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第二章 シンデレラ宮殿編

第六十一話「真実の裏の願い」

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 緊急任務:『黒花』レイアの討伐、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依、パンサー(一時加勢)

 俺の身体からエメラルドの光の波動が爆発するように広がり、宮殿を包む。
 失われた右腕の断面に光が集まり、腕の形を創り出す。その後白く発光して右腕の感覚が元に戻る。ゆっくりと立ち上がって一歩、また一歩と歩みよる。

「お……ろちくん……!」
「……これ以上喋るな。悪化するぞ」

 普段の俺より冷たい反応をしながら左手をそっと凪沙さんにかざす。刹那、凪沙さんが全身に負っていた傷が全て消えた。

「おい……あれどういう状況だ!?」
「分からない……あの怪我でどうやって黒神が復活したんだ……?」
「おっ君……」

 ボロボロの状態から完全復活した俺のを見て驚く。これには優羽汰でさえもこの現象がよく分からないほどだ。

「貴方……何のつもりかしら? 私達の喧嘩を邪魔しようなんてっ――!?」

 言い終える前に俺は右手を横に払い、光の風がレイアを襲った。あまりの突風でレイアは右の壁に背中をぶつける。

「……俺にしてはお前の存在自体が邪魔だがな」
「ぐっ……このガキめっ……!!」

 レイアは床から無数のつるを精製して俺に迫らせる。しかし、俺が左に払うとすぐに風がつるを吹き飛ばす。そのまま俺はレイアに歩み寄り、右手でレイアの首を掴む。

「お前如きが俺に勝てると思うな」
「お前……、一体何なんがっ……」

 片手で首の骨を折る。その首を掴んだまま右手に魔力を籠めるとすぐに剣がレイアの首を貫いた。

「がっ……ああああ!!!」
「そんなに俺が気になるか。なら教えてやる。俺は『復讐者にんげん』だ」

 直後、俺はレイアの頭を引き千切ちぎる。鮮血が空を舞って落ちる。しかし、レイアの身体はいつの間にか消えていた。

「うふふふ、残念だったわね『黒き英雄』。偽物倒して勝った気になっちゃって……可愛いところもあるのね」
「黙れ」

 振り向きながら後ろに右手を伸ばして掴む。その後芽依の首が締められ、芽依は必死に暴れる。

「本物ならとっくに知っている」
「がっ……な、何で……!?」
「理由は単純シンプルだ。まず同じ服装に仮面、そして武器……ここまで一致する|怪盗が2人いるだなんて変な話だ。そうだろ、桐雨芽依。いや……レイア・ヴィーナス」
「えっ……!?」

 これには全員が驚きを隠せなかった。

「確かに最初に俺達は芽依にパンサーの疑いをかけていたが、あれはわざとかけられるように仕向けていた。そうすることで自分が『黒花』であることを遠ざけることができる。仮に自分がパンサーと疑われて日本の警察に逮捕されて刑務所に入ったとしても簡単に抜け出せるからな」
 
 ――それに、俺には芽依の明るさや凪沙さんを想う優しさがどこかエレイナに似ている気がした……。数多の宝を盗むパンサーにはそれほど人に気を使う余裕が無い。それも一刻も早く『黒花』を倒すためなら尚更だ。

「おっ君……酷いよ……ボクを疑うなんて……!」
「智優美さんの紛い物を演じるのもいい加減にしろ! もうその嘘で塗り固めた演技にはうんざりだ!!」

 イライラする。ずっとこの演技に耐えてきた。最初からこの口調を聞く度に前にこの手で智優美さんを殺した時を思い出してしまう。

「それに俺……いや、俺達は最初から分かっていたはずだった。真の黒幕が芽依だって事を。そう……最初に俺だけがさらわれた時からな」
「おいおいマジかよ……」
「まぁ、あの時の俺達はパンサーを捕まえる事にしか目がなかったからな。まさか『黒花』というアースラ同等の存在がいるとは思わなかったからな」

 『黒花』の存在に前から気づいていたなら、本来は最初からこの事件はここまで大事にならずに解決できていたはずだった。でも見落とした。これは俺達の……ネフティスの失点と言ったところか。

「うふ、うふふふ。今になってそこに気づくのね。でも貴方の言っていることは正しいわ。私ももう怪盗パンサーの亡霊の口調に合わせるのも限界だわ」

 刹那、俺の右腕を芽依がハンドガンで撃って離した隙に後方へ下がる。その後首を抑えながら咳き込む。

「もうこの世界自体が狂っている。俺が見てきた世界では死んでるはずの奴がここでは生きてるからな。これくらいあっても不思議に思えない程にな」
「くっ……貴方、まるで何度も転生したかのような言い方ね」
「転生……か。まぁ多少武器や魔力値が違うだけで後は同じだからな。輪廻りんねと言った方が筋が通る」
「まぁどっちでもいいわ。妹と一緒に殺してあげることには変わりないもの」

 芽依……レイアは右手で再び乖離剣かいりけんを手にとって振り回す。

「世界ごと消えちゃいなさい!!」
「芽依ちゃん……!」

 中身があの『黒花』だとしても、私にとっては桐雨芽依という一人の怪盗。パンサーとは違う、唯一無二の怪盗なんだ。でも、何で……何でずっと隠してたの?

「大蛇君!」
「後ろにいろ。その限りお前が死ぬ事はない」

 左から迫る乖離剣かいりけんを左腕を曲げて壁を作るようにして受け止める。稲妻と火花が散っていく。それでも俺は一歩、また一歩とレイアに歩み寄る。

「嘘でしょ……私の神器が……禁忌が効かないなんて……!」
「残念だったな、あの暗黒神曰くこの魔法はらしいからな!」

 左手で空気を掴む動作をする。刹那、乖離剣かいりけんが握りつぶされたかのように潰れる。

「あ……あぁ……!」
「終わりだ……『黒光無象ブラックバリスタ』」
「大蛇君、待って!」

 伸ばした右手が掴まれた。右を向くと、エレイナが両手でがっちりと俺の右手首を抑えている。
 
「離せ。こいつはこの手で殺す」
「ダメだよ! どんなに酷いことした人でも、殺すのはダメだよ。今度は大蛇君に罪が課せられるんだよ……」
「お前に何が分かる! 俺は最初から芽依に……レイアに騙されてたんだぞ!
 てっきり信じ込んで……こんな簡単な罠にはまって……それがこれほどの被害をこうむったんだぞ!」
「でも殺すのはダメ!! たとえ大蛇君でも、私が許さないよ!」
「こいつを殺さなければ……この運命は変えられない!!」
「なら別の道で運命を変えようよ! 大蛇君になら出来るでしょ……? 私も協力するから、殺すのだけはやめて!!!」
「――!」

 エレイナがこれ以上聞いたことないほどの大声で俺に怒った。何度も殺すなと言ってくる。たとえ過去の恋人だろうと鬱陶うっとうしく思ってしまう。でも、その通りとも思う。

 ――俺は何のために復讐者になった。何のために運命に復讐する。殺して何になる。確かに一人の悪は消える。だがその分自分に巡るだけではないか。あの時の……智優美さんを殺した時と同じ道を歩むことになるぞ。

 それでは結局運命を変えられていない。むしろあの頃から停滞しているだけではないか。

「エレイナ……」

 あの子が、たかぶっている俺に喝を入れてくれた。自分の目的を見失うところだった。救われた。俺が人に救われた。

「『もう誰も死なせない』――あの時、大蛇君そう言ってくれたよね。それは仲間だけじゃなくて敵も同じだよ。互いの正義をぶつけ合う中、それを止めるのが大蛇君で、この歪んだ宿命の変え方の一つなんだよ、きっと……」

 俺に話しかけながら、エレイナはレイアに両手を向けて白い光を包ませた。

「『魔死更光パーシヴァル』」

 ――ごめんね、お姉ちゃん。もう魔力は消えちゃうけど、私はお姉ちゃんにもこの世界で……これから訪れる未来を生きてほしいの。
 だから、これで我慢してね――

 光でほとんど見えなかったが、エレイナのがレイアの頬に唇をつけるような動作が見えた。
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