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第二章 シンデレラ宮殿編
第五十八話「黒花の演劇(下)」
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緊急任務:『黒花』の討伐、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依、パンサー(一時加勢)
無数の黒い花びらが俺の全身に突き刺さる。至る所に激痛が走り、砂時計の如くじわじわと赤いカーペットに流れ出る血は止まることを知らない。
――花びらは俺が全て受け止めた。後は頼んだぞ、お前ら。俺の運命はお前らにかかっているからな。
いつの間にか視界が暗くなっていた。音も光も、そして呼吸すらもこの身体で感じる事は無かった。もう何度目だろうか。でも、何度同じ目に遭おうが結局慣れることは決してない。やはり死以上に恐ろしいものはない。
『よく頑張ったね、おっ君――』
その時、はっきりとした声が聞こえた。芽依でもエレイナでもない、とうに忘れた声が。
『おっ君は偉いよ。そんなボロボロの身体でも皆を守ろうとしたんだから』
誰だ。誰の声だ。思い出せない。でもこの声を俺は知っている。前も聞いた予感がする。でも、今回は思い出せない。俺の脳に染みつくほど大切な人だったというのに。
『もうすぐ仲間が来るよ。おっ君が守った仲間が、次はおっ君を守ってくれるよ』
あぁ……来たのかあいつら。よくあの貴族達から生き残れたよな。正直やばいと思ってた。
『……お疲れ様、おっ君。まずはゆっくり休んでね。』
――後は私達に任せて。
「……ふっ!」
王室の入口から大きく飛躍し、取り出したトランプが剣状に変化してレイアを頭から真っ二つに斬り落とす。
「あぅ……ああああああああ!!!」
「え……!?」
「どういうつもり……?」
突如現れた人物に、芽依と凪沙は驚きを隠せなかった。
「この時を待っていたよ……『黒花』!!」
「あら怪盗ちゃん……今日は別の所で華麗に盗むんじゃなかったのかしら?」
「そうだね……でも、もう揃ったよ。ボクの何より輝く宝物が、ね♪」
パンサーがウインクをしたその時、王室の扉が壊れる音と同時に2つの閃光がレイアに迫り、迸った。
「あがっ……!」
「八剴抜刀・因果応報」
「閃竜之咆哮」
2人は同時に芽依達の前に立ち、立ち上がるレイアにそれぞれ刃先を向けた。
「蒼乃ちゃんから話は聞いたぜ、パンサー。全ての元凶はこいつにあるってことをよ」
「お前のした事は到底許されない。だが、あの亡霊が何より危険なことには変わりない。たとえパンサーたるお前がその亡霊を止めようとするのなら、俺はお前に力を貸そう」
「皆……」
……皆、本当はボクを捕まえてスタニッシュリングを持ち主に返還するのが任務のはずだ。でも、その任務以上に今何をするべきなのかを考えてるんだね。たとえ敵であるはずのボクを利用してでも……
――ならボクも、皆を利用してでも黒花を倒す。それが今ボクがするべき事だ!!
「皆、よく聞いてほしい。この『スタニッシュリング』にはシンデレラ宮殿の象徴であると同時に始祖神の加護がついてるんだ。もしそれががあいつの手に回ったら、この世界……いや、あらゆる生命が根絶する」
「――!?」
始祖神。その名の通り神という概念の起源。今や神話にすら記されない存在だが、加護の量は数値化出来ないと言われている。
「んじゃあ尚更やべぇじゃねぇかよ! しそしん……? ってやつの指輪をあの黒女の手に渡っちまったら笑えねぇぞ!!」
「パンサー、お前も戦うなら指輪を黒神に預けとけ」
それほど強大なものならなるべくレイアに近づけさせない方がいい。だが、それを狙ってボロボロの大蛇から奪う可能性もある。
「……うん、彼に預けるけど皆なるべく彼から奴を近づけさせないことを優先して!」
全員が頷き、それぞれ武器をレイアに向ける。
「あら、人生最後のお話はもう終わったかしら。なら、続きを始めましょう……!!」
「行くぜてめえらあああ!!!」
……黒坊、白坊。てめぇらが前回の任務で張り切ってた分、俺もここでカッコつけさせてくれよ!!
レイアの周囲から放たれる無数の花びらに対し、正義を筆頭に全員で迫る。
「焼き尽くす!」
優羽汰が大剣を引き抜いた途端、刀身が竜に変化して黄金色のブレスを吐く。花びらは一瞬にして焼き払われた。
「ちっ……!」
「逃しません!」
レイアが後方に退くより前に蒼乃が足元めがけて氷の弾丸を放つ。氷はレイアの右足に命中し、床に張り付く。
「このっ……!」
レイアは花びらで氷を割ろうとするが、優羽汰と正義に阻まれる。
「ぐっ……! 私の演劇の邪魔をしないで!!」
右足を氷漬けにされたレイアはその体制のまま右手に乖離剣を召喚する。
「皆、気をつけて!」
「失せなさい!『神怒之流星』!!」
レイアの頭上から振り下ろされる。そして宮殿を蝕むかのようにあらゆるものを破壊する。
「黒坊!」
正義は直撃する寸前で大蛇を抱えて思い切り頭上に飛んだ。一秒も経たずにその場所が乖離剣によって壊される。
「危ねっ!!」
ギリギリで避けた正義だが、着地するときに体制を崩して転倒した。
「終わりにしてあげる!!」
レイアは乖離剣を水平に薙ぎ払う。徐々に破壊の風は正義に襲いかかる。
「やべぇ……おいやべぇぞこれ……!」
王室を喰い荒らすように迫る剣が正義を巻き込もうとしていた。
刻一刻と絶望へのカウントダウンが始まっていた――
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――花びらは俺が全て受け止めた。後は頼んだぞ、お前ら。俺の運命はお前らにかかっているからな。
いつの間にか視界が暗くなっていた。音も光も、そして呼吸すらもこの身体で感じる事は無かった。もう何度目だろうか。でも、何度同じ目に遭おうが結局慣れることは決してない。やはり死以上に恐ろしいものはない。
『よく頑張ったね、おっ君――』
その時、はっきりとした声が聞こえた。芽依でもエレイナでもない、とうに忘れた声が。
『おっ君は偉いよ。そんなボロボロの身体でも皆を守ろうとしたんだから』
誰だ。誰の声だ。思い出せない。でもこの声を俺は知っている。前も聞いた予感がする。でも、今回は思い出せない。俺の脳に染みつくほど大切な人だったというのに。
『もうすぐ仲間が来るよ。おっ君が守った仲間が、次はおっ君を守ってくれるよ』
あぁ……来たのかあいつら。よくあの貴族達から生き残れたよな。正直やばいと思ってた。
『……お疲れ様、おっ君。まずはゆっくり休んでね。』
――後は私達に任せて。
「……ふっ!」
王室の入口から大きく飛躍し、取り出したトランプが剣状に変化してレイアを頭から真っ二つに斬り落とす。
「あぅ……ああああああああ!!!」
「え……!?」
「どういうつもり……?」
突如現れた人物に、芽依と凪沙は驚きを隠せなかった。
「この時を待っていたよ……『黒花』!!」
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「そうだね……でも、もう揃ったよ。ボクの何より輝く宝物が、ね♪」
パンサーがウインクをしたその時、王室の扉が壊れる音と同時に2つの閃光がレイアに迫り、迸った。
「あがっ……!」
「八剴抜刀・因果応報」
「閃竜之咆哮」
2人は同時に芽依達の前に立ち、立ち上がるレイアにそれぞれ刃先を向けた。
「蒼乃ちゃんから話は聞いたぜ、パンサー。全ての元凶はこいつにあるってことをよ」
「お前のした事は到底許されない。だが、あの亡霊が何より危険なことには変わりない。たとえパンサーたるお前がその亡霊を止めようとするのなら、俺はお前に力を貸そう」
「皆……」
……皆、本当はボクを捕まえてスタニッシュリングを持ち主に返還するのが任務のはずだ。でも、その任務以上に今何をするべきなのかを考えてるんだね。たとえ敵であるはずのボクを利用してでも……
――ならボクも、皆を利用してでも黒花を倒す。それが今ボクがするべき事だ!!
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「んじゃあ尚更やべぇじゃねぇかよ! しそしん……? ってやつの指輪をあの黒女の手に渡っちまったら笑えねぇぞ!!」
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それほど強大なものならなるべくレイアに近づけさせない方がいい。だが、それを狙ってボロボロの大蛇から奪う可能性もある。
「……うん、彼に預けるけど皆なるべく彼から奴を近づけさせないことを優先して!」
全員が頷き、それぞれ武器をレイアに向ける。
「あら、人生最後のお話はもう終わったかしら。なら、続きを始めましょう……!!」
「行くぜてめえらあああ!!!」
……黒坊、白坊。てめぇらが前回の任務で張り切ってた分、俺もここでカッコつけさせてくれよ!!
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「焼き尽くす!」
優羽汰が大剣を引き抜いた途端、刀身が竜に変化して黄金色のブレスを吐く。花びらは一瞬にして焼き払われた。
「ちっ……!」
「逃しません!」
レイアが後方に退くより前に蒼乃が足元めがけて氷の弾丸を放つ。氷はレイアの右足に命中し、床に張り付く。
「このっ……!」
レイアは花びらで氷を割ろうとするが、優羽汰と正義に阻まれる。
「ぐっ……! 私の演劇の邪魔をしないで!!」
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「皆、気をつけて!」
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レイアは乖離剣を水平に薙ぎ払う。徐々に破壊の風は正義に襲いかかる。
「やべぇ……おいやべぇぞこれ……!」
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