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第二章 シンデレラ宮殿編

第五十三話「黒い帯と黒い百合花」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依


 ……何で生きてるんだ。いや、何で。確かにあの時俺が殺したはずだ。この時代でのアースラはもういないのに。

 ――本物の魔女として、アースラ海の魔女は生まれ変わった。俺と同じように。


「久しぶりだねぇ、坊や」

 その言葉が……今のアースラが俺に初めて声をかけた時から、あの時の絶望の再来を知らせていた。

「嘘だろ……お前……」

 それしか言葉が浮かばなかった。こいつを倒すために命を燃やし尽くしたトリトン王や急な任務に協力してくれたカルマやエイジ、ディアンナの頑張りが全て水の泡となって弾け散ったような気がした。

「これもまた、運命なのかもしれないねぇ~? あっははは!!!」

 ……下らない。何が運命だ。こうしているうちにパンサーが逃げるではないか。邪魔だから早く消えてほしい。いや、この手で消す。今度こそ、この手で…………

「……殺してやる」

 周囲を漂ってた無数の青白い光が突如瞬間移動するかの如くアースラに襲いかかる。アースラはあの時のタコ足を思い出させる黒い帯で無数の閃光を迎え撃つ。

「その細かい糸なんて、簡単に一掃して見せてあげる!!」

 無数の帯が光を避けながら俺を捉えた刹那、光が帯の至る所を貫通しては床と天井に張り付く。帯の動きを完全に封じ、俺とアースラとの距離が十分にとれた。

「本来なら殺しておきたいところだが、生憎そんな時間は無い。後ろの貴族達に相手してもらえ」

 アースラにそう言い残し、キョロキョロとパンサーを探している貴族達を避け、階段の前まで着いた刹那、左から竜巻のようなものが襲いかかった。

「っ――!?」

 俺は咄嗟とっさに左に戻って避けようとするが、竜巻は俺の右腕を奪ってはシンデレラ宮殿を真っ二つに斬り崩した。更に連続で竜巻が薙ぎ払い、宮殿を四等分にした。 

 崩れる音がする。足場が消える。パーティーの面影は一瞬にして消えた。今ではヴェルサイユの失敗作の撤去作業中と言ったところだろうか。

「ちっ……!」

 くそ……、右腕を持っていかれた。血が止まらない。流れるたびに激痛が襲ってくる。

「あれは……一体何だったんだ……」

 突如俺を襲った巨大な竜巻のような剣。神器解放エレクトであることに間違いないとは思うが、そもそも誰の神器か分からない。新手の敵が来たのだろうか。

「それにしてもっ……パンサーと戦う前に致命傷を負うことになるとはな………」

 利き手が失われた。あとは左腕でどこまで出来るかだ。幸い目は無事だがまたあの竜巻剣がいつ来るか分からない。やられる前にパンサーを捕まえなくては。

「どこだ……パンサー……!」

 俺は崩れかけた壁にもたれながら、痛みに苦しみながらパンサーの行方を探す。

 微かにだが、海の魔女の高笑いが聞こえた――


 ――一方、令嬢を大蛇に任せてパンサーの行方を追っている凪沙と芽依はある巨大な部屋のドアの前に立っていた。他の部屋とは違って赤く染められたドアに金色のドアノブ。そう、ここは王室……かつて『スタニッシュリング』が保管されていた場所だ。

「凪沙ちゃん……」
「私達だけじゃ勝てない事は分かってるよ。だから時間稼ぎをするの。皆が来るまでしぶとく耐える! それしかパンサーに勝つ方法は無いと思った方がいいね……!」

 単純な実力では前の戦闘通りこちらが劣る。大蛇君達が途中で来てくれるなら話は変わるが、それまで二人で耐えなければならない。最悪どっちかが死ぬなんて事も十分にありえる作戦だ。

「……どの道やるしかないね。行こう、芽依ちゃん! 絶対生き残ろう!」
「うん……絶対殺されないって心に誓うよ」

 心強い芽依の言葉に凪沙は優しく微笑み、ドアノブに手をかける。そして一気に開ける。

 さぁ出てきなさい、パンサー!!

 ――しかし、ドアを開けるとそこには部屋一体が黒百合の花畑になっていた。

「え……ここどこ?」
「黒百合だね……こんなところでよくここまで育てられるよね……」

 黒百合に気を取られている二人に、背後から何かが風を切りながら襲いかかった。 

「!! 芽依ちゃん危ない!」

 一足早く凪沙がそれに気づき、雷迅槍サンダーボルトを召喚して謎の物体を薙ぎ払う。その後、ドサッという分厚い布が落ちるような音がした。

「うふふふ……やっぱり貴方達は気づいてしまうわよね~」
「……君は誰?」
「真っ暗でごめんなさいね。私はレイア。この『黒花』の花を護る者」

 刹那、電気がついて明るくなるとそこには辺り一面が本当に黒百合で満ち溢れていた。
 更にレイアと名乗る女性は黒いスカートに同色の翼が生えていた。

「凪沙ちゃん、あの人……!」
「パンサーじゃないの……!?」

 まさか現れたのがパンサーではなく別人とは。流石に申し訳なく思ったが、レイアは凪沙達を殺す気でいたようだった。

「あら……逃さないわよ? 一度入ったからにはね!」

 レイアが右腕を振り払うと、黒い花びらが凪沙達を襲った。足元を見ると、その花びらに触れた地面は真っ二つに割れていた。

「凪沙ちゃん、とりあえず逃げよ!」

 逃げるのはいいが、この部屋からどう逃げろと。恐らく入口は閉鎖されていて出られないだろうし……どうしたものか。

「さぁ……私の闇の演劇ステージを始めましょうか!」

 レイアがそう言ったと同時に床から更に黒い花びらが舞った。

 それはまるで闇の演劇ステージで踊り狂う者達のように――
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