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第二章 シンデレラ宮殿編

第五十四話「絶望の連鎖(上)」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依

 ……失われた右腕の違和感しか感じられない。それ以外の痛覚は全て奪われた。黒いコートの右側が赤くにじむ。にじみ出た俺の血が足跡を残すかのようにここまで歩いた道を示す。

「あっ……くぅっ……!!」

 前に正義との死闘で斬られた時とは違う、無慈悲に奪われたような長く、辛い痛みが俺を襲う。

 ……あれは一体何だったんだ。まさかサーシェスがここに俺が来ることを予測して攻撃したのか!? ……いや、そもそもあの状態から短時間で復帰出来るとは思えない。
 だが、あいつくらいしかあれほどの攻撃が出来るわけがない。仮にこれがパンサーだったら驚きものだ。

 どこからか何度も聞き覚えのある高笑いが1階からかすかに聞こえてくる。柵に身を乗り出して見てみると、あの竜巻剣を正義達が懸命に抑えているのが見えた。

「お前ら……」

 凍てついた床。全てを喰い壊す乖離剣かいりけん。それを止める仲間達。そして、その剣を操る

「は……?」

 理解が出来ない。さっき俺が出くわしたアースラとは別人なのだろうか。

「どうなって……やがる……!」

 しかもアースラは今日俺と遭遇してから一度も『裁き』を唱えていなければ、見も知りもしない大技を放てるし……これこそ本当に『魔女』に相応しいのではと少し考えた。水星リヴァイスの時よりもずっと。

「あれは……おい、黒坊だ!」
「待ってください、大蛇さん……右腕が!!」

 俺の姿を見てすぐに3人は俺の元へと駆けつける。1階にはアースラと対峙しているサーシェスとあの不良軍団の姿が見えた。

「あいつら……」

 あの不良軍団も……何で……ここに………

 ――痛みが消えていく。視界も遠くなる。まぶたの闇が俺の世界を閉ざす。

「大蛇さん、しっかりしてください!」
 
 あの声は……蒼乃さんか……? エレイナか……? それとも……

「おい、エレイナちゃんいねぇのか! 早く回復しねぇと黒坊が死んじまうぞ!!」
「とは言われましてもいないものはいないです!」
「蒼乃さん、携帯で連絡取れないのですか!?」
「何度もかけてますが反応がありません!」
「くそっ……早くしねぇと!!」

 ……そういえば、右腕を斬られた瞬間に変な感触がしたんだよな。正義の時とは違って、右半身が斬り落とされたような感触が……
 ――って、いつの間にか右足の感覚が消えているな。やはりあの竜巻には何か凄まじいものを隠している。かろうじて生きているが、次喰らったら終わりだ。

 ……まぁ、もう死にそうなのが現状なんだがな。もちろん俺だってこんな所で死にたくない。アカネがくれたチャンスを無駄にしたくない。でもその意志をこの身体が拒む。

「大蛇さん、しっかりしてください! 大蛇さん!!」

 死なないで、大蛇さん――

 ……あぁ、また聞いたことのある声が聞こえる。でも何て言ってるのか……さっぱり分からないな…………

 視界は闇に包まれた。肉体から魂が抜ける感じがした。三度目の死を噛みしめる事になるのかと心の中で舌打ちをする。

「あっははは! あははははははは!!!!」

 でも、あの魔女の嘲笑わらう声は鮮明に聞こえてくる――
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