訓練」
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俺――黒神大蛇が目覚めてから約15分後、食卓に料理がずらりと並んでいた。茶碗に並盛りのご飯にテーブルの中心にはぐつぐつと煮立つすき焼きのようなものがある。見た感じ普通に美味しそうだが……
「い、頂きます……」
「うん、召し上がれ♪」
……あの人なんかやけにニヤニヤしてるな。あれか、母性本能ってやつなのかこれは。
とりあえず食べようと菜箸ですき焼きの具材を取り出そうとした刹那、鍋から水滴のようなものが直角に動いては俺の頬に当たった。
「熱っ――!」
「あははは! も~、いい反応するんだから♪」
「何の真似だ……!」
何だあれは。具材を取った瞬間に鍋のタレが閃光の如く俺の頬に飛んできた。何かしらの魔法なのかもしれないが、仕掛ける上手さが悪戯の域を超えている。まるで本気で苦痛を与えるかのような。
「何の真似って……これは訓練だよ? 訓練」
「訓練……?」
「うん、『危険察知訓練』。いついかなる時も敵からの攻撃を察知して避けられるようにする訓練だよ」
「だからって食事中にする事かよ……」
「食事中だからこそするんだよ。人間はこういう至福の時間によく油断する。それは皆そう。でも敵はそれを狙っている。たとえどれほどの剣の腕の持ち主でもたった一つの油断で命を落とす事だってあるんだよ」
……これで何となく分かったかもしれない。一般区分と特殊区分の大きな違いが。
――ここ特殊区分は授業が無い代わりに24時間びっちりこういう訓練になってるのか! という事はエレイナも同じような訓練を受けている事になる。大丈夫だろうか。
「さ、早くとってよ。鍋冷めちゃうよ?」
「分かってるから急かすな」
集中する。次も恐らくあの水滴攻撃が来る。それを見越して常に鍋から目を離さないようにする。いつどのタイミングでどこから出てくるのかを見極める。
「ふっ――!」
急いで肉を取った刹那、今度は鍋から巨大な波が発生し、俺を飲み込んだ。全身はもちろん俺の周囲の床や物にもタレがつく。まるでこの鍋を頭上でひっくり返したような感じだった。
「……」
おい何だよこれ。ランダムだなんて聞いてないぞ。タレが服や髪に染み付いて気持ち悪い。早く風呂に入りたい。
髪先からポタポタと雨のようにタレの水滴が膝元に落ちる。
「あっはは、こりゃすごいね……でも肉取れたじゃん!」
「この一切れの代償大きすぎるだろ……」
肉一枚取るだけでこれ程の被害を受けなければならないのか。この貴重な肉の美味しさより全身の気持ち悪さがどうしても勝ってしまう。
「あ、ちなみにこの鍋全部食べきるまでお風呂には入れないよ!」
「本当に終わってるだろこの学校……」
素で言ってしまった。それくらい本当に終わってる。鍋だけでも実に4、5人前の量がある。まずトラップを回避するのさえもしんどいのにその量を一人で食べきらないといけないのもきつい。
「はっ……!」
こうなったら勢いで取るまで。菜箸で大量の肉をがっしりと掴み上げる。途端、鍋から竜巻のようなものが発生する。竜巻は中にある熱いタレを四方八方に飛ばしてくる。避ける場も無く、俺はそのタレを直撃してしまう。
くそっ……熱いしベトベトして気持ち悪いしでコンディションは最悪だ。また酷いことにこのテーブルの範囲内に結界が貼られていて、飛んできたタレが反射するように出来ている。つまり今の俺では直撃以外の方法は無いのだ。
「頑張れ~! 諦めるな推薦者~!!」
「ちっ、自分でやらせといて先生は他人事かよ!」
何とか頑張って避けようとはするものの、やはりどこかの隙を狙ってはタレがつく。気持ち悪さが一気に増す。言っておくが、これは訓練で合ってるのか……?
とりあえず頑張って取った肉を食べる。ミスリア曰くこの肉はネフティスから仕入れられたA5ランクの肉らしく、見た目からして博士の家でよく見る肉とは格が違う。
「これを清潔の状態で食べられてたらな……」
ただそれだけを後悔し、高級肉を口にした。
「どう? 美味しいでしょ」
「こんなコンディションで食べたく無かった……」
次は絶対あいつらと清潔な状態で食べると心に誓い、訓練と言う名の鬼畜に抗い続ける。
こんな訓練でさえも俺に降りかかる宿命だというのなら抗ってやる。いつかこんな訓練余裕って言ってやるよ。今に見ておけ――
「い、頂きます……」
「うん、召し上がれ♪」
……あの人なんかやけにニヤニヤしてるな。あれか、母性本能ってやつなのかこれは。
とりあえず食べようと菜箸ですき焼きの具材を取り出そうとした刹那、鍋から水滴のようなものが直角に動いては俺の頬に当たった。
「熱っ――!」
「あははは! も~、いい反応するんだから♪」
「何の真似だ……!」
何だあれは。具材を取った瞬間に鍋のタレが閃光の如く俺の頬に飛んできた。何かしらの魔法なのかもしれないが、仕掛ける上手さが悪戯の域を超えている。まるで本気で苦痛を与えるかのような。
「何の真似って……これは訓練だよ? 訓練」
「訓練……?」
「うん、『危険察知訓練』。いついかなる時も敵からの攻撃を察知して避けられるようにする訓練だよ」
「だからって食事中にする事かよ……」
「食事中だからこそするんだよ。人間はこういう至福の時間によく油断する。それは皆そう。でも敵はそれを狙っている。たとえどれほどの剣の腕の持ち主でもたった一つの油断で命を落とす事だってあるんだよ」
……これで何となく分かったかもしれない。一般区分と特殊区分の大きな違いが。
――ここ特殊区分は授業が無い代わりに24時間びっちりこういう訓練になってるのか! という事はエレイナも同じような訓練を受けている事になる。大丈夫だろうか。
「さ、早くとってよ。鍋冷めちゃうよ?」
「分かってるから急かすな」
集中する。次も恐らくあの水滴攻撃が来る。それを見越して常に鍋から目を離さないようにする。いつどのタイミングでどこから出てくるのかを見極める。
「ふっ――!」
急いで肉を取った刹那、今度は鍋から巨大な波が発生し、俺を飲み込んだ。全身はもちろん俺の周囲の床や物にもタレがつく。まるでこの鍋を頭上でひっくり返したような感じだった。
「……」
おい何だよこれ。ランダムだなんて聞いてないぞ。タレが服や髪に染み付いて気持ち悪い。早く風呂に入りたい。
髪先からポタポタと雨のようにタレの水滴が膝元に落ちる。
「あっはは、こりゃすごいね……でも肉取れたじゃん!」
「この一切れの代償大きすぎるだろ……」
肉一枚取るだけでこれ程の被害を受けなければならないのか。この貴重な肉の美味しさより全身の気持ち悪さがどうしても勝ってしまう。
「あ、ちなみにこの鍋全部食べきるまでお風呂には入れないよ!」
「本当に終わってるだろこの学校……」
素で言ってしまった。それくらい本当に終わってる。鍋だけでも実に4、5人前の量がある。まずトラップを回避するのさえもしんどいのにその量を一人で食べきらないといけないのもきつい。
「はっ……!」
こうなったら勢いで取るまで。菜箸で大量の肉をがっしりと掴み上げる。途端、鍋から竜巻のようなものが発生する。竜巻は中にある熱いタレを四方八方に飛ばしてくる。避ける場も無く、俺はそのタレを直撃してしまう。
くそっ……熱いしベトベトして気持ち悪いしでコンディションは最悪だ。また酷いことにこのテーブルの範囲内に結界が貼られていて、飛んできたタレが反射するように出来ている。つまり今の俺では直撃以外の方法は無いのだ。
「頑張れ~! 諦めるな推薦者~!!」
「ちっ、自分でやらせといて先生は他人事かよ!」
何とか頑張って避けようとはするものの、やはりどこかの隙を狙ってはタレがつく。気持ち悪さが一気に増す。言っておくが、これは訓練で合ってるのか……?
とりあえず頑張って取った肉を食べる。ミスリア曰くこの肉はネフティスから仕入れられたA5ランクの肉らしく、見た目からして博士の家でよく見る肉とは格が違う。
「これを清潔の状態で食べられてたらな……」
ただそれだけを後悔し、高級肉を口にした。
「どう? 美味しいでしょ」
「こんなコンディションで食べたく無かった……」
次は絶対あいつらと清潔な状態で食べると心に誓い、訓練と言う名の鬼畜に抗い続ける。
こんな訓練でさえも俺に降りかかる宿命だというのなら抗ってやる。いつかこんな訓練余裕って言ってやるよ。今に見ておけ――
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